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七百三十五話 至高

 ジーナ達のお洒落着を手に入れた後、王様とお酒を交渉する為に迷宮のコアに会いに行った。いつも通り廃棄予定物資をプレゼントしてから交渉開始したのだが、途中でマッサージチェアの存在を思い出してしまい、少し方向性が怪しくなってしまった。




 王都に到着した。


 まずは宿を取るとして、その後はどうしようかな?


 選択肢としては王様に会ってお酒の交渉、マリーさんの様子見、フィオリーナの様子見の三パターンだろう。


 ……とりあえずこの前みたいに王様のところに直接突撃するほど緊急じゃないから、王様にアポを取って、それにかかる時間次第で予定を決めるか。


 すぐに会えそうなら王様、フィオリーナ、マリーさんの順番、難しそうならフィオリーナ、マリーさん、王様って感じかな?


 できるだけマリーさんと会う前に用事を済ませておきたい。マリーさんはね……変な事態に巻き込まれる可能性もあるし、巻き込まれなくても精神を削られそうだから……あ、シルフィにマリーさんの状況を偵察してもらおう。


 服を買った時に身内や知り合いにシルフィの力を使うのはうんぬんかんぬんと考えた覚えがあるが、マリーさんは別枠、俺の精神の安寧の為にも冷徹な割り切りは必要だ。


 マリーさんは身内扱いではあるが、信頼できるかは別だよね。




 ***




 前回の王都滞在時に泊まった宿は満杯で取れなかったので、別の高級宿を紹介してもらった。


 宿の名前は至高の癒し場……王都のど真ん中にある、なんか凄く至高な感じがする宿名だけに宿のエントランスに足を踏み入れた時点で自分達が場違いな印象を強く受ける。


 でも、王様にアポを取ったりするし、お城から人が派遣されてくる可能性があるので、俺が落ち着くような雰囲気の宿屋だと迷惑が掛かるからしょうがない。


 おそるおそる受付カウンターに近寄り、高度な教育を受けているであろうスタッフさんに宿泊を申し込んだ。


 冒険者装備でこの雰囲気には場違い感が拭えなかったが、俺達が身に着けているのは迷宮産装備、しかもそれなりに高性能なものなので特に邪険にされることなく話を聞いてもらえた。


 宿の説明を聞くと高級店ならではの利点もあり、カウンターでいくつかのサービスが提示される。


 その中に手数料が必要だが宿にお願いすれば訪問の手配までしてくれるサービスも含まれていた。


 わざわざお城に行って王様とのアポをお願いしなくていいというのは精神的にかなりありがたい。


 お城の兵士さんに王様に会いたいんですけどって言うと、なんだこのバカはって目で見られたり、俺の顔を知っている場合だと怯えられたり、逆に怖いくらい下手に出られたりするからな。


「では、王様に面会できるように取り計らってもらえますか? 面会できるまで待ちますので都合の良い日時で構いませんと伝えてください」


「へ? あ、失礼いたしました。王様と言うと、この国の国王陛下のことで間違いございませんか?」


「ん? ああ、そうです。この国の王様です」


 わざわざ王都の宿屋で別の国の王様とのアポは取らないだろ。


「少々お待ちください」


 なんかスタッフさんが若干引き攣った顔で奥に引っ込んでしまった。そして代わりに現れたのが上司らしき人物。


「お待たせして申し訳ございません。お客様、私共から面会申し込みの手配をすることは可能でございますが―――」


 現れた上司さんに、下手に王様に面会要求をした場合は不敬罪などの罰則が与えられる可能性があることや、そもそも申し込んでも面会が断わられる場合もあることなどをとても丁寧に説明された。


 要するに、無謀でバカなことを考えるなと、かなり分厚いオブラートに包んで説明された感じだ。

 

 王様の秘書っぽい人にもらった身分証を見せたらちょっと納得してくれたけど、まだ不安そうだったから王様から貰った短剣も見せたら宿屋側の態度が激変し、すぐに手続きをすることを約束してくれた。


 もらった身分証は高級宿でも通用するレベルだけど、王様のアポ取りには若干不安なレベルの効力で、短剣はチートレベルの効力を発揮するらしい。


 まあ身分証はアレだよね、夜遊びとかに使うなら短剣じゃなくてこっちを使ってねって意味で渡されたものだから、さすがに短剣と比べたら効果は落ちるよね。


「ふぅ……とりあえず夕食までは休憩しようか」


 諸々の手続きを終え、スタッフさんに案内されて部屋のソファーに座り込む。


 ぶっちゃけ疲れた。上司さんに説明するのとお城の兵士に説明するの、どちらも手間だったからストレートに要求できるお城の方が楽だった気がする。


 ただ、宿側が色々と気を回した結果、俺から王様の短剣なんてとんでもアイテムが出てきてしまったから、お詫びに宿代の割引と今晩の食事はサービスしてくれることになった。


 そのサービスが釣り合っているのかは分からないが、得したということで納得している。 


「あ、そうだ、自由にしていいけど夕食の時は新しく買った服を着るようにね」


 部屋で食事をとることも可能らしいけど、買ったばかりのジーナ達のお洒落着を活用するチャンスだと夕食の申し込み時に食堂を利用することを思いついた。


 せっかく買った服だし、ガンガン活用していきたい。


「え? ……………………分かった」


 俺の言葉をジーナがとても悩んだ後に受け入れた。


 凄く嫌だけどこれだけ高級な宿屋で普段着や冒険者装備はマナー違反、なら恥ずかしいけど新しく買ってもらった服を着るしかない。ジーナの心の動きが手に取るように理解できた。


