表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
688/762

六百八十六話 設計図決定

 精霊の村と図書館の設計図を受け取りに日帰りで迷宮都市に向かった。こっそりシルフィに確認してもらったところ、ベティさんのダイエットは問題なさそうだったので安心してマリーさんの雑貨屋に向かう。そして、突然現れた俺に焦って出迎えてくれたマリーさんの頭には羊の耳が生えていた……。




「お待たせして申し訳ありません」


「いえ、気にしないでください」


 マリーさんとの話し合いはいったん仕切り直しとなった。マリーさんが着替えたがったからだ。


 俺としては別にそのままでもと言ったのだけど、このままでは集中できませんと半泣きで言われてしまっては受け入れざるを得ない。


 羊のコスプレをしたマリーさん、結構可愛かったんだけどな。そう考えるとソニアさんがなんのコスプレをしていたのかを見られなかったのも少し残念だ。


「集まったのはこちらになります。ご確認ください」


 マリーさんが俺の前に並べたのはいくつもの分厚い書類の束。村の設計ということで大きめの羊皮紙を使っているようなので、厚みほど情報量は多くなさそうだが期待で胸がわくわくする。


 さて、どんな設計になっているのかな?


 ……なるほど、一番大きな羊皮紙は村全体のイメージ図で、それ以外の羊皮紙に建物の設計等の細かい部分が書き込まれているのか。


 そうなると、一つの設計図で全てを決めるのではなく、組み合わせるという方法もありか?


 でも、こういう設計図を書く人ってプライドが高そうだし、文句を言われる気が……いや、楽園のことは知りようがないから、部分的な利用にも報奨金を出しておけば問題はないか。


 さて……一枚目は……うーん、なんていうか……平凡?


 それでもノリと勢いで作った感がある今の精霊の村よりかは整っているのだが、祝福の地を見た後では弱い印象を受ける。


 まあ、大まかな土地の広さと、レンガ造りの村という希望、そして望む建物の形式しか伝えていないから、無難なところに落ち着いてもしょうがないか。


 でも、細部まできちんと書き込まれているし、手抜きという訳ではないようだ。田舎に一から造ると伝えてあるから、実現可能な域まで落とし込んでくれたのかもしれない。


 設計は多少無茶でもある程度なんとかなると伝えているが、精霊の存在を知らなければ無茶の水準も低くなるよね。


 とりあえず弱めのキープ。これを越える物がなかったら、この人にもっと強気で設計をし直してもらおう。的からは外れていたが、依頼者のことを考えているところは好感が持てる。


 偉そうなことを考えて次の束を手に取る。


 なるほど、こう来たか。悪くない……というか結構好きだけど、この設計者からは悪意を感じなくもない。でも、考え方は好きだ。


 羊皮紙に描かれているのは巨大な城。


 そう、村のスペース全体に一つの巨大なお城を建てて、それですべてをまかなうという発想には面白さを感じる。


 同時に、まあ、田舎者には無理だろうけどね(笑い)的な心情も見え隠れする。


 ただ、一応俺からの要望も全部満たしてはいるから、仕事には真面目……いや、いちゃもんを付けられる部分は全部潰している感じか。


 どうしよう、設計図があるなら、建てられないこともなさそうなところが悩ましい。


 普通に城を建てちゃって、設計者を連れて行ってドヤ顔してやりたい。凄く楽しいことになりそうだけど、悪意が垣間見える人を楽園に連れて行くのはあり得ないな。


 でも、何かには使えるかもしれないから、設計図は確保しておこう。


 次は……これも無難だな。一番目の設計図を更に無難にした感じなので落選。


 次も……駄目だな。その次も……駄目だ。


 なんか審査員が辛口になる気持ちが少し分かったかも。真剣に見ると、なんとなく設計者の意図が読み込めるんだよね。


 王都の建築家というプライドが邪魔をするのか、どこぞの田舎者の村なんかこの程度で十分だろうという蔑みが感じられる。


 自意識過剰かもしれないが、こういう無難に蔑みを隠した設計よりかは、二番目に見た城の設計者のほうが親しみを覚える。


 まあ、それよりも真面目な一番目の設計者の方が好感度マックスだけどね。


 さて、残りも少なくなってしまった。この中に当たりがあることを願おう。


 駄目、駄目、……ん?


 これは……良いんじゃないか? 残り二つでようやく当たりを曳いたかも。


 少し想像とは違うが、とてもよく考えられている。なるほど、祝福の地で感じた威厳やスタイリッシュな雰囲気は感じないが、精霊達を考えるとこちらの方が適しているようにも思える。


 牧歌的な雰囲気を感じさせながらも、カラフルなレンガを活用して華やかに、それでいて落ち着きが感じられる。


 昔テレビで似たような雰囲気の観光地を見た気が……ああ、フランスのリク……リクヴィルだったか?


 あの町はたしか木造建築が多かった気がするが、それを色レンガで鮮やかに表現し、建物が少ない部分を花壇等で更に華やかにした雰囲気。


 祝福の地からドイツ系の雰囲気を想像していたから若干意表を突かれたが、これはもう決まっちゃったんじゃないか?


 ただ、そうなると村が華やかな分、俺がイメージしていた図書館と雰囲気が乖離してしまいそうだ。


 カッコよく迫力ある図書館という要望を出したが、この設計者はそれをどう落とし込んだんだろう?


