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七百三十八話 純粋な嫌がらせ

 美味しいのだけれどなんだかこれじゃない感が凄い高級宿の高級食堂の料理をお洒落をして味わい、まあ、ジーナ達の良い経験になったのだから良いかと満足していると不吉な影が忍び寄ってきていた。影の正体はマリーさんとソニアさん、王妃様の依頼と言う明らかな厄介案件を携えて颯爽と登場した。いや、なんか失敗しまくりのか弱さ演出しながらだったけど……。




 はぁ、今回は見捨てると決めたのに、なんで捕捉されちゃったかな? マリーさん達が捨てても戻ってくる呪われた装備に思えるのは気のせいなのだろうか?


 とはいえマリーさん達の悪運はたいしたもので、厄介事の内容が今回は見捨てようとしている俺の決意を揺るがす内容なのだ。


 チラッとマリーさんを見る。


 ヨヨヨっとした雰囲気を漂わせようとしているが、雰囲気が肉食獣のそれなので台無しになっている。もうその演技受け付けないので止めてくれないかな?


「受け付けないってなんですか! 裕太さん! か弱い私のことをどう思っているんです!」


「え? あぁ、もしかして声に出していましたか?」


「ええ、バッチリ声に出していましたよ! 肉食獣ってなんですか! どう見ても私は可愛い森の妖精でしょ!」


 いきなりキレるマリーさんに驚いたが、どうやら面倒になって本音が口からこぼれてしまったらしい。


 ただ、森の妖精?


「あはは、おかしなこと言いますね。いいですか? 森の妖精と言うのはマリーさんのように欲望に塗れた存在では決してありません。なぜならば―――」


 森の妖精という表現に相応しいのはドリーやタマモに決まっているだろう。まあ、精霊と妖精を同一視していいのかは疑問だが、タマモの可愛らしさとドリーの麗しさはマリーさんとは比べ物にならない。


「分かりました。いえ、裕太さんが私のことをどう思っているかは理解したくありませんので聞かなかったことにしますが、私を森の妖精と例えたことについては謝ります。申し訳ありませんでした」


 いかん、マリーさんのあまりの言葉に真面目に反論してしまった。半泣きで謝るマリーさんに言い過ぎたかと後悔するが、謝罪の内容がマリーさんらしく不敵だし、背後のソニアさんも爆笑しているので問題はないだろう。


 しかしアレだな、簡単に沸点を超えてしまったのは不味いな。


 ストレスが溜まっているのかもしれない。あと、食事のおともにワインを嗜んだからアルコールの影響も出ているかも。


 マリーさんを相手にストレスや酔いに身を任せると、いつの間にか不利な契約を結ばされそうだしここは冷静にならなければならない。


 あと、タマモやベル達がなんか凄くスリスリしてくれる。癒される。


「ふぅ、失礼しました。あまりの侮辱的発言に我を忘れてしまいました」


 ベル達のお陰で冷静になれたので謝罪をする。そこまで酷い発言をしましたか? というマリーさんの戯言が聞こえた気もするが、冷静になった俺はちゃんとスルーする。


「で、まず王妃様の要望の一つ、王妃様のサロンに素材を提供するのは構いません。必要な物があれば多少なら融通を利かせます」


 マリーさんは王族とコネを得たことで、次の王妃様のサロンでのお茶会、その総合プロデュースを任された。


 これはまあマリーさんならどうにかするだろう。王妃様の狙いはマリーさんが持つ利権、まあ、俺が卸す素材関連だけど、その辺りの利権を利用することっぽいしね。


 俺と王様の関係を考えるに、権力を笠に着て利権そのものを奪おうとする可能性は低い。それならお互いにウインウインな落としどころを見つけられるだろう。マリーさんは強欲だけど優秀でもある。


 だから多少素材の融通を利かせるだけなら手間は掛からない。


 それ以外の細やかなプロデュースに関しては知らんし、そんな内容を相談されても困る。


「ありがとうございます!」


 俺の言葉に喜ぶマリーさん。やはり目的は俺の体……ではなく俺の素材だったか。

  

 ここまでは王族案件とはいえ簡単だ。ただ、残りの一つが、いや、これは王妃様の案件と言うよりもマリーさん達の案件に分類されるか。


 そのサロンの開催時に特大の目玉が欲しいという要望。


 俺が卸す素材は利権になるほど価値がある物だが、王妃様のサロンに集まるレベルの人達となると、それなりに手が届く範囲の品物。マリーさんの名をそのハイソな方達に刻み付けるには弱い。


 言いたいことは分からなくもないのだが、それを俺がどうにかする必要があるのかと考えると疑問だ。いや、疑問ですらないな、俺は素材を卸しているだけで他は関係ないからそんな義理はない。


 義理はないのだが……この話をどうにかこうにかこねくり回せば王様に対する申し訳が立つ状況になるのでは?


