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六百七十七話 ナイスアイデア

 祝福の地から迷宮都市に戻りマリーさんとの商談。図書館の為に本の購入と本棚を依頼したのだが、そこから図書館に使う内装を王都に注文できないか? という流れに、俺としては注文の品が手に入れば問題ないので、本決まりになった時にはということで話を終わらせたが、なんか後々マリーさんが泣きついてくるような気がした。




 マリーさんとの商談を終え、さっそく迷宮のコアに廃棄予定物資を届けに行く前にメルのところに顔を出すことにする。


 あれ? 前までは詰所の騎士や兵士達が遠目で見守ってくれている感じだったのに、なぜかメルの工房の出入口に兵士が立っている。


 ……え? 事件?


「あ、あの、メルの工房に何かあったんですか?」


 慌てて兵士に声をかけると、不審者を見るような目で全身を確認された。警察の人に職務質問をされた時のことを思い出す。


 なにも悪いことをしていないのに、緊張するんだよねアレ。


「ああ、あなたは裕太様ですね?」


 俺の顔を知っていたのか、兵士の警戒が解ける。知られていることに少し驚いたが、まあ、メルの工房を守る兵士なら師匠の俺のことを知っていても不思議ではない。そんなことよりも……。


「はい、そうです。メルに何か?」


「いえ、メル様の身に問題が起きた訳ではございません。お入りになってご確認ください」


 メルに問題はないらしい。……いや、当然か。兵士の姿に慌てたけど、メルに何かがあったらメラルとメリルセリオが大暴れしているだろうし、シルフィがのんきに隣でプカプカ浮いているはずがない。


 考えたら分かるはずなのに、ちょっと焦り過ぎたな。


 兵士に軽く頭を下げて工房の中に入る。


「あ、お師匠様!」


「やあメル、元気そうだね。それで、外の兵士はなんなの?」


 メルの笑顔の出迎えに一安心し、疑問に思っていることを質問する。


「あ、それはですね―――」


 苦笑いしたメルに詳しく話を聞くと、兵士が立つのが当たり前と言える内容だった。


 ぶっちゃけると劣化版ダマスカスでさえ護衛が必要なレベルなのだが、そこは生産量の少なさとマリーさん達の介入、近くの詰め所でなんとかなっていた。


 話が変わるのはそれにプラスαが加わったから。


 そう、王宮鍛冶師長であるドルゲムさんだ。前回メルに会った時に、技術を盗みたいなら好きにしたらいいとメルに伝え、ドルゲムさんがメルの工房に正式に出入りするようになった。


 俺は深く考えずに勧めたのだが、ドルゲムさんは王宮鍛冶師長。


 つまり、凄く偉くて、その地位に見合った腕を持つ凄腕の鍛冶師。


 劣化版ダマスカスを生み出す工房と、国から認められた凄腕の鍛冶師が合わされば、冒険者が黙っているはずもない。


 ドルゲムさんが造ったダマスカスの武器が欲しいと押し掛けてくることになる。


 これまでも商人が押しかけてきていてマリーさん達が捌いていたのに、ドルゲムさんの武器が欲しい冒険者が加わったのだからキャパが溢れるのも当然。


 しかも劣化版とはいえドルゲムさんが造るダマスカスの武器だから高価なのは当たり前で、それを手に入れられる人となれば迷宮都市の実力者の可能性が高い。


 迂闊に追い払うこともできずに困っていたところに詰所の騎士が直接介入し、今の形になったそうだ。


 合間にメラルも大変だったと俺の傍に来てこぼしていたし、メリルセリオも『だう!』と言っていた。


 メリルセリオの言葉の意味は分からなかったが、不満と取って間違いないだろう。


「なるほど、それでメルは今の状況でも大丈夫なの?」


 ダメだったら一時避難で楽園に連れて帰ってもいい。あ、精霊の村の建設をメルに手伝ってもらえたら助かるな。


 鍛冶師としての目線は間違いなく参考になるし、美的センスも俺やノモスよりも確実に上なはずだ。


「大丈夫ですお師匠様。ドルゲム様に指導していただいて毎日凄く充実しています!」


 あ、楽園に連れ帰るのは無理だな。


 職人としてのやりがいが満ち溢れているのが伝わってくるもん。


 まあ考えてみたらそれも当然か。元々メルは職人としても向上心が強い。それはノモスが認めるくらいだから相当な物だろう。


 そんなメルのところに国一番とも言える鍛冶師が滞在しているんだ。それはもう貪欲に知識を吸収していることだろう。


「それなら良かった」


 しょうがない、今思いついたことだしメルの協力は諦めるか。メルは律義だから俺が頼めば協力してくれそうだけど、さすがに弟子の成長を師匠が邪魔する訳にはいかないよな。


 うん? でも協力を頼むか……楽園のことは秘匿しているから丸パクリでなんとかするつもりだったけど、村の設計を誰かにお願いすることは可能なんじゃないか?


