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六百八十三話 酒島視察

 子爵領に石橋を架けた件が、寒村の村長家の家庭内問題を誘発してしまう。燃え尽きるほど働いた村長は働くことを拒み、村長の息子は村長一族の将来を考え領主にできる限り協力することを望んだ。万事解決とはいかなかったが、両者の落としどころがみつかり家庭内問題が落ち着いたので俺は様子見をすることにする。




 わざわざ遠い子爵領まで足を運び、結局盗み聞きだけで終わってから数日。毎日コツコツと精霊の村に必要そうな資材の確保に邁進している。


 といっても、基本はノモスやドリー頼りなので、ノモスを醸造から引き離すのに苦労するだけでのんびりとした時間が流れている。


 さて、今日はどうしようかな?


 資材もある程度用意できた。これ以上は村の設計図が用意できてからの方が良いだろう。


 ジーナ達の修行も順調だし、ベル達とは楽園の見回りをしながら毎日楽しく遊んでいる。


 楽園の改修で新たに用意したエリアは精霊達に人気で、遊びに来た精霊達もとても喜んでいる。まあ、昼間の光エリアは人気があまりないんだけどね。


 でも、夜は大人気だから問題はない。逆に闇エリアは昼間が大人気だ。あちらは洞窟探検が子供心をくすぐるのか、闇の精霊以外の出入りもそこそこあるようだ。


 新たな森エリアも順調だ。ドリーとラエティティアさんの指導の元、タマモとサクラが張り切っているから当然と言えるかもしれないが、タマモとサクラの頑張りと、その二人に協力するベル達やジーナ達の優しさにホッコリする。


 遊びに来ている精霊達もお手伝いしてくれて、森はいつも賑やかだ。


 迷宮都市に顔を出すのはまだ先だし、あんまりやることがないな。しばらくのんびりするにしても、何もしないでダラダラし続けるのは師匠としての面目に関わる。


 ……そうだ、久しぶりに酒島の視察でもするか。


 精霊達に悪意がないことは知っているが、お酒に関しては精霊を放置し過ぎると怖い。安心の為にも様子を見に行こう。


 酒島となるとベル達もジーナ達もお留守番だな。


「みんな、今日は酒島へ視察に行くから、みんなは自由に過ごしていいよ」


「べるもいくー」


 ベルを先頭にちびっ子達が群がってきた。とても可愛い。あと、ジーナがちょっと一緒に行きたそうにしている。意外とお酒、好きだもんね。


「お店の精霊とお話ししたり、困っていることがないか確認したりするだけだからあんまり面白くないよ。そうだ、お手伝いをしてくれるなら、俺は今日は見回りできないし、楽園の見回りをお願いできるかな?」


 精霊であるベル達をお酒から遠ざける意味はないのかもしれないが、子供や小動物を酒場に連れて行くのは抵抗がある。


 最初はちょっとションボリしたベル達だが、お手伝いという言葉に笑顔になる。お手伝いという言葉で喜んでくれるのは俺もとても嬉しい。


「ジーナ達はどうするの?」


 やる気満々で飛び出していったベル達を見送り、ジーナ達に話しかける。


「あたしは軽く訓練した後に食堂の手伝いに行こうかな?」


「私はお師匠様に買って頂いた本を読みます」


「おれはくんれんする!」


「おにいちゃん、キッカうさぎさんとあそびたい」


「わかった。じゃあくんれんのあと、うさぎにあいにいこう」


「うん」


 弟子達の予定も決まった。兎と気軽に遊べるキッカが少し羨ましい。あと、サラが本を楽しんでくれているのも嬉しいな。


 サラも楽園食堂のお手伝いに顔を出しているのだが、今日は読書欲が勝ったようだ。


 弟子達の予定も問題ないようなので、俺もそろそろ出かけるか。


「シルフィ、聞いていた通り、酒島までお願い」


 魔法の箒などの魔道具を使えば自力で酒島へ行けるのだが、元からシルフィにはついてきてもらうつもりなので素直に頼む。


 酒島で悪酔いする精霊を見たことはないのだけど、酔っ払った精霊が普通に闊歩しているから傷つけられることはないと分かっていても一人で行動するのは地味に怖いんだよね。


 特に大型の魔物や動物の姿の精霊が酔っていると、近くを通る時に冷や冷やする。


「分かったわ。すぐに出るの?」


「うん、お願い」


 家から出ると噴水のところにディーネの姿が見えた。水の大精霊だけあって、水場の近くでよく見かける。あとお酒の近く。


 俺が造った噴水を気に入ってくれていて、嬉しそうに眺めている姿を見ると俺も結構嬉しくなる。頑張った甲斐があるよね。


「あ、裕太ちゃん、シルフィちゃんおはよー。おでかけするの?」


 ちょっとほのぼのしているとディーネがこちらに気がついて飛んできた。


「おはようディーネ。ちょっと酒島の様子を見に行くだけだよ」


「じゃあお姉ちゃんも一緒に行くわー」


 ディーネも一緒に来るらしい。別に構わないがたぶん途中のお店で離脱するんだろうな。いつの間にか他のお客さんに交ざって飲み始めると思う。


「分かった。じゃあ一緒に行こうか。シルフィ、お願い」


 シルフィとディーネと共に酒島に到着する。すぐ近く……まあ空の上だけどすぐ近くなのに久しぶりだな。


「お店、また増えたよね。というか、あれは?」


「あら、前に相談したわよね?」


 前に相談?


