六百九十八話 豪華な尋問
ハンマー商会ともめ事が起き、嫌な感じだったので普通に喧嘩を売った。そうしたらミゲルさんの部下がガチギレし、なんか色々と情報が集まる。ハンマー商会の狙いはフィオリーナさんの仕事を奪うことで、ついでに『あの方』という香ばしい臭いがする存在も暴露された。面倒そうなので直に王様にチクることにする。
護衛の兵士が居るからか、貴族街の門もスムーズに抜けお城に近づいていく。おっと、他の大精霊達を召喚しておこう。
別にお城で暴れるつもりはないが、プレッシャーをかけることはできる。
王城にはバロッタさんを含め、特別講習をした名門の精霊術師達が勤めているから、それなりの効果が期待できるはずだ。
そういえばお城の講習で名門の家についている精霊に頼まれて精霊術師達の鼻っ柱を折って、最終的に洗脳みたいな形になったんだよな。
……なんか不安になってきた。あの時の精霊術師、洗脳状態から脱却してくれているだろうか?
若干の不安に駆られながら大精霊達を召喚する。
なにごとかと質問してくる大精霊達への説明はシルフィにお任せしたが、今度は城で暴れるのか? と、若干ワクワクしているイフには特に念入りに説明をお願いしたい。
そんなことをしたら国が亡ぶ。
そんなことしていると、馬車がお城に到着し馬車から降りる。
「裕太様、この者達はどうしますか?」
同行してくれた門番さんが、ミゲルさん達を指す。
その隣でフィオリーナさんの護衛の女性冒険者が、傍で蒼い顔をしているのが目に入る。王城に来て自分の状況をしっかりと理解したようだ。
一応、証人でもあるから、悪いが逃がすつもりはない。
あの人達の影響でフィオリーナさんの俺への印象が悪化したので、巻き込むことにあまり心が痛まないところが素晴らしい。
「彼女はそちらのミゲルさんの嫌がらせを証言してくれるはずですので同行をお願いします。あとはミゲルさん達ですが……一番偉いミゲルさんを拘束して連れて行きたいです。他も俺達に襲い掛かってきた人達なので、捕まえてもらって構いませんか?」
「連れて行くというのは……王の御前にということですか?」
門番さんの言葉に改めて考える。そういえば短剣があれば王様に会えるとは聞いているが、同行者については聞いていなかったな。
「……駄目ですかね?」
よく考えなくても罪人を王様のところに連れて行くというのは無作法な気がする。
「私からはなんとも……あと、王の短剣を持つ裕太様を信用していない訳ではありませんが、襲われたから捕まえたというだけでは、どれだけ拘束できるかも疑問です」
ああ、確かに取り調べをしないとな。俺は王様から短剣を貰っていても別に貴族ではない。ぶっちゃけミゲルさんが国が敵に回るって言ったから、国を巻き込むことにした迷惑な人間でしかないからな。
「えーっと、とりあえず連れて行っていいか確認をお願いしても良いですか?」
駄目なら俺だけ王様のところに行って、悪質クレーマーのごとくクレームをつけまくることにしよう。
「その必要はございません。王は裕太様とそのお連れ様をお連れせよとのことです。どうぞ、こちらに」
門番さんと話していると、スーパー執事さんが登場した。この人には恥ずかしい部分を見せちゃっているからちょっと苦手なんだよな。まあ、それを言うのなら王様にもだけどね。
「ありがとうございます」
お礼を言うとスーパー執事さんがテキパキを指示を出し、ミゲルさんだけを兵士が担いで城の中に入る。
