七百二十八話 さすがドラゴン
ウッドデッキにグランピング施設の設置を開始した。ドラゴン素材で作ったテントは想像以上に派手で、他所では使えないことが確定したが、楽園内なら隠す必要もないので問題ないという結論に達する。なんとか全部テントを張り終えて、あとはグランピングの準備をして宴会だ。
まずは食事の準備。
新しい囲炉裏テーブルには炭と薪で火を熾した。ああ、石窯を設置して薪を燃やして窯を温めておかないとな。
石窯と言えばピザ……いや、ピッツァだな。そうなると、イタリア料理か? ふむ、グランピングでお洒落なイタリア料理。
お洒落って繰り返すと逆にダサい気がしてくるが、グランピングでイタリア料理はお洒落と言っても過言ではない気がする……たぶん。
かなりの食材を魔法の鞄にストックしているから対応できるが、それでも少し遅くなりそうだから急がないと。
三張りのテントの中央、この辺りだな。
よし、石窯の設置……ヤバい、なんかウッドデッキがミシミシいっている気が、とりあえず収納。
ハンモックの重りの重量は耐えられたが、石窯の重量は厳しかったか。どうすれば……せっかくの自信作なのに、テントから離れた場所に設置するのは寂しい。
石窯を作る時、周りの迷惑になりそうだったから迷宮で作ったのだけど、あそこは頑丈だったし、完成した石窯を見てテンションが上がっていたから重量問題が頭から抜けていたんだよな。
……あ、広めの一枚板を敷けば重量が分散されてなんとかなるか?
御神木クラスの丸太の輪切りを取り出し、中央に設置、その後、すぐに収納しなおせるように心構えをしながら石窯を設置…………うん、これなら大丈夫……かな?
なんだか不安なので、今回の使用が終わったら収納して、次回はウッドデッキの補強をしてから使うことにしよう。
うーん、重量問題は置いておくことにして、自画自賛になるが凄い石窯だ。
俺が知っている石窯は、石を積んでドーム型にした感じなのだけど、チートな俺はそんなテンプレートを無視することができる。
ソニアさんに用意してもらった熱に強い大きな石というか岩を、開拓ツールで石窯の形に直接くりぬき、それを開拓ツールのヤスリで磨きあげるという他にはまねできない工程を経た逸品。
窯の厚みとか分からないし、割れたら怖いのでかなり分厚く石を残したことで、結構な大きさになり、重量問題を引き起こしてしまったが、その分、重厚感が凄まじい迫力を生み出している。
しかも食材を焼くところには大理石の分厚い板を敷いたから、とってもカッコいい。まあ、石窯というよりも岩窯な気がしないでもないが……あ、窯を温めるんだったな。
石窯に薪を突っ込み、フレアに火をつけるようにお願いすると、薪の隙間にいくつもの小さな火が飛び込んでいき薪が燃え始める。
着火剤も使わず、小さな枝から順番に火を大きくしていく必要もない火おこし、風情の面では問題があるがとても便利だ。
どうだ! と自慢げなフレアの頭をナデナデしてお礼を言う。あんまり長くナデていると他の子達も集まってしまうから要注意だ。
ナデナデしまくるのは心癒されるのだが、時間がない時は困るからな。
さて、あとは料理の準備だな。
俺の貧弱な想像力でお洒落なイタリア料理を思い浮かべるに、イタリアと言ったらピッツァと……もうピザでいいか。
ピッツァ、ピッツァと思考するのが地味に疲れる。あと、パスタだな。
それにチーズとトマトがイタリア! ってイメージだ。
ピザはストックしてあるパン生地を流用するとして、パスタは本格的に生パスタを使用しよう。
「ジーナ、サラ、悪いけど生パスタを準備してくれる? マルコとキッカは二人のお手伝いをお願い」
「ん? ああ、パスタなら任せてくれ」
「分かりました」
「手伝うぞ」
「おてつだいする」
ジーナとサラが生パスタを作るのが上手なので任せてしまう。ジーナとサラは今でも時間があるとトルクさんに色々と習っていて、料理の腕が順調に上がっている。
生パスタを用意してもらっている間にパスタソースの準備をするか。
イタリアのパスタと言えば、カルボナーラとボロネーゼとペスカトーレにジェノベーゼかな?
