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六百九十三話 色々と怪しい

 王都のポルリウス商会に到着し、知らないところで生贄として捧げられそうになっていたポルリウス商会跡取り、エリックさんの案内でマリーさんと会うことができた。提供した若返り草のお陰で人員も問題ないと分かり、明日には建築家さんを訪ねることが決定した。




 マリーさんとの細かい打ち合わせも終わり、マリーさんに案内されながらジーナ達のところに向かう。


「それにしても色々な商品があるんですね。ポルリウス商会は結局どういった商会なんですか?」


 広い店内に所狭しと商品が並べられている。こうしてみると控えめな激安の殿堂スタイルなのだが、こちらの場合は品物から高級な感じを受けるのでミスマッチにも思える。


 デパートみたいな商品を生かす配置にしたら、もっと高級感を出せそうだから少しもったいない感じだ。


「父がかなり手を広げましたので、どういったというのは少し難しいですね」


 俺の質問にマリーさんが困った様子で応える。なるほど、お父さんもマリーさんと似た貪欲なタイプなんだね。いや、この場合はマリーさんがお父さんに似たのか。


 色々手を出して総合商社のような感じになっているのかもしれない。


「しいて言えば、少し裕福な庶民がメインターゲットで、でも庶民でも頑張れば手を出せる品質確かなお店……でしょうか?」


 強いて言われてもよく分からないな。


「革製品が並んでいますが、少し裕福な庶民が対象なんですか?」


「この辺りの商品は迷宮で安く仕入れてきた、ランクが低い物が中心ですからね。裕太さんから卸していただくような特別な物は、貴族街近くの店で扱っています」


 革製品は高級品というイメージがあったけど、この世界だとそうでもないのか。


 そういえば日本と違って迷宮から魔物の革が簡単に手に入るし、合皮も存在しないから基本が革か布なのか。それでも革は手間と技術が必要だから、少し裕福な庶民がメインターゲットになる訳だな。


 理解したし、商品の配置がちょっと雑なのも納得した。


 あと、貴族街近くのお店は、たぶん俺が卸した珍しい魔物の製品や、薬草関連の魔法薬が高値で販売されているのだろう。


 ちょっと見てみたくもあるが、地球の高級ブランドメーカー以上に壊れた値段がしていそうなので、近づくのは止めておこう。


「ここでの、取り扱いは革製品だけなんですか?」


「いえ、場所ごとに商品を別けて販売しています。私が開発した雑貨や、裕太さんから教えていただいた商品も一階で販売していますよ。ご案内しますか?」


「いえ、ジーナ達との合流を優先してください」


 興味がないこともないが、たぶん後でジーナ達が説明してくれるだろう。弟子達の話を聞くのもなんだか楽しいから今回はそちらに期待だ。


「分かりました」


 そう言いつつも、マリーさんが少し残念そうにしている。もしかしたらお店や商品の自慢をしたかったのかもしれない。


 ちょっと申し訳ないことしたと思いつつ、無事にジーナ達と合流。ソニアさんの案内が上手だったのか、店内の商品が面白かったのか分からないが、ジーナ達がとても満足そうなので問題はなかったようだ。


 フラグが立ったなんて思ってしまった、俺のゲーム脳は少し深刻なのかもしれない。


 合流した後、笑顔で色々と店内の様子を教えてくれるマルコとキッカの言葉に耳を傾けながら店を出ると、ドドンと馬車が待ち構えていた。


「では、宿泊所にご案内しますので、どうぞお乗りください」


 別にマリーさんのところに泊めてもらうつもりだったから構わないのだけど、なんだか逃がさないぞって雰囲気を感じて少し怖い。


 あ、マリーさんもソニアさんも一緒にくるんですか。お仕事は? あ、俺の相手が一番重要なお仕事だと。光栄です?


「裕太、私達に監視が付くようよ」


 ホワイ? え? なんで監視? マリーさん……の仕業ではないよね。ポルリウス商会のゲストハウスに泊るのだから、言ってみればそこのスタッフ全員が監視みたいなものだ。


「どうやらソニアがジーナ達を案内しているのを見て、ただ者ではないと判断したようね。女子供相手にあのソニアが案内、ただごとではないって言っていたわ。そこにマリーに案内された裕太が合流して一緒に馬車に乗り込んだから、なにかしらの弱味を期待しているみたい」


 マジか……シルフィの情報だから間違いはないだろうが、一緒に行動しただけで監視が付くほどマリーさん達は注目されているのか。


 ゲーム脳を心配したが、満更間違いでもなかったようだ。


 それはそれとしてどうしたものか。シルフィの口調はのんびりしているから、緊急事態ってことはないだろう。


 なら、あとでシルフィに、監視を付けた大元を探ってもらって、対処を考えることにしよう。



「皆様、ようこそいらっしゃいました」


「あ、エリックさん、突然の訪問申し訳ありません。よろしくお願いいたします」


 馬車を下りると、笑顔のエリックさんが出迎えてくれた。この人にはなんとなく迷惑を掛けている気がするので、礼儀正しくしないといけない気分になる。


「いえいえ、裕太様にはポルリウス商会がとてもお世話になっております。このようなことでしたら何の苦労もございません。いつまででもご逗留ください」


「あ、ありがとうございます」


 ありがたいことだけど、王都に長期滞在は嫌なので社交辞令として受け取っておこう。


「お兄様、玄関で立ち話もなんですから、中への案内をお願いします」


「おお、そうだった。裕太様、ジーナ様、サラ様、マルコ様、キッカ様、申し訳ありません。どうぞお入りください」


 マリーさんに促されたエリックさんの案内で家の中に入る。ゲストハウスだって言っていたけど、かなり豪華な造りだ。やはり悪事の臭いがしないこともない。


 バカなことを考えていると俺達が泊まる部屋に到着し、夕食まで休憩ということになった。


 ベル達のこともあるしできれば食事は別々が良かったのだが、まあ、長くても数日程度の予定なのでベル達には我慢してもらうことにしよう。

 

