七百六話 制作場所決定
ひらめきと言う名の思いつきでウッドデッキの作成を決意し、精霊や開拓ツールのチートな性能に助けられて順調に作業を進めていく。しかし、板の塗装の段階で新たな思い付きを得てしまう。契約精霊達や弟子達の手形を残したいと……さっそく動き出しちゃうよね。
「次はジーナ達だよ。まず、ジーナ達が手形を押して、その隣に契約精霊が手形を押して行こうか。まずはジーナからお願い」
「分かった。シバ、いくぞ」
ジーナがシバに声をかけると、全力で尻尾を振ってジーナの周囲を走り回る。もう飼い主にジャレついている可愛らしい仔犬にしか見えない……空を飛んでいなければだけどね。
「えっと、これを手に付けて、師匠、このあたりでいいか?」
「うん、そこでいいよ」
「分かった。よし、これでいいな」
サバサバしているタイプのジーナは躊躇わずに手を木に押し付ける。その後、すぐに手を生活魔法で綺麗にしてシバの面倒をみはじめる。
ジーナも自分のことより周りを優先するタイプだけど、地味に可愛い物が好きだよね。
サラ達のことをものすごく可愛がっているし、当然シバ達やベル達、サクラなどの面倒もよく見てくれている。とてもいい子だ。
「シバ、シッポがくすぐったいぞ」
シバを抱っこしてシバの前足に塗料を付けるが、ぶんぶんのシッポがジーナをくすぐっているようだ。楽しそうだな。
ジーナがペタリと手形を押して、その横にシバがワフッと手形を押し付ける。タマモの肉球も可愛らしいが、シバの肉球はさらに小さいからホッコリするな。
次に進み出たのはサラ。
まずはサラがペタリと手形を押し、生活魔法で手を綺麗にする。こうしてみるとジーナはやはり大人の仲間入りをしている年齢なんだな。手の大きさが違う。
そして、俺が若干不安に思っているフクちゃんの番がきた。
フクロウの足は鷹の爪のように湾曲しているから、点々が残る結果になるんじゃないかと……あ、やっぱり。
フクちゃんが足を離すと点々とした塗料の跡が……あ、もう一度足を添えてムギュって押し直した。
え? 確かにちゃんと足形は残ったけど、フクロウの足ってそんな風に広がるの?
……精霊だからということにしておこう。
そしてプルちゃんがサラを挟んで反対側に綺麗な円を作る。サラを両サイドから契約精霊が挟む構図も良いな。
「次はマルコだね」
「ししょう、おれはキッカといっしょがいい」
マルコの思わぬ提案。でも、兄妹の手形が並んでいるスタイルも良いな。その左右をウリとマメちゃんが挟む。OKだ。
「いいよ、それでいこうか」
マルコとキッカがエイっと並んで手形を押す。それを挟むようにウリとマメちゃんが足形を押す。ウリのうり坊の足跡がピースサインのようで可愛い。
足の根元あたりのちょんちょんも良いアクセントだな。なんの意味があるかは分からないけど。
でも、良い感じに仕上がったな。
綺麗に保存するために透明のニスかなんかが欲しい。重ね塗りをして厚塗りにすれば長期保存も可能かな?
ウッドデッキしか考えていなかったから、透明なニス等は購入していない。次の買い物でマリーさんかソニアさんにお願いしよう。
あ、でも、ニスを塗る前にメルとメラルとメリルセリオの手形も欲しいな。三人とも楽園を知る大切な仲間で弟子だからな。そうなるとラエティティアさんもだな。ドンドン板が賑やかになっていく。
「へー、何でこんなことをするのかと思っていたけど、こうしてみると悪くないわね」
シルフィが感心したように褒めてくれる。
「お姉ちゃんもそう思うわー」
その言葉に他の大精霊達も頷いてくれる。分かってくれてとても嬉しい。
ベル達もジーナ達も気に入ってくれたようで、手形を見ながらこれが自分の手だなんだと騒いでいる。
いい感じだ。
あとは少しゆっくりしてお昼ご飯を食べて……頑張ってウッドデッキを作ろう。
***
お昼も終わり、改めて作業を開始する。
ベル達もジーナ達もお手伝いを申し出てくれたが、具体的な場所がまだ決まっていないので遠慮してもらう。
付き合ってもらうのはノモスとドリーだ。
「俺としてはこの精霊樹の前に大きなウッドデッキを作りたいんだよね」
精霊樹の木陰の下にウッドデッキがあり、そこでのんびりコーヒーを飲みながら精霊樹の滑り台や周囲の芝生で遊ぶチビッ子達を見守る、そんなイメージを抱いている。
「ウッドデッキというのは木の板を並べた物ですよね?」
「うん、一段高くして、家の床みたいにする感じ。少し隙間を空けるけどね」
高さも未定で、雨が降らないから隙間も必要ないかとも思うが、基本的なことは押さえておきたいと思っている。木の性質すら理解していないけど。
スギで本当に良かったのだろうか?
名前は忘れちゃったけど、もっと堅そうな木も確保はしてある。見切り発車する前にドリーに聞いておけばよかったかな?
