六百九十四話 建築家登場
王都のポルリウス商会で無事にマリーさんと合流した。なぜかマリーさんのところに泊ることになったり、ジーナ達が微妙に囮にされたり、監視が付いたりしたが、まあ、たぶん問題ない感じだ。いや、マリーさん達の誤解は大問題だけど……。
マリーさんとソニアさんを連れて馬車で建築現場予定の村に向かう。
出発前にマリーさんがエリックさんを俺に接近させようと色々してきて精神的に疲労したが、全部完璧にスルーすることには成功した。
必死に誤解を解こうとするとドツボにハマる気がしたので無視することにしたが、悪くない選択だったと思う。
マリーさん達はまだ疑っているようだが、無視し続けることで諦めてくれると信じている。
「裕太さん、エリックは何かご不便をおかけしませんでしたか?」
信じているけど……先は長そうだ。
「ええ、特に不便に思うようなことはありませんでしたよ」
マリーさんとソニアさんがヒソヒソと内緒話をする。隣で内緒話は止めてほしい。
あー、馬車の外を楽しそうに飛び回っているベル達が羨ましいな。
もしくは、ジーナ達のホノボノとした会話に交ざりたい。
大型の馬車でなんとなく前部に俺とマリーさん達、後部にジーナ達と別れて座ってしまったのが失敗だった。逃げられない。
まあ、最初は二人に挟まれそうになったから、それが回避できただけありがたいと思おう。
「到着しました」
馬車が停車し、御者のおじさんの声が掛かる。
ようやくか。乗っている間中、地味に精神を削られていたから、御者のおじさんの声が天の声に聞こえた。
出発前に二時間程度で到着すると聞いていたが、想像以上に長かった。体感で半日くらい乗っていた感覚だった。
馬車から降りるとのどかな村、言葉にするとそれ以外に表現のしようがない光景が目の前に広がる。
畑に囲まれ木の柵があり、そこから見える建物もそれほど大きくない。これぞ田舎の村といった感じだ。
王都から馬車で二時間の立地でも、人が集まらなければ田舎は田舎ということらしい。
人口と立地はともかくとして村のセンスは圧倒的に勝った。何しろ、うちの村はお洒落だからな。
まあ、ベル達はそんなこと関係なく興味津々だけどね。
「ん? マリーさん、村の近くに飯場を造っているんですよね? どこにあるんですか?」
目に入るのはのどかな風景で、畑に囲まれとても建物を建てるスペースがあるように見えない。
「ああ、村を挟んだ反対側なのでここからは見えません。さっそくご案内したいところなのですが、先に村長に挨拶をお願いできますか?」
ああ、場所を借りているんだから挨拶はしないといけないな。いかん、建築家さんへのお土産は用意しているけど、村へのお土産をすっかり忘れていた。
何か考えないと……畑があるから野菜は微妙、肉類は……ドラゴン系統はやりすぎだろうし、他の肉類は迷宮で……ああ、王都は迷宮から結構離れているから、迷宮産のお肉なら喜んでくれるかも。
「分かりました。お願いします」
ラフバードを提供することにし、ちょっと自信がついたのでマリーさんの言葉に頷く。
「ありがとうございます。では、ついて来てください。こんにちは。今日はお客様をお連れしましたよ!」
マリーさんの言葉に村の門番のおじさんが笑顔で頷く。どうやらマリーさんはすでに村の門番に顔を覚えられているらしい。
軽く頭を下げて村の中に入るが、最近村の開発に尽力していたからか村の設備が気になるようになった。
細かく村の様子を確認しながら、マリーさんについていく。
第一印象でも思ったが、お洒落度では確実に精霊の村が勝っている。ただ、生活感というか、これぞ村! 感では負けていると言わざるをえない。
楽園はカラフルになったことで、テーマパーク感が増したんだよな。
「裕太さん、こちらです。村長さん、いらっしゃいますか?」
村の少し奥にある、他よりもちょっと大きめの家をノックする。
「おお、ようこそいらっしゃいました。ささ、中へどうぞ」
村長さんが出てきて笑顔で出迎えてくれる。マリーさんのコミュニケーション能力が凄いのか、村長の愛想が凄くいい。
「いえ、今回は挨拶だけで飯場の様子を確認しにいかないといけませんから。あ、村長さん、こちらが施工主の裕太さんとそのお弟子さん達です」
少し村長の家の中にも興味があったが、まあ、早く飯場を確認できるのは助かるから構わないだろう。
「裕太と申します。色々とご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」
俺が軽く頭を下げると、ベル達とジーナ達もペコリと頭を下げてくれる。ちょっとホッコリするよね。ベル達は見えていないけど。
「おお、あなたが裕太殿ですか、あなたのお陰で村に活気が満ちています。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
村長が笑顔で挨拶を返してくれる。割と俺達の印象は良いようだ。
どうやら村長さんは気質が日本人に近いようで、挨拶から、いえいえ、いやいやとお互いにペコペコする展開に発展。なんだかとても懐かしい。
「あ、これはお土産のラフバードです。解体は大丈夫でしょうか?」
インパクトを重視して、丸のままのラフバードを魔法の鞄から提供する。
