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六百九十七話 いきなりクライマックスだ

 フィオリーナさんとの挨拶も終わり、次の問題の対処に取り掛かる。表の敵は外で待ち構えていたハンマー商会。こちらはカッコよく啖呵をかえしてバッチリ喧嘩を売れた。あとは裏の敵……チラチラと影がチラつくマリー父、そして真の敵は俺に振りかかっている身に覚えがない誤解だ。問題が多すぎる。




「……本気ですか?」


 ようやく話が呑み込めたのか、キョトンとした顔で質問をしてくるミゲルさん。俺の周囲で発生するキョトンとする顔はみんな可愛いから、強面のキョトン顔はなかなかレアだ。


「本気ですよ」


 正直、ハンマー商会が敵になったからと言って、自分が何をすればいいのかはまだわかっていないが、嫌がらせ程度でもできることは全部やろうと思っている。


 王様には必ずチクる。


 そして最後に、ハンマー商会が国が敵に回るとか言っていますが、本当に敵になりますかって王様にちゃんと聞く。


 ああ、大精霊には全員集合してもらっておくべきか?


 ……気のせいかもしれないが、これだけで全て解決しそうだ。


「ふざけやがって!」


「おい、俺らを舐めているバカに身の程を分からせてやれ!」


 あ、ミゲルさんからずいぶん遅れてガラの悪い従業員がキレ始めた。


 そして、その従業員が冒険者に指示を飛ばす。なんか上から目線だし、あの冒険者達はハンマー商会専属か何かかな?


 その冒険者達がニヤニヤしながら前に出てくる。 


「あー、冒険者の皆さん、本当に俺が誰か分からないまま喧嘩を売るつもり?」


 これでも迷宮都市の冒険者ギルドをめちゃくちゃにした人間だよ? 実行犯はドリーだけど。


「はは、女の前で見栄を張るのも大変だな。お前がたいしたことないってのはその身のこなしで丸分かりなんだよ。どうする、土下座するなら許してもらえるかもしれないぜ?」


 俺の身のこなしが素人だと見破り、思いっきり上から目線の冒険者達。術師とか思わないのだろうか?


 あ、今日は挨拶だったから、キラキラ装備じゃなく少し良さげな戦士装備だった。


 術師スタイルに極振りするか、逆に普通の服を着てきた方が良かったかもしれない。


「一応言っておきますが、犯罪行為ですよ?」


「話を聞いてなかったのかよ。ハンマー商会は王都で力を持っているんだ。そちらのお嬢さん達をどうにかすれば、そのくらいなんとでもなるんだよ」


 ニヤニヤと下卑だ顔をする冒険者達。マリーさんとソニアさんがどうにかなる姿が想像つかないんだけど、18禁的なことをするつもりなのだろう。


「いやはや、ポルリウス商会も舐められたものですね。あなた達程度がうちの商会をどうにかできると?」


 おうふ、マリーさんが荒ぶりだした。


「ポルリウス商会なんてここでは関係ねえんだよ。そこの村人だってハンマー商会が本気を出せばどうにでもなるんだ。ミゲルさん、もういいですよね、こいつらやっちゃったあとにあの女も攫っちまいましょうよ。あの乳は触る価値ありますぜ」


 マリーさんの荒ぶりに反応したのか、ミゲルさんの部下も荒ぶり始めた。


 乳って言っちゃっているし、あの女ってフィオリーナさんだな。間違いない。


「バカなことを言うな。あの方の望みは全てに絶望し、あの方の前で哀れに膝を折る姿だ。攫っては意味がない」


 あの方とか出てきた。あれか? やっぱりフィオリーナさんに執着している偉い人が居て、その人の性癖がこじれている感じか?


 フィオリーナさん美人だもんね。


 まあ、どちらにせよろくでもない話だな。


 実は、俺は迷宮都市の冒険者ギルドを壊滅に追い込み、王様直通の短剣を持つ男だ!