 楽園は平地だし、環境と面積と必要な施設を伝え、使う素材と建築様式を指定して、何パターンか案を出してもらい、その中から気に入ったものを選べばいい。


 実際に祝福の地を視察しているから、イメージは割と正確に伝えられるはずだ。


 パクったものを無理矢理楽園の形に押し込むよりも、プロにコーディネートしてもらうのが正解だよね。


 ついでに図書館についても何パターンか設計してもらうか。俺のイメージする、歴史ある感じのカッコいいファンタジーな図書館を。


 あ、今思いついたけど、ファンタジーな図書館には禁書庫なんかも必須だよね。どれくらい貴重な書籍が手に入るか分からないけど、設計をお願いする時は忘れないようにしよう。


 隠し部屋もいいが地下書庫も捨てがたい。


 うん、メルの様子を見に来ただけなのに予想外の収穫があった。秘匿事項だから自分でなんとかするつもりだったけど、秘密で丸投げできる部分なら丸投げしちゃえばいいんだよね。


 よし、とりあえずメルと少し世間話をしたら迷宮のコアに物資を届けて、宿に戻ってノモスに色々とレンガ等の建築素材の見本を作ってもらおう。


 それをもって設計者の……ああ、設計者の紹介もお願いしないといけないな。 


 さすがに家を作ってもらった所に村のトータルコーディネートをお願いするのは違うだろう。これもマリーさんに頼めばいいか。


 王都に仕事を流したいみたいだから、おそらく王都の建築家に仕事を流してくれるはずだ。ちょっとワクワクしてきた。


 鍛冶師の時みたいに設計コンテストでも開こうかな? いや、さすがにそれは目立ちすぎるか。




「え? 精霊術師講習?」


 用事を済ませそろそろノモスを召喚して建築素材を作ってもらおうと思っていたところで、冒険者ギルドから戻ってきたジーナの言葉に首を捻る。


「ああ、師匠が次に迷宮都市に顔をだした時に話をする約束だったのにってリシュリーさんが不安がっていたぞ」


 ……ああ、そういえばそんなことを約束した覚えがあったようななかったような……いや、あるな。


 精霊術師に興味がある人が増えて、たしかにリシュリーさんと約束した。すっかり忘れていたけど。


「あした、顔を出してくるよ」


「うん、あ、あたしは明日、実家に顔を出すつもりなんだけど、構わないか?」


「ああ、俺もまだ忙しいから、自由行動で構わないよ」


 精霊術師の立場向上を願う俺としては疎かにできない案件だ、速やかに行動する必要がある。忘れていたけども。


 迷宮都市で所用を済ませたらすぐに楽園に戻るつもりだったけど、まだまだ時間がかかりそうだ。


 みんな元気にしているだろうが、サクラのことが少し心配だな。ラエティティアさんが居るから大丈夫だとは思うが、嬉しいことにサクラは俺に懐いてくれているから、長く会えないと申し訳なくなってくる。


 できるだけ急いで帰ろう。




 ***




「裕太様、お待ちしておりました」


 冒険者ギルドでリシュリーさんを呼んでもらうと、満面の笑みで出迎えてくれた。ただ、笑顔の奥に怒りが見えなくもない。約束を忘れていたことがバレているのだろう。


 ちなみに俺はまだ宿でトルクさんに会っていない。あちらもマーサさんの怒りがまだ解けていないのだろう。つまり女性を怒らせると怖いということだ。


 今回の精霊術師講習、譲れない部分を除いて、できるだけリシュリーさんに協力しよう。ごめんねサクラ、少し戻るのが遅くなるかもしれない。


 とりあえず謝ろう。雰囲気的に言い訳は悪手だ。


「申し訳ありません。精霊術師講習のこと忘れていました」


 シンプルに謝罪をして頭を下げる。立場的に俺の方が強いからゴネればどうにでもなりそうだが、さすがにそこまで図々しく生きられない。


「いえ、ジーナ様の言伝を聞いてすぐに来てくださったのですよね? 私共はお願いする立場ですから、裕太様に直ぐに対応いただけて感謝しております」


 うーん、建前の臭いがプンプンするが、それでもリシュリーさんの笑顔の奥の怒りは少し薄れたように思える。たぶん。


「いえ、それで講習のほうはどうすれば?」


「精霊術師講習の受講者は集まっています。掲示板に日程を張りだせば明日にでも講習は可能ですが、迷宮に潜っている方や迷宮都市を用事で離れている方もいますので、少し時間を空けていただければと思います」 


 まあ、急に明日とか言われても用事がある人は困るよね。昨日思いついた村の設計図のこともあるし、三日後から五日後くらいかな?


「えーっと、三日後から五日後くらいまでなら大丈夫です」


「それは三日連続の講習をお願いできるということですか?」


 リシュリーさんの目がキラリと光った。俺としてはその中から一日選んでほしかったのだが、まさか全部とは……まあ、三日連続くらいなら大丈夫か。


 やることは前回の精霊術師講習と同じだもんね。


「ええまあ、三日連続でも構いません。ですが、そんなに精霊術師が集まりますか?」


「間違いなく集まります。裕太様の影響で精霊術師に注目が集まっており、なおかつ回復系統の能力が得られるかもしれないとなれば、多少無理してでも精霊術師講習を受けようと考える人は大勢います」


 そういえば命の精霊と契約した人、かなり人気だったな。


 精霊と契約できればその属性の力が得られるし、命の精霊が引ければ未来が安泰ってところか?


 まるでガチャだな。


 俺としてはベル達が可愛すぎるのでどの属性でも最高だと思うのだが、視認も接触もできず気配を感じるだけとなると、希望と願望が生まれるのも仕方がないだろう。


「分かりました。では三日後からお願いします」


 まずシルフィ達に浮遊精霊を集めてもらわないとな。ヴィータはまだ村長のところだけど、戻ってこられるかな?


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ん? オッサンいつの間にダマスカス作れるようになったんだ?
[気になる点] なんか裕太が精霊以外で素直に謝るのは珍しい いや別に意固地でもない素直な性格だと思うけどそういう展開は全く無かったわな
[一言] ヒーラーは大当たりだよね
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