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七百十九話 フィオリーナ育成開始

 フィオリーナに精霊術の実演を見せて色々と話すと、トントン拍子で話が進みフィオリーナの弟子入りが決定した。警戒を少しでも薄める計画だったのだが、想像以上の好結果を引き寄せることができた。その後、訓練に関する打ち合わせをして、準備期間を経てフィオリーナを迎えに行く。




「……凄い、本当に飛んでる……」


 空に浮かび最初はワタワタしていたフィオリーナだが、キッカがたどたどしくも丁寧に説明したことで落ち着きを取り戻す。


 さすがに幼女が平気で説明しているのに、自分があたふたしている訳にはいかないと思ったのだろう。


 そして飛ぶことに慣れて姿勢が安定すると、景色が目に入ってくる。


 あまり発展していないがゆえに、雄大な自然が眼下に広がり、その光景は飛び慣れている俺でも綺麗だと思うのだから、フィオリーナが感動するのも無理はないだろう。



 迷宮都市が見えてきて、人気がない場所に降りていく。


 隣でフィオリーナがもう終わりなんですねとつぶやく声が聞こえた。


「これからしばらく迷宮都市と村の往復だから、何度もこの光景を見られるよ」


「ああ、そうでしたね。この時間が終わるのを残念に思いましたが、この光景が毎日見られると思うと凄く楽しみになりました」


 感動的な光景と短時間で村から迷宮都市に到着したことで、通勤の不安も薄れたのだろう。かなり表情が明るくなった。


 迷宮都市に入り、豪腕トルクの宿屋に向かう。



「裕太が先に一部屋確保しておいてくれなんて言うから、誰を連れてくるのかと思ったら。こんな美人を連れてくるなんて隅に置けないね。というか裕太の周囲は美人ばかりじゃないかい? あんたは甲斐性があるから構わないけど、あんまり女を泣かすんじゃないよ」


 宿に入りマーサさんがカウンターに座っていたので、これからお世話になるフィオリーナを紹介したのだが、第一声がそれなのはどうかと思いますよ。


 だいたい、俺の周りに美人が多いのは認めるが、何一つ進展がないどころか、一部は俺の方から恋愛関係にはならないようにしているくらいだ。主に守銭奴。


 お金関係なく俺と関係を持ってくれるのはサキュバスのお姉さん方くらいだ。まあお姉さん達はお金目的じゃなくて俺の生命力や精力が目的なんだけどね。


 シレっとハーレム展開に重要な情報が手に入ってしまったが、それ以前の問題の俺には無駄な情報でしかないな。


「マーサさん、この女性はフィオリーナ、恋人でもなんでもなく弟子です。というか、恋人すらいません」


「そうなのかい? まあ、裕太の弟子なら一人前に成れるだろうから頑張りな。あと、裕太、恋人がいないことを自信満々に言うんじゃないよ。情けないからね」


 ごもっともです。


 一度部屋に戻り、少し休憩して全員が俺の部屋に集まる。


「えーっと、今晩は個室を取ってあるからフィオリーナの歓迎会も兼ねて食事会をするよ。本格的に動くのは明日からだね」


 今日来るのは分かっていたから、部屋と同時に個室も予約し、トルクさんに料理もお願いしてある。準備は万端だ。ちゃんとメルも呼んであるので、フィオリーナも安心だろう。


 本来なら少し時間もあるし、精霊術師について説明しても良いのだが、フィオリーナはまだ精霊と契約をしていないので、詳しい話は後回しにする。


 言葉は悪いが、精霊と契約していればペナルティが設定できるようになるから、詳しい話はそれからだ。


 メルでさえメラルに色々と条件を付けたのだから、さすがに無警戒で色々と教える訳にはいかないよね。


 特にフィオリーナは別行動も多くなるから慎重に行動しないと、俺だけではなくフィオリーナにも悪影響を及ぼしかねない。


 今日は仲間内で親睦を深める時間にしよう。



「お、美味しいです……王都でも見たことがない料理が沢山あります。もしかして、王侯貴族の皆様が食べるような料理なのでは?」


 トルクさん渾身の料理を食べて、呆然とつぶやくフィオリーナ。


 その呆然としている隙にベル達がテーブルのご馳走をコッソリかっさらっているのが面白い。


 ベル達って身内以外の食事会の時は、完全にゲームにしているよね。


 食事中に遊ぶのはお行儀が悪いのだが、だからといって料理を食べさせないのは可哀想なのでこの遊びは黙認している。


「ふふ、フィオリーナさん、これらの料理は王侯貴族の皆様の食事ではありませんよ。ここに並んでいる料理のほとんどはお師匠様のアイデアをトルクさんに伝えて出来上がった料理です。新たな迷宮都市の名物になっているんですよ」


 俺のアイデアではなく、地球の料理のパクリなんだけどね。


「こ、こんなに美味しい料理をお師匠様が? そういえば最近王都で流行り始めた料理もいくつか……これも迷宮都市から伝わってきた料理だったんですね」


 なんかフィオリーナから尊敬の目で見られている。予想外のところから尊敬を勝ち取ってしまった。


 パクリだから罪悪感がないこともないが、それはこの際置いておこう。フィオリーナのように難しいタイプの女性からの尊敬は貴重だ。


 地球の料理と、それを再現してくれたトルクさんに感謝をし、名声のおこぼれに与ったと思っておこう。



 歓迎会は無事、というか、かなりの成果を残して終了した。


 フィオリーナが意外と食いしん坊というか、受けたストレスを美食で発散するタイプだと分かったのは大きな収穫だろう。


 これからしばらく、仕事と訓練の両立で大変だから、ストレスがヤバそうになったら美食で誤魔化すことにしよう。




 ***




「じゃあ、まずはレベル上げから始める。フィオリーナ、心の準備はいい?」


「よくはないです」


「え?」


 まさかの反撃。


 昨日の歓迎会でもいい感じで警戒心が解けていたし、今朝と夕方の送り迎えも、二人きりということで最初は警戒されたが、誠実な対応が功を奏したのか警戒は薄れて空の移動を楽しんでくれたと思っていた。


 だから安心して、身軽さを優先したのが裏目に出てしまったか? さすがに迷宮に二人きりというのはハードルが高かったか?


