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七百二十二話 裕太のせいいっぱいの講義

 フィオリーナが土の浮遊精霊と契約を結んだ。名前はテクト。テクトの元となった魔物の名前からの捩りで、フィオリーナも名づけはあまり得意でなさそうなことが判明した。だが、名前はともかく訓練の方は順調で、マルコのお手本の後に、フィオリーナの精霊術での初実践が始まる。




 マルコのお手本も終わり先に進むと、先にゴブリンの姿が見えた。向こうもこちらに気が付いたのか、気勢を上げながら走り寄ってくる。


「ジーナ達で一匹だけ残して倒しちゃって」


 俺が指示を出すと、ジーナ達は頷いた後に前に出る。仲間内で軽く目を合わせ、それぞれの契約精霊に指示を出すと、火の弾、風の刃、土の弾が飛び、四匹居たゴブリンが一匹だけ残る。


 凄い連携だな。


 これまで何度も一緒に探索をしてきたからか、目線だけで意思疎通ができるようになっている。


 おそらく、こういう場合誰がどの相手を攻撃するのかのテンプレートができているのだろう。おっと、それよりもフィオリーナの実践だな。


「フィオリーナ。残りは一匹。焦る必要はないから、しっかり指示を出してあげて」


「は、はい、テテテ、テクト、ドド土弾」


 フィオリーナがこちらに向かってきているゴブリンを指して、噛み倒しながらも指示を出す。


 指示を受けたテクトも、噛み倒すフィオリーナに戸惑ったようだが、なんとか指示を理解し土弾でゴブリンを打ち抜く。


「や、やりました?」


 まだ実感がわかないようで、倒れたゴブリンを見てあたふたしているフィオリーナ。


 指示を噛み倒すのは、慣れたら消えるだろうから問題ないだろう。


「まずは順調だね。これから同じように一匹だけ残すから、マルコから教わった技を一つ一つ試していこう。防御の術もね」


「は、はい、頑張ります!」


 一匹倒したくらいでは緊張は解けないか。こちらも慣れだな。



「次は複数の相手に挑戦しようか」


「分かりました」


 防御で少し戸惑ったものの、実践を重ねるごとにフィオリーナの緊張は解け、冷静に戦うことができるようになった。


 まあ、蔓でがんじがらめにされていたとはいえ、オークやトロル、それよりも強い魔物の止めを刺してきたのだから、レベル的にもゴブリン程度なら大丈夫なのだと気が付いたのだろう。


 あと、ジーナどころかキッカも怖がらずにゴブリンを倒しているのも影響していると思う。幼女が平気な顔で戦っているのに大人の自分が怖がっている訳にはいかないよね。


 ゴブリンの集団が現れたので、ジーナ達が二匹残して殲滅する。


「土弾、あ、えっと、土槍、あ、土壁……ふぅ、土弾」


「フィオリーナ、分かっているとは思うけど、別々の術を使って倒す必要はないからね。あと、土槍は下から上への攻撃だから走っている敵には不向きだと覚えておいてね」


 最後には自分で立て直していたから注意は不要かと思ったが、念のために注意をしておく。


 そして俺の注意の後で、マルコがフィオリーナにアドバイスをしている。トゥルとウリもテクトになにやら教えているようなので、次はもっとスムーズに対応できるだろう。


 でも、ベル達はちょっと離れていようね。少し離れたところで小さな腕を組んでウムウムと頷いているけど、ベル達に後方師匠面はまだ早いと思うよ。




 俺の注意とジーナ達のアドバイスにより、三時間程度の訓練でゴブリンなら問題なく対応できるようになった。


 あとは、毎日コツコツと実践を繰り返し、倒す魔物の質と量を上げながらレベルと技術を向上させるだけだ。




 ***




「じゃあそろそろ建築に役立つ精霊術を練習しようか」


 フィオリーナが精霊術での実践を初めて約二週間、フィオリーナの訓練は次のステップを迎えた。


 この二週間でフィオリーナはアンデッド階層手前まで進み、レベルも技術もそれなりに向上した。


 フィオリーナの訓練以外にも迷宮都市で様々な活動をした。


 建築現場の様子を見たり、頻繁にメルのところに顔を出したり、マーサさんとトルクさんにダイエットの講義をしたり、ベティさんのことでリシュリーさんに謝ったり、ソニアさんにグランピング用の道具を確認したりと結構忙しかった。


