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六百五十七話 火エリア

 精霊王様達から頼まれた火・闇・光の精霊達の為のエリア、その開発にある程度目途が立ったところで、さっそく精霊王様達が視察に訪れた。まず案内したのは闇エリア、俺も見たことがなかったのでドキドキしていたが、なんか地下都市が発展しそうなくらい大規模な空間が生まれていた。次は火エリアの視察なのだが……俺の心臓への負担が心配だ。




 あっという間に地上に戻ってきた。


 心の準備をする時間とか考えていたけど、そもそも無理なんだよね。火エリアの開発に協力したチビッ子達が、その成果のお披露目を前にのんびりさせてくれるはずもなく、早く早くと急かされて超特急だった。


 で、チビッ子達に案内されて巨大な土壁の前に俺達は立っている。


 この壁は楽園と死の大地を分けるために俺が作った岩の壁ではなく、ノモスが作った単なる目隠しの為の土壁。


 目隠しの為に俺が苦労して岩山を解体して、できるだけきれいに並べた岩の壁よりも立派な物を作るなと言いたいが、自分でできるところは自分でやると決めたのは俺なので文句は言わない。


 そもそも、なんで隠すの? という話なのだが、これは俺の下手なサプライズ好きがチビッ子達に伝染してしまったからなので、こちらも文句は言えない。


 過程を見て完成を予想されるよりも、一気に完成を見せて驚かせたいという気持ちもよく分かる。


 自業自得ということだ。


 壁の前には火エリアの開発を手伝ったメンバーが並んでいる。中心のイフは意外と常識人だがチビッ子に甘い、ノモスも隠そうとしているが隠しきれないほどチビッ子に甘い。


 その左右で凄いの作ったんだよと自信満々の笑顔を浮かべるチビッ子達の顔を見て不安が募る。死の大地に魔境とか生まれていないよね?


 常識の範囲内に収まっていると信じたい。


「裕太、準備はいいか?」


「心の準備? いや、まだ全然できてないけど?」


「何を言ってるんだ? 裕太が責任者なんだから、お前の合図で壁を取り払うんだよ」


 イフの言葉に反射で答えると、呆れた表情で言葉を返された。え? 俺、責任者だったの? サプライズを仕掛けられる側なのに?


 さすが精霊や魔法、魔物が存在する世界だな、責任者という言葉もファンタジーだ。


「えー……火エリアオープン?」


 合図が疑問形になってしまったが、これはしょうがないと思う。せめて事前に挨拶の言葉を考えるように通告してほしかった。


 僕のあやふやな合図と共に巨大な土壁がズゴゴゴゴと地面に沈み始め、徐々に火エリアが姿を現し始める。


「……………………え? これ大丈夫? イフ、ノモス、これ、大丈夫なの?」


 ある程度常識が破壊されるのは覚悟していたが、その規模と方向性が俺の予想と違っていたので思わず取り乱してしまう。


「大丈夫に決まってんだろ」


「儂ら精霊が手掛けた物が大丈夫でない訳がないじゃろうが」


 イフとノモスの圧倒的な自信、カッコいい。


「ゆーた、すごい? すごい?」「キュー」「がんばった」「ククゥー」「もえるだろ?」「…………」「あう!」


 詳しく話を聞こうとしたが、その前にベル達とサクラが褒めて褒めてと集まってくる。疑問はいっぱいだがとりあえず褒めまくることにしよう。


 でも、サクラ、無邪気に喜んでいるけどこれでいいの? 植物には向かない環境だよ?


 というかジーナ達も俺の驚く様に満足気だけど、これを作るのに喜んで協力したの? 常識とか破壊されてない? 大丈夫?



 たっぷりチビッ子達を褒めそやし、改めて火エリアを確認する。


 ファイア様は大喜びしているから火のエリア開発としては問題はない。問題はないのだが、想像と違い過ぎて脳がバグる。


 予想としては迷宮の火山地帯。マグマの川が流れていたり小さな火山があったりして火の精霊の居心地が良さそうなエリアをイメージしていた。


 遠目から見ても大きな火山が見えなかったし、小さめの火山とかマグマの池なんかも考えていた。


 でも違った。


 ダイレクトに火・火・火・火、火が沢山なエリア。でも、なぜそうなっているかがいまいち理解できない。


「あんないするー」「おれもだぜ!」


 呆然としているとベルとフレアが顔の前に飛んできて、案内を申し出てくれた。そうだね、見ているだけでは感情が追いつかないし、案内してもらいながら消化しよう。


 それにしても案内するのは責任者のイフの役目なんじゃ? 後ろの方で両腕を組んで全て任せたって顔をしているな。自分の仕事は終わったと思っているらしい。あ、そういえば責任者って俺だったな。


 この世界、不思議がいっぱいだな。大人しくベルとフレアの案内を受けよう。


「みちー」「じしんさくだぜ」


 火のエリアに足を踏み入れると、ベルがきゃらきゃらと楽しそうに笑いながら教えてくれた。ベルの名前の由来になった風鈴のように、とても耳に心地よい笑い声だ。


 そしてフレア……ニヒルな感じを表現しようとしているのだろうが、可愛いしかないぞ。


「みちー」「じしんさくだぜ」


 俺が反応しなかったからか、再度教えてくれるベルとフレア。


「うん、道だね。歩けないけど」


 火のエリア、最初のツッコミは道。だって、燃えているんだもん。誰が歩くんですか? ああ、火の精霊か。


 他の精霊でも歩けないことはないだろうけど、気持ちよく歩けるのは火の精霊だけだろう。まあ、ここは火エリア、火の精霊の為の場所なので間違ってはいない。


「でも、これ、なんでずっと燃えているの? 魔法?」


「そんな無駄なことはせんわい。地の底から可燃性の空気を引っ張ってきておるだけじゃ」


 マグマを引っ張ってくるんじゃなくて、燃えるガスを引っ張ってきたってことか。そういえば地球にも燃える丘とかいう、ガスか何かが噴き出て常に火が出ている丘があるとか聞いたことがある。