 的なことを言って、へへーってなる先の副将軍様的な展開も想像していたんだけど、こう言うやつら相手に手ぬるいことをしたら駄目だな。


 チョコチョコとした嫌がらせは止めて、いきなりクライマックスだ。


 あの方とか意味深な表現が出てきたけど、全部正面からぶち壊してやる。


(シルフィ、あいつら全員気絶させちゃって)


 ゴニョゴニョと詠唱を呟くふりをしてシルフィにお願いする。


「おい、何してやがる! 詠唱か? 止めろ!」


 冒険者の一人が俺の行動に気がつき、止めようと動き出す。だが無駄だ、詠唱など飾り、シルフィは無詠唱で風を操るのだ。


 バーン!


 くだらないことを考えていると、鼓膜が破れそうな音が響き渡り冒険者とミゲルさんを含めた従業員が吹き飛ばされる。


 方法を指定しなかったが、思った以上に強烈な方法で相手全員を気絶させたシルフィ。


 乳に価値がとか言っていたから、気に障ったのかもしれない。俺も気をつけよう。


「な、何があったんですか?」


「マリー、大丈夫ですか?」


 突然の轟音にさすがのマリーさんとソニアさんもうろたえている。あ、村からも人が走ってきているな。警戒心が足りない、いや、アレはフィオリーナさんの護衛の冒険者か。


 一人が状況を把握するために村から出てきて、マリーさん達の姿を見て寄ってきたといったところか。


「なにがあった!」


 なぜ俺をニラむ。いや、状況的に一番怪しいのは俺か。


「こいつらが敵になったので気絶させました。村からこいつらを縛るロープと、運ぶ荷馬車を借りてきてくれませんか? ああ、これは借り賃です。村の人達に渡してください」


 シルフィにお願いして運んでもらおうかと思ったが、それをマリーさんに直接見られると面倒な事になる気しかしない。


「……本当か?」


 疑いを隠そうともしないな。


「間違いありません。この人達は裕太さんだけではなく、私とソニア、そしてフィオリーナさんにも危害を加えるような発言をしていました」


「ええ、あの人達を吹き飛ばした時に大きな音が鳴ったのです。目が覚めると面倒ですので、できるだけ早くお願いします」


 マリーさんとソニアさんのフォローが利いたのか、走って村に戻る冒険者のお姉さん。


 少し待つともう一人仲間を連れて荷馬車と共に戻ってきた。残りのメンバーはフィオリーナさんの護衛だろう。


 人の縛り方なんて知らないので、お願いして縛ってもらう。冒険者のくせにそんなことも知らないのかよという目で見られてしまった。


「裕太さん、この人達をどうするつもりなんですか?」


「色々と面倒なので、このままこの人達を連れて王城に行きます」


 正面突破だからな。当然、国が関わる案件は王様が交渉相手になる。まあ、王様にチクるのが正面かどうかは微妙だが……国という組織で考えると間違ってはいない。


 商会やら貴族やら、下から交渉しても嫌がらせや理不尽で危険度が増すだけ。なら、一番上から押しつぶしてもらうのが正しいはず。


 ミゲルさんが王様相手にどう言い訳するのかが、とても楽しみだ。


「え? そんなことをしたらこっちが捕まりますよ」


「王様に直接会える短剣を持っているので、心配いりません」


 マジかこいつという目で見られた。


「これですけど、偽物じゃありませんよ? これで実際に王城を訪ねたこともあります」 


「あわわ、こんなものを気軽に見せないでください! というか、何でこんな物を持っているんですか! 王家の紋章が本当についているじゃないですか!」


 マリーさんが地味にパニくっていて少し面白い。


「色々あってもらったんです。何があったのかは話して良いか分からないので言えません」


 精霊樹の果実とかガッリ侯爵とか、まあ、色々とあった。他に身分証を貰ったけど、こっちは黒歴史なので出来るだけ使いたくない。いや、実際には短剣の方が黒歴史になるのか?


