六十五話 ファイアーバード
火山のマグマの川で最高の珍味だと言う、マグマフィッシュを十匹捕獲する事が出来た……が、調理方法がまったく分からない。なんかシメたら身に纏っていたマグマが固まって岩になっちゃったし。しょうがないので収納する。食べるのは調理法を確認してからだな。食べられたらだけど……。
「みんなー、そろそろ出発するよー」
未だにマグマで爆走していたベル達を呼び寄せて先に進む。よっぽど楽しかったのか、ニコニコとマグマの川の楽しかったところを説明してくれる。
シルフィ曰く、俺もシルフィの風を纏えば出来ない事は無いそうだ……シルフィのちょっと試してみる? って視線から目を逸らして先に進む。
「裕太。あそこの岩陰にファイアーリザードがいるわ」
「了解」
ハンマーでぶっ飛ばすと素材が駄目になるので、ノコギリを最大サイズにしてシルフィが指を差した岩陰に向かう。
「裕太、あのファイアーリザードの位置なら、岩ごと首が落とせるわ」
説明してもらうと、ファイアーリザードは岩の裏にピッタリと身を寄せて、何時でも飛び掛かれる態勢で俺の事を待っているらしい。シルフィの言う通りにノコギリの角度を調整して、岩ごと一気に引き切る。
岩の裏でドスンと音がして、シルフィが笑顔をこちらに向ける。上手く行ったんだろう。裏に回ってみてみると、一メーターぐらいの真っ赤な蜥蜴が首を落とされて倒れていた。
「毎回こうだと簡単なのにね」
「ふふ、そうね」
洞窟後半ではこいつに結構な苦労をさせられた。サイズが一メートルと小型なので、素早い動きで距離をとりながら高温の火の玉を飛ばして来る。
待ち伏せしていた事でも分かる通り、意外と知能が高く数が揃うと厄介この上ない。遠距離からの火の玉の連打は風壁が無かったら危なかった場面が何度もあった。シルフィの索敵で場所が分かっていてもそれだから、不意打ちを喰らうとかなり危険な相手だ。ファイアーリザードを収納して先に進む。
「シルフィ、毒ガスとマグマの川は越えたから、後はファイアーバードの巣が危険な場所なんだよね?」
「毒ガスはまだ何ヶ所かあるわ。それとファイアーバードの巣ね。歩いてあと一時間ってとこかしら」
「巣はどんな感じなの?」
「うーん、マグマの池の側の崖に巣を作っているんだけど、崖がファイアーバードの色で赤く染まっているわね」
崖が染まるぐらいの火の鳥がいるって事? 何匹いるんだよ。
「どうやって通り抜けるの? 隠れて進める?」
「隠れるのは無理ね。裕太がファイアーバードを倒したいのなら、私の風壁かベル達の自然の鎧があれば大丈夫だから、地道に数を減らしながら進む。風の繭で弾き飛ばしながら強行突破。私が全部倒してしまうのどれかかしら?」
「うーん、どれが良いのか判断がつかないから、巣を見てから決めるよ」
自然の鎧の話が出てから、ベル達の瞳が輝きだした。いや、シルフィの風壁なら自然の鎧は必要無いんだよね? ……ものすごく期待されているな。シルフィも自然の鎧が見たいが為に名前を出した気がする。
***
ないわー。あれはないわー。五十センチぐらいの炎の塊みたいな鳥が、崖一面に巣を作っている。偶に飛ぶファイアーバードはマグマの池に飛び込み、水浴び……マグマ浴びをしている。意味が分からん。
「あの数は凄いね。俺が倒すとしたら時間が掛かるから、強行突破かシルフィに倒してもらおうか」
ベル。レイン。トゥルの表情が絶望に染まる。タマモは良く分かっていない。そんなに自然の鎧が使いたかったのか?