 ついでに、ベティさんの姿を何度か見かけたが、気合十分な様子でポテポテと歩き回っていたので、たぶん順調に体重は減っているのだと思う。


 町中にドラゴン、ドラゴンとつぶやきながら歩き回る商業ギルドの職員が居るという噂を聞いたが、俺とは関係ないと信じたい。


 しばらくベティさんには近づかないようにしようと思う。


「はい、よろしくお願いします」


 俺の言葉にフィオリーナが元気に返事をしてくれる。


 今までの訓練も真面目に取り組んでいたが、大好きな本職に関わる訓練は興味が段違いなのか表情がとても明るい。


 それに、この二週間でフィオリーナの警戒心も随分と薄れたと思う。訓練で二人きりの時間が増えたし、その間は紳士であることを意識して行動していたので、安全な人程度の信頼を寄せてくれるようになった。


「じゃあ、また迷宮に入るよ」


 建築関係の訓練だし、ラフバードが居る草原でいいな。あと、ノモスも召喚しておくか。



「さて、俺は建築には詳しくないから、まずは建築に必要そうな方法から教えていくね」


 草原に到着し、さっそく講義を始める。


「はい、よろしくお願いします」


「地盤の固さは建築に重要だよね?」


 建築は素人なので、自信がなくて疑問文になってしまう。もっと師匠らしく自信がある態度を取らないとフィオリーナが不安になるな。


「はい、軟弱な地盤では大型の建物は建てられませんし、地盤調査は必ず行います」


 良かった、的外れなことを言っていたら、最初から講義プランが破綻するところだった。


「ならまずは、その地盤の固さの基準を決めることにしようか」


「基準ですか?」


「そう、弱くて小屋程度しか建てられない地盤、普通の民家なら建てられる地盤、大きめの商店なら建てられる地盤、貴族などの豪邸が建てられる地盤、それらをテクトに覚えてもらえば、あとは現地でテクトに地面を調べてもらえばおおまかな判断ができるようになるよね」


「なるほど、テクトにお願いするだけで地盤の固さが分かるようになるのなら、時間も費用もかなりの短縮になります。あの、お師匠様、民家ですが、一階建て、二階建てと細分化しても構いませんか?」


 一階建てと二階建てか、そこまで判別する必要があるんだな。まあ、その辺りの建物は建てる機会も多そうだから、できるのならやっておいた方が良さげだな。


「無論構わないよ。じゃあまずは軟弱な地盤の特徴を覚えようか。フィオリーナ、テクトに軟弱な地盤の特徴を教えて、それを再現してもらって」


「なるほど、再現することで認識のズレを防ぎ覚えやすくするのですね。分かりました」


 どんなのが軟弱な地盤なのか知らなかったから丸投げしただけなんだけどね。とりあえず自信ありげに頷いておこう。


 フィオリーナがテクトの気配に向かって説明を始める。


「あ、フィオリーナ、難しい言葉は精霊が混乱するから、分かりやすい表現、子供でも分かるような感じで説明してくれ」


 そうじゃないとテクトの頭が沸騰して湯気が出てしまうし、俺も助かる。専門用語は特に駄目だよ。粘性土とか砂質土とか言われてもちんぷんかんぷんだ。


「分かりました」


 改めてフィオリーナがテクトに向かって優しく説明を始める。


 へー、なるほど、水気を含んだ粘土層は地盤が弱いのか。たしかに水分が多いと柔らかそうだよな。


 フィオリーナから指示をされながら、テクトが次々に土を生み出していく。


「だいたいこの辺りが軟弱とされる地盤の特徴ですね。テクト、覚えられたなら私の右手に、疑問があるなら左手にお願いします」


 テクトがフンフンと頷きながらフィオリーナの右手に移動する。トゥルも一緒に移動しているのは、まあ、良いとして、他の子達は一緒に移動したら駄目だよ。分かっていないし、フィオリーナが混乱するでしょ。


