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七百十四話 時間を置こうかと思ったが……

 テントの注文を終え、メルの工房に顔を出す。鍛冶師長のドルゲムさんは王宮に連れ戻され、三人の雑用も不在だったので、ちょうどいいとメル達に輪切り手形に手形を押してもらう。その仕上げの時にメルとフィオリーナさんに繋がりがあることを知り、フィオリーナさんの警戒心の高さの原因を知る。




「なるほど、俺が聞いている以前から色々あったんだね」


 枕営業か……正義感ぶる訳ではないが、フィオリーナさんの場合はフィオリーナさんが一方的に損をする要求だ。


 フィオリーナさんからすれば、不利だと分かっていても飛び込んだ建築業界、実力で生きていこうと考えていたのだろう。


 だから、フィオリーナさんは当然そんな要求を断る。


 断られた側は欲望マックスだから、なんとかフィオリーナさんを手に入れようと嫌がらせがエスカレートして今になった感じなのだろう。


 そして最後には貴族倶楽部的な集まりの生贄候補……男に警戒するのも当然だ。


 まあ、仕事関係にそれを持ち込まれても困るという思いもあるが、仕事関係から要求されているから切り離せない問題でもある。


 俺も大きな仕事を頼んだんだから、分かっているんだろうな? 的な要求をすると思われていたのかもしれない。信頼関係も何もなく、いきなり大きな仕事を振っちゃったもんな。


 それにしても枕営業か。


 日本でも噂を聞いたことがあるが、異世界でも同じような話を聞くことになるとは……同じ男として情けなく思うが、フィオリーナさんはなんというか、色々と凄いから色香に迷う気持ちも分からなくはない。


 最低のことだというのは間違いないんだけどね。でも、気持ちは分からなくもない。本当に分からなくはない。


 フィオリーナさんの美貌が控えめだったり、もしくはその美貌を活かして男を手玉に取れる性格だったりなら生きやすかったのかもしれないが、性格的に苦労の方が多いようだ。


 美人薄命って、フィオリーナさんのような目に遭う人が多かったから生まれた言葉かもしれないな。男の業の深さが垣間見えて申し訳なくなる。


 特に俺なんて欲望の為に国をまたいで大人の遊びに行っちゃっているから、エロい雰囲気がにじみ出てしまっている可能性もある。


 気を付けないと。といっても、どう気を付ければいいか分からないのだけどね。遊びに行かないのは無理だ。


「うーん、時間を掛けて信頼関係を築いていくしかないということかな?」


「そうですね。お師匠様は優しいですから、時間が経てばお師匠様の素晴らしさをフィオリーナさんもきっと理解してくれると思います」


 止めて、そんな尊敬する人を見るような目で俺を見ないで。普通に薄汚れた人間だから。


 フィオリーナさんの美貌とその他諸々に引き付けられたけど、ベル達やジーナ達の目を気にしてだらしない顔をしなかっただけだから。


 メルは俺が色々と手助けしたからか、結構尊敬してくれているんだよね。自分がたいした人間ではないことを自覚しているから、そういう視線はプレッシャーにしかならない。


「あはは、ありがとう……」


 でも、否定もできない。俺はベル達や弟子達の前では見栄を張らずにはいられない人間なんだ。


 それにしてもフィオリーナさんの警戒を解くのはかなり難しそうだな。


 ああいう目立つ人が精霊術師として活躍してくれると、地球で言うところのインフルエンサーみたいな存在になって精霊術師の評判が凄く上がりそうなんだけどね。


 やはり憧れの人の影響力は強い。


 ……時間を掛けてでもなんとか警戒心を解いて、どうにかこうにか精霊術師にしてしまおう。


 建築家だったら土の精霊や植物関係の精霊と相性が良さそうだし、その辺りから攻めるのも良いかもしれない。


 先程も思ったが、不利だと分かっていても建築業界に飛び込んだんだ。そして嫌がらせをされても諦めずに頑張っている。


 その情熱があれば、建築に役に立つ精霊術を知れば食いついてくるはずだ。


 ……よし、しばらくフィオリーナさんには近づかないつもりだったが、頻繁に顔を見せに行って、できる限り精霊術の有効性をアピールすることにしよう。


「メル、今度メルの時間がある時に、一緒にフィオリーナさんに会いに工事現場に付き合ってくれない?」 


 とりあえず、話ができないとどうしようもないから、緩衝材になる存在が必要だ。前回はマリーさんがその役割だったが、マリーさんは雇い主……は俺だから、その代理みたいな存在なので、警戒を解く効果は薄いだろう。


 そこでメルの登場だ。


 どれほどの関係かは知らないが、それなりに愚痴のような話も聞いているようだし、力になってくれると思う。


「是非、私も久しぶりにフィオリーナさんに会いたいです」


 メルが乗り気なのは助かる。


「ありがとう。それはまだ数日滞在する予定だから、メルが空いている日があったら教えてくれ」


「空いている日ですか? 私は別にいつでも構いませんよ?」


「……仕事は?」


 いつでも大丈夫と言われると、とても不安なんですけど?


「あはは、ダマスカス関連の依頼が多いので、実はポルリウス商会の方達に頼んでお仕事の管理をしてもらっているんです」


「それって大丈夫なの?」


 色々な意味で心配なのだが?


