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七百二十九話 予定とは違うけどこれはこれで……

 手作りの広いウッドデッキにドラゴン素材の豪華なテントと各種質の良い小道具で、楽しいグランピングイベントを計画。ドラゴン素材のテントに妙な特殊効果が付いていたが、それもグランピングを楽しむ一助となりそうなので問題はない。




「さて、準備完了。色々と説明したいこともあるけど、まずはお腹を満たそう。乾杯!」


 サラの可愛らしいお腹の音を聞いて大急ぎで料理を完成させ、乾杯をしてグランピングを始める。


 俺の乾杯の合図に大精霊達は軽く杯を掲げてお酒を流し込み、ベル達やサクラ、フクちゃん達精霊組はジュースが入った自分用の小さなコップでみんなと乾杯を繰り返し、ジーナ達はジュースで軽く口を湿らせてからさっそく料理に取り掛かっている。


 大精霊達とジーナ達の行動は予想通りだが、ベル達が乾杯にハマったの予想外だな。


 これまでも何度も乾杯をしたことがあるし、その時にベル達が楽しそうに杯を合わせていたの知っているが、今回は更にツボにハマったようで何度も何度も乾杯を繰り返し、その度に楽しそうに笑っている。


 小さな子の思考は偶に分からないよね。分かりやすい時はとても分かりやすいのだけど……。


 パスタを口に含み、内心で素晴らしい出来だと弟子達を褒めたたえながら周囲を観察する。


 大精霊達はお酒があれば基本的に放置で大丈夫。ベル達チビッ子組も乾杯に飽きたら食事に取り掛かるだろう。


 ジーナ達も今はお腹を満たすことを優先しているな。


 ジーナとサラはパスタ、マルコとキッカはパエリアを最初のメニューに選んだようだ。


 今のところ、ちょっと珍しい場所での宴会と言った様子で、グランピングの醍醐味を堪能しているとは言えない状況だ。


 まあ、醍醐味と言えるほどグランピングのことを知っている訳ではないが、みんながある程度満足できるまで後回しになるのは仕方がないか。


 精霊達もジーナ達も、野外で豪華さやお洒落に拘るなんて文化は意味不明だろう。


 ぶっちゃけ日本人の俺からしても、そこまで拘る必要がある? なんて拘りが詰め込まれている地球の文化が、偶に理解不能な時があるからな。


 和食とか洋食とかでもそうだけど、高級店とか自分の舌がついていけずに美味しさが分からない時すらあった。


 これよりも焼肉の方が美味しいよね? とか疑問に思っていたが、周りが絶賛していたから頑張って話を合わせた苦い思い出が頭をよぎる。あれは特殊な味覚訓練が必要なメニューだったのではと今でも疑問に思うくらいだ。


 あと、社交界とか正直ハイソ過ぎて意味が分からん。あれ? でも、社交界の感じって、中世的なこの世界では今が全盛期なのか?


 ……まあ、どちらにせよ俺には合わないっぽいから考えないようにしよう。


 それよりもこの後のグランピングをどのように演出するかだな。


 イスやテーブルも急ごしらえだが、ソニアさんに頼んで悪くない物を揃えることができたし、この雰囲気を楽しむ方向に進めたいが……あ、やろうとしていた飾りつけを一つ忘れていた、いや、今はみんな目の前の楽しみに集中しているから逆に丁度良かったかもな。


 とりあえず、みんなが落ち着くまで待とう。




 そろそろ良いかな?


 ベル達は乾杯に満足し、並べてある料理を食べながらワチャワチャしているし、ジーナ達もある程度料理を食べて、今はゆっくり味わう余裕がある様子だ。


 大精霊達はいまだにお酒を呑み続けているが、あのメンバーはお酒がなくなるまで飲み続けるのがデフォルトだから待つだけ無駄。


「さて、みんなちょっと注目してくれ」


 軽く手を叩きながら呼びかけると、みんなの注目が俺に集まる。


「まだ宴会は続くけど、これから少しやってほしいことがある。今はこの辺りしか光球を浮かべていないけど、精霊樹も光球で飾り付けをしてほしい。その後はデザートピザを作るからお手伝いをよろしくね」


 そう、やり忘れていたのは精霊樹の飾りつけ。


 精霊樹の桜を楽しむためにウッドデッキの位置取りを考えたのに、食事を準備するのに夢中で忘れてしまっていた。


 そしてデザートピザ。


 本当ならワイワイと料理を作りながら楽しむのがグランピングの基本なのだが、みんなかなり空腹っぽかったので食べることを優先させた。


 でも、ある程度満たされた今なら、楽しみながらデザートを作る余裕があるはずだ。囲炉裏テーブルの方は、一つは現状維持でバーベキューを続けて、もう一つはお汁粉を作ろう。


 ちょっとグランピングとは雰囲気が合わないが、夜になると少し肌寒くなる桜の季節、夜桜を見ながらお汁粉か甘酒を啜るのが俺は結構好きだったんだよね。


 死の大地は暑いけど楽園は適度な温度が保たれているから、お汁粉も楽しめるはずだ。


 あ、甘酒を作るのも楽しいかも。アレは飲む点滴と言われるくらいだし、ジーナ達の健康に良い影響を与えてくれるだろう。まあ、甘酒は後日として今はデザートピザとお汁粉だな。