 なんかごめんね。


 でも新しく買った服の出番にサラ達は喜んでいるから許してほしい。


 まあ、食堂を利用すると精霊組に窮屈な思いをさせてしまうのだが、ベル達は隠れて食事をするのもゲーム感覚で楽しんでいるし、退屈になったら王都の屋台探索に出かけることも可能なので問題ないだろう。


 迷宮都市でもいくつか新しい屋台を発見していて、迷宮のコアと交渉してメルのところに顔を出した後に屋台巡りした。迷宮都市の食の発展はかなり激しく、俺が驚くような屋台も何件かあった。味はピンキリだったけどね。


 王都の屋台事情はどうなっているのか、俺も少し興味がある。情報に敏感な人なら、迷宮都市の情報を仕入れて活用するくらいの時間は経っているもんね。


 そして、それは宿も同じ。至高の名を冠する高級宿、どんな料理を出してくるのか期待させてもらおう。


「あ、シルフィ、悪いけどマリーさん達の様子を探ってきてくれる? なんか俺が巻き込まれそうな気配があったら、そこは重点的にお願い」


「ふふ、マリーはなかなか面白いから構わないわ。でも、夜は期待しているわよ?」


「了解、しっかり酒樽を用意しておくよ。ついでに宿のお酒も注文していいからね」


 夜と言われても勘違いするほど俺はウブじゃない。色っぽい可能性なんて微塵もなく確実にお酒の要求だ。だってシルフィだもん。そもそも精霊ってそういうことをするのかどうかも未知だ。


 高級宿のお酒の注文も可というのが好印象だったのか、ウキウキと窓から飛んでいくシルフィ。直接現場に向かい調べてくれるつもりのようだ。ついでにこの宿のお酒事情も丸裸にするんだろうな。




 ***




「陛下、精霊術師の裕太から面会の申請が届きました」


 執務中の王に執事長が声をかける。王はその内容を聞き、ペンを置いて疲れた様子で天井を見上げる。


「……前回のように直接乗り込んでこぬということは、厄介事ではないと考えて良いのか?」


 王が思い出したのは前回のハンマー商会の従業員を連れて突撃してきた裕太。


 アレはアレで国の恥を取り除く一助になったので評価だけはしている。評価だけは……王としてはできればもう少しなんとかならんのかという気持ちをとても大きく持っている。 


「今回は滞在中の宿を通しての面会申請ですので、それなりに余裕があるのかと。詳しいことは書かれておりませんでしたが文面的に交渉を望んでいる様子なので、精霊樹の果実の時のようなパターンかもしれません」


「またあやふやな……」


 執事長の話を聞き、頭痛がするようにこめかみを揉む王。それも当然で、王に面会を望むのにそんな適当な申請など本来はあり得ない。


 社会人を経験している裕太も、そこら辺の機微は弁えているのだが、宿のスタッフに説明する際に。魔道具とお酒を交換する交渉と言うのが地味に恥ずかしかったのであやふやになってしまっていた。


 被害者は王と、王の短剣を持つ者を無下にできず、あやふやな文面で面会を申請することになってしまった宿のスタッフだろう。


「分かった、予測がつかぬ面倒は早めに対処するに限る。いつなら時間が開けられる?」


 王の心境は予防接種の通知を受けた注射嫌いの心境と同じだった。王は逃げられないのであれば、嫌なことは早めに済ませて心の負担を減らすタイプだ。


「明後日の午後一番であれば問題ないかと。定期報告ですので後に回すことは可能でございます」


「ではその通りに。裕太と会う際にはいつものメンツも同席させるように」


「畏まりました」


「ああ、そういえば妃の方はどうなっているのだ? たしか裕太と関係が深いポルリウス商会の娘が関わっておるのだろう?」


「あちらの方は女官長が詳しいかと。内容が内容ですので臣も手を出しかねます」


「そうか、いや、そうだな、分かった、下がって良い」


「失礼いたします」


 執事長が一礼して下がった後、王は嫌なことを忘れるように仕事に没頭する。考えても無駄な事をスルーするスキルは、様々な問題や提案が持ち込まれる王にとって必須の技能なのだ。




 ***




「あらら、裕太が巻き込まれないかって心配していたけど、巻き込まれるのは確実な様子ね」


 裕太にお願いされてマリーの偵察に来たシルフィは、マリーの様子を見て裕太の心配が的中したことを悟る。


 ただ、長い時を生きているシルフィにとって、退屈な日常よりも刺激的な非日常の方が楽しいので、トラブルメーカーなマリーをかなり気に入っている。


 微笑みながら見つめるシルフィの瞳には、疲労困憊な様子ながらもギラギラと目を輝かせて仕事に励むマリーの姿が映っていた。


6/10日、本日、コミックブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第七十五話が公開されました。サラ達の可愛らしさ全開ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
お酒ほしいです!で面会申し込みされる王様…
いつでも達人のマッサージを受けることができる 王様に、マッサージチェアは意味があるのだろうか?
いつも思うけどたむたむさんはスローライフの達人だな~
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