「ゆーた。たたかわないの?」
残念そうに聞いて来るベル。レインも頬ずりしながらキューキューと訴えかけて来る。
「かてるよ?」
トゥルもとても残念そうだ。
「でも、時間が掛かっちゃうし……」
「ベル達が参戦すればそこまで時間は掛からないわよ。私が出ると一瞬で終わっちゃうから、戦うのなら自然の鎧とベル達の参戦で丁度良いんじゃないかしら?」
シルフィが裏切った。いや、元々自然の鎧の名前を出した時点で、この事を予測してたな。シルフィにお願いすれば別の方法を取れるだろうけど、ベル達の期待でワクワクした表情は裏切れないよね。
「……じゃあ戦おうか。自然の鎧と風壁をお願い」
やったーって感じで、テンションが上がるベル。レイン。トゥル。いつも通りにクルクル回りながら俺に自然の鎧を付ける。ふう。まあ、誰にも見られないから良いよね。
「クー。ククー! クークー」
タマモが興奮して俺に何かを言っている。だいたい予想はつくんだけど……。
「ゆーた。たまももやるってー」
だよね。
「でもどうやるんだ?」
俺が聞くと、四人で集まってフンフンと相談しだした。どうなるんだ?
「やりなおしー」
ベルがそう言うと、自然の鎧が溶けるように消えてなくなる。
「あたらしいの、つくるー」
ベルがふわふわと浮きながら、胸を張って宣言した。新しい自然の鎧の打ち合わせが済んだらしい。タマモがワクワクしてはしゃぎまくっている。シルフィも横でとても楽しそうに観察している。
ベル。レイン。トゥル。タマモが両手を突き出し、俺の周りをふわふわと浮きながらグルグル回る。自然の鎧ver.2だな。
「キュキュキューキュ(みずのころもを)」
「いわのよろいを」
「かぜのまんとを」
「クゥーククークーー(みどりのかぶとを)」
「「「「しぜんのよろい(キュキュキュ)(クククー)」」」」
タマモ以外は同じ流れのようでいつも通りに自然の鎧が出来上がる。そこに周辺の草が飛んで来て、俺の頭を覆う緑の兜が出来上がる。よく見えないけど。あと飛んで来たのは胡椒の葉っぱっぽかった。
「できたー。ゆーた。かっこいいよー」「キュキュー」「かいしんのでき」「ククーーー」
ベル達が自分の力作に大満足で、褒めに褒めてくれる。シルフィがなかなかの出来ねって感じで頷いている事にちょっと理不尽さをかんじるが、ベル達には悪気の欠片も無いんだ、褒めまくらないと。ひとりひとり丁寧にお礼を言ってワチャワチャと頭を撫でる。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
緑色に淡く光る兜に、青く光る水の衣を着て、淡く光る岩で急所を守り、薄く光る風のマントを纏う俺が歩き出す。切実に鏡が欲しい。マント二枚とか有りなんだろうか?
ちなみに相手の数が多いので、素材は考えずハンマーで戦う。シルフィは俺の側で待機して、本当に危なくならない限り手を出さないそうだ。
ファイアーバードの巣に足を踏み入れると、ギャーギャーと崖に居るファイアーバードが騒ぎ出し、一斉に炎を打ち込んで来た。
数が多過ぎて洒落にならない。炎と炎が混じり合い、巨大な炎になって俺に向かって飛んで来る。結構シャレにならない威力なんじゃ?