「……ああ、外で気軽に呑める場所を造るって言っていたね。そうか、想像と違ったから気がつかなかったよ」


 ビアガーデンっぽい想像だったけど、現実はお花見に近い感じだったようだ。なるほど、酒島のお店も人型以外に配慮したスタイルなのだけど、もっと気軽に呑めるようにしたんだな。


 ドラゴンのような巨大な魔物の姿の精霊も居るから、こういうスタイルのお店も必要か。


 それにしても賑やかだな。まだ朝と言っていい時間帯なのだが……まあ、この島に来る精霊はお酒を呑むためにやってきているのだから、今が何時だなんて野暮な話なのだろう。


 でも、動物好きな人や魔物の研究者から見ると酒島は真の意味で楽園かもしれない。


 地球でも幻想種として扱われるような存在や、ゲームでならレイドボス扱い間違いなしな魔物が普通にお酒を呑んでいるんだもん。


 まあ、中身は全部精霊なのだけど、観光地化できたら世界一有名なテーマパークに対抗できるかもしれない。


 精霊がお酒を呑んでいるだけだからさすがに勝つのは無理だろうが、芸を見せてくれたら勝ち目があるかな?


「……こんなに呑んでいてお酒は足りるの?」


「醸造所はフル稼働よ」


 俺の素朴な疑問にシルフィが答えてくれるが、地味に答えになっていない。


 ただ、シルフィ達が醸造所の追加を熱望していることを考えると、ギリギリなんだろうな。


 うーん、ポイント制にはしたが、一棟くらいなら追加を認めるかな? まあ、他の場所を見て回ってから考えるか。


「あれ? ディーネは?」


 次に行こうと歩きだしたところで、ディーネの存在が消えていることに気がつく。


「あそこよ」


 シルフィの指す方向を見ると、海の生き物が集まっている場所でディーネがジョッキを手にしているのが見えた。


 ディーネの離脱は予想通りだが、その速さは予想外だった。到着と同時に離脱とは……まあ、ディーネは置いていこう。


 シルフィとのんびり酒島を歩く。


「随分お店が増えたよね」


「ええ、それぞれに好みがあるから、みんな拘ってお店を造っているわ」


「綺麗だけど店の配置は誰が考えているの?」


 シルフィが拘りという言葉を出すように、お店単体ではなく全体的に調和がとれているように感じる。


 精霊の作る店だからやはり店主の属性が拘りに大きく含まれる。それなのにネオン街のような雑然とした印象を受けず、街並みだけを見れば上品な観光地のような雰囲気さえ感じる。


 それをお酒を呑みまくる様々な姿の精霊が台無しにしているけど。


「ブラックよ」


「ああ、なんか納得」


 酒島の取りまとめ役の闇の大精霊。見た目は完璧なオールドスタイルなバーテンダーなのだけど、内面はその役になりきる役者……と言うよりもこだわりが強すぎるコスプレイヤーさんだ。


 あの人、いや、大精霊なら自分の店だけではなく、店があるその地域全てを自分の為に管理しても不思議じゃない。


「ならまずはブラックさんのところに顔を出すとして……そういえばブラックさんってまだバーテンダーをやっているの?」


「? バーの店主なのだし、バーテンダーを続けるのは当然でしょ?」


 俺の言葉の意味が分からなかったのか、シルフィが首を捻る。


「いや、ブラックさんって色々と役柄を変えているんだよね? 騎士とかなんとか聞いた覚えがあるし、飽きたらバーテンダーを止めると思ってた」


 俺のイメージではコスプレイヤーは一点集中型よりも様々なキャラを演じる人の方が多い気がする。


「飽きると言ってもまだバーテンダーになってすぐだし、後何百年かはバーテンダーをやっているんじゃない?」


 そうだった。精霊の寿命の長さを忘れていた。俺的には結構長いこと演技していると思っていたのだが、精霊にとってはまだ数時間程度の認識なのかもしれない。 


「なるほど……あれ? ブラックさんのお店ってこの辺りじゃなかった?」


 店が増えていて自信がないが、あったはずの店が消えている。


「ブラックの店? ああ、場所を移したのよ。こっちね」


 シルフィに連れられて妙に細い路地に入る。


「スペース、まだ余っているよね? なんでこんな狭い路地にしているの? 大型の精霊とか入れないんじゃない?」


「ブラックが、隠れ家的な名店の話を裕太から聞いたって言っていたわよ? あと、道の狭さは精霊ならなんとでもなるわ」


 バーのことを色々と聞かれた時に、そんな話をしたことがあるかもしれない。そうか、店が増えて路地がつくれるようになったから移転したのか。拘りの強さが凄い。


「そうなんだ。それにしてもシルフィ、いつも俺と一緒に居てくれているのに酒島に詳しいね」


 風の精霊だからかな?


「外に出ている時はともかく、楽園の中なら裕太が寝ている時に偶に顔を出しているもの」


 ……そうだった。精霊って別に睡眠が必要な訳でもないんだった。毎日ベル達を寝かしつけていたから忘れていた。


 必要ないと言いながらも睡眠を楽しむこともできるのだから、精霊ってズルいよね。


06/11、本日コミックブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第65話が更新されました。ドリーとの契約等、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
酒島まで飛んでいくの「魔法の箒などの魔道具」って、箒は掃除用だったよね?飛んでくの?
[気になる点] コミカライズ最新話見ました。 絵になって改めて思うことは、シルフィとドリーのプロポーションが逆転していっている気がするのは私だけでしょうか?
[良い点] 祝ドリーと契約 [一言] ここから酒島できるとは誰もおもうめぇ
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