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七百話 欲望のマリー

読者の皆様の温かい感想、アドバイス、ブックマーク、評価、それらに支えられて、七百話を更新することができました。


事前にも温かいお言葉を頂いており、本当に感謝しております。


今後も継続して更新を続けていきますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。


本当にありがとうございます。

 王様を巻き込み舞台を整えた。推理物のミステリーであれば犯罪者を追い詰める最後のシーン、ただ、この場に居るのは名探偵ではなくただの裕太、犯罪者を追い詰めることができずに困惑することしかできない。そんなところにヴィータがまさかのウソ発見器能力を所持していることが判明する。その能力を生かして犯人を追い詰めていくと、話がだんだんと大きくなり、最後には俺の手を離れることになった。そこになぜかマリーさんが乱入。意味が分からない。




「うむ、その方は裕太殿の同行者だ。直答を許す」


 突然会話に入ってきたマリーさんに鷹揚に対応する王様。人は悪くないんだよな。キレたら怖そうだけど。


「ありがとうございます。私はポルリウス商会、商会長の次女、マリーと申します。ハンマー商会は今回のことでポルリウス商会にもちょっかいを出しており、その対策の為に情報収集をしておりました。少しはお役に立てるかと愚考しております」


 ちょっと控えめに愚考とか言っているけど、絶対に国のトップ層とコネを持つチャンスだとか考えているな。それを表に出していないのは素直に凄いと思う。


 でも俺には分かる。背後ですまし顔をしているソニアさんも、心の中でマリー頑張ってって応援しているな。


 あと、巻き込まれた女性冒険者は、早く帰りたいと思っているが、こちらは誰が見ても分かるので自慢にはならない。なんでこんなことに……と顔を蒼ざめさせてガチガチに固まっている。


「ほう、どのような情報があるのだ?」


「裏関係にまでは深く踏み込めておりませんが、表に出ている従業員の素行調査は済んでおります」


 そんなことまで調べていたのか。


 これはアレだな、俺が王都に来る前から、ハンマー商会を敵にすることを決めていたな。利用する気満々じゃん。


「つまり、それ以外を重点的に調べればいいと?」


「はい。それに加え、素行の良い者でしたらポルリウス商会でも人材を引き受ける用意があります」


 ……もしかしなくても建築業界にまで食い込む算段を立てているよね? ポルリウス商会って、将来、財閥とかコンツェルンとか呼ばれる存在になりそうだ。


 他の商会を吸収して大きくなるなら、コングロマリットの方が適切かな?


「なるほど、路頭に迷う民が減るのは国としても助かるな」


「はっ、私共の商いが陛下やお国の為になるのであれば光栄でございます」


「うむ」


 王様が頷き、チラリと偉そうなおじさんに目配せをする。


「マリーであったな。後でその情報を城に届けよ。門には話を通しておく」


「畏まりました」


「うむ」


 マリーさんが深々と頭を下げるが、その横顔に邪悪な笑みが見えた気がした。


「裕太殿、早急に対処はするが相手がどのような行動に出るかは分からん。その間、くだんの建築家にこちらから護衛を派遣することも可能だがどうだ?」


 どうだと言われましても、どうなんだ?


「建築家に護衛を雇っているのはマリーさんですので、マリーさんの判断にお任せします」


「そうですね、護衛の方々を派遣していただけるのはありがたいのですが、そのために国にご迷惑をおかけするのは心苦しく思います。ポルリウス商会で護衛を増員して対処いたしますので、お任せいただければと存じます」