まあ、もう切っちゃったし、スギだって結構堅そうだし、最悪練習ということで……塗装もしちゃっているし……。
あと、デッキの形も迷っている。素直に作りやすい四角とか長方形が無難だと思っているが、円形で精霊樹を囲むようにデッキがつくれればお洒落かなとも思っている。
「そうですか、芝生は移動できるから構いませんよ」
「精霊樹に影響がでない?」
「……そうですね、精霊樹はまだまだ大きくなりますので、離れた場所に作った方が良いでしょう。そうしないとせっかく作ったウッドデッキが壊れることになります」
今でも迷宮でゲットしてきた御神木クラスよりも圧倒的に大きいのだけど……まあ、サクラもまだまだ赤ちゃんだからそうなるのか。
それにしても精霊樹への影響を心配したのだけど、ウッドデッキの方を心配されてしまった。
精霊樹は俺がデッキを作ったくらいでどうにかなるほど弱くないということか。
とりあえず……円形は止めておこう。
「じゃあ、しばらく大丈夫なくらい距離をとって、そこにノモスに土台を作ってもらいたいんだ。ノモスとドリーの目から見て、大丈夫な場所はある?」
細かい要望を二人に伝え、適した場所を選んでもらう。
できることは自分でやりたいと考えているが、水平を取るのは難しいので精霊パワーにお願いするつもりだ。
俺だって縁側程度のウッドデッキなら自分で頑張ったけど、さすがにかなり広めに作る予定のウッドデッキの水平を上手に取れるとは思えない。
板の量的に五十メートルプールくらいの広さが作れそうなんだよね。二十五メートルプールではなく五十メートルプールなところが、自分がやり過ぎたことを自覚させる。
開拓ツールがチートだから、食パンを切るよりも簡単だったのが原因だ。
余裕をもって購入していた塗料が足りなくて、まだ未塗装な板が余っているくらいに切りまくった。
ぶっちゃけ、そんな広範囲のウッドデッキなんて必要ないと途中で思ったが、精霊王様達が来た時なんかの大宴会にも活用できると思い直すことにした。
「ふむ、この辺りなら良いじゃろう」
「そうですね、景色も良いですし風も抜けそうです」
ノモスとドリーが相談して、ウッドデッキに適した場所を選んでくれる。
俺が事前に伝えた細かい要望もしっかり考慮してくれているところが嬉しい。
「裕太、ここで構わんなら地面を固めてしまうが、どうする?」
「うん、お願い」
「では芝生を移動させますね」
ドリーが手を振ると、芝生がもぞもぞと蠢き根っこを動かして移動を始める。これの雑草バージョンを建築現場の一号生のお爺さんがやっているんだな。
芝生の移動が終わると、ノモスが手を振る。表面上はあまり違いがないが、おそらく地面が固まったのだろう。
「それで、台座の高さは七十センチで良いんじゃな?」
「うん、一定間隔で地面に沈まないように、そして等間隔で全部水平になるように、あ、土台の中心に木をはめ込めるように十字のへこみもお願い。この木をはめ込むつもりだから、この太さと厚みを参考にね」
滅茶苦茶ワガママを言っているが、デザインを除けば大精霊であるノモスはそれくらいの要望は軽々と熟してくれる。なんたって大精霊だから。
それを証明する様に、ノモスは土台となるかなり太めの角材を確認し、何も言わずに手を振る。
そうするとズゴゴゴゴと芝生が移動して剥き出しになった地面に、石の柱が何十本も等間隔に生えてくる。
おそらく、本来のウッドデッキは石の柱の部分も木で作るのだろうが、精霊術活用ウッドデッキだからこれでいいということにしている。
高さも結局少し高めのウッドデッキを選択した。土台と合わせるとおそらく一メートル程度の高さのウッドデッキが完成するはずだ。
最初はベル達が登りやすいように低めのウッドデッキにしようかとも思ったが、あの子達、飛んでいるから高さとかあまり関係ないんだよね。それならちょっと高めにして、特別感を出したいと考えた。
地面との一体感がある低いタイプのウッドデッキも好きなんだけど、頑張って造るのだから目立ってほしいのが素直な気持ちだ。まあ、この楽園自体が自作みたいなものなんだけどね。
「ふむ、これで良かろう。裕太がハンマーでぶっ叩くか、チビ共が無茶をせんかぎり動くことはないじゃろう」
それはかなり丈夫だな。俺が作った木の部分が風化してなくなっても残っていそうだ。
「ありがとう、ノモス」
「うむ、儂らの仕事はこれで終わりか?」
「……そうだね、何かあったら呼ぶかもしれないけど、今のところ問題なさそう。ノモス、ドリー、ありがとうね」
「では、儂は戻る」
「私はこのまま奥の植物たちの様子を見てきますね」
お礼を言うと二人はふらりと去っていく。たぶん、あの二人に頼めば一瞬でウッドデッキらしきものが完成するんだろうな。
というか、ドリーに頼めば、ウッドデッキっぽい木を生やしてくれそうな気がする。
でも、今回のウッドデッキ作りはそういうんじゃない。
DIY、ドゥ イット ユアセルフ、言葉通り自分で(無理なくできることを)やることが重要なのだ。
なにごともチートに頼ってばかりではダメ。
そこそこチートに頼り、そこそこ自分で頑張ってこそ充実感を得られ愛着が湧くというものだ。
……決意を新たにしてみたけど、今日はシルフィにものんびりしてもらっているし一人になると少し寂しい。
まあグズグズしていても仕方がないし、作業を始めるか。
読んでいただきありがとうございます。