 こんな考えが頭をよぎる時点で無下にマリーさんを突き離せない。王様との面会、明後日だもん。


 明日一日で何かしら捻り出してそのための準備をする、元々そうするつもりではあったが捻り出す前にアイデアが転がっていたらそれに縋っちゃうよね。マリーさんって本当に悪運が強い。


 俺が王様に罪悪感を抱いていなければ今回は本気で見捨てていたのに……。


「それでマリーさんご要望の目玉についてですが……」


 とはいえ、どうにかするにしても何をどうすれば目玉になるのかという根本的な問題もある。


「裕太さんお願いします。お城にポルリウス商会の名を刻み込むチャンスなんです! その為なら裕太さんに身も心も捧げます。あ、ついでにソニアもどうぞ!」


「いや、そんなもの捧げられても……」


 俺がどうするべきか悩んでいると、それを拒否と受け取ったのかマリーさんがとんでもない物を捧げようとしてくる。


 いや、表情を読むのは商人の基本スキルだ。俺の思考を理解した上で関係を深めるために身を犠牲に売り込んできたと考えるのが妥当か。


「裕太さん、そんな物って……私もソニアも言ってはなんですがトップクラスの美貌を兼ね備えていますよ? しかも純潔を保っている好物件です」


「あはは、そうですね……」


 好物件かどうかは疑問だけどね。こういう言い方は地球だとコンプライアンスに激しく抵触しそうだがマリーさん達は地雷臭しかしない。


 ヤンデレとかそういうカテゴリではなく、スッポンみたいな食らいついたら離さない的な地雷臭……スッポンというよりも餓鬼の方が適当かな? スッポンは意外と可愛らしいもんね。


「それで、目玉についてですが、何か案はあるんですか?」


「私達の純潔が半笑いで流されましたよソニア! やはり裕太さんは男好き! お兄様を至急裕太さんの周囲に配置しなければ!」


「別に人の趣味を否定する訳ではありませんが、俺はノーマルタイプなので配置しないでください」


 エリックさんってポルリウス商会の跡継ぎだよね? 扱いが軽すぎない? あと、それもコンプライアンス違反だよ。今のご時世は色々とデリケートなのだから一昔前のノリで騒がないでほしい。ここ、異世界だけど。


 だいたい、マリーさんとソニアさんの純潔と言われてもね、マリーさんとソニアさんがスタイル抜群の美女であることは否定しないし、据え膳くわぬは男の恥なんて言葉もあるが、恥を掻いても食いたくない物だってあることを理解してほしい。


「この話は終わりにしましょう。でなければ協力する約束はなかったことにしますよ?」


 ならばなぜ? まさか他の特殊趣味? なんてマリーさんがブツブツとつぶやいているが俺はツッコまない。


 あれ? ベリルで色々なタイプの種族の方にお世話になっているが、こちらは特殊な趣味に分類されるのか?


 いやいやいや、それでも俺はノーマル、巨乳が好きなただの男だ。


「ゆーたはおとこずきー?」


 ベルから無邪気でありながら凶悪な質問が飛んできた。ヤバい、マリーさん達との話し合いはベル達の教育に悪い。この場にベル達を連れてくるべきではなかった。


 こんな時にシルフィが居てくれたら、目くばせするだけでベル達を安全な場所に遠ざけてくれるのに……。


 あ、トゥルがベルを制止してくれた。助かる。それにしてもマリーさんは本当にベル達の教育に悪い存在だな。どうしてくれようか?


「ヒッ。あ、そのですね、私共も考えはしたのですが、何分王族の方々にとなりますと伝説上のアイテムくらいしか思いつかず裕太さんにおすがりした次第でして……」


 俺の雰囲気から冗談が通じないと悟ったのか、話題を切り替えるマリーさん。でも、それって丸投げだよね?


 おかしい、俺は丸投げすることはあってもされることはない立場まで上り詰めたと思っていたんだが、自惚れだったようだ。


 ただ、王様相手の罪悪感を減らすために伝説級のアイテムを提供するのは違う気がする。


 コアに頼めば簡単に手に入りそうなので楽がしたい誘惑かられるが、俺がそうすると確実にマリーさんが調子に乗る。裕太さんは私の為に伝説のアイテムを手に入れてくれるんです! とか国中に吹聴しそうなくらい調子に乗ると思う。


 そうなると手持ちの品でインパクトがある物……マッサージチェアか?


 元々一台は提供するつもりだったが、自分用のもう一台を王妃様用に提供すれば、事前の確認と仕様説明みたいな感じで王様に対しての面目も立つ気がする。


 気がするんだが……俺用のマッサージチェア……ジーナ達やベル達が飽きて眠りについて、更に目覚めるくらいに拘りまくったマッサージチェアを提供?


 もう一度コアに頼めば手に入るとはいえ、既にお気に入りに登録されているので手放すのは悲しい。


 ……………………提供するか。


 悲しいけれど、とても悲しいけれどマリーさんを増長させるよりかはマシだ。


「分かりました、目玉となる品はこちらで用意します」


「本当ですか! ど、どんな品を!」


「後で見せますし説明しますが、その前に王妃様に献上するに足る商品です。マリーさんはどのような対価をお考えですか? ああ、先に言っておきますが、お金は十分にありますので金銭での支払いは望みません。無論マリーさんとソニアさんの身も心も必要ありません」


 これは純粋な嫌がらせ。


 素直にマリーさんの言いなりになると後が怖いし、この辺りで俺を利用しようとすると怖いということを理解してもらうとしよう。まあ、これまでも結構怖いところを見せたつもりなんだけどね?


 …………あれ? よく考えたらマッサージチェアって伝説級のアイテムと並ぶんじゃ?


読んでいただいてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
最後の言い方からすると、兄とは違うタイプの男を用意するか、熟女か幼女を用意するとか考えそう
つくづく独占って腐敗を生むよな、せめて複数商会と競争入札させてやってくれ まあ資本主義に従い最も高値を出す商会と取引することにした場合、落札者は出した金に見合う最大利益を追求してあくどい商売を始める…
身も蓋も無いけど裕太の金銭的にも社会的地位から見ても既にマリー必要無いのよね 依頼はもうほぼゴミ集めさせてるだけなのに欲かいてトラブってるだけのキャラになった
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