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六十三話 迷宮

 初心者講習でちょっと陰湿な嫌がらせを受けて、冒険者ギルドに対するムカツキもしっかりと溜まったので、本格的に嫌がらせに対する報復を考える事にした。まず第一の目標は迷宮都市の冒険者が行き詰まっている階層を越えてやる。


 迷宮への入り口に到着する。入口がある場所は小さな広場になっており、屋台が並び探索に役立つものが売っている。


 迷宮への出入りが激しいのか、意外と賑わっているな。地図を売っている人達もいるが、シルフィに聞くと空気があれば風を送ってほぼ道が分かるそうなので、必要無いそうだ。チート万歳。必要な物も見当たらないのでそのまま入り口に向かう。


「ギルドカードを」


 入口を監視している兵士にカードを渡す。迷宮を管理しているのは国っぽいな。冒険者ギルドが管理していたら、迷宮に入る事すら拒否される可能性があるから助かる。


「おいおい、Fランクの冒険者が一人で迷宮に入る気か? 悪い事言わんから引き返して仲間を見つけてこい」


 とても真っ当なご意見を頂きました。でも探しても仲間は見つかりそうにないんです。


「戦闘経験はあるので大丈夫ですよ。Fランクなのは新人だからです」


「しかしなあ……まあ、ギルドカードがあるなら入場を拒否は出来んが、無理するなよ」


 渋々とだが入場を許可してくれた。お礼を言って階段を降りる。


「おー。これぞ迷宮って感じだ。通路も明るく迷宮って親切設計なんだな」


 石をくり抜いたような洞窟なんだけど、至る所が発光していて非常に明るい。


「薄暗い所も真っ暗な所もあるのよ。最初だから人が入りやすいようにしているんでしょうね」


 そう言えば迷宮は人を誘い込んで命を喰らうって言ってたな。ある程度稼ぎやすいようにしないと人が来ないのか。商売みたいだ。いや、ギャンブルだな。欲望に任せて奥に進むと大金か死が待っている。えげつないな。


「初心者講習で言ってたのは、一層から五層はスライムとゴブリンだけなんだよね。シルフィ、何度か戦えれば十分だから、最短距離を案内してくれる?」


「分かったわ」


 リッチまで倒せるのに、今更ゴブリンなんかに苦戦しないはずだ。さっさと先に進もう。


「ベル達もあんまり出番は無いだろうけど、はぐれないように付いて来てね」


「はーい」「キュー」「わかった」「クー」


 ちょっと残念そうだけど、最初はあんまりやる事も無いよね。ハンマーを五十センチにして担いで進む。


「裕太。あれがゴブリンね」


「あー、あれなんだ」


 先の方からグギャグギャ大声で叫びながら、ゴブリンが走って来る。手には棍棒、緑色の肌、布切れを腰に巻いている。ゲームの世界だ。


「裕太が倒す?」


「うん。一応戦っておくよ」


 ゴブリンはハンマーの一振りでグチャグチャになった。ゾンビやスケルトンと変わらないな。


「これは、俺が戦うと時間の無駄だから、そのまま先に進もうか。ゴブリンが襲ってきたらベル達で倒しちゃって」


 子供や小動物にお願いするのもどうかと思って、今まで自分で戦っていたけど、速度優先って事で自分のこだわりは捨てる事にした。 


「べるたおす!」「キュキュー」「がんばる」


 ベル達も退屈よりかはマシなのか喜んでいる。あれ? タマモが沈んでいる。


「タマモ、どうしたの?」


「クー」


 悲しそうに俺を見つめるタマモ。??? どうしたんだ?


「あー、タマモはまだ魔力で植物が作れないから、洞窟だと戦えないのよ」


 シルフィが教えてくれた。そう言えばそんな事を言ってたな。お耳と尻尾がヘニョって垂れているのがとても可愛いが、なぐさめないと駄目だろう。


「タマモ。戦える場所は必ずあるから、そこまで我慢してね。タマモの魔法、楽しみにしているから」


 頭を撫でて言うと、活躍の場所がある事が分かったのか、元気いっぱいにじゃれついて来た。可愛い。ベル達も混じって来たので洞窟の中でひとしきりワチャワチャする。


「よし、じゃあ先に進もうか。あっ、スライムは戦ってみたいから、最初は教えてね」


 しっかりたわむれて満足したので、シルフィの案内で先に進む。



 ***



「ここから敵が複数になるんだよね?」


「ええ、そうね。でもあんまり変わらないわよ。ゴブリンだもの」


 迷宮は五層でワンセットみたいな作りで。最初の二層は低難易度、次の二層は難易度上昇。最後はボスの流れだそうだ。


 洞窟と自然フィールドも交互になっているらしい。最初の洞窟五層を抜けると次は草原なんだそうだ。ここにラフバードがいるらしいから狩っておかないとな。


 ちなみに一度行った階層に転移で行ける等の便利システムは無いそうだ。奥に進めば進むほど帰りが大変で、探索の続きをするにも、戻る前の場所に行く事すら時間が掛かる。先に進めば進むほど攻略が大変になる面倒なつくりだ。