 ガスは大丈夫なのかとか、燃えることによる空気の汚染とか気にならないこともないが、ノモスの言うとおり大精霊が手を加えているのだから余計な心配なんだろうな。


「いけー」「みつどがじゅうようだぜ!」


「うん池だね」


 ベルとフレアの小さな指の先には轟々と燃え盛る火の塊がある。池に見えないこともない。


 密度……そうか、枯山水か。火エリアのコンセプトが見えた気がする。


 枯山水は石や砂で自然を表現するが、その火バージョンなんだな。自然というよりも灼熱地獄を表現している気がしないでもないが、これはこれで新たな試みだと思う。


「もりー」「はげしさがぽいんとだ」


「うん、森だね」


 ガスの勢いを強めているのか、無数の火柱が立ち上がっている。木に見えないこともない。 


「ひろばー」「ひとときのきゅうけいだぜ」


「そっか、広場かー」


 そうなると、あの火は芝生を表現しているのかな? ライターで出す火くらいの小さな火が絨毯のように広がっている。寝ころんだら焼死しそうだが、広場に見えなくもない。


「いえー」「ちょっとちいさいがすみごごちばつぐんだぜ」


「たしかに家だね」


 火の塊なのだけど、ちゃんと拘っているらしく、火の強弱で普通の家に見えないこともない感じだ。全焼しているけど。住み心地? たぶん、人間には理解できないだろう。




 ベルとフレアの案内が終わった。他にも花壇、遊具、動物、食べ物、様々な物が火で表現されていて、中にはまったく理解できない物もあったが、みんなの頑張りは理解できた。


 花壇や遊具、食べ物なんかはジーナ達のアイデアだったらしい。


 色々な火があったけど、一番ホッコリしたのはアレだな、ポツンと離れた場所で燃えていた火。


 あれは何かと聞いたら、焚火と返答が来た。凄く普通な火だったけど、心の底から落ち着いた。焚火、良いよね。


「……ファイア様、以上のようですが、ご満足いただけましたか?」


「ああ、面白かった。自由に火を使えるとこんなことができるんだな。ここに遊びに来る火の精霊達も喜ぶだろう。大満足だ」


 自由に火を使えるか、ファイア様は火の精霊王だし、火を自由自在に扱えるのは当然。この場合の自由は聖域で好き放題できるってことだろう。ある意味、人工聖域である楽園の売りだな。


 朱雀かフェニックス、ファイア様の姿は鳥なので表情は分かり辛いが、それでも満足してくれている様子は伝わってくる。


 イフを筆頭に頑張ったのは俺以外だが、それでもなんだか少し誇らしい。


 それに心配していたほど無茶な感じじゃなかったのも嬉しい。ただ全面に火がボーボーなだけだもんね。


 ……あれ? この状況をそれほど無茶じゃないと感じる俺の精神って大丈夫か?


 ……さて、なんか深く考えるのが怖いので、次のことを考えよう。とりあえず闇エリアと火エリアは合格点を頂いた。光エリアは日が暮れてからだし昼食までまだ時間がある。となると、昼食まで風車を案内するか。



「へー。存在は知っていたけど、間近で遊ぶとかなり風の精霊の心をくすぐるね。うん、これは良い物だ。とても良い物だよ裕太。風車の近くに居付く風の精霊の気持ちが分かったよ」


 ウインド様も二回言うほど気に入ったらしい。


 でもそうなると予想していた。ベル、フクちゃん、マメちゃんにとっても風車は大のお気に入りだし、大精霊のシルフィもコッソリ風車を回したりしている。たぶん、風の精霊の本能に訴えかける何かがあるのだろう。


 そして風車内部も全員がお気に入りだ。その中でもトゥルやウリ、そしてノモスの土の精霊組が特に内部を気に入っている。おそらく歯車が土の精霊の琴線に触れるのだと思う。


「ゆうた、いれて」


 そのトゥルが俺をキラキラした目で見つめている。どうやらアース様に精米する様子を見せたいようだ。一度始めると長いのだけど、トゥルのお願いを叶えない訳にはいかないな。


 風車の杵の下の石臼に玄米を投入。風車の納品の時にもらった輪っかやらなんやらをセットする。


 風車って普通に杵で突くだけだと思っていたのだが、意外と付属品が多い。準備が完了し、杵のストッパーを外すと、ゆっくりとだがドスンドスンと精米が始まった。


 それをトゥルとアース様、他の精霊王様達も見つめる。


 ……なんか分からないけど、精米の様子って無言で見ちゃうんだよな。俺も最初は黙々と見続けちゃったもん。


 まあいい、風車と精米に夢中になっている間にお昼の準備をするか。色々と出すにしてもメインを何にしようかな? 


12/12日 コミックブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第60話が公開されました。

サラ達のちょっと穏やかな死の大地での生活の始まり、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 街中に設置してある機械式の精米機を使った経験はままありますが、 確かに精米って不思議とずっと眺めたくなる雰囲気がありますよねw 米ぬかの香りや機械の音や熱が籠る室内を思い出しましたw [気…
[良い点] 猫に対する猫じゃらしみたいだな〜w 風車とかつくれないかな?
[一言] コミカライズはディーネの威力やばかった お披露目も無事?終わったねーあ、光があったか
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