 コッソリご飯を食べるのも楽しいみたいだし、ベル達が嫌がることはないだろう。


 部屋に入りジーナ達の軽い報告を聞いた後に、シルフィに監視について相談するために寝室に向かう。


「……シルフィ、なんでそんなに笑顔なの?」


 表面上はあまり変わっていないが、俺には分かる。シルフィが爆笑レベルで笑っている。


「ふふ、裕太にも聞かせてあげるわ」


 言葉と同時に俺の耳に風が当たる。これは、マリーさんとソニアさんの会話?


 盗聴は悪人相手限定でお願いしたい……が、マリーさんだもんな。ギリギリ悪人判定というか、要注意人物判定でセーフかな?


「やはり裕太さんは怪しいですね。お兄様と私との扱いに差があります」


「そうね、エリックと初対面であることを加味しても、扱いが丁寧過ぎるわね。かなり気を遣っているように感じたわ」


「そうですよね。いまだに私に対してアピールをしてくることもないですし、ソニアにもないですよね? やはりそういう趣味なのでしょうか?」


「私にもありません。むしろ警戒すら感じます。もう少しエリックを接近させますか?」


「そうですね。館でのもてなしはエリックに任せましょう」


 ……消え去ったはずの疑いが再燃しているだと!


 マリーさんとソニアさんにアピールしないのは性格が問題だからであって、そっち系の趣味だからではない。


 マイノリティに差別意識がある訳ではないが、だからといって自分がそういった誤解をされるのは困惑しかない。というか、知らない間に生贄にされているエリックさんが一番可哀想だ。


 お兄さんで跡取りなんでしょ。大切にしてあげてよ!


 あと、どうにかしようとしても、どうにかする手段が限られているのが辛い。だって、向こうは内密の話として扱っていて俺は何も知らないはずの状態なんだ。


 誤解を解こうとするとおかしなことになる。


 ……出来るだけ早く王都を脱出しよう。


 俺的には明日の顔合わせが終わったらすぐに帰還したいところだが、王都に来てジーナ達に観光させないのは可哀想だ。一日は観光の時間を確保しよう。


 なんかあれだ、とても癒されたい。まだ日が暮れるまで時間があるけど、ベル達を召喚して癒してもらおう。


「監視については聞かなくていいの」


 そうだった、それが本題だった。ベッドに倒れ込んでふて寝を決め込もうとしたが、起き上がりシルフィに顔を向ける。


「監視を派遣したのは王都の商会と建築会社の二つ。両方とも本職ではなく素人ね。従業員だと思うわ。商会の方は利益目的での弱点の探り出し、建築会社の方は今回の仕事の施工主の調査。それで施工主、まあ裕太のことだけど、その裕太に好条件を出して仕事を奪い取りたいようね」


 うん? 情報を隠すような指示は出していないはずだけど、俺が施工主ってことは知られていないのか。


 王都でもそれなりに名前が売れていると思っていたが、それほどでもないのか? そういえばこの世界には写真等の技術がないんだったな。


 名前が売れていてもほとんど王都に顔を出さないから、顔に関してはほとんど認識されていない可能性が高い。


 それに加えて、マリーさんというかポルリウス商会の作戦も噛んでいる気がする。


 俺って割とアンタッチャブルな存在なはずだし、ちょっかいを掛けてくる商会の首根っこを掴むために存在を利用されている可能性がある。


 知らせずに利用されていることに少し思うところがあるが、ライバル商会を釣りだすことを含めて俺に関係ないところで終わらせるつもりなら問題はない……のか?


 なんか感情の面で少しモヤモヤするな。


「直接被害を受けそうな危険な動きはないんだよね?」


「よっぽどのことが無ければ大丈夫ね。裕太についた監視を監視している人物が居て、こちらは明らかにプロね。で、そのプロは何組かで行動していて、一人がポルリウス商会の建物を訪れているわ」


 やっぱりちゃんとフォローは考えてあるのか。それで俺達に微塵も危険が及ばなければ、何も起こらなかったということで処理されるんだろうな。


 うーん、このやり口、少しマリーさんっぽくない気がする。


 今日のポルリウス商会でジーナ達を半分囮にしたように、マリーさんは意外と正直というか隠して俺にバレたら怖いことを知っている。


 そういえばポルリウス商会の長、マリーさんのお父さんだけど、誰かにタヌキって言われていたな。もしかしたらそっち方面の計画かもしれない。


 まあ、商会や建築会社が俺達をどうこうできるはずもないし、なにかしらの面倒事が起こったら、マリーさんの親父さんにも俺達の怖さをしっかり理解してもらうことにしよう。


 そんなことよりも、まずは俺の性癖の誤解を解く方が重要……いや、明日の建築家との顔合わせの方が重要だ。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゆうたはほもw
[一言] 「性癖の誤解を解く」というお題目の下、王都にあるであろうベリルの宝石みたいな高級店に行っちゃいなYO!
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