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六百五十六話 闇エリア

 楽園の南側、精霊達の為のスペースの開発に目途が付くと、すぐに精霊王様達から視察の申し込みがされた。それは別に構わないのだが、明日行くねは勘弁してほしかった。そのせいで日帰りで迷宮都市に飛び、色々と準備に奔走させられることになる。




「裕太、来たわよ」


 朝食を終え、ゆっくりコーヒーを嗜んでいるとシルフィから声をかけられる。


 このタイミングでシルフィが来たと言うのなら、精霊王様達がやってきたのだろう。時間までは決めていなかったが、正直早いと思う。


「ゆーた、きたー?」


 食事を終えてワチャワチャと塊になって遊んでいたベル達が興味を持って集まってくる。


「精霊王様達が来たんだって。お出迎えに行こうか」


 精霊王様達と聞いてベル達の顔が輝く。みんな精霊王様達が大好きだもんね。


「いくー」「キュー」「おでむかえだいじ」「くくー」「らくしょうだぜ」「……」「あう」


 ビュンと飛んでいくベル達&フクちゃん達&サクラ。


 お出迎えに行こうかと言うのは、一緒に行こうという意味でね……声をかけてももう聞こえないな。


 飛んでいってしまったチビッ子達を見送り、俺はジーナ達と一緒にお出掛けの準備をする。


「やあ裕太、おはよう。朝早くからごめんね」


 外に出ると、すでにチビッ子達にまとわりつかれている精霊王様達が家の前まで来ていた。


 俺に声をかけてきたウインド様なんて体を縮めているから、幼女に抱きしめられている大きめのぬいぐるみにしか見えない。


「おはようございます。どうぞ中に」


「あはは、それもありがたいのだけど、みんな待ちきれないようなんだ。悪いけど案内をお願いできるかな?」


 まずはお茶でもと家の中に招き入れようとすると、ウインド様に苦笑いで案内をお願いされた。


 なるほど、ウインド様の背後にソワソワされている方が若干二名ほどおられますね。


 早い時間に来たなと思ったが、ファイア様とライト様に急かされたからか。


 その点、その二名と同じ立場であるはずのダーク様は素晴らしいな。穏やかに微笑みながらジャレついてくるチビッ子達を優しくあやしている。これぞ淑女って感じだ。


「分かりました。では順番にご案内しますと言いたいところなのですが、光のエリアもすぐに確認しますか?」


「むっ、光になにか問題があるのかや?」


 ワクワクを隠しきれずにソワソワしていたライト様が、俺の言葉にズイッと前に出てくる。


「いえ、問題はありませんが、明るい今視察しても小さなキノコが並んでいるだけですよ?」


 ヴィータに協力してもらい光茸を畑一面に植えたが、最初から完成させているのはよろしくないということで、光茸はまだ赤ちゃんサイズだ。


 それでも淡く優しい光を放つので夜は幻想的な風景を見せてくれるが、ぶっちゃけると昼間はただのキノコ畑だ。光らないキノコはただのキノコだよね。


「む、盲点であった……」


 コロンと倒れ込むライト様。やっぱり光り輝くキノコ畑を想像していたんだな。ソワソワする姿になんとなくそんな気がしていた。


 あと、真ん丸な兎の姿だから転がったが、たぶん人間だったらリアルorzを目にすることができただろう。


「むぅ、妾は早く光り輝くキノコ畑が見たいのじゃが……」


 そう言いつつライト様がチラッとダーク様を見る。まさか闇の精霊王様に一帯を暗くしてもらおうとか考えてらっしゃる?


「ライト、わずか数時間の為にキノコに負担をかけるつもりですか?」


 ダーク様が首を横に振りながら優しくライト様をたしなめる。たしかにそうだよな。


 人間だって急に暗くなったら驚くのに、光を主食とするキノコからすれば驚くどころでは済まない話だろう。


「……たしかにそうじゃな。分かった、キノコ畑の視察は暗くなってからでよい」


 ちょっと子供っぽいところがあるライト様だが、ちゃんと自分を律する心をお持ちらしく納得してくれる。ものすごく渋々とだけど……。


「ではまずは闇エリア、次に火エリア、そして暗くなってから光エリアを視察しましょう」


 合間にエリアにはなっていないが風車の見学も挟む予定だけど、まあ、ウインド様はその存在にたぶん気がついているよね。なんてたって風の精霊王様だもん。


 だから、風車があることを知って、内心で驚いたり喜んだりしてくれれば、それでサプライズは成功ということにしておこう。


 精霊王様達も頷いてくれたので、そのまま闇エリアに向かう。


 ぶっちゃけ、俺もまだ見せてもらってないから、どうなっているか少しの不安とワクワクを抱えている。


 俺、この楽園の主なんだけど? とも思わなくもなかったが、チビッ子達に輝く笑顔で、まだ内緒と言われてしまうと、無理矢理確認するなんてできないよね。


 たどり着いたのは地面にぽっかりと空いた穴。まあ立派な階段は造られているが、普通の洞窟だ。


 実は闇エリアはそれほど心配はしていない。ノモスが中心になって造ったから、それほど奇抜なものはできていないだろうという安心感があるからだ。


 少しの不安は、まあ、あれだ、お酒の保管場所にすると張り切った大精霊達を目にしたことからだな。


 でも、お酒を愛する精霊達が無茶な事をする訳がないという信頼もあるし、怖いのはその規模くらいだと予想している。


 この洞窟を造ったノモスと依頼主のダーク様、そして一応オーナーである俺が先頭で洞窟の中に入る。


 まあ、一瞬ではしゃいだチビッ子達が追い抜いていったけど。


 コツコツと足音を響かせながら洞窟を下りていく。地面がコンクリート張りに固められているので素晴らしく歩きやすい。




「…………ねえノモス」


「なんじゃ?」


 俺がノモスに話しかけると、どうかしたのか? と言いたげに顔を向けてくる。


「えーっと、途中に何ヶ所というか何十ヶ所も分岐があったし、それを無視して結構な時間歩いているはずなんだけど、まだ終着点にたどり着かないのかな?」


 ところどころ広場もあったりなんかするし、凄まじく広いのですが?


