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七百四十一話 実験体観察

 マリーさんとソニアさんを伴い王様にマッサージチェアを献上しにお城に向かった。少しざわついたもののマッサージチェアについての説明は無事に終わった。だが問題はその後に起こる。実験体に立候補したおじさんが、マッサージチェアに敗れて気持ち悪い声を上げるという大問題が……。




「…………あー……とりあえずあの方にはマッサージを続けてもらうことにして、話を進めませんか?」


 俺が言うことではない気もするが、今の気まずい状況で沈黙を続けるのは辛い。だって身分が高いであろうおじさんのあえぎ声を聞き続ける時間って意味が分からないもん。


「……そうだな、見たところ外聞はともかく問題は…………不愉快に思うかもしれぬが確認させてほしい。アレは本当に問題が無いのか?」


 俺の提案を受け入れ話を進めようとする王様だが、少しの沈黙の後に真剣な様子で質問してきた。気持ちはとてもよく分かる。


 この場に集まっている全員、いや、マッサージを受けているおじさんを除いた全員がなんとも言えない顔をしているもんね。マリーさんとソニアさんなんて顔を蒼ざめさせているくらいだ。


 まあ、シルフィや土の中級精霊なんかは爆笑中だけどね。温度差が酷い。土の中級精霊、バロッタさんが死にそうな顔をしているんだからフォローくらいしてあげてよ。どうしたらいいのかは俺にも分からないけど……。


「そうですね、あの方の反応は『オホッ』……予想外でしたが、肉体的には問題ないどころか『おうふ』……問題ないどころか『んあぁ』……問題ないどころか健康になっているはずです」


 BGMがとても不愉快で煩い。あと、肉体面では問題はないが精神面と世間体に関しては俺も問題がないと断言はできない。特に世間体に関しては致命的な問題を抱えているような気がしないでもない。


「そ、そうか……」


 偉い人って表情を読ませないイメージがあるけど、今の王様の表情はとても分かりやすい。俺の言葉に微塵も納得していないな。


 この状況で話し合いをどう進めればいいんだろう? なんかこのままだと献上品なのに受け取り拒否されそうな気がする。


「ほ、本当に良い物なんですよ?」


「うむ……」


 王様、うむ、だけじゃ分からないよ。マリーさん、どうにか俺を助けてほしい。あ、無視ですか、いや、無視というよりも若干パニくっている様子……そういえば同じものを王妃様にも献上するって話だったね。


 マリーさんの強い要望によってって言っちゃっているし……今更だけどおじさんであの痴態、その痴態を王妃様がなんてことになったら処刑されるのではなかろうか? うん、マリーさんとソニアさんがパニくるのも当然だ。


 まあ俺がそんなことになったら全力で抵抗するし逃げるけど、この国で商売をしているポルリウス商会としては簡単に逃げ出すわけにはいかないか。


 見捨てるのも寝覚めが悪いし最悪の方向に話が進んでしまったら、大精霊達の力を借りて有耶無耶にするしかないな。記憶を消すのは闇の精霊の領分だったかな?


 なんとかシルフィにお願いして闇の精霊と契約して、この部屋にいる人達全員の記憶を改ざんする。可能だろうか?


『おお、こんなところまで……たまらん……』


 ……マッサージチェアを緊急停止させたいのだけど、いま停止させるとそれはそれで問題になりそうな気がする。都合の悪い部分を隠そうとしているようにしか見えないもんな。


 というかおじさん、開放的すぎない? 自分が実験体であることや王様同席の場ってこと絶対に忘れているよね?


