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七百二十三話 自衛だけど手加減も……

 フィオリーナの実践訓練を実施し、ある程度レベルも技術も向上したので建築に関係する精霊術を教えることにした。したのだが……建築に関係するフィオリーナの知識欲が凄まじく、初日から教える知識が不足するのではと心配になった。訓練予定期間が終わるまで、俺の知識は持つのだろうか?




「じゃあ今日は建築の方は一旦お休みにして、メルと一緒に冒険をするよ。メル、よろしくね」


「はい、お師匠様、今日はよろしくお願いします。フィオリーナさんもよろしくお願いします」


 建築に関係する講義を始めてから数日、知識を絞り出すのが難しくなったから別の方向で訓練を進めることにした。


 知識に関してはね……ノモスは聞けば大抵のことに答えてくれるのだけど、逆に言えばちゃんと聞かないと答えてくれない。


 別にノモスが知識を出し惜しみしているのではなく、ノモスの場合は知識があり過ぎて人に何を教えていいのかの判断が難しいからだ。


 こうやって時間を稼いでいるあいだに、新たなカリキュラムを組む予定だ。


「はい、メルさん、まだまだ未熟ですから足を引っ張ってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」


 それにしても、妙齢の妖艶な美女フィオリーナと、幼げな美幼女メルの絡みは微笑ましさと同時に妙な背徳感を感じるな。まあ、メルは成人しているから犯罪ではないのだが……。


 そして、二人で訓練をするのは他にも意味がある。


 ジーナ達は時間帯が合わないし、迷宮も先に進んでいるので初心者と歩調を合わせるのは無駄が多い。


 今もジーナ達は迷宮の最前線を探索に行っているしね。


 だがメルとフィオリーナなら、副業を持つという意味では同じだし、拠点が王都と迷宮都市と離れてはいるものの、俺達みたいにいつ迷宮都市に現れるのか分からないということもない。


 なので、メルとフィオリーナが協力すれば、俺達が楽園に居る間も助け合うことができるという訳だ。


 探索以外にも職人同士ということで色々と協力できるのは大きな強みだ。


 迷宮に入りシルフィの空中ジェットコースターでアンデッド階層に向かう。楽園メンバー候補にはアンデッド対策が必須だからだ。


 なにしろ楽園の外は死の大地でアンデッドが売るほど湧いている。


 ただ、メルもフィオリーナもアンデッド階層で訓練だと伝えたら、凄く嫌そうだったけどね。



「うう、やっぱりこの臭いは苦手です」


 アンデッド階層に到着したとたん、メルが顔をしかめて弱気を漏らす。生き物の死臭が得意な人はそう居ないから我慢してほしい。


「お師匠様、私は本職が建築家なので、無理をしてアンデッドと戦う必要はないと思うのですが……」


 貪欲と言えるほどに訓練に打ち込んでいたフィオリーナも弱音を漏らす。やっぱり女性にはアンデッドは辛いか。まあ、男でもアンデッドは辛いんだけどね。


「色々と経験しておくことは良いことだよ。特にアンデッドは人間が基になっている個体が多いから、自衛のための練習にもなる」


 深く言及はしないが、フィオリーナが精霊術を学ぶ理由の一つに身の危険に対抗する目的がある。


「なるほど、お師匠様、私、頑張ります」


 フィオリーナの目に覚悟……というか殺意が宿る。


 男に対する殺意が高い。


 そんなフィオリーナの姿にメルが若干引いている。


 反面、その二人の契約精霊達はホノボノだな。メリルセリオとテクトが同じ土の浮遊精霊ということで意気投合したのか仲良く戯れていて、それをメラルが優しく見守っている。平和だ。


 お、話している間にアンデッドが寄ってきた。初戦はスケルトンか。武器持ちだが、ゾンビよりも戦いやすいからちょうどいい。


「まずはメルがお手本を見せてあげて」


「分かりました」


 俺の言葉にメルが躊躇せずに前に出る。メルはアンデッドと戦い慣れているから、緊張する必要はないのだろう。


 サクッとメラルとメリルセリオに指示を出し、向かってくるスケルトンを殲滅する。


「なるほど、胸部の魔石を狙うのですね。ですがお師匠様、魔石を砕くと収入にならないのでは?」


「そうだね、収入にならないけど、収入を考えるならアンデッドと戦わずに、もっと稼げる獲物を狙うよね。スケルトンの魔石くらいなら確保してもいいかもしれないけど、ゾンビの魔石とか取り出すのも苦行だけど欲しい?」


「……いえ、必要ありません」


 ゾンビの魔石を取り出すのを想像したのか、首を左右に激しく振るフィオリーナ。揺れている。


「メルもフィオリーナも副業があるし、今日は報酬を考えずに二人の連携と、人型の魔物との戦いになれる訓練と割り切ろう。あと、二人とも人に狙われることもあり得る立場だから、アンデッドを拘束して取り押さえる訓練もするつもりだよ」


 メルの場合は劣化ダマスカス、フィオリーナはその美貌で変な輩に絡まれる可能性は非常に高い。


 メルにはユニスや雑用三人と工房の外の騎士や兵士、フィオリーナにはマリーさんが雇った冒険者が傍に居るが、それでも何があるか分からないのだから身を守る手段は必要だ。


 そこで問題なのは反撃の程度、この世界なら襲ってきた相手なら殺したとしても問題にならない気がするが、だからといって二人や精霊に殺人を犯してほしい訳ではないし、殺したら面倒になる相手だって存在する。