部屋は安定の落とし穴部屋なのだけど、今日はこれまでと比べてもだいぶ警備の騎士と兵士が多く配置されている。犯罪者を連れてきたからかな? まあ、大商会の営業監督らしいけど。
「よく来た。なにやら緊急のようだが、詳しい説明を頼めるか?」
普通に王様に出迎えられ、挨拶もそこそこに状況の説明を求められる。突然来たから忙しいのだろう。
時間をとるのは申し訳ないので、ハンマー商会の横暴と、ミゲルさん達が言った背後の貴族と、国が敵に回るという言葉をしっかりと説明した。
「それで、国が敵に回るというのなら、王様と話をした方が良いと思いましてお邪魔させていただきました。裏に大きな権力を持つ貴族様がいらっしゃるようですが、どうしたらいいですかね? ちなみに俺達は直接襲われたので決着がつくまで引く気はありません」
実際には大事になったら引く気満々だけど、この世界では強気の交渉がデフォルトなので大精霊六人をバックに強気で攻めている。
偉そうな騎士様方や兵士さんは俺の強気な態度に不快気だが、バロッタさんを筆頭に見覚えがある精霊術師達は背後の圧力に顔を蒼ざめさせている。温度差が凄いが、シルフィ達のプレッシャーは効果を表しているようだ。
ちなみに、ディーネがバロッタさんの契約精霊の土の精霊に気がつき遊びに行こうとしたが、それはシルフィが阻止してくれた。とても助かる。
まあ、ベル達は遊びに行っちゃったけどね。
「あと、依頼をお願いしている建築家さんが、そこのハンマー商会から嫌がらせを受けているようなんです。ですよね?」
最後に連れてこられていた女性冒険者さんを見ると、ここで私に話をふるのかよ、と、なんか顔面が崩壊しそうな表情をしている。
それに比べるとジーナ達はちゃんとしているな。まあ、マルコとキッカは完璧には状況を把握できていないっぽいけど。
マリーさんとソニアさんは……国の上層部の品定めをしているのか、ぶしつけにならない程度に視線をさまよわせている。チャンスを逃さないスタイルは尊敬する。
「そうなのか?」
俺の言葉に王様も乗っかり、女性冒険者に注目が集まる。もう逃げられない。
「は、はいぃ。なんどもあの人達が現場に邪魔をしに現れました。他にも証拠はありませぬが、危険なこともありました」
緊張している割にまともに受け答えをする女性冒険者。まあ、証拠はありませぬとか言っちゃっているけど、許容範囲内だろう。
「ふむ、ある程度状況は理解した。何段階か手続きを飛ばしておるが、その短剣を持ち、貴族が関わっているのであれば仕方があるまい。だが、一方的に話を聞いて沙汰を決める訳にもいくまい。ハンマー商会だったな、その者の話を聞こう。ああ、それとハンマー商会の代表者を呼び出しておけ」
王様の言葉に何人かの騎士様と兵士さんが動き出す。いきなりお城に呼ばれるなんてハンマー商会の偉い人もビックリするだろうな。
「うぐ……いったい何が……貴様、ハンマー商会に逆らってただで……」
シルフィが何かしたのかタイミングよくミゲルさんが目を覚まし、俺と目が合って激高しようとして、場の状況を認識して固まった。
気がついたら農村から王城へステージチェンジしていたのだから、混乱は理解できる。意味が分からないだろう。というか、ここがお城かすら理解できていないかもしれない。
ミゲルさんが散々言っていた国のトップの御前なのだから、頑張って説明してほしい。
「その方、ハンマー商会の営業監督のミゲルで間違いないな?」
先程まで王様が直接会話をしていたのに、今度はなんか偉そうな人が前に出てきた。
もしかしなくても王様と会話をするのにも資格が要るのか?
