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七十一話 スカウト

 精霊術師を育てるために、スラムに孤児をスカウトに来た。現在、ボロボロの掘っ立て小屋の中と外で話し合っている。沈黙が長くそろそろ不安になって来た。


「お前が安全だと、どう証明するんだ?」


 それは聞きたいよね。そしてとっても難しい質問だ。


「うーん。信じて貰うしかないかな。君は何を見たら信じる? 力? お金? 人柄は嫌われているから良い評判は無いと思うよ」


 自分で言っていてとても悲しい。


「力とお金を見せろ」


「じゃあ、見せるね。まずはお金。これ以外にも価値がある物が沢山あるから、資金は心配しなくて良いよ」


 ジャラジャラとお金を出し、ついでに迷宮で手に入れた金銀財宝も並べてみた。子供にお金を見せびらかすのって、凄く恥ずかしい事をしている気分になる。でもお金って強いんだよね。


「次は力だね」


 あんまり派手なのは周りに迷惑が掛かるし……。ファイアードラゴンをデンっと出せば実力は示せるんだろうけど、おびえて出て来なくなりそうだ。


(シルフィ。俺を少し浮かしてくれる?)


「分かったわ」


「見えるかな? 今少し浮いてるんだけど、俺は空を飛べるよ」


「お、おれも飛べるようになるのか?」


 子供心を掴んだようだ。空を飛べるのってかれるよね。


「それは分からないな。君がどんな精霊と契約するかによるし、空を飛ぶのなら風の精霊の力を借りないと駄目だけど、君が契約出来る精霊だと、ちょっと浮かぶぐらいが限界になるんじゃないかな」


「それじゃあ、役に立たないじゃないか」


 一瞬だけ警戒心を好奇心が上回っていたが、現実を知って警戒心が戻って来たようだ。なかなか難しい。


「別に飛ぶのは難しくても、攻撃はしてくれるんだし、冒険者としては十分にやっていけるよ」


「………………」


 再びの長い沈黙。俺って説得が下手なのかな?


「俺には妹がいる。離れる気は無いぞ」


「知ってるよ。まとめて面倒見るから安心して良いよ」


 いい加減顔を見て話し合いたい。


「な、なんで知ってるんだ!」


 あれ? さらに警戒させちゃった? なんだか段々と面倒になって来たな。なんでこんな事をしてるんだろう? ……ああ、精霊術師がバカにされてるからと、ギルマスのせいだな。ギルマスの顔を思い浮かべると、やる気が湧き上がって来るから不思議だ。


「精霊に調べて貰ったって言ったよね。君に妹さんが居る事も知っているし、妹さんも精霊術師に成れるから、問題無いよ」


「分かった。ちょっと妹と話すから時間をくれ。絶対に近寄るなよ」


「了解。ゆっくりで良いよ」


(ベル達は退屈だろうから、遊びに行っておいで。用事が出来たら召喚するからね)


 ふよふよとじゃれ合っていたベル達に声を掛ける。はーいって感じで飛んで行った。本当に退屈だったんだな。


「裕太。あの兄妹は悩んでいるみたいよ。信じるのも怖いし、ずっとここに居るのも辛い。そんな感じみたい。騙されて何処かに売り払われるのを一番警戒しているわね。でも裕太が見せたお金と財宝で、自分達を売って小金を稼ぐ小悪党とは違うって言っているわ」


 一発で子供を信用させるような、オーラが出せれば良いんだけど、残念ながら無理だ。人身売買なんてしないよって言っても信じて貰えないよね。


(しょうがないよ。何を言ったって疑問は残る。後はあの子達の選択次第だね)