 ***



「おししょうさま、まだのせていい?」


「うん、好きなのを好きなだけ載せていいぞ。でも、やり過ぎると食べづらくなるから程々にな。マルコ達のは悪い見本だ」


 キッカがピザ生地の上にリンゴを並べたデザートピザに、更にリンゴを追加しようとして、大丈夫か不安になったようで俺に質問してきた。


 その慎重さを微笑ましく思うと同時に、子供なのだから好きに挑戦してもいいのにという気持ちも湧き上がり、マルコ達のデザートピザを見て慎重なのは良いことだと考えを改めた。


 そんな悪い見本と言われたマルコ達のデザートピザは、沢山のフルーツとカスタードクリームが盛られ山になっている。


 好きな物を好きなだけ沢山載せたら絶対に美味しいはずという、腕白系の子供が陥りやすい罠にマルコもしっかり引っ掛かっている。


 同じ罠にベルとフレアも引っ掛かっているから、後々少し大変な気がしないでもない。


 でも、変な具材はテーブルに出していないから、フルーツやクリーム、チョコを焼いたデザートが完成するだけなので特に問題はないだろう。最低でも食べられる物は完成する。


 失敗も大切だよね。


 まあ俺の失敗としてはデザートピザの生地をもう少し小さく用意するべきだったというところかな。そうすれば被害をもう少し抑えられたはずだ。


 あと、桜の飾りつけももう少し具体的に指示をするべきだった。


 俺としてはライトアップして桜の花を際立たせるイメージだったのだけど、言葉が足りずに桜がクリスマスツリーのようにデコられてしまった。


 だけど、これはこれで綺麗なので結果オーライだと思う。サクラも自分の本体がキラキラしていて大興奮だしね。


「よし、じゃあ焼くぞ! まずは……ジーナとサラとキッカのを順番に焼いていこうか」


「ししょう、おれのは?」


「べるのはー」


「マルコとベルのは後回しだね。あと、フレアのも」


「なんで?」


「自分のピザを他のピザと見比べるといい」


 マルコ達が疑問の声を上げるので、他のピザと見比べさせる。


 ベル、フレア、マルコのピザを後回しにするのは若干と言うかとても心が痛むのだが、偶には大人らしく教育的なことをしないといけない。


「やまもりなのがだめなのか?」


「なんでだぜ! おおきいほうがぜったいにつよい!」


 マルコは冷静に分析を始めたが、フレア、デザートピザに強さは関係ないよ。あと、ベル、見ている間に食べたくなったのは理解できるけど、つまみ食いはもう少し控えめにやるものだよ。山が欠けているじゃん。


「大きいと焼くのに時間がかかるからね」


 なるほど、と頷くベル達。単純なのは助かるが、素直すぎて将来が心配になってしまう。でもまあ、ベルとフレアはともかく、警戒心激高でハリネズミみたいだったマルコは良い変化に思える。


 マルコの変化に少しホッコリしながら、まずはジーナ、サラ、キッカのピザを石窯に入れる。


 具材はそれぞれ定番だから味も確実に美味しいので、安心して焼くことができる。


 ジーナはチョコバナナ、サラはベリー系にカスタード、キッカはリンゴにカスタード、どれも絶対に美味しいと断言できる定番だ。


 後は俺が上手に焼けるかが問題なのだが、俺にはチートがあるから勝利は確定している。


 酒樽の追加を条件に、イフに石窯の中の温度を最適にしてもらっているから完璧な焼き上がりが保証されているんだよね。


 最初から全部イフに焼いてもらえば石窯なんていらない気がしないでもないが、石窯で焼くということに意味がある。


 ジーナ達の経験にもなるし、普通に焼くのと石窯で焼く違いをイフに説明できないし、なにより様式美が重要だ。


 石窯から取り出されるピザなんて、それだけで二割は美味しさが上がると思う。


 現に石窯から取り出したデザートピザを見て、歓声が上がっているからその効果は折り紙付きだ。




 ジーナ達が作ったデザートピザは間違いのない美味しさだった。


 予想外なのはマルコ達が作った山盛りデザートピザ。


 味は色々と混ざって美味しいところがあったり微妙なところがあったりで、水分も多いので土台の生地もお世辞にも美味しいとは言えない出来だった。


 が、パーティー料理としては悪くないという予想外の結果が出て驚いた。


 ここが美味しい、ここが不味いというだけで笑いが生まれ、食べにくさが冒険心とチャレンジ精神を生み、そこでも笑いが生まれた。


 というかベルが笑いを生み出した。ベル、食べにくいし飛べるからってピザと平行に飛んで頂上からの犬食いは卑怯だと思う。下品だと注意するべきなのは理解しているが、可愛くて叱れなかった。


 でも、お汁粉を啜りながらそんな賑やかなグランピングの光景を見て、俺は幸せな気分に包まれた。


 ……ただ一つ、いや、いくつも思うところがある。


 クリスマスっぽい雰囲気にお汁粉は合わないし、なにより、全然テントが活用できていない。一番の目玉なはずなのに……ドラゴン素材……。

  


 …………まあ、楽しいからいいか。


 いずれもっとテントを活用できるイベントを計画すれば良いし、遊びに来る精霊達にもウッドデッキを解放すれば楽しく活用してくれるだろう。


 みんなが笑顔であれば、俺は満足だ。


 ……言い訳じゃないよ?


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
味覚は幼少時の味覚の発達に依存するから子供の頃に色々食べてないと育ってから訓練とかしても効果は微妙……!
あれ?チョコや小豆を入手する話あったっけ? それとも裕太の買いだめの中から出したのか?
すぐ近くに家があるのに、ドラゴンのテントが報われることはあるんだろうか? 雰囲気は、いいんだけど
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