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六百六十六話 理想

 祝福の地での治療行為の為の腕試し試験、夫婦というか奥さんの愛に多少の胸焼けを感じたが無事に治療成功。後日、ギルマスからも試験の合格を伝えられた。報酬として高くもあり安くもある二億をゲットしたし、まあ、悪くない結果だろう。




「こんにちは」


 ギルマスから合格を貰い、さっそく祝福の地に飛んできた。門番が前に来た時と同じ人だったので笑顔で挨拶をする。


「ん、ああ、あんたか。前にも言ったがここは許可がある者しか入れないぞ」


 門番も覚えていてくれたようだ。重要な地の門番を任されるだけあって優秀なのだろう。


「あはは、知っていますよ。はい、許可証です」


 俺が望んだとおりのリアクションだったから、それに合わせて門番に許可証のメダルを渡す。ちょっとドヤ顔が漏れてしまったかもしれないが、そこは流してほしい。


「おいおい、あんた何もんだ。んっ、失礼した。しかし、あれからそれほど時間が経っていないのに許可を得るなんて……いや、余計な質問でした。これは冒険者ギルドのメダルですよね。念のためギルドカードの提示もお願いします」


 門番が態度を切り替えた。これは俺がその他一般人から客になったからだろう。それにしてもメダルでどこの紹介か見分けられるのか。ギルド証の提示も求められたし、本人確認ができる仕組みも組み込まれていそうだな。


 かなり厳重なシステムに少しワクワクしながらギルド証を見せると、Aランクということで納得したように頷いた。


「確認しました。どうぞお入りください」


 ようやくか。ただ街並みを参考にしたいというだけだったのに、ビックリするくらい手間がかかった。でも、苦労しただけあって感慨もひとしおだ。


「お待ちください。入れるのは許可証をお持ちのあなただけです」


「ふへ?」


 ようやく中に入れると足を進めたら、なんか門番に不思議な事を言われた。聞き間違いか?


「えーっと、どういうことでしょう?」


「ですから、このメダルではお連れの方達は中に入れません」


 聞き間違いじゃなかった。


 マジか。ここまで苦労させておいてこの落ち? 納得いかないにも程がある……のだけど、考えてみたら俺の凡ミスだよな。


 ギルマスも気を利かせろよと言いたいが、普通に考えたら試験が必要なほど厳しく管理されているのに、合格者の連れだからと気軽に入場できる方がおかしい。


 どうする? ジーナ達を待たせて俺だけ中に入るか? それでも目的は達せないこともないが、シトリンが気に入る場所ならみんなにも見せてあげたい。


 ……うーん、ちょっと無茶振りになるけど、相手は権力者だからなんとかしてくれるかも。


 ちょっとワガママを言ってみよう。


「できれば弟子達も連れて行きたいんですが、ダメですか?」


「それを許可する権限を私は有しておりません」


 だよね。当然だと思う。


「……では、この手紙をケンネル侯爵家に届けていただくことは可能ですか? そして伝えてください、弟子達が中に入れずに困っていると」


 ギルマスや門番に権限がなくとも、自国で侯爵という爵位を持つ貴族であればそれなりの権限を有しているはずだ。息子を治したいのなら頑張ってくれるはず。


 弟子のことなど知らん、お前だけ来いとか言われたらどうしよう?


「それは門番の仕事ではありません」


 あ、手紙すら届けてくれないのか。そういえば門番って、門から離れると厳しい罰則があるみたいのことを漫画で読んだ気がするな。


「えーっと、手間賃はお支払いしますので、だれか人を走らせてもらうことは可能ですか?」


 まあ自分だけ先に入って直接侯爵にお願いすることも可能だけど、どうせなら全員で入って一緒に初めての場所の感動を共有したいよね。


「それなら可能だが、手紙と伝言を届けることしかできないぞ?」


「それで構いません」


 俺が頷くと門番が声を上げ、中から兵士らしき人が近寄ってきた。彼が伝令に走ってくれるのだろう。


「銀貨五枚だ」


 門番に手間賃を要求される。伝令だけなのに地味に高い気がするが、大人しく払っておく。


 お金を受け取った兵士が門から消えた。さて、どうなるか。




 ***



 とある子爵領の村




「へへー。ご確認ありがとうございますじゃ。子爵様にはくれぐれもよろしくお伝え願い奉りますじゃ」


「なあ、村長。あの人もう行っちまったぜ。いつまで頭下げてんだ。あと、そのことば、なんかおかしくねえか?」


「うっさいわ! あの方は騎士様なんじゃぞ。お前達ももっと敬わんか!」


「そんなこと言われても、田舎もんの俺達にどうしろってんだよ。それよりもこれで無事に終わって良かったな」


「なにが無事じゃ。全然無事なんかじゃないわい。儂なんか気狂い扱いされて処刑されかけ、必死に嘆願しても信じてもらえず、お医者様に診せられ教会に連れていかれ、やっと話を聞いてもらえたんじゃぞ。確実に寿命が縮まったわい!」


「あーな、でも村長だって俺達の報告をバカにしただろ? 自業自得ってやつだな」


「むぐっ……まあそうじゃよな。寝て起きたら谷に立派な石橋が架かっていました、なんて報告、信じられる訳ないんじゃよな。目の前にあるのに儂だってまだ信じられんもん」


「そうだよなー。……なあ村長、これから村はどうなるんだ?」


「……知らん」




 ***




 ジーナ達と話しをしながら待機していると、門の向こうで騒ぐ声が聞こえてきた。


 シルフィを見るが特に気にした様子もないので危険はないのだろう。そう理解してのんびり構えていると、大きな門が開き数人の男達が急ぎ足でこちらに向かってきた。


「君がギルドマスターの手紙に書かれていた裕太かね。私はジャスアット・ケンネル、君の依頼人だ」


 おおう、迎えがくるとは思っていたけど、ケンネルってことは侯爵様本人ってこと?


