六百五十八話 自由な精霊王様達
精霊王様達の視察は闇エリアと火エリア、そして風車を紹介し順調に好評をいただいている。ぶっちゃけると闇エリアは迷宮だし火エリアは灼熱地獄にしか見えないのだけれど、好評なので問題ないと自分を納得させている。その点、自画自賛だけど風車を用意した俺、偉い! 風車で遊んでいる精霊達を見ると凄くホッコリするもん。
「そろそろ昼食の時間ですから移動しますよ」
意外と風車に食いついた精霊王様達に声をかけて移動を促す。それにしても想像以上に興味津々な様子だったな。
「ウインド様、みなさん風車の存在は知っていたんですよね?」
ちょっと不思議に思ったので質問してみる。
「ん? ああ、知っていたのにここまで喜んだのが不思議だったかな?」
「はい」
心なしか童心に帰っていたように見えたから、正直かなり不思議だ。
「たしかに風車の存在や仕組みは知っていたけど、実際に体験したことはなかったんだよね。僕達、精霊王だから」
「精霊王様だから? ……ああ、なるほど、そうですね精霊のトップがわざわざ人の一施設に視察に行きませんね」
これはアレだ、漫画とかで偶にある、大金持ちが庶民グルメを喜ぶ感じのパターンと似たやつだな。生活領域の違いで生まれるギャップ萌えというやつだ。
「そうなんだよ。人類が生まれたのって僕が精霊王になって随分経ってからだからね。人の営みと直接関わるのは珍しいんだよ。お酒くらいかな?」
「そ、そうなんですか……」
……想像以上にギャップが広かった。
そっか、精霊王様クラスになると人類が生まれる前から精霊王なんだね。それでもお酒にはしっかり関わっているあたり精霊の業の深さが垣間見える。
とりあえずお酒関係にツッコミを入れると、精霊という種族全体に酒カス認定を下すことになりかねないからそっとしておこう。
無難な方向に話題をシフトしながら精霊樹に向かう。
「ごちそー」「キュー」「たくさん」「ククゥ!」「うまそうだぜ」「…………」「あう!」
ベル達&サクラの言うとおり、精霊樹の根元のテーブルには沢山のご馳走を並べた。
楽園食堂のメニューに加え、豪華版ハンバーガーやテリヤキバーガー、ポテトにナゲット。そして麺が伸びてしまうのでまだ並べていないが、トルクさんとルビー特製のラーメンも加える予定だ。
「あらあらまあまあ、今日はとっても賑やかなんですね。…………気のせいでしょうか、とてつもない方達がいらっしゃるような……そうですか、これが夢というものですか。なるほど、興味深いですね」
あと、タイミング良く、いや、悪くかな? ラエティティアさんが楽園にやってきて、飛びついたサクラを抱っこしながら混乱している。
気持ちは分からなくもない。遊びに来たら沢山王様が居るんだもんね。夢だと思っても仕方がないよ。精霊樹の思念体が夢を見るかどうかは知らないけど……。
「えーっと、ラエティティアさん、これは現実で、あそこにいらっしゃるのは精霊王様達です」
「……裕太様、大精霊様でもお目通りが叶うのは奇跡的なことなのです。そんな風に気軽に説明しないでください」
聖母とみまがう雰囲気のラエティティアさんが、ちょっとプンプンしている。なんか可愛い。
落ち着かないのかサクラを高速で撫でくり回しているが、まあサクラは喜んでいるからいいか。煙が出だしたらさすがに注意しよう。
「残念なことに重く説明しても現実は変わらないのです。一応、挨拶しておきませんか?」
サクラは問答無用でベル達と一緒に精霊王様達に突撃していたけどね。まあ、ラエティティアさんとサクラが同じ精霊樹の思念体だとしても、年季が違うから同じように行動できるわけもない。
人でも子供なら許されて大人は許されない、そんなパターンは沢山ある。
「……心の準備をする時間を頂けますか?」
