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七百五話 形に残る思い出

 色々と用事を済ませ、ようやくの帰還。少しご機嫌を損ねてしまったサクラを宥め、ウッドデッキ計画の下準備。その翌日、ウッドデッキの作成に取り掛かる。まず板を作るところから始めるのだけど、開拓ツールはチートだからウッドデッキの完成までそれほど時間は掛からないと思う。




 杉の巨木を分厚い板に加工した。チビッ子精霊達が興味津々だったが、なんとか誘導して遊びに行ってもらい、その間に大急ぎで頑張った。


 次の工程は、板をさらに小さく加工していく。


 ……どのくらいの幅と長さにすればいいんだろう?


 イメージ的にキャンプ場のウッドデッキの長さは家のフローリングと違ってかなり長くしていた気がする。


 でも、巨木だからかなり長いんだよね。二分割くらいで揃えるか。


 厚みの方は素人仕事だし木材は潤沢にあるのでと、用意した釘が利用できるギリギリの厚みで板にしたので、板というよりも角材に近い気がするが、そこは気にしないことにしている。


 問題は幅だが……まあ、一度切ってみることにしよう。


 とりあえず十五センチくらいで……イメージからするとちょっと広いが、かなり長さと厚みがあるし二十センチくらいでも良いかも?


 雨が降るなら水がたまらないようにする必要があるが、ここは死の大地。ディーネやレインが偶に雨のように水を降らせて草木や土に潤いを与えるくらいで、雨は降らない。


 ディーネとレインに雨が降らないようにお願いしておけば濡れることはほとんどないし、濡れたとしても乾かしてもらえる。


 よし、二十センチで加工することにしよう。


 再びノモスにガイドを作ってもらい、魔法のノコギリでサクサクと切り分けていく。


 それにしても凄い量だな。大きなウッドデッキを作るつもりだったから、大量の資材をソニアさんに用意してもらったが、足りるかどうか少し心配になってきた。


 まあ、足りなければ買いに行けばいいか。


 次は塗装だな。


 加工した板を保護するこの世界のニス的なものを塗って乾かさないといけない。


 そして、開拓ツールには刷毛がちゃんとある。


 今まで一度も日の目を見なかったし、なんなら一生使うことがないんじゃないかと思っていたが出番がきた。


 この世界に来てしまったことといい、人生って本当に何があるか分からないな。


 魔法の刷毛を取り出し、大きさは板に合わせて二十センチにする。


 武器として使用することが多いノコギリやオノと違って、刷毛はそんなに巨大化させる意味はなさそうだ。


 でも、万が一シルフィ達と出会えていなければ、刷毛を防御や捕殺用の武器に利用することがあったかもしれないな。


 まあ、その場合は寂しくて死の大地で孤独死していた可能性が高い。徒歩百日は生き延びることに成功したとしても、たどり着ける気がしないよね。


 塗料が入った樽を開けると、結構な異臭が鼻を突く。


 材料が心配になるが、聞いたら聞いたで更に不安になりそうだから、何も考えないことにしよう。


 魔法の刷毛に塗料を付けてペタリと板に塗り付ける。


 おお、さすがチートな開拓ツール。


 刷毛の性能が素晴らしいのか、塗り斑もなくプロが塗装をしたような仕上がりになっている。


 色はオーソドックスな濃い目のブラウン系、楽園の緑と良くマッチすると思っている。


 楽しくなってドンドン板を塗っていく。


「ゆーたー」「キュー」「おしごと?」「クゥ」「がんばってるな!」「……」「あう!」


 遊びに行っていたベル達とサクラが戻ってきた。結構長い時間作業をしていたようだ。道具がチートだから作業がサクサク進み、それが楽しくて時間を忘れてしまっていたようだ。


「おかえりみんな」


「ただいまー。ゆーた、なにしてるー?」


「この板に色を塗っているんだよ。こんなふうにね」


 見本としてペタリと板に色を塗る。


「たのしそーー」


 ベル達がとてもワクワクした目で俺を見ている。


「……やりたい?」


「やりたいー」「キュー」「きょうみある」「クゥ!」「やるぜ!」「……」「あう!」


 やりたいらしい。子供にペンキ系を扱わせると大変なことになるのだが、ベル達やサクラは汚れても自然に溶ければ綺麗になるから問題ない。それにベル達を別方向に誘導するすべは、今日既に使ってしまっている。


