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六百九十五話 自業自得ってこういうこと

 マリーさんと共に建築現場予定の村を訪問した。お会いした村長さんは人当たりが良く、現場に良い影響を与えてくれそうな安心を感じた。村長との挨拶を無事に終え村の外に出ると、畑で精霊術師講習の一号生を見かけ、続いて建築家のフィオリーナさんと挨拶することができた。ただ、そのフィオリーナさんには色々と気になる部分が多く、なんだか波乱が起きそうな予感が……。




 フィオリーナさんと護衛の女性冒険者達の会話が終わり、フィオリーナさんが俺の方に向き直った。


「お待たせして申し訳ありません」


「いえ、大丈夫ですよ。それで、飯場で困ったことはありませんか?」


「マリーさんが細部までしっかりフォローしてくださっているので、問題はありません」


 いや、俺は何もするつもりはないから、絶対に弱みは見せない的な、決意を秘めた表情をしないでほしい。


「そうですか……ああー……俺の方でもフォローできるところは手を貸しますので、何かあったら報告してください」


「……分かりました」


 困ったことがあっても絶対に俺には報告が届きそうにない感じだ。


 施工主相手にこの態度は駄目だろうと思わなくもないが、それほど嫌な目に遭ってきたのだと思うと同情を感じなくはない……こともない?


 まあ、急に距離を詰めようとしても駄目だな。相手は野生動物と考え、最初は距離をとってできるだけ警戒を解くことにしよう。


 お土産も用意してきたのだが、なんとなく今渡すと拒否されそうなので止めておこう。


 なんで俺がそこまで気を遣わなければならないのか若干の疑問だが、フィオリーナさんはとっても美人だし、なにより精霊術師の才能を持つ可能性がある人なので決別を選択することができない。


 悲しい男の性と言うやつだな。だって……ディーネ並みなんだもの……。


「では、少し飯場の様子と整地している建築現場の様子を見せてください」


 俺達の微妙な雰囲気を感じたらしく、マリーさんが間に入ってきた。ここはおとなしくマリーさんのフォローに助けてもらうことにしよう。


「分かりました。ご案内しますね」


 マリーさんが間に入り安心したのか、笑顔で歩きだすフィオリーナさん。俺はマリーさん達の後ろにいた方が良さそうだ。


「まずは飯場ですね。今は簡単な小屋を建てただけですが、キッチンや水場など生活に必要な設備を追加し、五日程度で完成させる予定です」


 フィオリーナさんが案内してくれた飯場は、言葉通りまだ小さな小屋しか建っていないが、整地も終わっているからそれなりに快適になりそうな雰囲気は感じる。


 まだ狭く他に見る場所もないので、次は建築現場に向かう。


「おお、かなり広いですね」


 思わず声に出すと、フィオリーナさんがビクッとする。なんかすみませんって感じだ。


 でも、言葉通りかなり広範囲に整地されている。学校のグラウンドくらいありそうなので、かなり余裕をもって整地しているようだ。


 大きな図書館をお願いはしたが、さすがにグラウンド規模ではないもんね。


「ん? あの建物は?」


 壁も床もなく、柱と天井だけの建物。


「ああ、あそこは資材置き場です。準備が整ったら私があそこに資材を搬入する予定です」


 資材置き場か。たしかに資材を雨ざらしにはできないよな。素人だとこういう部分が抜けてしまうから、プロが必要なんだろう。っていうか、マリーさんが質問に答えてくれるんだね。


「あっ……」


「こわくないよー」「キュー」「だいじょうぶ。ゆーた、やさしい」「クゥ!」「びびるひつようないぜ!」「…………」


「ひっ!」


 俺を怖がっているフィオリーナさんが気になったのか、ベル達が突撃をかましてしまった。急に寄ってきたベル達の気配に怯えた声を出すフィオリーナさん。


 気配的にはシルフィの方が圧倒的に大きいらしいのだが、寄ってきたことの方が怖かったのかな?


