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六百四十八話 ちょっとしたお手伝い

 土の補充の前に迷宮都市に顔を出すと、それほど時間が経っている訳でもないのに、メルの工房で王宮鍛冶師長が雑用をしていたり、マリーさんが獣人イベントに味を占めて高クオリティなケモミミとシッポを作成していたりと変化に富んでいた。のんびりとした楽園の雰囲気に浸っていると、都会との時間の進み具合の違いに戸惑う。




「なんか上から見ると雰囲気があるというか、カッコいい場所になっている気がする」


 迷宮都市を出発し午後にはローゾフィア王国の発掘現場に到着した。


 上空からその遺跡の発掘現場を見ているのだが、なんというかワクワクする現場になっているように見える。


 エルフの国と同じく森の中の住居なのだが受ける印象が全然違う。エルフの国は静謐、森自体が神秘を感じさせる佇まいだが、目の前の発掘現場はロマンと情熱を感じる。


 前回来た時は森の中にポツリポツリと生活スペースや細い獣道が見えるくらいだったのだが、獣道が小道になりいくつかの発掘した建物と繋がっており、住居スペースも生活を便利にするためなのだろう、屋上だけでなく二階の窓などから吊り橋のような物が掛かっているのが見える。


 ああ、そうか、なんでこんなにワクワクするのか疑問だったが、アレだ、巨大なアスレチック施設に雰囲気がそっくりなのか。


 そりゃあワクワクするよね。特に運動が好きな訳じゃないが、子供の頃は好きだ嫌いだと考えることもなく、親に連れて行ってもらったアスレチック施設で夢中になって遊んでいた。


 あの頃のワクワクが俺の心を刺激しているのだろう。


「サラ。ヴィクトーさん達、頑張っているみたいだね」


 変なところで感傷に浸ってしまったが、発掘された遺跡が増えているのはヴィクトーさん達の努力の成果だ。


 そのことを共有しようとジーナ達と一緒に浮かんでいるサラに話しかける。


「はい」


 サラのシンプルな返事に驚くが、優しく遺跡を見つめるその表情を見て納得した。ヴィクトーさんの頑張りがそれだけ嬉しいのだろう。


 でも一つだけ言わせてほしい。サラ、その微笑みは慈母の微笑みだよ。


「さて、そろそろ降りようか。シルフィ、ヴィクトーさん達のところまでお願い」


 サラの微笑みがとっても穏やかだったから少しの間そっとしておいたが、ベル達はすでに遺跡に向かって突撃してしまっているしいつまでも上空でのんびりしている訳にもいかない。


 幸いヴィクトーさん達には俺達が飛べることをぶっちゃけているので、シルフィにお願いしてそのままヴィクトーさん達のところへ向かう。


「おお、裕太殿、サラお嬢様、皆様、お久しぶりですな!」


 ヴィクトーさん達の近くに降り立つと、真っ先に俺達に気がついたベッカーさんが笑顔で歓迎してくれる。


「お兄様!」


 サラがヴィクトーさんに向かって駆けて行く。お、サラ、ちゃんと子供らしい笑顔ができるじゃないか。やっぱり身内は安心感が違うのかな?


 ……俺達が頼りないからサラが気を抜けないとか、悲しい真実が隠れていないこと祈りたい。


 サラとヴィクトーさんの会話を邪魔したくないし、とりあえずベッカーさんに話を聞くか。


「ベッカーさん、細いとはいえ道もできていますし、ずいぶんと発掘が進んでいる様子ですね」


「ああ、空から確認されたのですな。おっしゃるとおり順調に発掘が続いております。実は先日この場所で大きな建物を発見し、我々としてはそれが領主、もしくは何かのギルドの建物ではないかと推測しておるのです」


 領主の館かギルド関連の建物か。どちらにしてもワクワクするが、財宝が目的なら領主の館の方が儲けが大きそうだな。


 その領主の性質にもよるが、悪徳領主だったりしたら貯め込んでいる可能性が高い。


「中の探索はしていないのですか?」


 発見するのが大変だが発見したらどんな組織が使っていた建物だったか判別するのは難しくないように思う。民家なら難しいけど、領主の館やギルドならそれぞれ特徴がありそうだもんな。


「はい。建物の被害が大きく慎重に外側から掘り出していますので時間がかかっています」


 なるほど、そういえばこっち側は俺が発掘した建物よりも崩壊した山に近い位置にあるな。


 ある程度距離が離れているにしても徒歩圏内だし、現在発掘中の建物の被害が大きいなら、震災の時にその大きさが仇になったのかもしれない。


 でもまあその建物が盾になってくれたおかげで、俺が発掘した建物が無事だったのかもしれないから、ある意味では結果オーライかもな。


「なるほど言うまでもないと思いますが、崩落に巻き込まれないように注意してください」


「はい。その点に関しては十分に注意させています。何しろここで大怪我をしたら助かりませんからな」


 あかるく笑うベッカーさんだが、普通に笑い事じゃないからね。でも、ここから人里まで歩いて十日は掛かる。たしかに大怪我をしたら洒落にならない。


 ふむ、定期的に訪ねるつもりではあるが、俺が居ない間にヴィクトーさんに何かがあったらサラが悲しむな。


 あとで回復薬やエルフの秘薬を差し入れしておこう。回復薬は迷宮で大量に確保してあるが、基本的にムーンとヴィータが居れば薬は使わないからかなり余っている。多めに提供しても問題ない。


