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六百六十三話 強気でベット

 祝福の地と大仰な名前の保養地に入るための依頼を受ける下準備で、シルフィ達に祝福の地に偵察に向かってもらった。結果、神の盃と呼ばれる古代の強力なアイテムの存在が判明。それは表に出すと戦争案件なので触れないことにして、もう一つの治療依頼に焦点を絞ると、そちらからは陰謀の香りが……。お金持ちの闇は深い。




 ネルの町に到着して数日、俺はシルフィにケンネル侯爵家の調査をお願いし、ベル達と屋台巡りをしたりジーナ達の訓練や仕事に付き合ったりしていた。


 その中で思ったことは、弟子達が自分よりもちゃんと冒険者をしているということだ。


 迷宮都市でもリーさん達先生組が偶に依頼についても教えてくれていると聞いてはいたが、それをちゃんと実行している現場を実際にみるとかなりの衝撃を受けてしまった。


 ジーナ達は強さ以外、冒険者として俺よりも上だ。


 慣れないネルの町の冒険者ギルドで、しかも精霊術師というハンデがありながらちゃんと依頼を熟す弟子達の姿は感動ものだった。


 でも、そのおかげで少し焦ってもいる。師匠の威厳的にも今回の仕事はきっちり熟さなければならないからだ。


 そろそろ情報も集まってきたし、情報を整理して解決の目途が立ったら明日にでも依頼を受けに行こうと思う。


 とりあえず情報を箇条書きで整理してみるか。


 ・予想通りケンネル家の兄弟は腹違いだった。


 ・後妻の奥方は子爵家のお嬢様。


 ・予想外だったのは後妻の奥方はできた人で、長男と次男差別なくしっかり面倒をみている。


 ・犯人は奥方の侍女。


 ・奥方の侍女は奥方の生家に仕えている一族。


 ・侍女は実家を盾に脅され、現在の犯行におよんでいる。


 ・その子爵家の当主は奥方の弟。


 ・その奥方の弟が黒幕かと思いきや、実際の黒幕は若い当主の後ろ盾をしていた叔父。その叔父は前子爵家当主の弟。


 ・その叔父をどうにかすれば一件落着と思いきや、その叔父もケンネル侯爵の政敵に子爵領を脅かされての渋々な犯行。


 ・領を脅かす原因は隣の伯爵領。


 ・元々はこの伯爵がケンネル侯爵派閥からその敵対派閥に鞍替えしたことが原因。


 ・この伯爵領が敵に回ると子爵領は陸の孤島。


 ・子爵も伯爵に追従すれば無難だったのだが、ケンネル侯爵の後妻に姉が収まっていたことが事態をややこしくする。


 ・子爵領は板挟み。


 結論としては、凄く面倒臭い状況ということが分かった。


 ミステリーで例えるなら、二時間のサスペンスドラマではなく、三夜連続の計六時間くらいのサスペンスドラマのボリュームだと思う。


 犯人を逮捕したと思ったらその背後に次々と悪い奴が現れるタイプのヤツだ。俺的にはハラハラして結構好きなパターンなんだけど、現実となると困惑しかない。


 まあ、そのミステリーが放送前に全部ネタバレしている状態なんだけどね。


 脳内で情報を箇条書きにしてある程度の全貌は見えたのだが、どこから手を付けたらいいのかに悩む。


 侍女を捕まえれば毒殺の危機は消えるが、責任は奥方や実家の子爵家も追及されるだろう。


 毒を盛った実行犯に罪がないとは言えないが、俺としては深く関わりたくないし断罪の切っ掛けになるのも嫌だ。


 それは子爵家やその当主の叔父の責任を追及しても同じ結果になる。


 伯爵に手を出すのも問題が大きくなり、事態の収拾がとても面倒になることが予想される。


 俺は正義の味方でも真実を追求する探究者でもないので、犯罪行為を見逃しても場が丸く収まる方を選択する。