 もう一度遊びに行かせるのは、無邪気なベル達が相手とはいえさすがに難しい。


 少し板の仕上がりが心配になるが、まあ、木材は沢山あるし塗りなおせばこちらも問題ないだろう。


 魔法の鞄からソニアさんに揃えてもらった大工道具を取り出し、刷毛をベル達に配る。


 ベル、トゥル、フレアはちゃんと刷毛を持てているが、レインとタマモは口でくわえ、ムーンにいたっては刷毛の柄が体の中に突っ込まれている。


 あと、サクラはなんとか持ててはいるが、かなりギリギリだ。あとぶんぶん振っているから、赤ちゃんがガラガラを持っているようにしか見えない。


「じゃあこの樽の塗料に刷毛を付けて、板を塗ってね」


 ソワソワしていたベル達が樽に突撃する。


 あ、刷毛を柄までツッコんじゃだめだよ。いかん、始める前にもっとちゃんと説明するべきだった。


 まあ、楽しそうだから良いか。


 心配していたレインとタマモ、ムーンも問題なく塗料を付けて板を塗っていく。サクラは……意外とちゃんと塗ってはいるが、素手でペタペタ触りまくっている。


 というかトゥル以外は全員気にせず板に手形やヒレ形や足形、スライム形を付けている。


 どうしよう、失敗したら後で塗りなおせばいいやとか思っていたが、ベル達の残した跡が可愛らし過ぎて消せそうにない。


 あれだ、たぶん親が子供の手形を残すのと似た感覚だと思う。


 ……こうなったら後でジーナ達の手形も押してもらうかな。今ベル達がやっているのは、それもウッドデッキに使うことにして、別に板を用意してみんなの手形を集めよう。


 あ、大精霊達の手形もお願いしよう。ある意味とてもレア……そもそも精霊の手形の時点でレアか。


 思わぬところで楽しくなってきたな。リビングに飾ろう。


 おっと、このまま見守っていたい気もするが、俺も作業しよう。頑張らないといつまでたっても終わらない。




 お昼になり、ジーナ達も戻ってきたので、さっそく手形を押してもらう。


「なんでそんなことするんだ?」


 ジーナがキョトンとした顔で質問してくる。手形を残すような文化がないと何がしたいか分からないよね。


 かくかくしかじかと説明する。


「あたしはもう大人なんだけど?」


「大人でも手形を残したらいけない決まりはないよ。シルフィ達の手形も取るつもりだし」


「え?」


 初耳といった感じでシルフィが声を出す。


「マメちゃんたちも?」


 キッカが鋭い質問をしてくる。なるほど、ジーナ達の契約精霊の手形足形も残しておきたいよね。フクロウの足形を取るのは地味に難しそうだけど、タマモの肉球とシバの肉球が並んだらとても可愛い気がする。


「そうだね。みんなの手形や足形を取るよ」


「やったー」


 キッカとマメちゃんが戯れるように喜び合う。そうだな、タマモとシバの肉球を並べることも考えたけど、それよりも契約者と隣同士にした方が楽しそうだな。


「ちょっと配置を考えるから、みんなは先にお昼ご飯を食べていて」


 ベル達とジーナ達を食事に向かわせ、素材や配置を考える。


 ……かなり贅沢だけどリビングの顔になる物だし、マホガニーを使っちゃおうかな?


 御神木クラスのマホガニーを分厚い輪切りにして、そこに皆の手形を押す。


 人によっては無価値の物だが、俺にとっては一生物の宝物になりそうだ。


 そして年月が経ち、俺やジーナ達もあの世に旅立ち、ベル達が上級精霊や大精霊に昇格した頃、下級精霊だった頃の手形にそっと自分の手を合わせる。そんなことがあったら凄く素敵だと思う。


 まあ、ベル達が大精霊になるなんて何万年先の未来か分からないし、そこまで木が保存できるかも疑問だけどね。何かしらの手入れを続けたらなんとかなるものなのだろうか?