ベルが張ってくれた風壁に炎があたり、周辺に大爆発を起こす。その爆風によってベルの風壁が破られ、爆風に晒される。リッチの攻撃より強かったんじゃ? 自然の鎧の効果かダメージは無いが普通に怖い。
「ベル。もう一度風壁を。その後はみんなとファイアーバードの数を減らして」
ゾンビ。スケルトン。ファイアーバード。数が揃う相手は戦うのが大変だから嫌いだ。爆炎の中ハンマーを振りながらファイアーバードを叩き潰す。
……これは……一方的だな。竜巻が、鉱物の槍が、水の礫が、草の刃が、ファイアーバード達を切り刻み、貫いて行く。みるみる間に数を減らすファイアーバード。魔法って良いなー。ハンマーを振り回しているのが悲しくなってくる。
俺も魔術を覚えようかな? でもベル達の魔法は、俺が使っているような物なんだよな。実際には覚える意味がないんだけど……精霊魔法は自分で戦っている実感がまるで湧かない。悩みどころだ。
魔法って色々聞いたけど、専門職と言うかなんというか難しそうなんだよね。憧れはあるけど今更勉強なんてしたくない。
うおっ、ファイアーバードが俺に向かって大軍で突っ込んで来た。俺しか見えないんだから当然と言えば当然か。ハンマーを振り回し、火の玉やファイアーバードを弾き飛ばす。
数が多くてハンマーを振っているだけじゃ間に合わないな。ハンマー大回転は上ががら空きだし、飛んで来るのは厄介だ。至る所から攻撃される。
あっ二回目の風壁が破られた。……自然の鎧って凄いな。水の衣は火を寄せ付けないし、風のマントも火の玉やファイアーバードを弾き飛ばす。風壁が破れた事に気が付いたベルが、再び風壁を張ってくれる。
「ベル、ありがとう」
お礼を言うと、楽しそうに手を振ってから、ファイアーバードに突っ込んで行った。とっても楽しそうだ。
ベルがエイッって感じで可愛く両手を突き出すと、風の刃が乱れ飛びファイアーバードを切り刻む。
レインは大きな水の塊を生み出し、ファイアーバードを次々と取り込み消火活動に勤しんでいる。ある意味これが一番むごい。
普通なら炎を纏ってマグマに飛び込めるぐらいの高温なんだから、水蒸気が出そうなものなんだが、レインの生み出した水が凄いのか一方的に炎が消火され、ぐったりしている。
トゥルは鉱物の槍を地中から上空に撃ちだしながら、確実にファイアーバードを撃ち落としている。対空魔法みたいでカッコいいな。槍が連続で上空に発射されるシーンは男心が擽られる。
タマモはちょっと苦戦しているのかな? 炎と植物、相性が悪いのか偶に葉っぱが燃やされたりしている。でもとても楽しそうだ。狩猟本能が目覚めたのか大興奮で周辺を飛び回っている。
ベル達の協力もあって、アンデッドの巣を攻略するのとは比べ物にならないほどの短時間でファイアーバードを全滅させた。
「ふー。やっと終わった。少し休憩しよう」
「そうね」
ファイアーバードを倒すより、ファイアーバードの収納の方が手間取った。何匹いたんだよまったく。しかし死骸を見ると分かるが、ベル達が倒したファイアーバードは綺麗だが、俺が倒したのはちょっとグロイ状況になっている。
「ファイアーバードってランクで言うと、どのぐらいなんだ?」
今更気になったので、シルフィに聞いてみる。
「Bランクの魔物だったかしら。今回は群れの討伐だからAランクぐらいにはなるんじゃない?」
そうなるとBランクの魔石が溢れるほど手に入ったのか……今回のだけで相当な儲けになるな。素直に換金すればだけど。
「ねえ、シルフィ。いままでのパターンだと後三回も似たようなフィールドを進むんだよね。となると後三回も火山を登る事になるの?」
そう考えると心が折れそうだ。別に登山が好きな訳じゃ無いし、正直お腹いっぱいです。
「うーん。多分そうなんだけど、それだと火山で行き詰まっている理由が分からないから、何か変わった事があると思うわよ」
それもそうか。沢山の冒険者達が集まって行き詰まるんだ。何か理由はあるよね。冒険者ギルドと仲良くしてれば、迷宮に入る前に色々情報が集められたんだけどな。
別に冒険者ギルドだけで、情報を集める必要は無かったのか、行き詰まっている原因なんて迷宮都市で情報収集すれば直ぐに分かったのかもしれないし、シルフィに情報を集めて貰えばよかったんだ。初心者講習でイラついてたから、そのまま迷宮に来ちゃったもんな。
「まあ、行ってみれば直ぐに理由が分かるわよ」
ちょっと後悔していると、シルフィがフォローしてくれた。そもそもシルフィって王宮の食事は知っているのに、あんまり冒険者の事って詳しく無いよね。精霊術師の事も知らなかったし……冒険者のこと自体に興味が薄いのかもな。
「裕太。どうかした?」
「何でも無いよ。先に進もうか」
今更聞いてもどうしようもない。シルフィの言う通り先に進めば分かるんだ。でも登山は嫌だから次から出来るだけ飛んで行こう。
読んでくださってありがとうございます。