「そうですね、後で紹介しますので、それまでに心の準備をしておいてください」
精霊王様達も目新しい料理に興味津々な様子だし、ご飯を食べて落ち着いてからの方が挨拶をしやすいだろう。
ホッとしたラエティティアさんを精霊王様達から離れた席に案内して、昼食を開始する。
楽しい昼食会。誰もかれもが食を楽しみ穏やかに時間が過ぎていく。ラーメンをワンコそばみたいにお代わりするアース様を除いて。
凄いね。気に入ってもらえるとは思っていたけど、凄まじく気に入ってしまったようで、トルクさんとルビーに大量に作ってもらっていたラーメンだけど、たぶん今日中にストックが全部なくなることになるだろう。
とりあえずアース様以外は落ち着いたので、ラエティティアさんを連れて挨拶に向かう。
「皆様、昼食はいかがでしたか?」
「ああ、とても美味しかったよ。ここは来るたびに目新しい料理が食べられて楽しいよ」
ウインド様が代表して答えてくれたが、どうやら満足してくれたようだ。
「楽しんでいただけたのなら良かったです。それでなんですが、今日は紹介したい方が居まして、えーっと、エルフの国の精霊樹の思念体のラエティティアさんです」
ラエティティアさんの紹介にちょっと迷ってしまった。思念体の紹介ってこれでいいのかな? まあ、分からないからそのまま言ってしまったけど。
「ああ君が。うん、話したことはないけど、僕達も君のことは知っているよ」
ウインド様が優しくラエティティアさんを見つめながら話しかける。さすが風の精霊王、ラエティティアさんのことも知っていたんだな。
ん? アース様がラーメンを置いて立ち上がった。意外と早く満足したらしい。ラーメンの在庫が生き延びたぞ。
立ち上がったアース様がゆっくりこちらに歩いてきて、ラエティティアさんの前で立ち止まる。
「……よく頑張った。大地は君にとても感謝している」
アース様がラエティティアさんに声をかけ、優しく頭を撫でる。
……そういえばラエティティアさんの死因? って、人間に毒やらなんやらで汚された大地を精霊樹が吸い込んで綺麗にしたからだったな。
だから土の精霊王であるアース様が、助けられたエルフの国の大地に代わってお礼をいったってこと。
「ふぐぅ、いえ、森を守る精霊樹として当然のことをしたまでです」
感極まったのか、涙を流しながらアース様に応えるラエティティアさん。なんかとても美しい光景に思える。
「そう? でも偉かったよ」
とどめのアース様の褒め言葉に、ラエティティアさんは返事もできずに涙を流す。
あれ? 褒めて撫でて満足したのか、アース様はくるりと踵を返して自分の席に戻り、再びラーメンをすすり始めた。あ、食べ終わったんじゃなくて一時中断だったんですね。
「のう裕太よ」
「あ、ライト様。食事はいかがでしたか?」
アース様の行動に少し呆れていると、ライト様が話しかけてきた。いま、結構感動的なシーンなはずなんだけど、精霊王様達は自由だな。
「うむ、美味かったのじゃ。で、約束の甘味はいつ出るのじゃ?」
「え? いえ、お昼を食べたばかりですし、少し時間を空けて出そうと思っています」
やっぱり前回の約束をしっかり覚えていたか。頑張って考えておいて良かった。でも、三時のおやつにはまだ早いよね。
「なんじゃと、妾はそれまで待たねばならんのか?」
そんなにショックを受けることですか? というか人類が発生する前から存在するのであれば、昼食から三時のおやつまでの時間なんて一瞬だよね?
「お腹いっぱいで甘味を食べるよりも、少しお腹を落ち着かせてからの方が甘味を楽しめますよ?」
「心配いらんのじゃ。妾には甘味用の腹がある」
ドドン! と背景に文字が出そうな勢いで断言するライト様。女性の別腹はよく聞くけど、そのプリティな真ん丸精霊兎ボディにも別腹が存在するのですか?