 うう、ヴィータを召喚して、本当に問題がないのか確認したい。


 でも、このタイミングで大精霊を召喚なんてしたらバロッタさんが確実に反応する。絶対に事態が悪化するよね。マジでどうしよう……。




『ん? …………終わってしまったのか? ……まるで天に上るような幸せな体験であったな……』


 実際にどれくらいの時間が経過したのかは分からないが、体感的にはとてもとても長い時間が経過し、ようやくマッサージが終わった。


 もう気まずくてしょうがない地獄のような時間だった。


 今の状況で具体的に話を進めるテクニックなど持ち合わせておらず、間を埋めるために王様と天気の話を繰り返しちゃったよ。


 服屋に続いて王様と天気の話を繰り返すことになるなんて予想外にもほどがある。


「陛下、これは素晴らしい魔道具ですぞ! 肩も腰も、いえ、全身が生まれ変わったような…………陛下、どうかされましたか?」 


 実験体になったおじさんがテンション高く戻ってきてマッサージチェアの感想を教えてくれるが、こちらの薄い反応をみていぶかしげな顔をする。


 でも、反応が薄くなってもしょうがない。だって明らかに若返っている。


 背筋もピンと伸びて肌が艶々、王様の側近だし忙しい毎日を送ってストレスも満載っぽいから肌も含めて全身にダメージがあったのだろう。


 それが迷宮のコアと異世界の知識の最先端コラボで癒され、若返って見えるほどに回復した、そう考えると今の変化も納得できる。俺はね。


「う、うむ、本当に問題が無いのか? 体に違和感は?」


 俺は納得できても王様達は納得できないのも仕方がない。別人とまでは言わないが、年の離れた弟、下手をしたら息子と言われても納得するレベルで変化している。


 俺がちょっと納得できていないのは、マッサージされていないはずの顔部分までしっかり若返っていることなんだよな。


 たぶん魔術的な回復効果は全身に及ぶということなのだろうが……今更だけどこんなの献上して大丈夫なのか不安になってくるな。


「違和感ですか? 生まれ変わったかのように体が軽いのが違和感といえば違和感ですが……あれ? 私の手ってこんなに艶々していなかったような……」


 おじさんが王様の問いに自分の体を確認し、自分の手の変化に気が付く。


「鏡を持ってきてやれ」


 王様の言葉に壁際に控えていた召使っぽい人が素早く鏡を持ってくる。優秀だ。


「な、なんじゃこりゃー!」


 実験体になったおじさんが鏡を見て、なんか昔のドラマの名シーンのような叫び声をあげる。自分の変化に驚いたらしい。


「見て分かるとおり、お主は別人に見えるほど変化しておる。改めて問おう、体が作り変えられたような違和感はないか?」


 王様、人体改造を疑っているのか。


「失礼します…………陛下、自分でも驚きですがこれは確かに私の体で間違いがありません。この感覚は三十代、いえ、二十代に思えるほどですが、ほくろの位置なども変わりありません」  


 おじさんが自分の服の中を確認して断言する。そうか、ほくろは変化しないのか。でもシミは消えている感じだよね。


「陛下、魔力的にも本人であることは間違いないかと」


 魔法使いっぽいお爺さんも会話に参加してくる。魔力でも判断できるのか。


「裕太殿、これほどの宝を本当に献上してくれるのか? 若返りなどもはや神器といっても過言ではないぞ?」


 偉い人達が集まってなにやら話して納得したのか、王様が問いかけてくる。


 真面目な顔をしているけど、会話はシルフィのお陰で筒抜けだったからね。


 王様がマッサージチェアを試してみたいと思っていることも、それを周囲が止めていたことも知っている。


 王様が使用する前にかなりの人数が実験体になりそうな結論を出していた。スーパー執事さんや魔術師っぽい人も実験台に立候補していたからマッサージチェアの印象はたぶん悪くない。


 いや、悪くないというか、未知の危険性を理解していても肩や腰の痛みから解放されたいといった様子だった。王様も偉い人も座り仕事の弊害には悩まされているようだ。


「凄い物であることは確かだと思いますが若返りは少し大げさですね、疑似的な若返りという表現なら間違いない気もしますが人の限界を超えるような性能は無いと思います……たぶん」


 知らないけど永遠の命とかは無理だと思う。マッサージチェアはあくまでも癒しと回復能力に特化している。細胞が癒されるから寿命が延びるなんてこともあるかもしれないがさすがに限界がある……はず。たぶん。


 だって細胞の分裂とかそういうのに限界があるってテレビで見た覚えがあるし……あ、でもこの世界の人達にそれが当てはまるのかは……うん、分からん。まあ、いいや、献上した物だし、それをどう使うかは王様達の自由だ。


 俺は単なる精霊術師。未来のことまで責任は持てません。


 まあ、遠い未来でとんでもないことになったらさすがに申し訳ないから、シルフィ達にヤバそうになったら消滅させてくれるようにお願いくらいはしておこう。


「疑似的な若返りか……若返り草よりも強い効果な時点でとんでもない話なのだが、裕太殿、この献上に対してお主は何を望む?」


 なんか凄い物を対価に要求するのだろうと言った雰囲気だ。この雰囲気の中で俺はお酒の交渉をするらしい。バカだよね、あはは。


「まず、もう一台は王妃様に献上しますので、その対価に関しては王妃様とマリーで話し合って頂ければと思います」


 あ、マリーさん、白目をむいている。たぶんマッサージチェアの効果が予想以上だったんだろうな。


 俺だって実験台のおじさんに比べたらまだまだ若いし、マリーさん達はもっと若い、だからあれほどの効果を発揮するなんて気が付かなかったから無理もないだろう。


「う、うむ、そちらも王家として十分な対応をすること約束しよう。して、裕太殿は何を望む?」


 王様の感情が俺にも理解できる。そういえば激やば魔道具がもう一台あったんだった、手に余るけど王家以外にあんなもん渡す訳にはいかない。対価が怖いけど、ここが踏ん張りどころだ! みたいなことを考えていると思う。


 マリーさんに話を振って場の空気が変わるまで時間を稼ごうと思ったけど、この様子だと無理っぽいな。


 対価は後日改めてなんてことも考えたけど……。


「裕太、ここからが本番よ、私もフォローするから頑張りなさい!」  


 シルフィも気合十分だし、逃げられそうにない。しょうがない、日本人としては忸怩たるものがあるが空気をぶち壊す覚悟で話を進めるか。


「お酒が欲しいです」


「は?」


 王様のキョトンとした顔、誰の得にもならないがちょっと面白い。


「珍しいお酒、美味しいお酒、希少なお酒、王様のとっておきのお酒など、色々なお酒が沢山ほしいです」


 さて、ぶっちゃけて空気が死んじゃったけど、大精霊達の為にも交渉を頑張ろう。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
手に入りにくさ的には貴重だろうけど 価値的な意味で言うとだいぶ釣り合わないから 反応に困るだろうねえ
ユータは実質的に世界を手にしているのでその辺りのことをそれとなく王様は把握して欲しい。 お金もあり、ダンジョン由来のアイテムもあり、手に入りにくいものを依頼しているというのを伝えるとか。 あといつも落…
こういう世界観の酒って地産地消に近いもので、一部の限られた特化型の生産品が流通に乗る…つまり大衆向けになる そうでないものは先の通り地産地消、つまり領主が自分で楽しみたいからつくったりする つまりは少…
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