「ふむ、あの娘御の知識はまだまだ浅いが、それでもそれなりに勉強しておるようだな。感心じゃ」


 ノモスが感心しているのがちょっと面白いが、土の大精霊であるノモスが感心する程度の知識を持っているフィオリーナさんも凄いな。


 ノモスが感心するだけあって、フィオリーナは次々とテクトに指示を出し、覚えておくべき地盤の特徴をもった土を作り出す。


 この様子だと直ぐに地盤に関しては問題がなくなりそうだな。


 この話題で後二回から三回くらい講義を引き延ばすつもりだったんだけど……しかたがない、今日は地盤とその改良で終わりにして、明日までに次の講義の内容を絞り出すことにしよう。


 あ、もうすぐ地盤に関しての指示が終わりそうな気配。まだ終わる時間よりも早いのに……戦闘訓練に移行するか。


 戦いの勘を忘れないためにも、戦闘の訓練も必要だと言えば真面目なフィオリーナは納得してくれるだろう。


 時間稼ぎをしている間にノモスと相談だな。




 ***




「これである程度の地盤はなんとかなるかな?」


 建築に役立つ精霊術を学び始めて二日、前日は地盤の状態を確かめる方法を学び、今日はその地盤を改良する方法を教えることにした。ノモスが。


 基本、俺は通訳だけしていたのだが、フィオリーナが偶に俺を尊敬の目で見るようになった。


 全部ノモスの知識だから気まずいのだけど、まあ、楽園に連れていくことになったら理解するだろう。それに、通訳だって立派なお仕事だ。


「はい、テクトの協力があれば、これまで手間をかけていた基礎工事が随分と短縮できそうです」


 フィオリーナ、大喜びだな。


 それにしても、興味がある分野だからか、フィオリーナの知識の吸収スピードがエグイ。地盤の改良で数日持たせる気だったのだが、一日で地盤改良についてのほとんどの知識を吸いつくされてしまった。


 次は建材の加工……いや、簡単な建材を作る方法を教えるかな? 浮遊精霊のテクトでは生み出すことはできなくとも、時間を掛ければ地中の成分を利用し石やレンガ程度なら作ることができる。


 攻撃の魔法だと土は最終的にボロボロになってしまうが、時間を掛ければなんとかなるというのは結構盲点だったよね。


 最初にそれを知っていればいくつかの岩山は消滅せずに済んだかもしれない。まあそうなると開拓ツールの出番も消滅してしまうんだけど……開拓ツール、かなりチートなはずなのにね……。


 おっと、いまはフィオリーナの方に集中しないとな。レンガ等の作成だが、それが建築家に必要? 買えばいいじゃんと思わなくもない。でも、建築家は芸術的な側面もあるから自分好みの建材を作成、加工できるのは嬉しいだろう。たぶん。


 これでそれなりに講師としてのメンツは保てるかな?


本日3/11日、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第73話が公開されました。

マリーさんとの交渉、裕太のギルマスに対する感情など、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
だんだんと精霊と仲良くなる弟子の姿、何回みても大好きです 建物を完成させる前に、是非聖域をその目でみてイメージを深めてくれたらいいなと思います
初期の頃の弟子たちに精霊との対話を教えていた頃を思い出しました。当時はユータも強敵相手に精霊の鎧を纏って激闘を繰り広げていたのが昨日のようです。たまには精霊の鎧を纏っていた頃のアンタッチャブルユータが…
ファイヤーにグリーン、ライトにダークとドラゴン肉の踊り食いだーっ!>ポイズンは除く ベティーさんのほっぺたが落ちちゃわないか心配ですな
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