六百八十八話 端的に美しい
迷宮都市での設計図の確認も無事に終わり、当初の予定とは違ったが美しくなるであろう村の設計図を手に入れ、その建築家に村の建物の建築もお願いした。ただ、その建築家は立場が弱いらしく、そのフォローの為に次回の納品で多めに若返り草を提供することになった。
「本日は村の中央広場にレンガを敷き詰めていこうと思います」
迷宮都市への日帰りから二日、いよいよ新・精霊の村造りを開始する。まあ開始するまでに紆余曲折あったけど……ディーネの説得が意外と難航した。
それはともかく、村なんてどう作れば効率が良いかも分からないし、メインになる建物もまだ完成していないので、分かりやすいところから始めることにした。それが中央広場。
文字通り村の中心になる場所で、中央広場の中央には噴水を設置する予定だ。無論、その噴水は建築家に依頼してある。ディーネにお願いされた時とは違い、今の俺には人脈もお金もあるのだ。
中央広場はパステルカラーのレンガをモザイク柄になるように敷き詰め、等間隔に花壇とベンチを設置する予定だ。
想像でしかないが華やかな憩いの場所になる予定。
将来、お店に興味を持つ精霊が増えたら屋台なんかも出してほしい。いや、広場の雰囲気的には屋台よりもマルシェが似合いそうだ。市場ではなくマルシェ、この微妙な違いが重要。
まあ、ちゃんと華やかにレンガが敷き詰められるか、それが問題なんだけどね。
モザイク柄からモザイク画を連想して、何かレンガで絵を描いたら素敵かもとか思ったが、残念なことになるのが目に見えていたので断念した。
子供が描く芸術は素敵だからベル達やジーナ達に任せるのはどうかとも考えたが、村造りに前衛芸術を取り入れる度胸が俺にはなかった。
ついでに、レンガの敷き方も妥協してしまった。
噴水を中心にして円になるようにレンガを敷き詰めようかとも思ったのだが、円はアレだ、難易度が高いと脳内の俺が訴えかけてきたので妥協した。
妥協はしたが自分でも賢明な判断をしたと思ってはいる。絶対に歪む。
なのでパステルカラーのレンガを規則的に、でも、段ごとにズラしながら並べていく予定だ。まあ、それをモザイク柄と言っていいのか微妙だが、モザイク柄ということにしておこうと思う。
「ならべるー。べる、みどりのー」「キュキュー」「ぼく、きいろ」「ククゥー」「あかだぜ、つよいぜ!」「…………」「あう!」
ベルは薄い緑、レインは水色、トゥルはライトイエロー、タマモはちょっと濃い目の緑、フレアは少し薄い赤、ムーンは水色よりも薄い青で、サクラはピンク。
そう、ベル達とサクラは自分達の好きな色を順番に並べていく作戦だ。多少のミスはあると思うが、これである程度規則的に並べられると思う。
ジーナ達はそれぞれの契約精霊と協力しながら、ジーナとサラの指揮の元並べる作戦。
大精霊達は総合監督やお手伝いの予定。それに加え、ノモスとドリーは花壇の設置も担当する。
すでにノモスが広場の範囲を平坦にした上でレンガ一つ分掘り下げてくれているし、レンガを並べやすいように目印もつけてくれているので、小さい子達でもちゃんと並べられるはずだ。
ノモスって芸術的なセンスを除けばすさまじく優秀なんだよね。
「じゃあ開始です。チームごとに一列ずつちゃんと綺麗に並べてね」
俺の合図と同時にベル達と弟子達が素早く動き出す。
「あー……とりあえず俺はレンガをもっと並べやすい位置に移動させるよ。シルフィ、悪いけど手伝って」
「その方が良さそうね」
レンガにいち早く到着したのはベル達だったが、レンガをもって移動を始めると直ぐにジーナ達に追い抜かれてしまう。
そうだった、物を持ち運ぶ時は飛ぶスピードが落ちちゃうんだった。さすがにレンガを口に入れて運ぶわけにはいかないので、山と積んであるレンガをもっと広場に近づけることにしよう。
それにしても、みんな結構楽しそうだな。
目印に合わせてピッタリレンガを置いて、自慢げに胸を張るベル達やサクラがとても可愛い。
ジーナ達も楽しそうだけど、マルコとキッカは自分の契約精霊達と協力しながらも遊んでいる様子で、その様子をジーナとサラが親のような目線で優しく見守っている様子に少し違和感を覚える。
ジーナはまだかなり若いお母さんに見えなくもないが、サラは年齢的にマルコ達側なんだよね。
スラムに落ちた苦労と、それに負けずに頑張り、その上でマルコとキッカの面倒まで見ていたのだから、精神年齢が上がってしまったのだろう。
苦労が身になっているので悪いことではないが、もう少し子供らしくいれる環境を用意してあげたいな。
まあそれでも、出会った頃と比べると子供っぽい部分も増えたんだけどね。余計にしっかりした部分も増えた気がしないでもないけど……とりあえず俺もさっさとレンガを移動させて、レンガ並べに加わるか。
「みんなー、ごはんなんだぞ!」
ベル達やジーナ達を見守りつつレンガを並べていると、ルビーの声が聞こえた。
どうやらお昼の用意が整ったらしい。
今日は村造りの第一歩ということで、ルビー達にバーベキューをお願いしておいた。今日は精霊達の訪問がお休みなので上級精霊全員で準備してくれたようだ。