 謎解きや悲劇は俺が居ないところでお願いしますというスタンスで生きていきたい。


「シルフィ、結局どうすれば丸く収まると思う?」


 解決への道筋が定まらないので、頼りになる風の大精霊に質問してみる。


「伯爵とか悪い人間を全部突き出せば終わるんじゃない?」


 凄くシンプルな解決法を提案された。


「いや、それだと処刑とか酷い目に遭う人が沢山出るよね。そういうのを排除してなあなあな着地点を模索したいんだよ」


 一番大切なのは俺の心情。よく知らない人の為に心に重荷を背負いたくないのです。


「うーん、それなら脅されている原因の子爵領をなんとかすればいいんじゃない?」


「ん? どういうこと?」


「子爵領が陸の孤島だから脅しが通用するんでしょ? なら脅しが通用しないようにすればいいのよ」


「それは分かるけど、どうすればいいか分からないよ」


「裕太は頭が固いわね。子爵領が孤立しているのは、伯爵領と面していない部分が山か谷だからよ。ならそこにトンネルを掘るか橋を架けるかすれば孤立からは免れるわ」


「なるほど」


 シンプルな提案の次には、シンプルで力業な提案がなされた。大精霊の力なら可能なところが地味に笑えない。


「でもそれって大騒ぎにならない?」


「騒ぎになったら駄目なの?」


 ……駄目……じゃないのか? 俺の仕業だとバレる訳がないし、若干犯罪チックだが悪いことではない。騒ぎになったとしても新たな選択肢が生まれれば子爵家としても生きる目が出てくる。


 あとは子爵家の努力次第ってところか。やむにやまれぬ事情があるにしても、家臣を脅したり子供に毒を盛ったりしたんだから少しは苦労しないとね。


 それにしても、子供の治療をするだけなはずなのに、なんでトンネルやら橋やらの工事が議題に上がることになるんだろうね。


 あ、そもそもは保養地の視察が目的だった。俺はどれだけ遠回りしているんだろう?


 まあいい、色々と調べたシルフィが、それでなんとかなると判断したんだ。なんとかなるのであれば後は相手の頑張り次第ってことだな。




 ***




 朝食を終え、ベル達やジーナ達を連れて冒険者ギルドに向かう。


 昨晩、ノモスに頼んでコッソリと子爵領の谷に頑丈で巨大な石橋を架けてきたから、今頃子爵領では大騒ぎになっているだろう。


 橋とトンネルどちらにするかで悩んだが、トンネルだと繋がった先が格上で、橋だと繋がった先が格下だったので、気を遣って格下の方を選択しておいた。


 派閥も同じなようだし、繋がった先が格下なら少しはやりやすいだろう。繋がった先も、まあ、交流が簡単になって経済も活発になるから丸損ではないはずだ。たぶん。


 なんとなく良いことをした気分になり、機嫌よく冒険者ギルドのドアを開ける。


 さて、祝福の地の依頼掲示板はこっちだったな。


 ふむ、前回確認してから数日、新たな依頼は増えていないようだ。まあ祝福の地の依頼はギルドの信頼できる冒険者に任されるらしいし、それから外れる依頼がサクサクと増えることは少ないだろう。


 掲示板からケンネル侯爵家の依頼表を剥がし、周囲の注目を集めながらカウンターに向かう。


 なんかバカにしたような笑い声が聞こえるが、こちらは全てを承知しているのでなんの問題もない。


「この依頼をお願いします」


「あの、裕太様がAランクの冒険者であることは把握していますが、この依頼は侯爵家の依頼で、侯爵家が力を尽くしても解決できなかった治療依頼です。それを理解した上での判断ですか?」


 おおう、確認というよりも脅しに近いな。まあ気軽に挑戦して失敗されて困るのは理解できるが、そんなこと言われたら解決できる人材でも尻込みしちゃうんじゃないか? 