 でも、フィオリーナさんに精霊術師としての才能があるのは確定だな。


 身を守ることにも繋がるし精霊術師の評判も上がりそうなので、できれば美人精霊術師兼美人建築家になってほしいところだが今の様子では難しそうだ。


 だって、護衛の冒険者に心配されてそれに対する答えが、だだだだだだいじょうぶでふ、だったもん。パニック一歩手前だ。


(シルフィ、ベル達に戻ってくるように伝えて)


 ベル達は楽園で普通にジーナ達と接しているから、偶に自分達の言葉が届かないことを忘れてしまう。


 普通なら好きにさせておくんだけど、今回は相手が怯えているので戻ってきてもらわないといけない。


「しょうがないわね。みんな、その人には聞こえていないからこっちに戻ってきなさい」


 シルフィの声に、そうだった! って顔をするベル達が可愛い。結構冷静に考えるタイプのトゥルも一緒になって驚いているのが面白いよね。ちびっ子達はとても純粋だ。


 そしてそんなベル達が俺の周りに集まってきて、その気配を追いかけたフィオリーナさんが俺を疑いの目で見ている。


 もしかしなくても俺が精霊をけしかけたとか思われている?


 酷い誤解だけど、誤解を解こうとしても無駄なんだろうな。今回の旅は誤解が酷いぞ。


 まあ、誠心誠意向き合えば、いずれ誤解も解消されるはずだ。


 ……誠心誠意ということは、フィオリーナさんを見て邪な気持ちを抱かないということ。地味に難しいかもしれない。


 まあ、挨拶も終わったし、そろそろお暇することにするか。俺が居るだけでプレッシャーが掛かるみたいだしね。


 マリーさんにそう伝えると、マリーさんは少しフィオリーナさんと話があるとのことなので、村を散策させてもらうことにする。




 ***




「あ、お爺さん、精霊術の方は順調なようですね」


 村の方に戻ると先程のお爺さんがまだ畑の様子を見ていたので話しかけてみる。


「ん? ……………………おお……先生?」


 お爺さんが突然固まり結構長めの間が空いてから再起動したが、どうやら完全な再起動は無理だったようで、俺の存在をあやふやにしか思い出せなかったようだ。


「そうです、精霊術師講習で講師を務めていた裕太です」


「……おお、おお、先生のお陰で作物が順調に育っておりますぞ。実も大きく綺麗で味も良いと王都でも評判ですじゃ」


 実が綺麗なのは精霊術で作物が自分で外敵を追い払ったからかな? 大きいのは精霊術で少しずつ作物を成長させられるから、その余裕が大きさと味に現れたのかもしれない。


「順調なようなら良かったです。何か問題や疑問点はありませんか?」


 すでにお爺さんの契約精霊のところにタマモが向かい、クゥクゥとなにやら会話をしているようなので、俺が手を出さなくても何かが変わるかもしれないけど。


「疑問? ふむ、儂は畑に生えた雑草を収穫という形で精霊術を使っておるんじゃが、問題ないかのう?」


 雑草を収穫? ああ、植物を移動させる精霊術を収穫に使えると教えたんだったな。


 それを雑草取りに応用したのか。普通に賢い利用方法だと思うが、説明した用途と違う使い方をしているのが不安なのかもしれない。


「それは問題ありませんよ。むしろ素晴らしい精霊術の使い方です。欲を言えば移動させた雑草を堆肥などに活用してもらえればと思います」


 ドリーやタマモ達も畑の雑草は移動してもらっているので、その辺りは問題ない。


 ただ、楽園は土地が余っているし森もあるから雑草をそちらに移すだけで、処分はしていないんだよね。


 その面を考えると、ただ破棄するのではなく何かに利用できれば精霊達も喜ぶと思う。たしか雑草でも堆肥ができたはずだ。


 まあ、そんなに簡単な話ではないかもしれないが、死の大地での俺の素人仕事でもなんとかなったんだ。ちゃんとした土地ならなんとかなるだろう。たぶん。


「そうでしたか。安心しました。雑草は一ヶ所にまとめて発酵させておりますので大丈夫ですじゃ」