「聞いたら危なそうなことは言わないでください…………」


「マリーさん?」 


 大声で騒いでいたマリーさんが途中でピタリと固まり、心配になって声をかける。


「ということは……裕太さんにお願いすれば王様と交渉し放題ということですか?」


 なるほど、怒りと同時に利益が飛び込んできたからフリーズしたのか。


 飛行を隠しても短剣で面倒なことになりそう。ここはきっぱりと断っておこう。


「そのお願いを聞く気がないので無意味ですね。目が覚めたら面倒なので、そろそろ出発しましょう。すみません、お二人のどちらかで構わないので、荷馬車を操縦して王都まで付いて来てもらえませんか?」


「は、はい! 自分がお手伝いさせていただきます! 数々のご無礼申し訳ありませんでした!」


 俺を疑いの目でしか見ていなかった冒険者が、軍人のように背筋を正して返事をしてくれた。


 なにが起こったと思ったが、そうだよね、自分が住む国のトップに直接繋がる人間は普通に怖いよね。俺も天皇陛下と会える人に会ったらビビり倒すと思う。


 まあ、疑われまくるよりかこっちの方がマシ……かどうかは分からないが、話がスムーズに進むのはありがたい。


 そういう訳で俺達は馬車に乗り、ハンマー商会関係者は荷車に積み上げられて女性冒険者が御者をしている。扱いは最悪だ。ここから二時間ちょっと、目が覚めたら逆に辛いかもな。




 ***




「この者はハンマー商会の者達であろう。いったい何があった!」


 王都の城門で予想通り止められた。ただ、門番にまでハンマー商会が知られているのは予想外だった。


 自分で力がある商会というだけあって、顔が売れているようだ。


「この人達ともめ事になりまして、今からこの人達を連れて王城に訴え出ようと思っています」


 馬車から降り、城門で止められている荷車のところに向かい門番に訳を告げる。


 それにしても二時間半くらい荷車でガタガタ揺らされたのにだれも目が覚めなかったのか。シルフィ、がなんかやってくれているのかもしれないな。


「王城? なにをバカな。そんなことよりもお前、大変なことになるぞ。ハンマー商会は大商会で大きな貴族が後ろ盾をしているんだ。悪いがあの者達から話を聞いたら、お前達は拘束させてもらうことになるかもしれん」


 おうふ、問答無用な雰囲気。


「えーっと、これを見てください」


「ん? なんだ?」


 王様から貰った短剣を門番に見せると、門番が固まる。やはりこの短剣を見ると人が固まるようだ。王様の短剣スゲーーーってことだな。


 この短剣が印籠だったら、リアル御老公様ごっこができそうだ。


「そういう訳で俺は王様と直接話す許可をもらっています。裕太という人物がハンマー商会に逆らうと国が敵に回ると脅され、その者達を捕らえて城に向かうと先ぶれを出してください」


「はっ! すぐに先ぶれを向かわせます。私が王城まで護衛をさせていただきますので、少々お待ちください!」


 短剣を見せると門が大騒ぎになった。


 兵士が王城に走り、代わりの門番が警備につく。そして俺を尋問していた門番と、更に三人の兵士が俺達の馬車と荷車を囲むように配置につく。


 どうやらこのまま王城に連れて行ってくれるらしい。ハンマー商会と冒険者達は荷車に積みっぱなしだし、図らずも市中引き回しということになる。


 王城での展開次第では打ち首獄門まで……さすがにこの世界にはギロチンはあっても打ち首はなさそうだな。獄門は……どうかな? あったら少し怖いな。 


 あ、勢いで行動していたけど、ジーナ達を王城に連れて行くのは不味いかな? まあ、前回の精霊術師講習で城に連れて行っているし今更か。社会見学ということにしておこう。


 ん? もしかしなくても女性冒険者さんも一緒に王城に来ているよね?


 ……まあアレだ、運が悪かったと思って巻き込まれてもらおう。そう、運が悪かっただけで、俺を疑いの目で見て問題を大きくしたことに対しての嫌がらせという訳ではない。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 残念 池は増えないのか 花畑が増えてもイイのよ?(同じやw 問題は処分が甘かった時 商会が潰れるレベルで(公には)バレないように報復しなきゃ
[一言] 初めてじゃないか? まともに短剣使えたの! 成長したなぁ、ゆうたは
[一言] とても、わくわくしてきました!
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