「おお、これはこれは、解体は元冒険者が居るので問題ありませんが、本当にこのような立派な物を頂いて構わないのですか?」
掴みは成功したようだ。表情で分かる、これはお愛想ではなく本心から喜んでくれている。
村長の印象が良いのなら、飯場の扱いも良くなるだろう。やはり挨拶とお土産は大切だな。
「ええ、どうぞお納めください」
まあ、ちょっと悪代官の雰囲気が漂っている気がしないでもないが、俺の場合は別に競合する相手が居るわけではないから賄賂には当たらないはずだ。
無事に挨拶を終え、本命の飯場に向かう。
へー、村の裏にも畑が広がっているんだな。王都の近くだから、沢山野菜を作っても消費できるんだろう。
ん? なんかお爺さんが見覚えがある体操をしながら、畑の野菜と向き合っている。
あ、モグラの精霊がお爺さんの肩にちょこんと乗っているな。名前は忘れちゃったけど、精霊術師講習の一号生だろう。無事に精霊術を活用してくれているようで、結構嬉しい。
ちょっとお話を聞きたくもあるが、今回は本命を優先しよう。
裏側の畑は小さいようで、それほど歩くことなく畑から抜けた。
「あ、裕太さん、あの開けているところがそうですよ」
マリーさんの指さす通り、畑から少し離れた場所に開けた場所があり、何人か作業している人が見える。
「あ、フィオリーナさんです。フィオリーナさん! 施工主の裕太さんをお連れしましたよー!」
マリーさんが大声で手を振りながら呼びかける。その呼びかけに気がついたのか、女性が一人こちらに向かって歩いてくる。
なるほど、建築家さんはフィオリーナさんって言うのか。いよいよご対面だな、緊張してきた。
んんん?
俺のイメージでは男社会を突っ張って頑張っている女性なのだから、ジーナやイフのような男勝りタイプ、もしくはシルフィやリシュリーさんのような怜悧な秘書タイプを想像していたのだけど……見た目の印象は……ディーネタイプ、特に胸部装甲が……。
「フィオリーナさん、こんにちは。こちらが裕太さんです。裕太さん、この方が建築家のフィオリーナさんです」
「こ、こんにちは。お仕事をお願いしている裕太です。素晴らしい設計図をありがとうございました」
くっ、真摯に対応するつもりだったのだけど、邪な感情が……せめて表には出さないようにしないといけない。
「フィ、フィオリーナと申します。お仕事を任せてくださり、ありがとうございます」
凄く、凄く綺麗な人だ。第一印象は間違っていなかったようで、少しゆっくり目に話すおっとりしたゆるふわな感じの美女。タイプ的にはベティさんに近い気もするが、一緒にするのは失礼になるだろう。
そんな人がよさそうな雰囲気のフィオリーナさんだが、警戒心が丸分かりだ。
まあ、警戒しているのが丸分かりでも人の好さが伝わってくるのも面白いのだけど、なんと表現すればいいのか……ああ、ピッタリな表現があった。
レッサーパンダとかアリクイとかの可愛らしい威嚇のポーズ。威嚇しているのは理解しているけど、可愛いとしか言えないのと同じ感覚だ。
もしかして、王都の建築関係の人達は女性差別が問題なのではなく、フィオリーナさんを手に入れるためにいちゃもんを付けて経済的に追い込もうとしていただけなのでは?
好きな子にはちょっかいを出さずにいられない、そんな小学生男子がそのまま成長して悪辣になった、そんな予想すらしてしまう。
それくらいに美貌が際立っている。
ん? 警戒しているのは確かだけど、フィオリーナさんの視線がチラチラとシルフィの方を向いている。
もしかして、フィオリーナさんって精霊術師の才能があるんじゃないか?
シルフィに目線で問いかける。
「……あの子とは分かり合えない何かを感じるわ」
……シルフィの視線が特定の部分に向かっていなければ、精霊術師の才能があっても性格的に問題があると判断する言葉なのだけど……ねえ、ちゃんと人柄で判断している?
「フィオリーナさん、工事の進捗はどうですか?」
疑惑の判定としか思えないシルフィの態度に困惑していると、マリーさんが話を進めてしまった。
今判断するのは難しそうなのであとでしっかりと問い詰めることにして、まずはフィオリーナさんとの会話に集中しよう。
「工事については今のところ問題は起こっていません。人も集まってきたので、飯場が整えばすぐに建設に入れると思います」
順調っぽいな。人が増えたのはマリーさんの手腕だろう。お、工事現場の方から数人の女性がこちらに向かって走ってくる。
おお、かなり鍛え上げられていて冒険者なのが丸分かりだけど、女性の冒険者達だ。
「おいおい、現場を離れる時は安全だと思ってもちゃんと声をかけてくれよ」
「すみません。マリーさんが施工主さんを連れてきてくださいましたので、慌ててしまいました」
ワルキューレは美女ぞろいのパーティーだったけど、目の前の冒険者達は某筋肉冒険者パーティーに近い雰囲気を感じる。でも、人は良さそうだ。
もしかしなくても、この人達はフィオリーナさんの護衛か。
うん、失礼な考えかもしれないが、むさくるしい建築現場にフィオリーナさんのような美女を歩かせるのは、ライオンの前に生肉を投げ入れるようなものだ。護衛は必須だよね。
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