まあ約束していたしライト様の為に考えた甘味なのだから、ライト様が望むならいま出しても構わないか。
魔法の鞄から、昨日一生懸命考えて錬金箱で用意したお菓子を取り出す。
「……ふむ、なにやら変わっておるの。これが甘味なのかや?」
「はい、色々な味がありますから、どうぞお楽しみください」
今回のお菓子はかなり自信がある。
「うむ、それならば試してやるのじゃ。ん? 不思議な食感じゃが甘い、む、こっちはしょっぱく癖になる味、むむ、こちらはチョコレートじゃな。じゃが形と同時に味も違う」
ライト様がお菓子に手を付けると、そこから止まらずに次々とお菓子を口に運ぶ。
そう、今回のお菓子は、日本のスナック菓子の再現、ワンプレート盛りだ。
和菓子にするか洋菓子にするか悩んだ結果、結論が出ずになぜかそうなってしまった。でも、俺は頑張った。
ハッピーでターンで魔法の粉をまぶしたお菓子や、キノコとタケノコで戦争が起こるお菓子、キャラメルでキツネの鳴き声なお菓子など、様々お菓子を想像し創造した。
かなり大変だったけど、お菓子の原料は大体揃っていたので、時折休憩しながらそれなりの量を生産できた。
特に嬉しいのは魔法の粉の成功。オーソドックスなターンに、ダブルでもトリプルでも好き放題ハッピーできる。まさしく魔法の粉だ。
「む、これは妾のじゃぞ。……しょうがないのう、遠慮して食べるのじゃぞ」
今日初出しのお菓子なので、ベル達を含めたチビッ子達がライト様に突撃してしまった。いや、チビッ子達だけじゃなくルビー達もジワジワ近づいていっているな。
「みんな、それはライト様の分だよ。みんなのはこっちにあるから、こっちのを食べな」
大皿に盛りつけたお菓子をドンと出すと、チビッ子達&ルビー達がイナゴのように皿に群がった。結構な量を錬金したけど、多分足りないな。
でもまあ、お菓子を食べたルビー達が真剣な顔をしているから、ある程度は再現してくれるだろう。
お菓子に喜ぶチビッ子達がとても可愛い。
***
「日も暮れましたし、そろそろ行きましょうか」
昼食とおやつを食べ、まったりと過ごした後に、最後の視察に向かう。
「む、そうじゃな」
俺の言葉にライト様が真っ先に反応する。まあ、それも当然だ。ライト様のお願いで作ったのに興味がなかったら悲し過ぎる。
ライト様達を案内してキノコ畑に向かう。と言っても、目的地が明るくなっているから案内が必要なのかは疑問だけどね。
「ほう、光は弱いがなかなか落ち着くのう。裕太、悪くないぞ」
かなりの面積を二段階ほど掘り下げ、そこにめいっぱい光茸を植えたんだけど、ライト様にとっては弱い光らしい。
昼間のようにとはいかないが、それなりに明るいんだけどな。でも、ライト様が落ち着くのであれば、光の精霊も喜んでくれるだろう。
それに、光るキノコの畑は夜になると幻想的で、俺的にもかなり気に入っている。おっと、忘れるところだった。
「ライト様だけこちらにお入りください。かなり光が強いので他の方々は止めておいた方が良いと思います」
みんなに断りを入れて、ライト様を光のサウナに案内する。
「申し訳ありませんが、中の扉は俺が外の扉を閉めてから開けてください」
「む、まあ、かまわんが、扉が二つあるのかや?」
「はい、お手数ですがよろしくお願いします」
ライト様が中に入った後に扉を閉める。
急遽中に扉を増やして、二重扉にしたんだよね。部屋いっぱいのノーマルな光茸と全面の鏡張りの威力はすさまじく、ずっと閃光弾が爆発しているような光量になってしまった。
扉が一つだと開けた瞬間に目にダメージを負ってしまうので、管理の為にも扉は二つ必要だった。さて、ライト様の反応は……。
「ふいー、たまらんのじゃ。裕太、でかした! 妾は大満足じゃ! よし、宴会じゃな。今夜は酒が旨いのじゃ!」
結構な時間が経過した後、ライト様がおっさんのような声を出しながら出てきた。満足してくれたのは嬉しいが、可愛らしいライト様のおっさん化は止めてほしかった……。
読んでくださってありがとうございます。