 マリーさん、ここぞとばかりに国の上層部の人達に好印象をバラまきまくっているな。


「そうか、ではそのように」


 王様の言葉にマリーさんが一礼して話が終わった。


 ……最後に全部マリーさんに持っていかれた気がする。




 ***




「はぁーー」


 バロッタ達精霊術師が腰が抜けたように座り込む。


「陛下の御前であるぞ、情けない! シャンとせんか!」


 騎士団長が精霊術師達を叱りつける。


「よい。バロッタよ、それほどまでに消耗する状況であったか?」


 裕太殿の指導を受け、精霊術師達の実力は確実に上がった。それに伴い増長気味であった態度も落ち着き、熱意も訓練に対する姿勢も良くなった。


 その者達がこれほど消耗するとはただごとではないのであろう。


「申し訳ありません。常に神経を張り巡らせておりましたので、気が抜けると立っていられませんでした」


「あのような者達にそれほど気を張り詰めることもなかろう。いざとなれば罠も我らも居るのだぞ」


 ふむ、騎士団長は認識が少し甘いようだな。


「騎士団長、余はあの者達を強く警戒しておる。貴族達に手出し無用の通達を出すほどにな。武に生きる者であるお主には思うところもあるだろうが、その意味を軽く考えてもらっては困る」


「は、申し訳ありません」


 こやつも分かっておるのであろうが、騎士団長としてのプライドが邪魔をするのであろうな。


「よい。バロッタよ、お主がそれだけ消耗した原因を話してみよ」


「はっ。憚りながら、私の契約精霊は―――」


 これで少しは認識を改めてくれると良いが、こやつのプライドの為にバケモノを敵に回すのはごめんだ。


 それにしても面倒な事になったものだ。ガッリ侯爵の件で王権がかなり強化されたが、貴族の力が弱まり過ぎるのも問題がある。


 とはいえ、腐った貴族を放置もできん。特に貴族倶楽部など、ふざけたことをマネておったバカ者どもは残らず粛清してくれる。




 ***




「ふー。お疲れ様でした」


 馬車に乗ってお城から出たところで息を吐いて苦労をねぎらう。


「師匠、王様見ちゃったな」


「私も緊張しました」


「おうさま、えらいんだよな?」


「キッカ、むずかしくてわからなかった」


 俺の言葉に、口々に話し出すジーナ達。珍しい場所を見たことで興奮しているようだ。


 マリーさんとソニアさんは、お城に届ける資料や、権力者にどう繋がりを作るかについて相談を始めている。


 ベル達は馬車の外でシルフィ達大精霊と楽し気に騒ぎながら飛んでいる。なぜか馬車の中でポツンと一人になってしまった。


 地味に寂しい。


「裕太さん、一度店に寄っても構いませんか?」


「え? あ、はい、構いませんよ」


 大精霊がお酒を呑むために待っているが、まあ、店に寄るくらいで怒ることはないだろう。



「あの、私はどうすれば……」


 ポルリウス商会に到着し馬車を降りると、女性冒険者が困った顔で話しかけてきた。一秒でも早く俺達から別れたいという気持ちを強く感じる。


「ああ、そうでしたね。護衛の追加も考えなければなりません。フィオリーナさんのことを考えると女性冒険者が必要です。あなたが信頼できる女性冒険者の知り合いはいますか? あ、迷宮都市のワルキューレのような者達は必要ありませんよ」


 マリーさんの目から見てもワルキューレはアレなのか。


「あ、はい、付き合いのある女性冒険者が何人か居ます」


 まだ帰れないのという顔をしながらも、きちんと質問に答える女性冒険者さん。意外と真面目だ。


「では、再びお城に向かった後に冒険者ギルドに向かいますので、それまでお付き合いください」


 うわ、嫌な飲み会で三軒目が決まったような顔をしている。


「は、はい。分かりました」


「裕太さんはどうされますか?」


「えーっと、俺は戻って休もうかと思います。何か用事がありますか?」


「いえ、あとはこちらでなんとでもなりますので、ゆっくりお休みください。では、このまま馬車でお送りするように御者に言っておきますね。エリックによろしくお願いします」