「その、さすがに魔物と戦うのに、このローブ一枚と短剣一本というのは……いえ、お貸しいただいた装備が質の良い物だというのは理解しています。ですが、私は本当に素人ですよ?」


 なるほど、装備の面で不安だったのか。


 迷宮産の質が良い装備を渡したけど、ガチガチに固めた感じではないもんね。


 でもしょうがないんだよ。素人にいきなり大きな刃物を持たせる訳にはいかないし、防具は……サイズがね……その母性を無理なく収める装備を、俺は布製品でしか所持していなかったんだ。


「素人なのは分かっているからしっかり準備してあるよ。その装備を心もとなく感じているかもしれないけど、中で行動する間はその装備に加えて、精霊術で結界を張るんだ。攻撃される危険はほとんどないけど、万が一攻撃された時も防具ではなく結界が防ぐから安心していい」


 馬鹿正直にサイズ問題を教える訳にもいかないので、真っ当な理由を説明する。


 こういう時は師匠として堂々としているのが弟子の安心に繋がるというのは、ジーナ達の時に学習済みだ。


「なるほど、お師匠様は精霊術師でしたね。凄い前衛職の装備を身にまとっていらしたので忘れていました」


 そういえば、今日はキンキラ装備ではないが、迷宮産の上質な近接装備を身に着けていたな。


 ただ、これはフィオリーナの為でもあるんだぞ。美女とひ弱な術者のセットとか、絡んでくださいと言っているようなものだ。


 その印象を装備で補っているんだから、感謝してほしいくらいだ。まあ、俺のことを知っていれば、大抵俺を見て逃げていくんだけどね。


 王都ではまだ顔が売れていなかったが、迷宮都市では結構活動しているのでしっかり認識されていて、若干危険人物扱いされている。


 現に迷宮に入る前にフィオリーナの冒険者登録に行ったのだが、ギルドに入りフィオリーナに注目が集まり、隣に俺が居るのを知ると一斉に目を逸らされた。


 まあ、リシュリーさんが居て、にこやかに対応してくれたから、フィオリーナは周囲の雰囲気をそのようなものなのだと認識したみたいだけどね。


「納得してくれたなら入ろうか」


 その真実を新弟子に伝えるのは悲しいので話を先に進める。


 ちなみに、リシュリーさんにはコッソリとベティさんの件で文句を言われた。ベティさん、異常にダイエットに前向きになり、予定以上の運動をして困っているのだそうだ。なんか申し訳ない。


 ベティさんを焚きつけたことを少し後悔しながらフィオリーナと一緒に迷宮に入る。


「裕太、ルート上に冒険者はいないわ。行く?」


 シルフィが迷宮内を確認してくれる。


 本来なら初心者のフィオリーナの為に順番に迷宮を攻略していくのが良いのだろうが、何しろお仕事後なのでその時間的余裕がない。


「フィオリーナ、じゃあ予定通り浅い層は飛んで短縮するから、あらかじめ教えた通り気をしっかり持つか、怖かったら目をつむっているようにね」


「は、はい」


 迷宮に入る前にどういう行動をするのかある程度教えていたが、結構怖いことも伝えていたので緊張しているようだ。


 俺も最初はかなり怖かったから、思う存分悲鳴を上げて大丈夫だ。音はシルフィが遮断してくれることになっている。


「じゃあ行くよ」


 フィオリーナに声をかけて、シルフィに目線で合図を送る。


「う、う、う、きゃぁぁぁぁぁー」


 フィオリーナがF1のスタートみたいな悲鳴を上げる。シルフィが音を遮断していなければ、多くの冒険者や魔物がドップラー効果を実感できただろう。


 休むことなく一気に先に進み、この迷宮の最初のボス部屋に到着する。


「こ、ここがボス部屋ですか」


「うん、最初はゴブリンだし、こっちでも手を打つから緊張しなくていいよ」


「は、はい」


 俺の言葉で緊張は解せなかったようだが、俺の育成システムはレベルを上げるということだけに限れば完璧なので問題ない。


 というわけでドリー召喚。


 いきなり現れた気配にフィオリーナがビクッとするが、詳しく話すのはフィオリーナが精霊と契約した後なので少し待ってね。


 シルフィがドリーに説明してくれて、敵のゴブリン達が植物の蔓に絡めとられて身動きできなくなる。


「じゃあ、フィオリーナ、あのゴブリン達の止めを刺して。その短剣で喉を突けば簡単だからね」


 最初キッカを育成した方法だから、短剣を突くことさえできれば誰でもレベルが上げられる。


 今日はサクッと先に進んで、オークやトロルを惨殺して終わりかな? 明日か明後日には精霊と契約できるだろう。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
この人がもし楽園に行くほどの弟子になってお嫁さんフラグ立ちそうな頃にジーナに師匠取られたくないって猛アタックされて欲しい
現代日本と価値観が違うだろうから、 魔物殺すことにそこまで抵抗ないのかな?
周囲は美人ばかり…… そうだっけ? 全員頭に残念が付きそうなのは置いとくとしても、人数もそんなに居るかな? 精霊は見えないはずだし
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