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六百五十九話 シトリンの提案

 精霊王様達の楽園視察は無事に終了した。予想以上に風車に食いつく精霊王様達とか、ラーメンを一心不乱にお代わりするアース様とか、精霊王様達の存在に緊張したり褒められて感激したりで落ち着かないラエティティアさんとか、光のサウナでおっさんのようになってしまったライト様とか、色々とあったが満足してもらえたようなので問題はないと思っている。




 巨大化して飛び去って行くウインド様に手を振りながら見送る。


 精霊王様達の視察、これでようやくお終いだな。


 結局徹夜で宴会になっちゃったけど、まあ、俺も楽しかったし良いだろう。


 お酒の合間に精霊王様達が自分のエリアにのんびり散歩に出て、そして満足気に戻ってくるのを見ると結構嬉しかった。


 ライト様なんか何度か宴会場と光のサウナを往復していたもんな。かなり気に入ってくれたようで、作った俺としても大満足だ。 


 でも、徹夜は疲れる。できればこのまま眠りにつきたいところだが、あと一時間もせずに先に寝かせたベル達やジーナ達が起きてくる。朝が早いトゥルやタマモはすでに起きて散歩に出ているくらいだ。


 みんなに朝食を食べさせるまで宴会場の片づけでもしながら起きておいて、朝食とその後の指示だしが終わってから仮眠だな。


「ん? シトリンどうしたの?」


 のろのろとお片付けをしていると、手伝ってくれていたシトリンが袖を引いてきた。シトリンは控えめな性格なのか、俺に直接接触してくるのは地味に珍しい。


「提案がある」


「提案?」


 シトリンには両替を任せているし、それ関連かな?