「ん? ああ、ここで半分くらいじゃな。闇の精霊の遊び場じゃ、広い方が良いじゃろう」


 そっか、ここで半分くらいか。


 もはや迷宮だな。いや、お宝はお酒くらいだし、地下都市か。スペースは十分だし、暗闇に耐性があれば、ガチで都市運営できそうな広さだ。


 詳しく話を聞いてみると、どの深さがお酒を寝かせるのに適しているか確認するために、深めに穴を掘ったそうだ。


 で、一本道だとつまらないだろうと、脇道を広げたり広場を造ったり、その脇道と広場を繋げたりして複雑な地下空間を形成したらしい。


 ついでにお酒の場所も聞いてみたが、これは教えてくれなかった。


 偶に、大精霊ってバカなんじゃと思う。常識を考えてほしい。


 でも、ダーク様はご機嫌な様子だし文句も言えない。俺の常識からは外れているが、精霊の常識からすれば普通なのかもしれない。


 これが種族の違いか。


 それにしても、この空間、観光には向かないな。ファイア様やライト様が明るいし暗視スキルもあるから危なげなく歩けるけど、色彩に変化がないから単純につまらない。




「ここが最下層じゃな」


「……ノモス、最下層は良いんだけど、これって地底湖?」


 ノモスに質問してから再びかなりの時間歩いた。キッカなんか飽きて眠くなってジーナの背中でグッスリだ。


 そんな中に現れたのは、静謐な湖。


「そうじゃ」


「なんで湖?」


 いや、地底湖とかロマンだけど、ノモスはそういうのに気を配るタイプじゃないよね?


「ふふー。お姉ちゃんがお願いしたのー」


 俺の疑問にノモスが答える前に、ディーネが自慢げに話し始めた。そうか、ディーネの仕業か。


 ディーネってのほほんとしている割に、自分の生息域の拡大には積極的だよな。


「闇の精霊ちゃんだけだと寂しいでしょー。でも、ここに湖があれば水の精霊ちゃん達も遊びに来られるわー」


 ……なるほど、そういうことか。契約していない上に力の弱い精霊は環境に影響される。だから聖域とはいえわざわざ暗いこの場所に足を運ぶ精霊は少ないだろう。


 特に闇を浸食してしまう光や火の精霊は遠慮するだろうし、密閉空間だから風の精霊も苦手な領域だ。


 そう考えると水は悪くない選択だな。すでにベル達が湖でぱちゃぱちゃ遊んでいるが、小さい闇の精霊と水の精霊が、ベル達のようにこの湖で戯れる姿を想像するとホッコリする。


 俺と同じような意見なのか、ダーク様とウォータ様もニコニコだ。


「ディーネ、ナイスアイデア」


「でしょー」


 むふんと胸を張ってドヤ顔をするディーネだけど、まあ今回はそれに値する実績を示したからOKだ。


「ダーク様、これで要望に応えられましたか?」


 まあ、頑張ったのはノモスだけど。


「ええ、期待以上です。この場所があれば闇の精霊も更に聖域を楽しめることでしょう。ありがとうございます」


 うわー。今までも素晴らしく魅力的だったダーク様だけど、チビッ子達のことを考えているからか母性まで加わって魅力がとんでもないことになっている。


「い、いえ、ノモス達が頑張ってくれたおかげですから……」


 キョドらないように返事をするだけで精いっぱいだよ。傾国の美女ってこんな感じなんだろうな。


「なら次は火のエリアだな。闇エリアがコレなんだ。期待が持てるぜ」


 ダーク様の魅力に翻弄されているとファイア様が会話に入ってきた。ファイア様にはそのつもりはないのだろうが、ナイスフォローです。


 でも、火エリアにそんなに期待されるのも怖いので止めてほしいです。


 だって、イフが主導だとしてもうちのチビッ子達も元気いっぱいに開拓に参加しているんだよ?


 みんな可愛らしくてとっても良い子達だけど、カオスなグルメマップを作成して自信満々な子達でもあるんだ。とんでもないエリアが完成していたとしてもおかしくない。


 イフは豪快でサッパリとして信頼できる精霊だけど、普通にチビッ子には甘い面がある。


 正直、一番不安なのが火エリアなんだよねー。


 あと、ここから地上に戻るのも地味に面倒だ。シルフィに運んでもらうか、ゆっくり時間稼ぎをしながら戻るか、悩みどころだ。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 火エリアはね 火口の溶岩温泉っぽくして 温泉に浸かりながら酒を飲む場にすれば
[一言] 地下都市は土の精霊も喜んで遊び場にしてそう
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