「名前が広まったので、普通のお仕事も増えました。それを無理のない範囲で調整して受けてくれているので、休日を取る余裕が結構あるんです」


 それは勝ち組の生活なのでは? メルも成長したものだ。


「ならお願いね。明日か明後日、どちらでもいいのだけど、どっちがいい?」


「そうですね、細々としたお仕事を終わらせてからの方が気持ちよく休めるので、お師匠様に問題が無ければ明後日でお願いします」


 明後日か。心置きなく休日を迎えたいという気持ちはとても理解できる。


 それなら俺は明日は迷宮のコアに廃棄予定物資を届けに行くことにしよう。


 スギを板に加工した時の枝なんかの端材もちゃんと持ってきているから、少しは足しになるはずだ。


 あと、メルの塗料の補充とハンモックと囲炉裏、あとトーチの注文もしたい。そういえばハンモックに直接寝るよりも布を敷いている動画が多かったな。


 ハンモックに敷く布も用意したい。


 敷布か……これもエンペラーバードの毛皮は落選だな。あのモフモフは最高なのだが、敷布にすると確実に暑い。


 そういえばシーサーペントの皮がツルツルして心地よさそうだったな。ソニアさんに頼んでシーサーペントの皮で敷布を作ってもらおう。




 ***




 今日、いよいよフィオリーナさんに会いに行く。


 別に恋心という訳でもないのに、凄くドキドキしている。


 大丈夫だ。この日の為にしっかり準備してきた。


 ソニアさんにハンモックとそれに敷く布をシーサーペントでお願いしたら、それでテントを作れよと突っ込まれたり、コアにお土産を持って行ったらことのほか喜ばれ、もしかしたらライトドラゴンやダークドラゴンを狩る可能性があることを伝え損ねたり……本当に色々あった。


 あと、宿に戻ればトルクさんにダイエットに関して色々と質問されたり、ジーナのお母さん、ダニエラさんのダイエット計画が本格的に動きだしたりと……思い返すと本当に色々あって密度の濃い二日間だった。


「お師匠様、お待たせしました」


 迷宮都市の門で待ち合わせしていると、メルが早足でやってきた。


「俺達も今来たところだから気にしなくていいよ」


 デートの時の定番のやり取りではなく、俺達が到着して三分も経っていないし、待ち合わせの時間より結構早いのでなんの問題もない。


「シルフィ、お願いね」


 全員で門から出て、人目のないところでシルフィにお願いすると体がふわりと浮き上がる。


 今回は迷宮都市からの出発だが、たぶん王都から馬車で村に行くよりも早く到着すると思う。空を飛べるって本当にすごいよね。


 まあ、欲を言えば異世界物のテンプレチートな、転移魔法なんかがあったらもっと楽だったのだが、それは望み過ぎだと思っている。


 シルフィに聞いたら、時間とか空間の大精霊だよって、あっさり連れてきそうなんだもん。これ以上のチートは身を亡ぼす気がするから、ちゃんと自粛しないとね。転移とかできたら毎日夜の街に遊びに行きそうだ。



 空の旅はあっという間に時間が過ぎて目的の村に直ぐに到着した。


 メルが久しぶりの空の旅で、ジーナ達と楽しそうに戯れていて、それに見えないのにベル達が突撃して、メラルとメリルセリオも混ざる。


 そんな光景を見ているとホッコリして、退屈を感じる暇すらなかった。


「ありがとうシルフィ」


 村の近くの人目がない場所に着陸し、シルフィにお礼を言うと、それに続いてメンバー全員がちゃんとシルフィにお礼を言う。


 それほどしっかり教育した覚えはないのだが、みんなちゃんとお礼が言えて、その成長にも感動する。


「あ、あんたらこの前に来た……えー、いらっしゃいませ。ほほ、本日はどのような御用でしょう?」


 前回も立っていた門番が俺達に気が付き挙動不審になる。


 俺達が悪い人間ではないと知っているはずだが、ガラの悪い男達を一瞬で気絶させて連行したことも知っているから、緊張は仕方がないだろう。


 門番といってもそれほど強そうに見えないから、多少戦える人が門番をやっている、そんな感じなので無理はしないでほしい。


「工事現場に差し入れを持ってきました。入っても良いですか?」


「は、はい、どうぞお通りください。あ、ラフバード、村長が村人全員に配ってくれて、とても美味しかったです。ありがとうございます」


 差し入れのラフバードを村長は全員に配ったのか。


 穏やかで信用のおけそうな雰囲気の人だったけど、そのとおりなのかもしれないな。


 軽く頭を下げて村の中に入る。


 村長への挨拶はどうしよう? 村を訪問するたびに挨拶するのも少し違う気がするが……長期工事をお願いしているのだから顔を見せるくらいしておいた方が良いだろう。


 村長の家は……シルフィに聞けばいいか。



 村長に挨拶をすると大歓迎された。工事現場に人が増えたことで、村の経済に貢献できているらしい。


 今回もラフバードを提供しようとすると、さすがに貰い過ぎだと遠慮されてしまった。


 みんな喜んでくれていたみたいだし、時間を置いて提供することにしよう。


 村を通り抜けて奥の畑も抜ける。今回は精霊術師講習のお爺さんは不在のようだ。


 いよいよ工事現場だな。どうなることか……。


1/14日、本日、コミックブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第71話が公開されました。

マルコのカッコいいところや、新たな登場人物など盛りだくさんですので、お楽しみいただけましたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
>シーサーペントの皮がツルツルして心地よさそうだったな。 皮革素材はどちらにしても通気性が無いので、涼しくは出来ないと思います。 通気性の無い素材として、ビニール袋を体に巻いてみると実感できるかと。
フィオリーナさんが楽園にきてくれたら開拓が華やかに発展しそうで良いですねー コミックスの絵柄も可愛すぎで、たむたむさんの文章の雰囲気との相性が抜群で無限に眺めていられます。 ここまで安定して長期連載…
そうだ裕太気をつけろ。枕営業(既成事実)を断られた側(マリーとソニア)は欲望マックスだ。
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