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六十九話 宝箱

 ベルとレインが大興奮で自分の発見を伝えて来た。ベルとレインに連れられて向かった先に有ったのは木のうろに隠された、金色でピカピカのゴージャスな宝箱だった。

 

「ベル。レイン。そろそろ宝箱を開けるよ。戻っておいでー」


 褒めまくったらテンションが上がって飛び回っていたベルとレインを呼び戻す。自分が見つけた宝箱の事を思い出したのかビュンっと飛んで戻って来た。


「それで、シルフィ。この宝箱って罠は無い?」


 迷宮の宝箱には罠が基本だよね。罠関連のスキルが無いから、罠があったらこまる。


「うーん。密閉されているから分からないわ。鍵穴かぎあなも独立しているから中が覗けないの」


「そうなんだ。トゥルは何か分からない?」


「わかるとおもう」


「おお。じゃあちょっと調べてみて」


 コクンと頷き宝箱に手を触れて目をつむるトゥル。金属は加工してあっても良く分かるのかな?


「わなはないみたい。かぎもはずせる」


「トゥル。ありがとう。じゃあ、かぎを開けてくれ」


 トゥルはコクコクと頷いた後に再び宝箱に手を触れて目を瞑る。金属に干渉出来る土の精霊なら、金属でできた鍵なら大体開けられるんじゃ……。


 ほとんどの人に気配を察知される事も無く、鍵も自由自在に開けられる。大怪盗の素質があるな……あっ。物を持ち出すのに苦労するから無理があるか。ホッとしたような残念なような。一瞬、ギルマスの財産を根こそぎ……。いや。精霊達に悪さをさせられないよね。精霊王とかに滅茶苦茶怒られそうだ。


「あいた」


「ありがとうトゥル」


 お礼を言って頭を撫でる。目を細めてちょっと嬉しそうに笑うトゥル。ふむ。俺のナデナデテクニックでは相変わらずトゥルをデレデレには出来ないみたいだ。トゥルはタマモをモフっている時が一番表情が輝くからな。


 よし。そろそろ宝箱を開けるか。ドキドキしながら宝箱のふたに手を掛ける。シルフィもベルもレインもトゥルも興味津々で覗いている。……ちょっと待って。タマモがいないのは可哀想な気がする。せっかくの初宝箱なんだし皆で開けたい。