 未来を想像すると少し寂しくなってきた。死後のことを考えるよりも今を大切にすることにしよう。


 まずはマホガニーの乾燥からだな。そうなると手形を押すのは明日だな。その下準備をして、今日はひたすら塗装をしまくろう。




 ***




 みんなの手形をマホガニーに残すことに決めた翌日、準備が整いすでに大精霊達の手形は押してもらった。


 みんななんでそんなことを? といった顔をしていたが、趣旨を説明したら首を傾げながらも協力してくれた。


 こういう時にディーネやイフはノリがいいから助かる。


「ゆーた、つぎはべるたち?」


 ベルがシルフィ達の行為を見て、次は自分達の番だとワクワクしている。待たせるのは可哀想だが、このままだと前衛芸術が誕生しそうなので落ち着かせる。


 やることを説明させて、しっかり落ち着かせる。


「はい、じゃあ誰からやる?」


「べるー!」


 元気よく手を上げるのは予想通りベル。ベルは何事も先陣を切るのが好きだよね。


「分かった。じゃあ塗料を手に付けて、はい、ペタッと」


「ぺたっとー」


 ベルがマホガニーの輪切りにペタッと手形を付ける。元から可愛らしい手をしているのは知っているが、手形になると可愛さが際立つな。


 お、次はレインか。


「キュー」


 おう、意外とアグレッシブ。


 まさか尾ビレに塗料を付けてペタッといくとは。でも、イルカの尾ビレって特徴的でカッコいいから、手形というかヒレ形にすると映える。


「えい」


 次のトゥルは無難に可愛らしい手形を残し、タマモの補助につく。トゥルって自分のことよりもタマモに比重を置いているよね。モフモフに魅了されているとみた。


「クゥ!」


 タマモもトゥルの補助のお陰か、綺麗な手形を残す。やはり肉球には得も言われぬ魅力がある。


「おりゃ!」


 フレアは勢いよく手形を残す。少し塗料が飛び散っているのはご愛敬だな。得意満面でどうだ! と確認してくるところが可愛い。


 次はムーンだな。……え? 大丈夫なの?


 ムーンがプルンと塗料に浸かってしまう。


 そしてマホガニーの輪切りにゆっくり体を押し付けていく。ぷるぷるなスライムボディがゆっくりと潰れていき、それにともない塗料が広がっていく。


 ……ムーンの体って普段はお饅頭のような可愛らしい形をしているのだけど、手形? になると綺麗な円形になるんだな。


 これは……どうなんだ?


 事情を知っている俺からすれば、あの円形も微笑ましいのだけど、他人が見たらただの丸にしか見えない気がする。


 ……まあ楽園に来る人間は全員関係者だし、他は精霊くらいしか遊びに来ないから問題はないだろう。あ、ラエティティアさんも居たな。


 そして最後はサクラ。


 サクラは興奮しだすと体全体をわちゃわちゃしてしまうから、抱っこをして手形を残してもらおう。


 でもたぶん、これが最初に子供の手形を残す時の正しいスタイルだな。


 サクラを抱っこし、慎重に塗料を手に付ける。


「はい、ぺったん」


「あ、うん!」


 言えてないけどぺったんのリズムに合わせるサクラが可愛い。そして、手も小さくてとても可愛い。


 これでベル達下級精霊組+サクラは終了だな。これだけでも結構魅力的なインテリアに見える。


 次は弟子達とその契約精霊の出番だ。今の状態からまた賑やかになると思うと楽しくなってくる。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
もし精霊に出会わなければ開拓ツールを徹底的に使い倒し、水は海水をろ過し魚や貝を食って生き延びていたんだろうか 開拓ツールを全て吟味すれば移動手段も何とかなるかもだし
手形は確かに良いですね 昔は赤ちゃんの手形足形をとったりしましたが今の時代もしてるのだろうか? 今どきはカメラでパシャかな それとせっかくの刷毛さんの出番なのにさらっと流されててつらい… できれば性…
お~手形かみんなかわいい!
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