表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
642/761

六百四十話 フラグ成立?

 テリヤキバーガーセットの完成は、コーラの作成が上手くいかずに延期の運びとなった。翌日、サクラが帰還し、ラエティティアさんを楽園へ招待する。サクラとラエティティアさんとの関係は尊いが、俺が聖域の主ということでラエティティアさんに少し距離を取られているのが悲しい。なんとかもう少し気安い関係を築きたいものだ。




「うん、こんなもんかな? 皆、急なお願い悪かったね、ありがとう」


 サクラの精霊樹の根元での宴会の準備が一段落つき、無理を言ったルビー達にお礼を言う。


 ラエティティアさんが来たのだし、エルフの国でも宴会に招かれたのだからこちらもちゃんとお礼はしておくべきだ。


 まあ、メンバーがメンバーだから、宴会というよりも食事会のほうが近いだろうが、大人組にはお酒を出すつもりだし、楽しんでもらえるはずだ。


「思いっきり料理が作れるのは楽しいし、裕太の兄貴の頼みならなんてことないんだぞ」


 輝くような笑顔でルビーが返事をくれる。


 ……普段楽園食堂で料理を作りまくっているはずなのだが、まだ思いっきりじゃなかったらしい。今回も昼の営業後の急なお願いなんだけどな。


 楽園に遊びに来ている精霊達にも開放予定の宴会の準備で思いっきりか……ルビー達はどのくらいの規模まで対応可能なんだろう?


 エメ達も余裕がある顔だし、楽園で店を構えてルビー達の料理・接客スキルがレベルアップしているのかもしれない。そんなスキルが本当にあるかは知らないけど。


「うん。ありがとう。宴会中も料理の追加があるかもしれないから、引き続きお願いね」


「了解なんだぞ!」


 さて、宴会の開始までまだ時間がある。ラエティティアさんはサクラが楽園を案内しているし、シルフィ達は今晩の宴会で出すお酒の吟味をしているし、ジーナ達は宴会の準備を手伝ってもらったから休憩させるつもりだ。


 ふむ。ぽっかりと時間が空いてしまったな。ベル達の様子でも見に行くか。でも、その前に俺もコーヒー休憩しよう。



 自分の部屋で一息つき、ベル達の部屋に向かいキャッキャと楽しそうな声が漏れ聞こえるドアをノックする。


「だれー」


 この声はベルだな。


「俺だよ、裕太」


 ぶっちゃけるとベル達の部屋に入るのにノックの必要性は疑問なのだけど、最初にノックしてから、ベル達がこのやり取りを気に入っているので、いまだに続けている。


 まあ、俺とベル達は基本的に一緒に居るから、子供部屋を訪れる機会は少ないんだけどね。


「ゆーたーだー。どーぞーおはいりくださいー」


「だめ!」


 ベルがいつも通り迎え入れてくれようとして、トゥルの珍しい大きめな声が聞こえる。


「かんせいするまでみせちゃだめ」


「そうだったー」


 続けてのベルとトゥルのやり取りで状況を理解した。作りなおしているグルメマップが完成するまで俺に見せたくないのだろう。


「状況は分かったよ。えーっと、あと二時間くらいしたらラエティティアさんを歓迎する宴を開くから、その時になったらまた呼びにくるね。うわっ」


 話し終わる前にベル達がドアからすり抜けて顔を出したのでビックリする。


 ドアを開けてグルメマップが見られないようにするためなのだろうが、可愛らしい幼女二人と幼児、子イルカ、子キツネ、スライムの生首が並ぶ光景は地味に怖い。ムーンの首の位置は分からないけどね。


 まあ、実体化を解いてまで隠したいということだろう……完成したグルメマップを見るのが少し怖いな。俺はちゃんとベル達の頑張りを読み解けるのだろうか?


「らえー?」「キュー?」「せいれいじゅのおねえさん」「クゥ?」「なまえ、むずかしいぜ!」「……」


 ふむ。ラエティティアさんのことをちゃんと覚えているのはトゥルくらいか。まあ、接触期間が短かったし、名前を覚えていなくても姿を見れば思い出すだろう。


「トゥルが言ったように、エルフの国の精霊樹のお姉さんだよ」


 具体的に説明すると、思い出したのかベル達がソワソワしはじめた。グルメマップ作りに集中したいが、ラエティティアさんとも遊びたいといった感じだな。


「グルメマップはゆっくり作れるけど、ラエティティアさんはいつも楽園に居るわけじゃないから、会いに行ってくればいい。サクラも居るよ?」


「さくら! べるいくー」「キュー」「あいたい」「クゥッ」「あそぶぜ!」「……」


 サクラの名前を出すと一気にお出掛けに気分が変わった。俺も錬金箱に夢中でサクラのことを忘れていたけど、ベル達もグルメマップに夢中でサクラのことを忘れていたようだ。


「分かった。じゃあ行っておいで」


 俺の言葉でベル達が飛び去って行く。……色々と理由があったにせよ、サクラのことはもう少し気に掛けることにしよう。




 ***




「では、ラエティティアさんの楽園訪問を祝って、カンパーイ!」


 乾杯の挨拶と共に、手にしたジョッキで冷えたエールを胃に流し込む。うん、美味しいけど、どうせならビールが飲みたい。やっぱりお酒専用の錬金箱をお願いしたほうが良かったかな?


