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六百六十一話 自己保身は大切

 保養地に入る許可を得るためにスピネル王国、ネルの町の冒険者ギルドを訪れた。そこで保養地の名前が祝福の地という名前だったり、そこの湖が神の涙という名前だったりと好奇心をくすぐられ、その保養地への侵入を決意する。大精霊にお願いすればなんとかなりそうな依頼が二つあるし、たぶん大丈夫なはずだ。




「すみません。宿の紹介をお願いできますか? 値段はある程度高くても良いので、居心地の良い宿をお願いします」 


 掲示板の確認を終え、ギルドカードを提示しながら受付嬢に宿の紹介をお願いする。


 やっぱりこの冒険者ギルドの受付嬢も美人だな。絶対に採用基準に容姿が含まれているよね。


「はい、畏まり……ました」


 今度は二度見はなかったが凝視された。やっぱり、初めての冒険者ギルドに足を踏み入れる時はゴージャス装備が必要なのか。


 でも、地味に面倒臭いんだよな。キラキラだし、高品質とはいえ普段着と比べると動きづらくもある。


 詐欺と疑われるならともかく、二度見、三度見くらいなら許容範囲と受け入れるべきかもしれない。


「失礼いたしました。この町にはどのようなご用件で、もしかして拠点にしていただけるのですか?」


 Aランクのギルドカードって凄い。元々愛想が悪い感じではなかったが、あきらかに表情の輝きが増した。


「いえ、弟子達と旅の途中なのですが、祝福の地ですか? 偶然あそこに立ち寄って興味が湧いたので、滞在はその辺りがどうにかなるまでですかね」


「そうなのですか。しかし祝福の地はAランクといえど他国の方ですから難しいと思います。え? 精霊術師?」


 Aランクでも駄目って感じなんだな。やはりランクよりも信用が大切っぽいな。そして改めてギルドカードを確認し、精霊術師のところで固まってしまった。


 この国でも精霊術師の評判は良くなさそうだ。


「その、精霊術師の冒険者の時点でとても珍しいのですが……」


 受付嬢がめちゃくちゃ困惑している。精霊術師の才能があっても精霊術師として登録しないタイプの国か。迷宮都市と似た感じだし、精霊術師に対する印象は良くなさそうだ。


 Aランクじゃなかったら、がっつり下に見られた可能性もあるな。


「まあ、その辺りは俺も理解しています。とりあえず今日は休みたいので、宿の紹介をお願いします」


「あ、そうでしたね、失礼いたしました。では居心地が良い宿をピックアップしますので、そこからお選びください」


 さて、どんな宿があるかな? トルクさんの宿みたいにご飯が美味しくて居心地が良ければ最高だけど、正直料理についてはあまり期待していない。


 迷宮都市も楽園も料理がエボリューションしまくっているから、今の俺達で満足できる可能性が低いからだ。できれば、なにか面白い食材との出会いを期待したい。




 ***




 中の上クラスの宿で、リピーターが多いらしい宿を選択した。


 上や最上級の宿は飛び込みだと断わられる可能性もあるし、なんだか肩が凝りそうだからだ。


 それで料理なんだけど、やはり満足とまではいかなかった。


 むしろ余計な手を加えていない屋台の串焼きの魚の方が美味しかった。というか、シンプルな串焼きの魚がめちゃくちゃ美味しかった。


 あれだけ下流の魚の味が上質になるなら、神の名を冠しても納得できるくらいだ。


 屋台料理を楽しみにしていたベル達やジーナ達はもちろん、シルフィも中々ねと言うくらいには好評だった。


 保養地に入れたら魚をできるだけ仕入れて帰ろうと思う。


 まあ魚の仕入れは置いておくとして、ディーネとヴィータに確認しておこう。


「お姉ちゃんとうじょー」


「急患……という訳ではないようだね」


 ディーネとヴィータの登場の落差が酷いな。まあヴィータの場合は命に関わる可能性があるからしょうがないか。