カルボナーラとボロネーゼは作り慣れているからだ大丈夫、ペスカトーレも何度か作ったことがあるからなんとかなりそう。
ジェノベーゼは……バジルを使うことくらいしか分からないから、止めておくことにしよう。
ピザは……ピザは……あれ? マルゲリータくらいしか名前が思い浮かばない。
……そういえば本格的なピザ、いや、ピッツァって数えるくらいしか食べたことがないな。しかも日本でだ。
よし、ピザにしよう。やはり俺はピッツァではなくピザな男、ピザだって美味しいから大丈夫だ。
宅配ピザで人気なピザを用意しよう。
……これだけでは寂しいな。
他にも華やかなイタリア料理は……リゾットとか? うーん、リゾットも美味しいけど、俺的に華やかさでいったらパエリアの方に軍配が上がる気がする。
でも、パエリアってたしかスペイン料理だったよな。
……よし、今回のテーマは、イタリア・スペイン料理ということにしよう。パエリアを作るんだったら一緒にアヒージョもだな。
なんかファミレスみたいになっている気がするが、楽しく華やかであれば大丈夫、なんの因果か異世界まで来てしまったのだ、地球の料理の国の違いなど小さなものだ。
さて、料理だ。
完成した料理は魔法の鞄に熱々のままで収納する。
食べる前に並べたら全部熱々と言うのが魔法の鞄の素晴らしいところだ。
といっても今回はグランピングなので、ある程度まで仕上げて収納し、最後は石窯と囲炉裏テーブルで真の完成を迎える予定だ。
パスタはともかく、ピザは石窯から出す瞬間が見どころだし、囲炉裏テーブルの上で完成するパエリアとか映えでしかないと思う。
炭火を熾した囲炉裏テーブルではお肉と魚介と野菜でバーベキューだ。
……もう真っ暗だな。
食べるのが栄養補給ではなく趣味な精霊はともかく、ジーナ達はそろそろ空腹が限界だろう。急いで準備を終わらせて、宴会を始めないと。
最後の仕上げはグランピングの飾りつけ! といっても光球をグランピングの雰囲気が壊れない程度に浮かべるだけだ。
キャンプと違ってグランピングは多少派手な方が似合うから、あまりバランスを気にしなくていいのは楽だ。
ポコポコと光球を浮かべ、ついでにジーナ達にも気分次第で光球を浮かべさせる。
……なんかお祭り会場みたいな雰囲気になってしまったが、弟子達が喜んでいるからOKだ。
「ししょう、こっちくらいぞ。なんでだ?」
「おししょうさま、あっちはあかるい。なんで?」
完成したグランピング空間に浸っていると、マルコとキッカが質問してくる。
「明るさ? 光球の数が違うんじゃ……あ、本当だ。シルフィ、なんで?」
光球の数とかそんなレベルではなく明るさがハッキリ違う。
「ダークドラゴンは周囲の光を吸い込む性質があるし、ライトドラゴンは光を発するわ。まあ、素材になっているからその性質は薄れているけどね」
マジか……さすがドラゴン素材、加工されていても周囲に影響を与える力があるのか。
そういえば、ライトドラゴンとダークドラゴンと戦った時、凄く黒かったし、凄く明るかったな。
ドラゴンの感想が黒いと明るいというのはどうかと思うが、思い返してみると黒いと明るいが強く印象に残っている。
もっと近くで観察してみよう。
まずはダークドラゴンのテント。
こちらはボールを半分に切断したようなドーム型のテントにした。
最初は太陽をイメージしてライトドラゴンをドーム型にしようかと思っていたのだが、単純すぎる気がしたので逆にした。
「おぉ、近くで観ると本当に黒い。素材に光沢があるし漆黒ってこういう色なんだろうな」
カッコいいというか、厨二心をくすぐるタイプのテントだ。しかも光を吸い込むという、更に厨二心をくすぐる機能まで付いている。
たぶん精霊術師講習で、厨二な闇の精霊と契約した厨二な少年なら大喜びするだろう。
そして近くで見るとよく分かる。テントから一メートル程度の範囲になると、届いていた光球の光がテントに吸い込まれるように吸収され明るさが弱くなっていく。
あと、夜に黒いテントは目立たないかと思ったが、周囲の闇よりもテントの方が黒いから、明かりを全部消したとしてもテントが黒く浮かび上がりそうな気がする。
そうなるとテントの内部は……おおう、光球を一つ浮かべているのだが、光量が半分程度になっている気がする。
……なんか落ち着くな。寝るには良い感じのテントかもしれない。
そうなるとライトドラゴンのテントは逆の効果が? 見に行ってみよう。
キッカが明るいと言っていたように、ライトドラゴンのテントはそれ自体がふんわりと優しい光を放っている。
そして驚くことに近くに浮かべていた光球の輝きが強くなっている。ダークドラゴンは光を吸収していたが、ライトドラゴンは光を増幅する力があるのかもしれない。
そうなると中を見ると……うん、テントの中に浮かべた光球も予想通り輝きを増している。火やランプの灯りとは違い、電灯のような明るさを感じる。
書類仕事とか細かい字を読む場合は、このテントを作業場にしたら効率が良いかもしれない。まあ、書類仕事なんてしないけどね。
それにしても光の増幅か。だから離れた場所でも分かるくらいに明るさが違ったのか。
ただ、ダークドラゴンのテントもライトドラゴンのテントも、明るい間には気が付かなかった程度なので、両方とも不快になるほどの影響はないようだ。
夜に遊ぶ時はライトドラゴンのテント、寝る時にはダークドラゴンのテント、普通が良い時にはグリーンドラゴンのテントと使い分けると快適かもしれない。
まあ、グリーンドラゴンのテントを普通と言っていいのかはとても疑問だが……。
きゅるるるる。
テントの確認をしていると、妙に可愛らしい音が聞こえた。音の方向を見ると、サラが恥ずかしそうに顔をうつむかせている。
もしかしなくてもお腹の音か。そういえば夕食の時間がかなり押しているから急がないとって考えていたんだった。
のんきにテントを観察していないで、さっさと宴会を始めよう。無論、サラにお腹が空いたの? なんて無粋な質問はしない。俺は尊敬される師匠を目指しているからな。
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