「そうね。それと、こちらに来ようとしている人間を通行止めにしているけど、構わない?」


 そんな事してたのか。でもここでからまれるのも面倒だし、頷いておこう。暫く待っていると、質問が飛んで来た。


「なあ。兄ちゃん。俺が付いて行ったら腹いっぱい食えるか? 俺も妹もだ」


「食費はケチるつもりは無いから、毎日お腹一杯食べられる事は約束するよ」


「………………分かった。ついて行く。でも妹をいじめたら絶対に許さないからな」


「大丈夫だよ。子供をいじめる趣味は無い」


 ギルマスは徹底的にいじめたいけどね。俺ってビックリするぐらい根に持つタイプだったんだな。日本では気が付かなかったよ。


 納得したのか、このままスラムに居てもどうしようもないと判断したのか、恐る恐る小屋から兄が出て来た。……獣人だったのか。そう言えば種族を聞いていなかったな。


 精一杯威嚇せいいっぱいいかくしている感じが、微妙に可愛い。髪の色は灰色で、背も小さく痩せている。あたりまえだけどちゃんと栄養が取れる環境じゃ無いんだよな。


「どうすれば良いんだ?」


「もう一人誘う人が居るから、荷物をまとめておいで。そのまま出発するよ」


「わかった」


 少年が小屋の中に戻り、小さなボロボロな鞄をもって、妹と手をつないで出て来た。流石兄妹。よく似てるな。妹の方は威嚇いかくと言うか、おびえている感じだけど。


「他に荷物は無いの? 何でも運べるから、大きくても必要な物があったら持って来ても良いんだよ」


「持って行くものは無いから大丈夫だ」


「分かった。あとは……俺の名前は森園 裕太。君達の名前は?」


「俺はマルコ。妹はキッカだ」


「分かった。マルコ。キッカ。よろしくね。俺の事はそうだな……師匠って呼んでくれ」


 何となくだけど、師匠って呼ばれたくなった。弟子として連れて行くんだから間違って無いはずだ。


「わかった」


「じゃあ、シルフィ。次の案内をお願いね」


「そこに何かいるのは分かる。それが精霊なのか? いままでも都市の中で何度も感じたけど、俺とキッカともう一人以外は分からなかったぞ」


 話してくれるのは嬉しいけど、もう少し警戒心は解いて欲しいな。当分無理っぽいけど。妹の声すら聞いて無い現状は寂しい。


「そこら中に精霊は居るからね。分かるのが精霊術師の素質があるって事だよ」


 たぶんね。俺もよく知らないけど、シルフィが頷いているからそうなんだろう。シルフィについて歩いて行くと、五分ぐらい離れた所にある掘っ立て小屋の前に到着した。


「サラ姉ちゃんの家だ。誘うのはサラ姉ちゃんなのか?」


「ん? 知り合い?」


「そうだ。偶にご飯を分けてくれたり、助けてくれたりする」


 へー。こんな所に住んでるんだし、自分も大変だろうに良い子なんだな。俺には到底無理な行為だ。


「マルコどうかしたの?」


 声を聞いて女の子が出て来た。俺を見てビクッっとする。結構傷付くものだな。金髪でガリガリにせている。ご飯を他人に分け与えている場合じゃ無いと思うんだが。


 しかし、マルコもキッカもそうだけど、服はボロボロでも清潔感はある。多分洗浄の魔法の影響なんだろうけど、本気で凄いな洗浄魔法。


「だ、誰?」


「俺は森園 裕太。君を精霊術師にならないか勧誘しに来たんだけど、どうかな?」


「せ、精霊術師ですか。よくわからないです」


「んー。まあ、なんて言うか、評価が最悪な職業かな。悔しいから君達を育てて見返そうかと思って、君を勧誘に来たんだ。毎日お腹一杯食べられる事は保証するけど、どう?」


「どうって言われても、その……」


 いきなりこんな事言われたって悩むよね。ここからまた、長い説明が始まるのか。ん? サラがマルコとキッカを見ている。


「あ、あの。マルコとキッカを連れて行くんですか?」


「うん。マルコとキッカは俺の弟子になったからね」


「……なら。私も行きます」 


 急展開だな。でも理由が何となく分かる。マルコとキッカが心配だから、ついて来るつもりなんだろう。  