「うん、急患ではないから安心して。実は相談したいことがあるんだ」


 ディーネとヴィータに座ってもらい、事情をかくかくしかじかと説明する。


「んー、お姉ちゃん、水に関係するなら大体のことはできるけど、他の子の縄張りだったら理由次第では無理かもしれないわー。お仕事だったりしたら邪魔はできないものー」


 他の子? 他の水の精霊ってことかな? そういえばディーネも色々と自分のお気に入りの場所を確保しているんだったな。巨大クラゲのベッドとか……。


「僕の方は診てみないと断言はできないかな。大抵の病気は治せるけど、呪いの類だと話は違ってくるよ」


 呪いなんてパターンもあるのか。自分に振りかかる可能性を考えると普通に怖い。


「ヴィータ、呪いを解くにはどうすればいいの?」


「呪いは光の精霊だね。裕太の場合は楽園のこともあるし、聖域に戻れば最悪ライト様がなんとかしてくれるよ」


 あ、そうか、光の精霊との契約を考えたけど、聖域だとある程度自由に力を使えるんだよな。


 今までライト様に甘味を貢いできた効果がこんなところで現れるとは。万が一呪いに掛かったとしても余裕しゃくしゃくだな。


「裕太、呪いよりも今は保養地のことが先じゃないの?」


「そうだった。でも、達成できない場合を考えると、ちょっと戸惑うよね」


 他国で自信満々に依頼を受けての失敗は割と恥ずかしい。しかもかなり珍しいと目されるAランクの冒険者で精霊術師である人間の失敗。


 旅の恥は掻き捨てって言うけど、精霊術師の評判が下がるのは受け入れられない。


 どうしたものか……。


「お姉ちゃんは確かめに行けばいいと思うわー」


「へ?」


「お姉ちゃん、頭いいでしょー」


 むふんと豊かな母性の象徴を張るディーネ。いや、そんなネタバレみたいなことを堂々と……いや、違うな。間違っているのは俺でディーネが正しい。


 娯楽でのネタバレは犯罪だが、仕事なら下調べは基本だ。むしろできるのにやらない方が愚かとすら言える。


「うん、ディーネの言うとおりだな。間違いなく警戒が厳しい場所だから、夜中にコッソリと確認に行くことにしよう」


 あれ? 自分で言っていて凄く違和感がある。保養地への無断侵入は普通に犯罪だよね。


 できるのにやらないのは愚かだが、できるとしてもやってはいけないことやるのはモラルが問われる。


 別に自分が聖人君子だとは思わないし、そうなろうとも思っていない。でも、無用の罪を進んで犯すほど人を止めた覚えもない。


 まあ、漏らすくらいなら人目のつかないところでの立ちションを選択するくらいには自分に甘い性格だけどね。


 ……よし、契約者として保養地の近くまでは一緒に行くが、保養地の中を見て回るのは大精霊達に任せよう。


 精霊はどこにでも存在するし、精霊に人のルールを強制させる法もない。


 精霊術師の規定とか組合があってそこにルールがあれば別だが、幸か不幸かそんなものは存在しないので、ある意味やりたい放題だ。


 よし、自己保身も自己弁護も完璧だ。


「じゃあ出発は夜中だし、俺は仮眠を取ることにするよ。ディーネ、アドバイスありがとう、助かったよ」


「どういたしましてー。裕太ちゃん、お姉ちゃんはご褒美にお酒が飲みたいわー」


 ……まあ、俺が仮眠している時間くらいで酔って仕事ができなくなるほど大精霊はお酒に弱くないか。


 シルフィにもディーネにもヴィータにも働いてもらうんだし、報酬の先払いということにしよう。


「分かった。じゃあ一樽出すね」


 寝酒替わりに俺も少し飲みたいしね。


「あ、お姉ちゃん、この国のお酒を飲んでみたいわー」


「今日到着したばかりだからまだお酒は買っていないよ」


 大精霊の視線が俺に集中する。


「……時間がある時に酒屋に行くから次の機会にね」