自分達が並べたレンガを見ながらお昼という趣向だ。
「みんな、作業は一時中断、お昼にするよ。ちゃんと手を洗ってルビー達のところに集合」
俺の呼びかけにちびっ子達が喜びの声を上げ、手を洗うという言葉に反応したレインが大きな水球を生み出す。
そこにちびっ子達が集まり、きゃっきゃと笑いながら手を突っ込んで洗う。マルコは顔ごと、ベルにいたっては手どころか体ごと突っ込んでいるが、まあ綺麗になるから構わないだろう。
あと、別に生活魔法でも構わないのだけど……言わないでおくか。レインが嬉しそうだし。
「ルビー、エメ、サフィ、シトリン、オニキス、準備ありがとう」
手を洗い、ルビー達に準備のお礼を言う。
「こういうのも楽しいから問題ないんだぞ。それよりももう焼けているから早く食べるんだぞ」
おっと、既に食べられるようにしてから呼んでくれたようだ。焦がすともったいないし、お礼は食べた後にして食事を開始するか。
マルコとキッカなんてお肉に釘付けだしな。
「じゃあ食べようか。いただきます!」
俺の言葉にちびっ子達が焼き台に突撃する。ルビー達が取り分けてくれるようだし、お任せして俺も食べさせてもらうか。動いたから結構お腹が空いた。
うん、これはオーク肉だな。もはや食べなれた味だけど、こうやって大勢で食べると普通に美味しい。
まあ、ドラゴン系のお肉の方が美味しいのだが、常にドラゴン肉というのも人としてどこかおかしくなりそうだから、こういう美味しさが楽しめるのは良いことだ。
お、オイルリーフのお浸し。
迷宮都市で普通に食材が買えるようになって、ほとんど畑仕事をすることはなくなったが、ドリーやタマモがいまだに畑の面倒をみてくれている。
滅茶苦茶美味しいって訳じゃないが、懐かしの味で嬉しい。ベル達は苦手だったけど、俺は最初に食べた時は感動したな。久々の野菜、美味しかった。
ほのぼのと料理を食べながら、並べたレンガを見る。
端的に言って美しいと思う。色も様々でけばけばしくなることを心配していたが、パステル系でまとめたからか、淡くファンシーな雰囲気になっている。
祝福の地の建物だと明るすぎて合わないが、選んだ設計図は明るい雰囲気なのでこの広場もマッチするだろう。
ただ……思ったよりも作業が進んでいない。
自由に使える土地が広いから、広場も大きめにしたのが裏目に出た。午前中いっぱいで二十分の一も終わっていない。午後も頑張る予定だけど、広場だけで十日くらいかかりそうだ。
広場以外にも道や細々とした施設をレンガで作成する予定なのだが、かなり大変な気がしてきた。
……まあ、のんびり楽しく作業していればその内終わるか。その為にもしっかり食べて、午後も頑張ろう。
***
翌日、噴水と花壇の植物以外の広場のすべてが完成した。
予想外なことが二つあったからだ。
まず一つ、今日も朝からみんなで作業を開始した。そこに昨日は休みでいなかった精霊達が遊びに来て、俺達の作業に興味を持った。
お手伝い人員が激増した。
二つ、これは俺のせいなのだけど、作業開始前に俺がこうやって並べるんだよとお手本を見せていたのだが、それは人間のやり方でしかないことに遊びに来た精霊が気がつく。
わざわざ手を使わなくても、それぞれの力で運べばよいのだと……。
そう、風の精霊は風の力で、水の精霊は水の力で、土の精霊は土の力で、植物の精霊は植物の力で、それぞれの属性に適した力でレンガを運べば効率が倍増した。
まあ、力が弱い精霊や、物を運ぶのに向いていない属性の子達は手作業だったけど、それでも数が多いので日が暮れる前には終了した。
で、現在はお手伝いをしてくれたチビッ子達へのお礼として、噴水以外完成した広場でパーティーを開催している。
宴会でないのは、参加者の大部分がチビッ子だからだ。
二日連続でルビー達に協力を仰ぎ、美味しいご飯と甘味の大盤振る舞いをしている。
そこら中でちびっ子達がはしゃいでいてとても微笑ましい。
あと、もう日が暮れているのに光の精霊がパーティーに参加している。どうやってかというと、まだ空の花壇に光茸を配置してだ。
光のチビッ子精霊が光るキノコをもって嬉しそうに挨拶してきた時は、ちょっときゅんとしてしまった。
夜なのにみんなと遊べるの楽しいって、凄く輝いた笑顔だった。まあ、光茸を持っていたから物理的にも輝いていたけどね。
それにしても……明日からどうしよう?
広場以外の方針がまったく決まっていない。設計図はあるがイメージ図に近い物だから、拡張性はあるが具体性は乏しい。
まあ地形も環境もあやふやだから仕方がないのだけど、だからこそ迂闊に道を作るのは止めておきたい。
……うん、明日は関係者を集めて会議にするか。徐々に決めていけばいいとのんきなことを考えていたけど、この分だとあっという間に作業が終わりそうだから先々まで決めてしまおう。
「ゆーたー。これ、おいしー」
おっと、ベルが美味しい物を教えに来てくれた。とりあえず今はパーティーを楽しむか。
読んでいただきありがとうございます。