「理解していますので受理をお願いします」


 まあ俺は事前の偵察で治せることが確定しているから、自信満々で受けるんだけどね。


「……では、ギルドマスターとの面談がありますので、少々お待ちください」


 あれ? 面談があるの? 面談があるのは祝福の地の解決可能な依頼の方で、掲示板の無理難題に近い依頼の方は普通に受けられると思っていた。


 だってそうでもないと受ける人なんて現れないよね。


 ……あー、そうだった。それ以上に信用が必要な場所だったな。できると言われて素直に信じられるほど甘い場所ではないか。かなり警戒が厳重だったもんな。


「分かりました」


 まあそれでも大丈夫だろう。Aランクという肩書もあるし、実際に治療する能力もあるのだから、迂闊に跳ねのけたりしないはずだ。


 侯爵家からの無理難題依頼の達成は冒険者ギルドにとっても得だからな。


 言われた通り少し待っていると俺だけ呼ばれたので、ジーナ達を残して奥に進む。


 他の冒険者に絡まれる心配はあるが、ジーナ達もそれなりに強いから大丈夫だろう。でも念のために様子見をシルフィに頼んでおこう。


 受付嬢に案内されて部屋に入ると、ゴツイおじさんが厳しい目で俺を見つめていた。


 戦士タイプの冒険者がギルマスになったっぽいな。


「さて、特殊依頼を受けたいらしいな。先に言っておくと、冒険者ギルドとしては失敗されるくらいなら受けないでほしいと思っている。お偉いさん相手の依頼失敗はギルドの運営に響くからな。それゆえ、それなり以上、いや、超一流の腕があると確認できなければ依頼を受けさせるわけにはいかん」


 信用よりも腕の確認が先なのか。信用できても治療できなければ意味がないからかな?


「こちらとしては腕に問題はないと思っている」


 なんとなくだが、目の前の相手は謙遜とかしたらそれを素直に受け取りそうなので、強気な雰囲気で応える。


「Aランクとはいえ精霊術師のお前がか? もしかして貴重な秘薬を所持しているのか?」


「精霊術での治療だな」


 エルフの秘薬や精霊樹の果実も持っているけど、今回は精霊術一択だ。テリトリーとしている迷宮都市からかなり離れた国だし、ここでなら多少派手にやっても問題ない。


 だからここで精霊術師の株を爆上げしておこうと思う。


「……信じられん。そもそも精霊術師がAランクであることが信じられん……が、Aランクはコネや金でどうにかできるようなものではない。それに噂程度だが凄腕の精霊術師の話も流れてきている。だがそれは戦闘に関してだ。治療についてもそれだけの実力があるというのだな?」


 俺の噂がこんなところにまで伝わっているらしい。まだ疑問視されているようだが、これからも実績を積み続ければ、俺だけではなく精霊術師の評価が冒険者ギルド全体で上がるかもしれない。これは嬉しい可能性だ。


「治療についてもそれだけの実力があると自負しているが、それをどう証明すればいい?」


「それについてはこちらで患者を紹介する。その治療で実力を示してほしい。無論、それなりの報酬は約束する」


 強気で請け負ったからか、ギルドマスターの態度が少し軟化した。でも、治療の前に別の治療をするのか。地位がある相手だと、本当に手順が面倒だな。


 一発勝負は怖いが、ヴィータなら大丈夫だろう。ここは更に強気でベットだ。


「分かった。俺の方はいつでも構わない」


 ヴィータ先生、お願いします。




 ***




 とある子爵領




「は? なんでこんなところに橋が? 昨日はなんもなかったよな?」


「……分からん。とりあえず村長に報告するか?」


「……そうだな。正気を疑われる気もするが、報告せん訳にもいかんよな」


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子爵家や奥方の従者などに真実を告げると新しいしがらみが出来るし欲にかられる奴が出るといけないから黙って問題解決のみして去る これぞユウタ流
[一言] 子爵領の人ww そうなるよねー ヴィータ!がんば!
[一言] 橋だけじゃなくトンネルも掘ってあげればよかったのに。
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