「みんなちょっと待って。シルフィ。タマモが何処に居るか分かる? どうせなら皆で宝箱を開けたいんだ」


「ふふ。それもそうね。ちょっと見てみるわ。……うーん。頑張って採取をしているみたいよ」


「それだと、召喚するのは不味いよね。シルフィ。迎えに行ってくれる?」


 頑張って採取した物を全部置いて召喚とか心が痛む。


「ええ。ちょっと行ってくるわね」


 シルフィを見送り、戻って来るまで木の枝に座りベル達と話す。


「ねえ、ベル。レイン。どうやってこんな場所にある宝箱を見つけたの?」


「いっぱいさがしたー」


 ……そうか。いっぱい探したのか。特別な方法は使っていないらしい。それでよくこんな所にある宝箱を発見出来たな。


 ベル達と話していると、シルフィとタマモが戻って来た。飛び付いて来たタマモはクークー言いながらスリスリペロペロしてくる。可愛い。


「タマモは何かを採取してたんだよね。良いもの取れた?」


「クーククー」


 俺の言葉に興奮して何かを訴えて来るタマモ。残念だけど、まったく分からない。


「ふふ。タマモは頑張って、薬草を集めていたわ。良い薬草が沢山よ流石森の精霊ね」


「そうなのか。ありがとうタマモ」


 めいいっぱいタマモをモフると。目の前に一抱えもあるほどの葉っぱが浮かべられた。


「これがタマモが取って来た薬草?」


 タマモがコクコクと頷きながら尻尾をブンブンしている。もう一回モフりたくなる気持ちを抑えて、薬草を確認する。……薬草の種類なんて分からないよね。


「それは凝縮ぎょうしゅくされた魔力が葉に宿った魔力草。これは最上級の万能薬の原料になる万能草。ふふ。流石迷宮って所ね。地上だととっても希少な物よ」


「おお。タマモは凄い薬草を沢山取って来てくれたんだね。ありがとう」


 我慢していた欲望を解放して、タマモを褒めながらモフりまくる。これぐらいは許されるだろう。いつの間にかトゥルが後ろに並んでいる。順番待ちなんだな。



 ***



「……さて。宝箱を開けようか」


 ついつい夢中になって、乱入して来たベル達も含めて夢中でたわむれてしまった。


「別に構わないんだけど、魔物の接近に気が付かないのはどうかと思うわよ?」


 まあ、シルフィがゴブリンを倒した音で正気に戻ったというか、しょうがなかったというか。


「ごめんなさい」


 取り合えず謝っておこう。


「気を付けてね。あとゴブリンが集まって来る可能性があるから、さっさと宝箱を開けちゃいましょう」


「そうだね。じゃあ宝箱を開けよう」


 いい加減宝箱を開けないと。宝箱も見つかってからこんなに放置されるとは思ってなかっただろうな。改めて宝箱に向かい合う。……とってもゴージャスだ。


 俺が宝箱をに手を触れると今度はタマモも加わって、全員で宝箱を覗き込む。ドキドキしながら宝箱を開くと中には革のかばんが……あれ? 金銀財宝は?


「あら。魔法の鞄じゃない。良いものが出て来たわね」


 ああ、魔法の鞄なんだ。


「魔法の鞄はもう持ってるから、ちょっと残念だったかも」


「あらそう? 裕太の魔法の鞄は使い辛いから、丁度良いと思うわよ。換金する物をこの魔法の鞄に入れれば誤魔化せるもの。そのまま換金してたら怪しまれてたわよ」


 それもそうだな。普通に出すと時間停止だから死にたてホヤホヤの死骸を出す事になる。一応倉庫でも借りて魔物の死骸を寝かしてからって考えていたけど、その必要が無くなるのなら相当役に立つな。


「なるほど。そう考えるとかなり良い物が手に入ったね。この鞄の機能はどうなんだろう?」


「鑑定してもらうか自分で確かめるかね。流石に時間停止は無いと思うけど、機能が良かったら騒ぎの元になるから自分で確かめた方が良いわ」


 この魔法の鞄でも騒ぎが起こる可能性があるのか。こんな分かり辛い所に隠されていた、金ピカでゴージャスな宝箱から出て来た鞄だから、性能は高そうだ。


「そうだね。寝る前にでも実験してみるよ。じゃあそれまでもう少し採取を頑張ろうか。みんなよろしくね」


 俺とトゥルはミスリルの採掘。シルフィは俺の護衛。ベルとレインは宝探し。タマモは薬草摘みとそれぞれ別行動で山岳地帯に散って行く。



 ***



「うはーー」


 迷宮も自然があって広いんだけど、外に出ると気分が違うね。ひたすら五十六層から五十九層までを採取しまくって迷宮から出て来た。


 貴重な薬草も山ほど手に入り、ミスリルの鉱脈も掘りつくした。ベル達はあの後も各階で一つずつ宝箱を発見して、念願の金銀財宝もゲットした。かなりの大成果だと思う。


 金銀財宝は普通の宝箱に入っていたから、魔法の鞄のゴージャスな宝箱はレアなんだろうな。なんかガチャみたいなシステムなのかもしれない。迷宮の奥に進めば虹色の宝箱とか出て来るかもな。


 魔法の鞄も実験の結果けっこう良い物だと判明した。時間関係の機能は付いていなかったが、収納量はアサルトドラゴン四体分。


 三階建てのビル程もあるアサルトドラゴンが四体……結構な収納量で商人にとっては垂涎すいぜんの機能だそうだ。大商人クラスなら持っている人もいる程度のレアさで、使い勝手がよさそうだ。


 迷宮から出て気持ち良く背伸びをする俺に、投げかけられる侮蔑ぶべつの視線。相変わらず嫌われているらしい。十日も経っていないのに、そんなに評価が変わる訳ないか。ぼそっと生きてやがったのか、とか聞こえるけど今は気にしない。顔はしっかり覚えたから後で泣かしてやる。


「裕太。これからどうするの?」


(流石に疲れたから、今日はもう宿で休むよ。明日からはベッドの受け取りとか、雑貨屋に行ったりとか、周辺の村巡りとか色々やる事があるからね。あっ、あとお酒もたっぷり買うから安心してね)