「じゃあ、今まで通りで先に進むのを優先で、一気にボスまで行こうか。みんなお願いね」


 やる気満々のベル達は元気に返事をしてくれる。みんなのやる気によって、ゴブリンとスライムは悲しいぐらいに、あっさりと命を散らしている。


 ベル達がドンドン先に飛んで、ゴブリンやスライムを倒してくれているので、進むとゴブリンやスライムの死骸が転がっている。一応収納しているけど解体が面倒だな。何度かベル達が離れすぎてしまって、召喚したりしたがおおむね順調に洞窟を進む。


 他の冒険者に会ったら魔物を倒さないようにと言い含めているけど、見られて無いだろうな? 精霊術師が殆どいない現状、見えない何かが魔物をスパスパっちゃってたら都市伝説が生まれそうだ。


 ちなみに一度だけスライムと戦ったが、ハンマーでビチャって潰れるだけなので、ベル達にお任せする事にした。



 ***



 ここがボス部屋か。立派な扉がデンっと立ち塞がっている。扉を開けると装備を整えたゴブリンが五体。正直、この立派な扉を開けたらゴブリンが出て来るのは扉の無駄だと思う。せめてもう少し強敵じゃないと立派な扉が可哀想だ。


「シルフィ。あのゴブリンは?」


「ソルジャー、メイジ、プリースト、アーチャー、シーフね。裕太なら特に問題無いわ」


「一応、ボスだから俺が戦っておくよ」


 部屋に入るとゴブリン達が襲い掛かって来る。何事も無くハンマーで叩き潰して終わらせる。弱い階層だと戦う意味が無いかもな。経験が積めそうな敵に出会うまで、初めての敵以外はベル達にお願いしよう。


 ボスを倒すと奥の扉がゴゴゴゴゴっと開き下に続く階段が現れる。やっぱりゴブリンのボスで部屋や仕掛けが豪華なのは無駄を通り越してむなしさすら感じるな。


「はぁ」


「いきなりため息なんてついてどうしたの?」


「いや、なんか順番が違う気がしただけ。本当なら緊張したり勝てるのか心配に思いながらも、ボスを頑張って倒して喜びに沸くのが、迷宮の醍醐味だいごみだよね。ハンマーをブンブン振り回すだけだと感動が無いと思ったんだ」


「何言ってるのよ。迷宮に潜るのがみんな初心者な訳ないじゃない。腕を上げて迷宮都市に来る人も多いんだから、最初のボスなんて殆どの人が簡単に倒して進んでるわ」


「なるほど。そう言えばそうだね」


 俺が言った達成感を味わうのはこの迷宮都市で冒険者になった、本当の新人ぐらいのものなのか。俺も迷宮都市で冒険者になったけど死の大地で頑張ったから、最初の方は軽く突破して当然なんだよな。気を取り直して探索の再開だ。


 階段を降りると……凄いな異世界。話には聞いていたが、普通に草原が広がっている。流石に太陽は無いが、高い空に涼やかな風。とても迷宮の中とは思えない。


「ねえ、シルフィ。ここって外より環境が良いと思うんだけど、人は住まないのかな?」


 草原で涼しい環境。湖は無いけど避暑地としては最高な気がするんだが。


「さあ? 迷宮に拠点を作るって話は聞いた事があるけど、わざわざ住まないんじゃないかしら。突然魔物が湧く場所に住むのは面倒が多そうだもの」


 確かにそうかどんな風に魔物が湧くのかは分からないが、家を作ってもいきなり庭に魔物が湧いたら面倒でしか無いな。先に進むか。


 でも太陽が無いのに何で明るいんだ? そもそも上は何処まで飛べるんだろう? 迷宮は不思議がいっぱいだな。


「ねえ、シルフィ。これだけ自然が豊かなのに精霊の姿が見えないけど、迷宮に精霊は居ないの?」


「ええ。迷宮はある意味別の世界。精霊は近寄らないわ。私達も裕太と契約していなかったら、中には入らないでしょうね」


「そうなんだ。体調を崩したりしない?」


「大丈夫よ。世界との繋がりが薄い場所を精霊が好まないだけだから」


 なるほど。精霊にも色々拘りのようなものがある事は分かった。 


「何となく分かったよ。それでシルフィ。草原だけど、階段の場所は分かる?」


「階段が隠されていない限り分かるわよ。空気が通らない場所は無理だけどね」


 なんか迷宮の見学ツワーに参加している気分になるな。添乗員てんじょういんのシルフィさんが優秀すぎる。


「じゃあ、案内をお願いね。ラフバードはある程度確保したいから、近くに居たら教えて」


「ええ。じゃあ行きましょうか、こっちよ」


 シルフィの案内で階段に向う。この階層にはゴブリンとコボルトとラフバードがいるらしい。コボルトとラフバードだけは最初だけ俺に倒させてもらう事にした。


 ラフバード……あれだなでっかいにわとりだ。大きさが俺と同じ位で猛スピードで駆け寄って来て、大きなくちばしつついて来る来る。普通に怖いが迫力があるだけで弱いので、肉を傷めないためにノコギリでサクッっと首を落とす。