 楽園の拡大に伴い、精霊王様達から宴会中に遊びに来る精霊達の増員を提案され、ルビー達との相談の上でそれを受け入れた。


 今でも楽園に遊びに来たい精霊は沢山いるらしいから、余裕があるのなら受け入れても問題はない。


 酒島と違ってこっちは良い子達ばかりだから、問題を起こす子もほとんどいないもんね。偶に起こる問題もうっかりやら不注意やら不慮の事故やらだから、悪意もまったくない。


 酒島の方も悪意はまったくないのだけど、お酒が入っているからな。精霊はお酒に強いが酔わない訳じゃない。


 そこまで悪質な酔い方はしないが、もっと飲みたいと駄々をこねたり、聖域な上に珍しいお酒でテンションが上がり、うっかり力を暴発させたりすることもある。


 まあ、周囲の精霊があっさり抑え込むから問題はほとんどないのだけれど、下と比べると細かい問題はかなり多い。


 おっと、今は酒島のことじゃなく、シトリンの提案について考えないとな。


「遊びに来る精霊が増えるから、通貨の流通量を増やすとかかな?」


「それも必要。でも、提案は違う。村のこと」


「村? ああ、新しくする予定の精霊の村のこと?」


 属性エリア開発が終わり少しのんびりするかと考えていたのだけど、どうやら次の開発の相談のようだ。


 俺よりも圧倒的に寿命が長い精霊なのだから、そんなに急がなくてもいいのに。


「そう。参考にしてほしい場所がある」


 人が暮らす町のようにしたいとは聞いていたが、シトリンにはお気に入りの場所があるようだ。


 ふむ。俺がある程度知っている場所は迷宮都市とベリル、あとエルフの国くらいだけど、提案してくるってことは別の場所なんだろうな。


 新しい場所、シトリンが勧めてくるってことはそれなりに特徴があるはずだし楽しそうだな。


 それに、一から村を造るよりも参考にできる村があるなら、それをパク……リスペクトしたほうが確実に楽で良い村ができる。


「分かった。同じようにできるかは約束できないけど、見学に行ってみるよ」


「ありがとう。場所は……覚えられる?」


 なんか酷いことを言われている気がしないでもないが、シトリンには悪気はないだろうし、残念なことに言葉で説明されて理解できるとは思えない。


「悪いけど、後でシルフィに伝えておいてくれる?」


「分かった」


 シトリンが頷いて去っていく。さて、予想外の提案で次の目的が定まった。上級精霊お勧めの場所か、ちょっと、いや、かなり楽しみだな。


 まあ出発はひと眠りした後に皆と相談してからだけど。




 ***




 シトリンの提案を受けて十日後、俺達はその提案の場所にもうすぐ到着する。


 それにしても、予想以上に出発までの時間がかかった。


 原因は遊びに来る精霊達の増加。特に大きな問題が起こった訳じゃないが、細々とした問題や不便は発生し、その対策に少し時間を取られてしまった。


 通貨やベッド等の不足は予想していたが、まさか喜び過ぎてそれが問題になるとは思わなかった。


 いやー、火、光、闇の精霊達が喜ぶこと喜ぶこと。


 わざわざエリアの設置を精霊王様達にお願いされるだけあって、火、光、闇の精霊には落ち着ける場所が他と比べて少なかったようだ。


 風、土、水は基本的にどこにでもあるし、時間や季節による変動も少ない。反面、光と闇は時間制限があるし、火も溶岩などではなく純粋な火で考えると規模が大きい場所はそれほど多くない。


 闇は洞窟なんかに籠れば関係ないが、闇の精霊の為に考えられた地下空間は激レアなのだそうで、こちらも大喜び。


 光は制限が一番厳しいところに、光茸の畑に加え光のサウナなんてものまで造られて狂喜乱舞レベルの大喜び。


 みんなとっても良い子なのだけど、そこまでテンションが上がると色々と問題も起きる。特に中級精霊達の興奮が痛かった。


 いつもはチビッ子達の面倒をみる心強いお兄ちゃんお姉ちゃんなのだけど、新エリアに大喜びしてくれてチビッ子達と一緒に興奮してしまった。


 まとめ役がそんな調子だったから、人数が増えた以上に賑やかで大忙しだった。


 それでもある程度ルールを決め、中級精霊に事前に注意を促すことである程度落ち着いたから、ようやく旅に出ることができた。


「あの辺りね。裕太、離れた場所に降りるわよ」


「うん、よろしく」


 ようやく到着したか。上から見た感じ、自然も豊かでかなり余裕をもった作りのようだ。精霊お勧めの場所だけあって、自然との共存がちゃんとできているらしい。


 シルフィに人目につかない場所に降ろしてもらい、目的地の村に向かって進む。


 ベル達もジーナ達も見知らぬ場所が楽しみらしく、楽しそうにはしゃいでいて俺までワクワクしてくる。さて、シトリンお勧めの村はどんな村なのかな?



「あー、なんか予想と違うのだけれど、大丈夫だと思う?」


「思わない。師匠、あの村はたぶん普通じゃないぜ」


 俺の疑問にジーナが素早く返事をくれる。


 だよね、村に近づいてみて分かったのだけど、あきらかに普通じゃない。だって、村なのに立派な門があって、兵士らしき門番が立っているんだもん。


 それほどこの世界の村の事情を知っている訳ではないが、それでも逸脱していることは門を見ただけで理解できる。


「シルフィ、村の様子を教えてくれる?」


「そうね、ざっと確認してみたのだけど、建物も上質、中に居る人間も裕福に見えたわ」


「そっか、もしかして貴族とか沢山居る?」


 村だと思っていたのだけど、もしかしたら貴族の避暑地か何かなのかもしれない。


 精霊には村と避暑地の区別は難しかったか?


「そうね、区分けになっているみたいよ。湖の奥の方は明らかに貴族っぽい人間が多いけど、手前、中間あたりは違うと思うわ。でも、裕福な感じはするわね」


「ありがとうシルフィ」


 んー、王侯貴族限定の場所って訳ではなさそうだが、それでもある程度選別されている場所みたいだな。


 奥はともかく手前と中間くらいなら見学くらいできるか? 門の様子を見る限り難しそうだけど、聞くだけ聞いてみるか。


 ジーナ達には後ろに下がってもらい、ゆっくりと門に近づく。しっかり警戒されているな。観光も無理かもしれない?