 納得してくれたようで大精霊達の視線が取り出した樽に向かう。さて、俺も軽く飲んでさっさと寝るか。酒屋に行くのは忘れないようにしないとな。


 まあ、忘れてもシルフィが思い出させてくれるだろうけど。




 ***




「しかし暇だな」


「そうだね。暗いしやることが無いよね」


 夜中に予定通り目を覚まし、予定通り保養地近くにやってきた。


 ディーネとヴィータ、そしてそのフォローにシルフィがついていっているのだが、そうなると俺が一人になってしまう。


 黒ではないが灰色に近い行いなので、当然ベル達やジーナ達を連れて行くわけにもいかない。


 でも、一人で待つのは物騒だしなによりも寂しいということで、追加で大精霊を召喚した。


 こういう時に安心できるのはドリーなのだけど、ドリーには森の管理やサクラの相手もしてもらっているし、なんとなく夜中に呼び出すのは申し訳ない感じがする。


 残りはノモスとイフ。この二人は基本的に四六時中お酒を造っているので、いつ呼び出そうが心は痛まない。


 あとはどちらを召喚するかなんだけど、強面ツンデレなノモスと、ちょっとガサツだけどスタイル抜群の美女なイフ、もう一択だよね。


「そういえば火エリアの様子はどう?」


 火の精霊達が喜んでいるのは知っているが、具体的なところは俺も知らない。だって熱いもん。


 ただでさえ火がボーボーなのに、火の精霊が沢山集まっているから熱気が凄まじいんだ。集まっているのは小さい子達だけど、みんなフレアと同じく元気いっぱいなんだよね。


「ああ、チビ共もかなり喜んでるぜ。火の精霊があれだけ自由にやれる場所は少ないからな」


「そっか、それなら造った甲斐があったね」


 まあ、俺は許可を出しただけでガチで何もしていないけど。いや、楽園の基礎は俺がやったんだから、無関係って訳じゃないか。


「ああ、だがまあ、楽しくて帰りたがらんチビも増えたがな」


 イフがちょっと遠い目をしている。さすがにイフもチビッ子達のパワーには敵わないらしい。人間の子供もそうだけど、精霊のチビッ子達も元気いっぱいだからな。


 楽園に集まるチビッ子精霊達の力を電力変換できれば、原子力発電所並みの発電量がある気がする。


 しかも火力、水力、風力と、発電方法も様々で果てしなくエコだ。


 まあ今のところ電気が必要なのは俺が持っていたスマホとかくらいだけどね。地球でなら大儲けできたと思うと少し残念だ。


 あ、でもある程度力を使えるとはいえ、契約してないなら自然にため込んだ力だけってことになるし、さすがに濡れ手に粟は無理かもしれないな。




「お、戻ってきたぜ。裕太、宿に戻ったら酒を出せよ」


「了解」


 のんびりと雑談していると、イフがシルフィ達の帰還を察知した。保養地の方を向くとシルフィ達が戻ってくるのが見える。


 結果は分からないが、保養地の方向で騒ぎは起こっていないようなので問題はなかったのだろう。


 あとはお酒を飲む気満々のイフと、それに便乗するであろうシルフィ達を抑えてちゃんと報告が聞けるかどうかだな。


 別にそこまで急ぎじゃないから明日でも構わないが、できればスッキリ眠りたい。


1/9日、コミックブースト様にて、コミカライズ版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第61話が更新されました。

サラ達の死の大地での生活開始と、ベル達のフクちゃん達への指導? など、盛りだくさんですのでお楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊の姿見えるの願いの後だっけか懐かしい キッカかわいいしやさぐれシルフィもよかったw
[一言] もしかして今ならマグマフィッシュの養殖とか出来るんじゃないだろうか……精霊の料理人もいるし。
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