 コボルト……ゴブリンより素早いだけであまり変わらない。犬の顔で歯茎むき出しで襲い掛かって来る所はちょっと嫌。


 面倒なのでここもベル達にお願いして先に進む。ここではタマモが大張り切りだ。下から植物を飛ばして突き刺したり、植物で魔物をからめとったり、植物があればある程度自由自在なのか、多彩たさいな倒しかたを見せてくれる。


 よっぽど活躍できるのが嬉しかったのか、敵を倒す度に嬉しそうに褒めてと飛んで来る。可愛い。もう少し進んで、良い場所を見つけたら移動拠点をだして休むか。ベッドを手に入れて迷宮に入れば良かったかな。ちょっと後悔だ。



 ***



 迷宮に入って三日。洞窟。草原。洞窟。森林。洞窟。湿地。洞窟。廃墟。洞窟を抜けて、攻略が行き詰まっている火山地帯に辿り着いた。


 新しい魔物とは自分で戦ったが、物理無双で問題無かったので、地形の変化の方が面倒だった。飛んで行こうかとも思ったが、流石に初迷宮を飛んでショートカットってのも、ロマンに欠けるので最初の方は頑張った。最初の方だけだけど。おかげで魔法の鞄の中は魔物がいっぱいだ。


 洞窟には罠も多数あったが、全てをシルフィとトゥルが見破ってくれた。罠の有る場所をトゥルが周りの石でおおってくれるので、安心して先に進める。


 迷宮の岩に干渉出来るんだから、そのまま下に穴を掘り進めれば良いかと思ったが、それは危険だそうだ。普通に下に出る事は無く、歪んだ空間に放り出されるらしい。あとあんまり好き勝手に迷宮を壊すと、迷宮が怒るらしい。


 森林ではオークとトロルが出て来た。オーク……あれを食べていたのかと思うとちょっと凹んだが、美味しいと分かっているので首を落として収納する。思った通り、先にオーク肉を食べていなかったら、ずっと食べるのを拒んでいたと思う。昔の自分グッジョブだ。


 湿地では足場が悪い中、ポイズントードやジャイアントトードなど、戦うのに勇気がいる魔物が出て来た。ジャイアントトードは二階建ての一軒家ぐらいあるカエルで、目がとてもキモイ。見られると地球に帰りたくなるぐらいキモかった。


 俺の装備に使われているマーシュランドリザードも出て来た。マーシュランドリザードは簡単に首が落とせたので、自分の装備が軽く心配になる。気持ちが悪い敵が多かったが湿原では米の存在を信じて探し回った。残念な事に見つからず、ジャイアントトードに八つ当たりしてしまった。


 三十一層からの洞窟と廃墟は、アンデッドの巣窟で正直うんざりで、ここで心が折れた。迷宮でもあのアンデッドの臭いを嗅ぐのが嫌でボス以外の全行程を高速飛行でショートカットした。この迷宮でもアンデッドは人気が無いようで、誰にも見つからずに飛んでいけたのは良かったな。


 ほとんどの戦闘をベル達に任せて、最短距離を突き進んで、アンデッドが出る洞窟と廃墟は飛行でショートカット。これでも三日かかるんだから、普通に攻略するパーティーはどのぐらいの時間が掛かるんだろう?


 ちなみに洞窟はシルフィの風のまゆでアンデッドを弾き飛ばしながら飛行。まるでジェットコースターみたいだった。狭い通路を飛ぶのはかなり怖い。自分で風の繭を動かしていたら大事故だったな。精霊に感謝だ。


「しかしかなり熱いね。きついよこの場所」


 死の大地で暑さに慣れたと思ったのに、ここはそれ以上だ。汗がダラダラと流れ出る。ここはサウナなのか?


「そう? じゃあ風を吹かせてあげる」


 シルフィがそう言うと俺の体に冷たい風が絡むように優しく吹き付ける。かなり涼しい。


「シルフィ。なんで風が冷たいの? 暑い中で風を吹かせても熱い風が来るだけだよね?」


「魔法だからよ」


 とても簡単で納得できる理由だった。魔法だもんね冷たい風が吹くのも当然だよね。


「それより裕太。このフロアに何人か人が居るんだけどどうするの?」


「えっ? 人が居るの? ああ、そう言えばここが攻略の最前線だったね。人が居るのも当然か」


 アンデッドが出始めてほぼ人が居なかったからな。人が居るとかまったく考えてなかった。しかし此処に居るって事は十中八九冒険者だよね。どうしたものか。

低階層は今回の迷宮探索ではなく、少し先のイベントで書いていますので、今回は短縮させて頂きました、ご容赦頂けたらと思います。


読んでくださってありがとうございます。

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