 すでに堆肥として利用するつもりだったのか。先程の資材置き場の件もそうだが、プロの仕事は理に適っていて好感が持てる。


「それなら良かったです。この先で建築をお願いしているので偶に顔を出すつもりです。なにか疑問があったら声をかけてください」


「ありがとうございます。その時にはお願いしますじゃ」


 お爺さんとの会話が終わり、再び村を散策する。


 それにしても、精霊術師講習がちゃんと効果を表している実例を見ると少し感動する。


 精霊術師講習を受けた精霊術師が、あのお爺さんのようにちゃんと精霊術を効果的に活用してくれたら、いつか精霊術師の悪評を覆せる日が来るかもしれない。


 そのために俺も頑張らないとな。精霊術師講習のことをすっかり忘れていて、リシュリーさんを困らせちゃったけど……。


 新たな決意を胸に村を散策する。


 第一印象と同じく村のお洒落度では勝っているが、長年の営みがそうさせるのか生命の濃さが段違いに負けているように感じる。


 死の大地には虫ですら珍しいし、もしかしたら長年の生活でつちかわれたであろう菌なんかも、この村に感じる生命の強さに影響を及ぼしているのかもしれない。


 歴史では完全に負けているもんね。


 あ、マリーさんとソニアさんが戻ってきた。


「裕太さん、お待たせしました」


「いえ、楽しい時間でしたので全然構いませんよ。そろそろ王都に戻りますか?」


「そうですね、用事は全部済ませたので戻りましょうか」


 他のメンバーも問題ないようなので、馬車に戻り乗り込む。今度はジーナ達と一緒の列になんとか滑り込みたい。


「裕太さん、申し訳ありません」


 馬車に乗り込むといきなりマリーさんが頭を下げた。ああ、ジーナ達、気を遣って後部座席に固まらなくても……座席の移動は失敗したようだ。


「えーっと、なんとなく何に謝っているのか分かりますが、別にマリーさんが謝る必要はないですよ」


 元々フィオリーナさんに少し問題がありそうなことは分かっていたんだ。確かに思うところがないと言わないがマリーさんが謝ることではない。


 それに警戒が強いだけで、攻撃的だったり敵対的だったりする訳でもないからね。


 まあ、俺が建築家をかばう形になっているのは少し意味不明だけど……そんなことよりも座席の移動を失敗させたことに謝ってほしい。


「ありがとうございます。少し前まではもう少しましだったのですが、私が選んだ護衛が悪くフィオリーナさんの警戒を強めてしまいました」


「へ?」


 どういうこと?


「実は護衛の冒険者さん達なのですが、裕太さんの悪評を御存じでそれをフィオリーナさんに伝えてしまったようなのです」 


 すべて把握。


 なんかすいません。色々とやらかしたのは俺の意思で、そのことについての不利益も覚悟していたが、こんなところに影響がでてくるとは……ちょっとだけ予想外だ。


 でも、結構評判は回復している気がしたのだけど……王都では俺の評判もまだまだということか。


 悪評はすぐに広まるけど、好評はなかなか広まらないな。


「裕太、村の外で待ち構えている人間が居るわよ。裕太に監視を付けていた建築会社の人間ね」


 ……シルフィ、もう、俺はお腹いっぱいなんですけど?


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
悪評の具体例がないからよくわかんないけど、どんな内容なんですかね いずれにしろ普通に依頼者の関係者の悪口を流すのは酷い
[一言] 冒険者たち〜 まあ心配して言ってくれたんだろうけど ゆうたには向かい風だなぁ とりあえずやっぱり才能あったか! 誤解解けるといいな
[良い点] 悪評って言ったって冒険者ギルドと喧嘩してギルドマスターと受付嬢をとばしたとか、貴族と喧嘩してぶっ飛ばしたとかだいたい事実だし……
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