「あ、ありがとうございます」


 俺達はアッサリ解放された。女性冒険者さんがとても羨ましそうな顔をしている。


 悪いけど、お先にドロンさせていただきます。


 あと、エリックさんにはよろしくしません。普通の対応をするだけです。



 ポルリウス商会のゲストハウスに帰還し、エリックさんに挨拶だけして部屋に戻る。


 部屋に入ったとたんに、問答無用で酒樽を出す。


 ここで一手遅れると、大精霊達が好みのお酒を要求し始めるのでその前に出してしまうのが秘訣だ。


 大精霊達が何も言わずに酒樽を囲む。あとは簡単なおつまみを出しておけば、各々で楽しんでくれるから、ある意味楽ではある。


 俺達は明日の王都観光の予定をみんなで立てるか。


 ベル達も興味がある屋台をいくつか見つけているようだし、ジーナ達も王都観光を楽しみにしている。俺もガッリ侯爵跡地に少し興味があるし、コースをちゃんと考えておこう。


 そういえば、あのハンマー商会の会長、今頃どうしているのかな?


 王様達との話し合いが終わりお城を出る時に、近くに結構豪華な馬車が停車した。


 現れたのはハンマー商会の会長。


 俺達を見かけ、自慢気に王様から呼ばれたのだと語っていた。


 マリーさんに対して、色々と嫌味を言った後に意気揚々と去っていったが、行く先は地獄なんだよね。


 ちょっとその地獄に落ちるさまを見たかった気がしないでもない。




「裕太、酒樽をしまって。早く。食器とおつまみもよ」


 夕食を済ませてのんびりとベル達と戯れていると、シルフィが急に指示を出し始めた。


 シルフィ達が宴会を途中で止めるとか、天変地異の前触れか?


 驚きながらも素早く後片付けをしていると、ドドドっと足音が近づいてくるのが聞こえてきた。


「裕太さん、大変です!」


 勢いよくマリーさんが部屋に駆け込んできた。危なかったな、あと少し遅れていたら大人は俺とジーナしかいないのに空になった酒樽がいくつも並んでいる光景を見られるところだった。


「えっと、マリーさん、どうしたんですか?」


 ちょっと冷や汗を流しながらマリーさんに質問する。


「ハンマー商会に国の強制捜査が入りました。捜査と言っていますが、実質的に捕縛で間違いありません!」


「…………え?」


「ハンマー商会に強制捜査が入りました」


 リピートしてくれるマリーさん。


「…………えーっと、今日の午後にお城でそのことについて話していましたよね?」


「はい。ハンマー商会の資料を届けた時にすでに城内がざわついていたので見張っていたのですが、いきなりでした」


 ……王様、貴族倶楽部の時にガチキレしていたけど、本当にムカついていたんだな。だから容赦なく強権を発動したんだろう。


「それにしても早すぎますね。あと、マリーさんの資料の意味は?」


「おそらくですが、ハンマー商会の会長を捕らえたのでしょう。そのことがハンマー商会に伝わり証拠隠滅される前に捜査に入ったのだと思います。あと、資料には意味があります。捕まえた従業員の選別にとても役に立ちますから」


 あの鼻高々だった会長捕まったのか。まあ、ほとんど捕まえる目的で王様が会長を呼び出していたから当然の結果か。資料も役に立ったのなら良かった。


 だが、一つだけ分からないことがある。


「状況は理解できましたが、なぜそんなに慌てているんですか?」


 普通にありがたい情報だが、基本的に俺達の手を離れた案件なので焦る必要はないはずだ。


「今がハンマー商会の縄張りを奪い取るチャンスなんです。協力してください!」


 ……清々しいまでに自分本位だな。縄張りを奪い取るって、ポルリウス商会って反社会的な何かじゃないよね? 


本日10/8日、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第六十九話が公開されました。

契約したドリーの力と裕太の内情、はしゃぐちびっ子達、癒されますのでお楽しみいただけましたら幸いです。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ハンマー商会の会長、喜劇の気配がするから紅茶とケーキ嗜みながらのんびり眺めたいやつだ……
ああ、まるで大物気取りで城に入っていったけど、実際は屠殺場に向かう牛そのものだったね。美しい光景だ。
チャンスですよ!マリーさん! って感じですね。 ゆうたには 追加の残務処理のお時間ですよ!さぁ、がんばりまっしょい!(古いなぁ)
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