「説明を聞いてないけど大丈夫?」


「マルコとキッカは納得しているんですか?」


「うん」


「警戒心が強いマルコとキッカが一緒に行くと決めたのなら。信頼出来るんですね。マルコ。キッカ。どうしてついて行くと決めたか聞いても良い?」


「サラ姉ちゃん。俺はべつにしんらいしてない。ただ、お金をもってるし、このままここにいても病気になったら死ぬだけだから、ついていく事にした」


 ……想像以上にシビアに判断されてた。目の前で信頼されてないとか言われると、怪しいから当然の事だと納得していても、心にダメージを受ける。


「そう。確かに私達だけではいずれ限界が来るわよね。……分かりました、私もついて行きます」


 なんかこの子、自分の事よりマルコ達が心配だからついて来ようとしている気がする。なんかあやういな。まあ、いいか。面倒な説得の手間が省けたんだ。


「分かった。じゃあ、えーっと、サラだったね。サラ。君も今日から俺の弟子だ。俺の事は師匠と呼ぶように」


「はい」


「じゃあ、荷物を纏めておいで。魔法の鞄があるから大きくて、持って行きたい物があれば言ってくれれば運ぶからね」


「大丈夫です」


 サラは家に入ると小さな袋を持って出て来た。もう良いそうだ。荷物が少なすぎるだろう。


「三人とも、挨拶をしておきたい人はいる?」


 サラとマルコが首を横に振る。キッカはマルコの後ろに隠れていて見えない。誰にも挨拶しないで良いのか。歩きながら話を聞いてみると、この三人は犯罪を拒否していたので、スラムでは浮いていたらしい。


 どうやって生活していたのか聞いてみると、炊き出しや宿の残り物なんかを分けて貰っていたようだ。なんとか生きて行けるのに犯罪を犯す理由は無いって言われた。俺だったら楽な方に流されてしまいそうだから、耳が痛い。


 さて次は……この子達も予想以上に物を持っていなかったから、色々買って行かないとな。マリーさんに話もあるし、まずは雑貨屋に行くか。



 ***



「すみません。マリーさんはいますか?」


 この前、買い物を手伝ってくれた店員さんがいたので、声を掛けてみると、俺の事を覚えていたのか、直ぐに呼びに行ってくれた。


「裕太さん。あの事でしたら順調ですよ」


 満面の笑みで出迎えてくれたマリーさん。上手く行っているのなら良かった。これで、迷宮の事も話しやすくなる。


「それは良かったです。他にも話があるので、お時間を頂きたいんですが大丈夫ですか?」


「裕太さんの話ですか。ぜひお聞かせ願いたいですね。応接室にご案内します」


 儲け話? 儲け話だよね? って顔だ。グイグイ手を引っ張らないで。その前にサラ達の事を頼まないと。


「ちょっと待ってください。その前にお願いが。この三人を弟子に取ったのですが、生活に必要な物が欲しいんです。服と下着を三組ずつ。この子達の食器。他にも何も持っていないので、必要な物があれば選んであげて欲しいんです。誰か店員さんを付けて、話の間に選ぶのを付き合ってあげてくれますか?」


「分かりました。お任せください」


 マリーさんがスチャっと片手で合図をすると、スチャっと店員さんが現れた。この店の社員教育はおかしい気がする。


「サラ。マルコ。キッカ。ここで必要な物を揃えるからね。君達が使うものだから、自分の意見もちゃんと言うんだよ」


 何となく頷いた感じだ。心配だな。店員さんにも話しておくか。


「店員さん。この子達は買い物に慣れていないようなので、よろしくお願いします。生活に必要な物を選んであげてください」


「分かりました。お任せください」


 お礼を言おうとしたらマリーさんに応接室に連れて行かれた。待ちきれなかったらしい。さて結構大きな話になるからな。どんな反応になるか、ちょと心配だ。

読んでくださってありがとうございます。

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