 執事さんとかが迎えに来るのは予想していたけど、ご本人様登場は予想していなかったよ。


 一緒に居る男達はどう見ても戦闘を嗜んでいるタイプだし、護衛なんだろう。侯爵様の無茶な行動にピリピリしているのが垣間見える。


「はい、裕太です。よろしくお願いします」


 あ、いかん、酷く驚くことがあって貴族様向けの言葉遣いが素になってしまった、


 貴族様との挨拶はちゃんと考えていたんだけどな。初めてお目にかかりますとか、お会いできて光栄ですとか……今から言っても遅いかな。


 それにしてもビックリだ。


 マルコくらいの子供が居て、後妻まで居ると聞いていたから随分年上なのだろうと勝手に想像していたのだが……同年代じゃん。下手をしたら年下じゃん。


 貴族だから結婚が早いのだと想像がつくが、なんか脳がバグる。


 あ、でも、しっかりと身なりは整えられているものの、少しやつれて見える。心労がたたっているのかもしれない。


 でも、好印象ではあるよな。貴族とか、子供を家臣任せとか道具扱いとかするイメージがあるのに、しっかり心配しているってことだもんな。


「うむ。ギルドマスターの手紙では信じられないほど効果の高い精霊術を使い、手の施しようがないと誰もが諦めた患者を救ったとあったが、本当かね?」


 ギルマス、意外と俺を認めてくれていたようだ。ちょっと照れる。


 いや、違うな。薄々思っていたけど、腕試しと言いながら無理難題を俺に押しつけて、それをチートなヴィータがサクッと治療してしまったから、ぐうの音も出なかっただけだな。


「はい、本当です。私は自分以上の治癒師に出会ったことがございません。それほどの腕だと自負しております」


 強気すぎて自分の性格に合わないことを言ってはいるが、既にヴィータが診察済みで治療できるとお墨付きまで貰っているのだから謙遜の必要はない。


 むしろ便宜を図ってもらうために強気で行くのが正解だろう。


「おお、なんと心強い。すまないがさっそく私の息子を診てもらいたい」


「それは構いませんが、弟子を置いていくわけにもいかず困っていまして」


「ああ、そうだったな。君、彼と彼の弟子達は私の客人として処理してくれ。無論、審査を受けていない冒険者の入場だ。規則にのっとりこちらで監視を付けるから安心してくれ」


「はっ、了解しました」


「裕太殿、不愉快だと思うが規則でな、君の連れを入場させる場合は監視を受け入れてほしい」  


「あ、はい、かまいません」


 トントン拍子で話が進むな。こういう時は権力って素敵だと思う。まあ、監視が付くのは面倒だけど、中に入れるなら問題ない。俺は街並みを確認したいだけだからな。


「うむ。ではさっそく頼む。こっちだ」


 展開が早い。サッと中に入っていく侯爵と護衛達。俺は門番に一礼してジーナ達を連れて中に入る。


 ……うわー、こう来たか。シトリンはこれを参考にしてほしいと?


 マジか……できるのかこれ?


 門の中に入っただけで帰りたくなってきた。


 だって、広々と贅沢に確保された道、それに全部レンガが敷き詰められてあるんだもん。


 レンガの建物は迷宮都市でも見たことがある。


 だからレンガがこの世界にも存在することは知っていた。でも、石畳じゃなくてレンガ道なのは考えていなかったよ。


 しかも赤レンガが敷き詰めているちょっと威厳を感じるタイプでもなく、淡い様々な色のレンガが組み合わされているタイプのお洒落なレンガ道。せめて一色で統一してほしかった。


 無理だろ。芸術家とまではいわないが色彩のセンスが必要なタイプの道だ。心が折れたよ。異世界舐めてた。こんなんが出てくるとは思ってなかった。


「こっちだ。悪いが立場上同乗できない。後ろの馬車に乗ってくれ」


「あ、はい」


 レンガ道のプレッシャーに呑まれていると、侯爵から声をかけられる。どうやら俺達の馬車も用意してくれたらしい。


 ありがたい。今の心情だと、歩いているだけで絶望に飲み込まれる気がする。


 初めての馬車に興奮するマルコとキッカにホッコリしつつ現実逃避気味に俺も馬車に乗り込む。


 あ、ベル達も馬車に乗るんだね。君達は外の方が快適だと思うのだけど、まあ、楽しそうなので大丈夫だろう。


 え? 護衛の人も一緒に乗るんですか? ああ監視が必要ですもんね。了解しました。


 馬車が出発する。


 しばらくすると楽しそうに窓の外を見るマルコとキッカの向こう側に、建物の姿が見える。


 ……どうしてだろう、祝福の地に入る前はとてもワクワクしていたのに、今は怖くてしょうがない。


 シトリン……理想が高すぎるよ。建物までお洒落とか聞いてない……。




 ***




「村長。なんか領主様の叔父上様? とかいう人の先ぶれというのが来ているぜ。いま、ここに案内してる」


「…………」


「ん? 村長、どうした?」


「儂、もう死にそう……」

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ノモスを召喚したらどうなるんだろ? 一緒に心折れるのかな
[一言] 裕太がんばっておしゃれな街並み作ろう! 村長頑張れ!いまはかんばりどきだ!
[一言] ファンシーというか子供目線に楽しい色彩デザインなら ノモスが出来るんだから某鼠テーマパーク風なアレンジ で頼めば一発
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