 シルフィの顔に笑みが浮かぶ。ヤバかったな。すっかり忘れてたよ。ちゃんとお酒も買い占めておかないと。


「そう、楽しみね。そう言えば精霊術師を育てるのはどうするつもりなの?」


 そう言えばその事もあったな。


(それも宿でしっかり考えるよ)


「分かったわ」


 偶に会う冒険者に侮蔑の視線で見られながら宿に向かう。こうも印象が悪いと逆にやる気が出る。


「生きてたんだね!」


 宿に入ると、マーサさんにバンバンと背中を叩かれた。レベルが上がっても痛い。何故だ? もしかして防御無視とかのスキルでも持っているのかもしれないな。


「もちろん生きてますよ。ちゃんと数日戻らないって伝えましたよね?」


「ああ、聞いてるよ。でもあんたが死んだってわざわざ知らせに来た奴らが居てね。心配してたんだよ」


 姑息な嫌がらせが、この店まで及んでいるのか。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。何か被害を受けたりはしていませんか?」


「あはは。被害なんてなんにもないさ。豪腕のトルクに喧嘩を売る奴なんて、そうはいないよ。あんたは気にせず普通に過ごしてな」


「ありがとうございます」


 マーサさんって良い人だな。この宿にはどうにかして恩返しをしたい。料理系の知識をこの店で開放するのも良いかも。何かネタを考えておこう。


「それで晩御飯はどうするね?」


「流石に疲れましたので今日はもう寝る事にします。明日の朝食を楽しみにしていますね」


「あいよ。ゆっくりお休み」


 マーサさんと別れ、部屋に戻りベッドに寝転ぶ。砂のベッドはやっぱりベッドじゃ無いよね。


「ふー。さて明日からどう行動しようか。予定ではベッドを受け取ったら死の大地に戻るつもりだったけど、色々やる事が増えたね」


「そうね。お酒を買わないと駄目よね。精霊術師の教育もあるし、今回手に入れた素材も卸すんでしょ? あと森で土の採取も忘れたら駄目よね」


 一番にお酒が出て来る時点で、優先順位がハッキリしているな。忘れてたら恨まれそうだ。思い出して良かった。


「他はともかく精霊術師を育てるのが一番の難題かな。大人は嫌がるだろうし、卑怯だけど孤児を拾って育てるのが無難な気がする。シルフィ。迷宮都市にはスラムはあるの?」


「あるわよ。そこで子供を拾うの?」


「うん。まともな人だと精霊術師を相手にしてくれる雰囲気じゃ無いからね。シルフィ。直ぐに下級精霊と契約出来そうな子供を見つけ出すことは出来る? 二人ぐらい居れば良いんだけど」


 言ってる事が外道な気がするが、孤児にもメリットがあるんだし我慢してもらおう。


「うーん。探すのは問題無いけど、流石に子供だと下級精霊は止めておいた方が良いわ。ある程度意識がハッキリしている浮遊精霊と契約させて、一緒に育てていくのが無難ね」


 力がある方が良い気もするけど、ベル達でもかなり強いからな。そう言えば、ベル達でも一流の魔術師クラスの攻撃力が有るって言ってたな。子供がそこまで強力な力を持ったら暴走が怖い。


「そうなんだ。じゃあその方向で。後はどうやって育てるかだよね。迷宮都市だといじめられそうだし、力が付くまで、死の大地の拠点で訓練してもらった方が良いか?」


「あそこに連れて行くの? 大丈夫かしら?」


「まあ、孤児次第だけど、話したとしても誰も信じないと思うよ。死の大地の奥地が開拓されているなんて。あとはシルフィ、人が増えても死の大地まで飛べる?」


「確かに孤児の言葉では信じられないでしょうね。それと飛ぶのは問題無いわ。数人なら少し到達時間が増えるぐらいよ。でもそうなると……」


 シルフィも納得したみたいなんだけど、最後にボソッと急いだ方が良いかしら? って呟いていた。何を急ぐんだろう?


「じゃあ、孤児は探しておくから、裕太はもう寝なさい。まぶたが落ちて来ているわよ」


「んー。そうだね。みんなお休み」


 ベル達の声を微かに聞きながら、着替えもせずに眠りにつく。結構疲れたな。

読んでくださってありがとうございます。

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