 貴族や大商会などの強い立場の相手をうっかり殺しでもしたら大騒ぎ確定だ。


 そういうことなので、迂闊にやり過ぎないようにアンデッド相手に訓練してもらうつもりだった。フィオリーナの殺意が高い瞳を見るまでは……。


 保険程度の手加減訓練のつもりだったけど、フィオリーナの場合はテクトにもしっかり状況判断や手加減を覚えさせておくべきだな。あの目を見るに、ナンパしてきた相手ですらボコる可能性がある。


「さて、まずは室内や街中で襲われた時の対処法を勉強しようか。あのゾンビでね。まずはお手本を見せるよ」


「砂塵」


 のたのたと近寄ってくるゾンビに向かって呪文名を唱えると、トゥルが呪文名通り砂塵をゾンビに向かって吹き付ける。


「これは目つぶしの術だから当然ゾンビには効果がないけど、普通の人間相手ならそれなりに効果があるから二人とも覚えておくといいよ」


「分かりました。でも、お師匠様、なぜ相手に直接ダメージを与える技ではないのですか? 取り押さえるにしても襲い掛かってきた相手なら骨の一本くらいは当然だと思います」


 メルがいきなり物騒な質問をしてくる。メルって性格的に気弱なはずなんだけど、そのメルでさえ骨折くらいというほどこの世界は物騒なんだよな。


「浮遊精霊の場合はその場の土や鉱石を利用する方が力の消耗が少なく呪文の発動も早くなる。でも、室内や石畳の上だとその利用する物が存在していなかったり利用し辛かったりする。でも、砂塵程度なら浮遊精霊でもすぐに作れるから、力の消耗も少なく便利なんだ。あと、広範囲にまき散らせるから集団戦にも便利」 


 なるほどと頷く二人。派手さはないが便利なことには納得してくれたようだ。おっと、ゾンビが結構近づいてきているな。


「泥沼」


 俺の言葉にトゥルがゾンビの集団を泥の沼に沈めてくれる。まあ沈めると言っても腰まで浸かる程度だけどね。


 あとはこのゾンビたちを実験台にして、絡んできた相手への嫌がらせや、襲ってきた相手への反撃方法を実践しよう。


 同時にシルフィとノモスにテクトとメリルセリオに状況判断の仕方を教えてもらえばそう酷いことにはならないはずだ。


 あと、ちょっと暇をしているベル達には、周囲のアンデッドの掃除をしてもらうか。訓練の邪魔だしね。




 ***



 フィオリーナの訓練を開始してようやく一ヶ月が経過し、フィオリーナも無事に見習いレベルを卒業できる程度には成長した。


 魔法職が一ヶ月で見習い卒業って早すぎる気もするが、俺も地味にチートだし、なにより大精霊の存在自体チートなので手取り足取り教えると成長が驚くほど早い。


 それでもこの一ヶ月は地味に大変だった。


 講義内容の決定が一番大変だったのは確かだが、それ以外にも細々とした用事を片付け、完成したテント等のキャンプグッズの受け取りやダイエットに関する相談、合間を見て楽園に帰還してサクラの相手をしたり、食材等の補給をしたりと結構忙しかった。


 まあ、その甲斐あって、フィオリーナとメルも更に仲良くなり、訓練に関しても順調、ジーナ達もしっかり迷宮を探索しなかなかの成果を叩きだしたりもしている。


 特に積極的にメルのところに顔を出したのが効果的だったのか、メルのちょっと自分は違うという雰囲気もなくなり、遠慮が少し薄れたのは良いことだと思う。それでもまだまだ遠慮深いのだけどね。


 ただ、一番大変だったのはやはりフィオリーナ……だった……はず……たぶん。


 建築家として朝から夕方まで働き、そこから俺との慣れない迷宮での訓練。短期間と決まっていなければ体を壊す心配をするレベルだ。


 まあ、本人は凄く充実していますと明るくなったのだけど……。


 建築関連の知識の吸収に貪欲なのは最初からだったのだけど、戦い方、それも絡んでくる男の撃退方法を教えてから戦闘に関しても知識の吸収が貪欲になり、嬉々として覚えた術をゾンビ相手に実験するようになった。


 たぶん、今のフィオリーナにちょっかいを出す男は、大怪我をしなくてもトラウマになるレベルの苦痛と悲しみをその身に刻むことになるだろう。


 そんなやる気満々なフィオリーナを強力にサポートしたのが、トルクさんの美味しい料理。


 しかもマーサさんの為になんちゃって栄養学まで勉強し始めたので、フィオリーナの抜群のスタイルにさらに磨きがかかる結果となった。


 そのトルクさんの行動は当然俺達にも好影響を及ぼし、サラ達子供組は見ただけで違いが分かるほど健康になり、ジーナも肌の潤いがマシマシでプロポーションもレベルアップしている。


 ついでにだが、マーサさんも見た目五キロぐらい減量に成功したように見えた。かなりハイペースな減量なのに、健康そうなのが少し不思議だ。やはりレベルか?


 そんな忙しい一ヶ月だったのだが、フィオリーナの卒業と同時にもう一つめでたいことが発生した。


 最初に作り始めた家の二軒がもう完成した。


 資材も十分で人員も充実。しかもフィオリーナが覚えた精霊術を現場でも活用し始めたため当初の予定よりも随分と早く完成することになった。


 ちょっとビックリはしたが、精霊の村の完成が早まるのは大歓迎なので構わない。明日、さっそく見に行くことにしよう。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
最新話まで追いついてしまった…… 続き待ってます
泥沼のトゥルと呼ばれるのも近いな
“俺の頃場にトゥルがゾンビの集団を泥の沼に沈めてくれる。まあ沈めると言っても腰まで浸かる程度だけどね。” 頃場 ⇒ 言葉 かな?
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