俺達側は王様の短剣を所持しているグループということで、王様と直接話せていたのかも。
「は? あの、いえ、ここはどこなのでしょう?」
やっぱり場所が分かっていないようだ。
ハンマー商会、営業監督様でもさすがに王様の顔は知らないらしい。
「王城の一室だな。そして王の御前でもある。今回の無礼は状況を鑑みて不問とするが、次はないと思い質問に答えよ」
よく考えると豪華な尋問メンバーだよね。
「……は、ははぁ」
ようやく言葉と場所が呑み込めたのか、床に膝を突き頭を下げるミゲルさん。頭の中ではなんでこんなことにと大混乱だろう。
「それで、その方はハンマー商会の営業監督のミゲルで間違いないのだな?」
「は、はい、さようでございます。あの、なぜ私はこの場に?」
「その方らはそちらの裕太殿に襲い掛かり、反撃を受けて気絶。その間に連行されたのだ」
「お、襲い掛かるなどとんでもございません。私どもがあの者達に襲われたのです」
あ、俺達のせいにしだした。後ろ盾の貴族の名前を出してくるかもと思っていたが、まだその時ではないようだ。
できればその貴族様を巻き込んで、まとめて処理してしまいたいんだよね。フィオリーナさんへのちょっかいをなんとかしたい。
「裕太殿、この者はこのように申しているが?」
「それを証明できる証拠はありませんが、ミゲルさんに具体的な話を聞いて、一緒に運んできた人達と話を比べてみれば良いのでは? 正しいことを言っているなら、一緒に居た人達も同じ証言をするはずです。あ、運んできた人達の尋問はバラバラに行ってくださいね」
容疑者が複数居る場合は隔離して証言を聞き比べるのが基本だよね。
それにそんな奴等知らないというのも無理だ。顔が売れているみたいだから一緒に居るところを目撃されていることもあるだろうし、冒険者はともかく同じ商会に勤めている従業員と無関係だとは信じてもらえないだろう。
状況証拠しかないかもしれないが、ここは疑わしきは罰せずな日本ではなく絶対王政な異世界だ。状況的に俺の優位は揺るがない。あとはどれだけ建築現場の安全を確保できるかだな。
「なるほど道理であるな。ではミゲルよ、襲われた時の状況を説明せよ」
「…………」
「どうした? 説明せよ」
ミゲルさんが黙って冷や汗を掻いている。頭の中ではこの窮地を切り抜ける方法を考えているのだろうが、結構詰んでいる状況だと思う。
「……あの、思い出そうとしているのですが、混乱しているのか思い出せなくなってしまい……」
うわっ、定番の記憶にございませんが出た。次は全ては秘書が……いや、あの場所には秘書がいなかったから、全ては部下がやりましたとか言いだすかもな。
なんかワイドショーとか記者会見を見ている気分になってきた。
「裕太ちゃん、お姉ちゃん退屈だわー」
「そうだよな。オレ達が居る意味があるのか?」
俺はちょっと楽しんでいるのだが、ディーネとイフが少し飽きてしまったようだ。この場でベル達はともかく大精霊が自由に動き回るのは不味い。下手をしたら落とし穴が発動してしまう。
シルフィ、お願い。なんとかして。
シルフィだけではなくドリーも動いて宥めてくれる。こうなると無関心で黙っているノモスと、ニコニコと笑顔で見守ってくれているヴィータがありがたく思えるな。まあ、ディーネとイフを宥めてくれたらもっとありがたいんだけど。
「ふむ、思い出せぬのであれば仕方がない。その方の部下や護衛の冒険者に話を聞いて判断することとしよう」
「そ、それは……」
今だ。今こそ貴族様の後ろ盾に縋るんだ。
……無理か。ミゲルさんはそのまま黙り込んでしまった。やっぱり王様同席の尋問で迂闊に貴族様を巻き込めないか。
んー。俺の方で斬り込むか。
「あの、ミゲルさんは、あの方はフィオリーナさんが全てを失い絶望して膝を折るのが望みとか言っていましたよね。あの方って誰か教えてもらえますか?」
これなら記憶にないとは言えないよね。だって俺を襲う前からあの方とやらと付き合いがあるんだから。
これで知っている様子だった部下と情報を聞き比べれば貴族を巻き込めるはずだ。たぶん。
読んでいただきありがとうございます。