 えーっと、図書館の図面はこれか……ふむ……そうきたか。


 雰囲気はロココ様式に似ている気がしないでもない。なんとなく可愛らしさも感じる佇まいだが、色レンガを使わないことで重厚感を出しながらも、他の建物との調和を図っている……ように思える。


 建築に詳しくないが、これでもう決まりかもしれない。少なくとも俺は気に入ったし、ベル達もジーナ達も大喜びするだろう。


 最後の一つは……あ、これも無難なやつだ。最後から二つ目の奴で決まりか。


 もう一度図面を広げ、軽くシルフィに目線を合わせる。


「私もそれが一番いいと思うけど、再現できるのかしら?」


 シルフィが首を捻っている。そこが一番の問題ではある。ノモスの技術的には可能なのは間違いないが、美術センスが足を引っ張りそうな予感はプンプンする。


 シトリンの協力は間違いなく必要だが、それ以外の土の精霊の協力もお願いするべきだろう。


 花壇等の植物はドリーに任せれば問題はない。


 そうなると、他の建物もしっかり確認しておくか。


 どれもこれも悪くない。食堂も宿屋も雑貨屋もその他も、外観は間違いない。ただ、中身が普通の人間に合わせた作りになっている。


 特に宿屋だな。あそこは精霊達が漫画喫茶のように小さめの個室で自分の空間を楽しむ場所だから、今の作りでは対応できない。


 自分達で勝手に改装しても構わないが、これだけ素晴らしい設計をしてくれる人なら、内装も全部お任せしたくもある。


 いっそのこと、内装も含めて建物も全部作ってもらうか? マリーさんも王都にお金を流して欲しいみたいだし、こちらとしても美的センスに不安がある。


 俺達の家のように収納できるように造ってもらうのはアリだ。


 資材を用意はしたが、それは設計図を参考に建物以外の部分に利用すれば無駄になることはない。


 うん、決まりだな。


「マリーさん、この設計図に決めました。細かい要望を出しますので、建物の建築をお願いしたいです。ああ、一番目と二番目の建築家も気に入ったので、別途報酬を出します」


 一番目はその誠意に、二番は他とは違う面白さにお金を出したいと思った。


「やはりその建築家を選びましたね。才能があるのですが、性別が不利で苦労されているので私も応援しているんです」


 にこやかにマリーさんが告げる。


 性別で不利? ああ、マイノリティな感じなのかな? 美術関連はそういう人が活躍しているイメージがあるから、なんとなく納得できる。


「そうなんですね」


 まあ、俺としては仕事が素晴らしければマイノリティだろうとなんの問題もない。


「ええ、女だなんだとグチグチ言うやつが多くて困ります。しかも、そういう文句を言うやつに限って女を利用しようとするんですよ。腹が立ちます」


 マイノリティだと思ったら普通に女性だったらしい。


 そうか、建築業界とか男社会だもんな。まあ、日本だと女性差別だなんだと大炎上しそうだけど、この世界だと男尊女卑も仕方がない……あれ?


「あの、マリーさんやソニアさん、ベティさんやリシュリーさん、活躍している女性をかなり知っているんですが、女性差別があるんですか?」


 一瞬、中世スタイルなら仕方がないかと思ったが、俺が知っている限りでは女性がかなり活躍しているし役職にもついている。料理ギルドのマスターも女性だったはずだ。


 まあ、ジーナはある意味女性として差別されていた気がしないでもないが、あれは悪意というよりも過保護だからだろう。


「業界によって変わります。ギルドは割と自由で、国関連は完全な男社会、建築業界は国との関りが深いのでかなり男性有利ですね」


 業種によって違うのか。でも、それ以外では普通に活躍しているのだから、ある意味では地球よりもマシなのかもしれない。


 まあ、差別問題はデリケートで俺には手が出せないし注文を優先しよう。



「こんな感じでお願いできますかね?」


 思いつく限りの注文を並べてみた。特に図書館と宿屋。


「できるできないで言えば、図書館以外はできると思います」


「え? 図書館は無理なんですか?」


 俺的に一番ロマンを感じている部分がソコなんだけど……。


「ドラゴンも気軽に持ってくる裕太さんですから、魔法の鞄の容量には目をつぶります。ですが、さすがに裕太さんが注文したレベルの建物が王都で一瞬で消えたら大騒ぎになりますよ? 裕太さんは目立つことを望みませんよね?」


 あー、たしかにそうなるか。世界中の本を集める予定だから、かなり大きく設計してもらったもんな。そりゃあ騒ぎになるか。


 図書館だけ自分で造るか?


 うーん、どうせなら統一感が欲しいよな。基本的に王都には近づかないし、騒ぎになっても王様の短剣があるから大丈夫だろ。


 自分の欲望を最優先してしまったが、欲しい物は欲しい。だからしょうがない。


 そういえば、巨大な建物を造る場所はあるんだろうか? 王都に土地が余っているイメージはないよな。


 ふむ、そのことを含めて詳細を詰めていくことにしよう。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 理想的なのは女性建築士がメルみたいな精霊と契約して建築してる場合で楽園で直接造ってもらうパターンかな
[一言] 城はいつか作りそう
[一言] おー!! なんかかわいい雰囲気になりそうで楽しみ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