「そこで止まれ。冒険者か?」


 間違ってないけど子供も居るのに冒険者って具体的に決めつけ……ああ、そうか、徒歩だもんね。富裕層や商人なら馬車を使うのだろう。行商人も有り得るが、富裕層が対象なら行商人の可能性は低い。


「はい、冒険者です。といっても依頼ではなく旅の途中で、人里があるなら休憩しようかと寄ったのですが、可能な雰囲気ではありませんね」


「うむ、ここは保養地で、身分が保証されている者しか入ることはできん」


 マジか。身分保障なら王様からもらった短剣か身分証でなんとかなるか? でも、場所的にかなり遠いんだよな。国の関係も分からないし、いきなり身分証を出すのは止めておこう。


 でも、冒険者って聞かれたし、依頼なら入れそうな気もする。


「そうでしたか。お騒がせしました。なんだか凄そうな場所なので興味があるのですが、冒険者なら依頼で中に入ることができますか?」


「ああ、依頼でならな。だが、この町に関する依頼は最低でもCランクが必要だ。それに加え、冒険者ギルド側で問題がないと信頼されなければ依頼自体受けられん。旅人では無理だと思うぞ」


 うわー、予想以上に警戒が厳しい。貴族街に近い扱いか?


 でも、俺も一応Aランクの冒険者だし、なんとかなりそうな気がしなくもないな。


 無理に観光する必要もないが、シトリンのお勧めだしすぐに諦めるのも申し訳ない。空からコッソリ侵入しても構わないが……しっかりと視察をするためにも正攻法で頑張ってみるか。


「分かりました。まあ、機会があれば頑張ってみようかと思います」


「あはは、難しいと思うが、機会があれば挑戦してみるといい」


「ありがとうございます」


 門番にお礼を言ってその場を離れる。警戒は厳しかったけど、門番の態度は良かったな。富裕層の為の場所のようだし、門番も選別されているのかもしれない。


 お、ベル達が戻ってきた。俺が門で話している時に我慢できずに中に遊びに行っちゃったんだよね。


 まあ、ベル達に中の様子を聞いても、それを再現するのは難しいだろう。ん? それなら大精霊を全員召喚して、隅々まで調べてもらえばなんとかなるか?


 とはいえ、これだけしっかり管理されているなら、俺としても中に興味があるし、大精霊達にお願いするのは最終手段にしておこう。


 あれ? なんかベル達がションボリしている。


「ゆーた、やたいなかったー」


 なるほど、富裕層の為の場所だから、屋台が必要ないのかもな。逆に高級品を屋台で出して庶民の雰囲気を楽しむとかありそうだけど、それじたいが庶民の考えかもしれない。


「近くの町にはたぶん屋台があるよ」


 新たな屋台の可能性を聞き、ベル達のテンションが急上昇した。こちらは問題ないな。


 あとは近くの町の冒険者ギルドで依頼の確認か。凄腕精霊術師必須の依頼とかないだろうか?


 あ、それ以前に精霊術師の評判の方が問題だな。プラスは期待薄だとしても大きなマイナスではないことを願いたい。


精霊達の楽園と理想の異世界生活、今年最後の更新となります。

一年間お付き合いくださり本当にありがとうございます。

来年も更新を続けますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

皆様、良いお年をお迎えください。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また何か面白いことになりそうで次の話が楽しみ [気になる点] 光のサウナって日中、誰が二重扉を開けて光を充填してるのかな?と気になった [一言] 良いお年を
[一言] 今年も一年楽しませて頂きました 来年もよろしくお願い致します 良いお年をお迎えください
[一言] 今年も一年お世話になりました! 来年もよろしくお願いいたします。
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