 いや、やっぱ駄目だ。お酒の錬金箱をゲットしたら、俺の知りうる限りのお酒を錬金させられて、それを再現するために楽園の大半が醸造所になる可能性がある。


 シルフィ達が俺を奴隷のように扱き使うとは思わないけど、あの手この手で篭絡しようとするのがたやすく想像できる。


 だってシルフィ達とルビー達上級精霊達、既に二杯目に突入しているもん。欲望に流されてはいけない。


「ラエティティアさん、楽園はどうでしたか?」


 長い時を生きたラエティティアさんから見た楽園の評価が気になる。内政と言えるかは微妙だけど、それなりに頑張ってきたから、身内以外の評価が聞きたい。というか、褒められたい。


「……そうですね、見事という他ないでしょう。エルフの国も豊かな自然と多数の精霊、豊富な魔力に支えられた国ですが、六人の大精霊様と精霊王様の手が加わったと思われる結界、幼いとはいえ精霊樹も存在し、比較するのが申し訳ないほどです」


 ……あれ? 褒められたけど、褒めてもらいたかったところと方向が違う気がする。


 でも、そっか、無理矢理開発した土地だけど、精霊樹の思念体であるラエティティアさんから見てもこの聖域は凄いのか。


 それはそれで、ちょっと嬉しい。


「それにここの料理は素晴らしいですね。食べたことがないのが沢山あるのですが、そのどれもが美味しいです」


 おっ、料理に食いついてくれた。料理は俺のこだわりポイントだから、褒められるととても嬉しいぞ。


「ありがとうございます。ドンドン食べてください。あ、グラスが空ですね、お注ぎします」


「あら、裕太様、ありがとうございます。それと、精霊がお店を開き、そのお店を精霊が利用していることも驚きました。精霊がお金を使うなど、それなりに長い私の精霊樹としての生でも初めてのことです」


 おお、褒められたかったところに徐々に近づいていっている。気分がドンドンよくなる。



「……そ、そうですか。気に入って頂けたようで嬉しいです。そういえばエルフの国はどうですか? 困ったことは起きていませんか?」


 ラエティティアさんの話を遮って話を変える。


 ヤバい。ラエティティアさんの褒め殺しがヤバい。


 別にこちらをヨイショしている感じではないのだけれど、褒めるのが抜群に上手くて最初は気持ちよかったけど途中から恥ずかしくて身の置き場がなくなってしまった。


 どれだけ褒め言葉のバリエーションがあるのか分からないが、遮らなければ俺の性格すら変えられそうな恐ろしさを感じた。


 でも、褒め言葉と同時にラエティティアさんの食とお酒が進み、先程まであったぎこちない雰囲気が薄れたのはありがたい。


「エルフの国ですか?」


「はい。状況が好転したと言っても、色々と大変ですよね?」


 首都が引っ越しをするようなものだから、苦労も沢山あるはずだ。


「特に大変なことはないようですよ。あっ、ですがエレオノラが、みんなが働き過ぎて怖いと愚痴を漏らしていましたね」


 エレオノラさんってエルフの巫女さんだったな。


 その巫女さんが怖がる働きっぷりって想像できない……いや、想像できるな。


 長老さんとかラエティティアさんを知っているご年配のエルフ達が、イキイキというか暴走している姿が見えた。


 ただの想像だけど、未来予知レベルの確信がある。


「そうですか、順調なら良かったです」


 確信できたけど関わらないようにしよう。年季が入ったお年寄りの暴走が、俺の手に負えるとは思えない。


 うーん、話が続かない。これ以上褒められるのは体がもたないし、なんかいい話題がないかな?


 ……あっ、そうだ。


 こういう時こそ身内を話題にすればいいんだ。先程から食事に満足したサクラがラエティティアさんの胸に飛び込みキャイキャイとはしゃいでいる。


 眼福だからそっとしておいたが、サクラにはここで活躍してもらおう。


「サクラについてなのですが」


「あう?」


 名前が出たからか、ラエティティアさんよりも早くサクラが反応する。うん、サクラのことだけどサクラに話しかけた訳じゃないから、今はその豊かな母性の象徴で遊んでいるといい。


「サクラちゃんがどうかしましたか?」


「いえ、ドリーが付いていてくれるので安心はしているのですが、ラエティティアさんの目から見て俺がサクラの為にできることってありますか?」


 話しやすい話題を提供するつもりだけだったが、案外悪くない話題な気がする。ぶっちゃけ、サクラってどうやって育てたらいいのかがサッパリ分からないもん。


「そうですね……環境の面では成長するのにまったく問題はありません」


 ドリーが管理しているのだから当然と言えば当然だな。でも、なにかしら提案がありそうな感じでもある。


「ただ、精霊樹としての能力をかなり遊ばせているので、それは少しもったいなく思いますね」


「えっと、どういうことですか?」


 遊ばせるも何も、サクラは基本的に遊んでいますが?


「広さと木々が足らないということです。裕太様、私の能力が及ぶのはエルフの国がある森全域なのです。サクラちゃんにはその私と同等の力があります」


 あとは分かりますねと微笑むラエティティアさん。凄く分かりやすい説明だったな。


 あのとてつもなく広く豊かな森全域を管理する力があるのか。楽園には……小さな森というか林が一つ……うん、全く足りてないな。


 あれ? 子育ての相談のつもりだったのだけれど、開拓フラグが立った?


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 久しぶりに開拓回になるかな? 聖域になってから開拓したことあったっけ?
[一言] おっ!久しぶりの開拓ですか? 森が増えるのかー!楽しみ
[一言] そうだ!開拓だ! もっともっと開拓だ! そしてアンデットどもを人の街に差し向けるのだ!魔王ゆーたよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