「裕太殿、久しぶりだな」


 遺跡の医療事情を考えていると、サラとの挨拶が終わったヴィクトーさんがこちらにやってきた。


 元々が野性的なイケメンだったのだけど、発掘生活の影響か日に焼けて更にガタイが良くなったようだ。


「ヴィクトーさん、お久しぶりです。ベッカーさんに聞いたのですが、大きな建物が見つかったそうですね」


「そうなのだ。これまでもいくつか建物を発見したが、その中でも最大だ。この発掘で十分な資金が手に入れば、本格的にここに拠点を造ろうと思っている」


 上から見た限りでは元ギルマスの開拓村よりか快適そうに見えたが、ヴィクトーさんはまだまだ発展させるつもりらしい。


 もしかしてこの辺り一帯の遺跡を全部掘りつくすつもりかな? いや、さすがに民家っぽいのは除外するか。確実に採算が合わないもんな。


「お兄様、迷宮都市で発掘の役に立ちそうなものを購入してきましたのでお役立てください」


 拠点の話を聞いてサラが魔法の鞄からお土産を取り出し並べ始めた。


 そういえば迷宮都市で色々と買い集めていたな。ヴィクトーさんのところに行くから差し入れをということだったのだけど、サラは食料やお菓子を選ばず道具を購入していた。


 それが状況にピタリとハマった感じだ。


「おお、買い出しに部隊を派遣しているが、距離が距離だから道具はいくらあっても足りん。助かるぞ」


 サラのお土産に喜びをあらわにするヴィクトーさん。サラが真剣にヴィクトーさんのことを考えて道具を選んだこともちゃんと伝わったようだ。


 ふむ、このタイミングで各種薬を提供するのは無粋だな。しばらくは兄妹水入らずで仲を深めてもらって、その間に俺達は土を確保しておくか。




 ***




「ベル、レイン、フレア、ムーンは周囲の警戒をお願い。魔物や動物が接近してきたら追っ払ってね。フレア、森の中だから火事には注意するように。あ、ムーンは戦わなくていいからね」


「おしごとー」「キュー」「まかせろ」「……」


「トゥルは俺と一緒に土の回収。タマモはこの辺り一帯の木を移動させて広場を造ってくれ」


「がんばる」「クゥ!」


「マルコもウリと協力して土の回収。ジーナとキッカはその護衛ね。怪我をしないようにお願い」


「ウリ、でばんだぞ!」


「キッカ、がんばる」


「了解。マルコとキッカは任せてくれ」


 ベル達とジーナ達に指示を出し、さっそく土の回収を始める。


 楽園での拠点拡張で飽きるほど土木作業をやっているが、不毛の大地である楽園周辺と違って周囲が自然に満ち溢れているのでちょっと新鮮な気分だ。


 ザシュっと魔法のシャベルで土を掬いシュパっと魔法の鞄に収納すると、虫だけがシャベルの上に残る。


 そうだった、ちゃんとした森には虫が居るんだよな。死の大地では聖域内以外で虫を見なかったからすっかり忘れていた。


 森を造るのだから益虫は確保しておくべきだが、エルフの国にも顔を出すのに虫を抱えて移動するのは嫌だな。この森の採取では虫の確保はしないことにしよう。



「クゥー!」


 自分に都合の良いことを考えていると、前方からタマモの気合が入った雄叫びが聞こえてきた。


 その雄叫びを切っ掛けに十数本の木がウゾウゾと動き始める。ドリーのように一気に大量の木を移動させられなくても、十を超える木を動かせるだけでも十分にチートだと思う。


「それにしても裕太も回りくどいことをするわね」


 タマモの能力に感心していると、シルフィが呆れを含んだ口調で話しかけてきた。


「広場のこと?」


「ええ。まあ、サラの為なのは分かるけど、そこからなんで広場を造る方向に考えが進むのかが分からないわ」


「まあ、たしかに迂遠だけど、発掘を手伝うと向こうも気を遣うからね」


 間違いなく発見したお宝の何割かを報酬として提供してくるだろう。サラの為にヴィクトーさんのお手伝いをするつもりなのに相手の財産を減らしては本末転倒だ。


 その点、広場なら報酬を提示されても断りやすいし、森の中の何もないスペースは色々と活用しやすい。


 ベッカーさんに聞いて広場を造る場所も考えたし、有効活用してくれるはずだ。


「でも、ちゃんとした拠点を造るのは、今発掘している遺跡からお宝が出たらの話よね?」


「たしかにそうだけど、建物が壊れるくらいダメージを受けているんだからお宝を持ち出す暇はなかったんじゃないかな?」


 最初に発掘した建物も、建物自体は形を保っていたのに骨が出てきた。なら、現在発掘中の建物はもっと危険だっただろう。


 だからよっぽどのことがない限りお宝は眠っていると思う。まあ、その建物に最初からお宝がなかった場合は別だけど、大きな建物=権力と考えるなら最低限のお宝はあるはずだ。

 

 だから開拓者の先輩としてちょっとくらいお手伝いしても良いだろうと思っている。なんてたって俺は開拓に関してはチートだからな。 


10/10日、コミックブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の58話が更新されました。裕太と弟子達のちょっと不器用なコミュニケーションをお楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
主人公がその世界に現れてからどれくらいの時間が経ったのでしょうか? そして子供たちはもう何歳になっているのでしょうか?
[一言] 漫画版のうりちゃんたち予想以上に丸かった!!
[一言] 更新ありがとナス コミック版もいいぞー! 単行本出たら電子で買うんだからさ
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