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六百三十八話 テリヤキバーガー

 久しぶりに楽園に戻ると、ディーネ達への挨拶もそこそこに子供部屋に連行され、ベル達力作の迷宮都市グルメマップを披露される。それを全力で褒めるのは当然だが、色を混ぜて別の色を作るという秘術をベル達に教えることで尊敬を勝ち取ることにも成功した。あとは錬金箱で……。




 目の前に並ぶ料理・調味料・飲料の錬金箱。


 先程までは調味料の種類を増やしていくと結論が出ていたのだが……料理の錬金箱から目が離せない。


 目をつむって食べたい物を考え続けたことで、俺の中のテリヤキバーガーへの欲求が膨れ上がってしまっているのが原因だろう。


 コアが言うには料理の錬金は難しいらしいが、今の俺の情熱なら行ける気がする。


 思いを貫けば大抵なんとかなるって誰かが言っていたし、俺の思いの強さを錬金箱に分からせるタイミングは今な気がする。


 という訳で、いざ、錬金!


 料理の錬金箱に両手を添えて、魔力を込めながら俺の思いのたけをぶつける。テリヤキバーガー食べたい!


 ……結構な魔力が持っていかれる。食べ物とはいえ無、いや、魔力から物質を造り出すことはそれだけ大変な事なのだろう。


 だが、その甲斐あって、錬金箱の中心に光が集まり夢にまで見たテリヤキバーガーが形作られていく。


 ……か、完成。


 情熱が作用したのか、料理の錬金箱の中心にはホカホカと湯気を立てるテリヤキバーガーが鎮座している。


 湯気を立てるテリヤキバーガーとか見るの初めてなんだけど、まあ、美味しそうだから問題はない。


 あとは……即座にテリヤキバーガーにかぶりつくか、魔法の鞄に保存しておいて、ポテトとコーラを錬金してセットで味わうかだが……我慢できないのでいただきます。


 セットを完成させてからの方が満足度が高いのは分かっているが、止まれないならしょうがない。だって食べたいんだもん。


 テラテラと光を反射するテリヤキソースを纏わせた魅惑のパテが、俺の精神に早く食べろと訴えかけてくる。


 その欲望に素直に従い、ガブリとテリヤキバーガーに噛り付く。


 ………………………………味がしない……。


 え? もしかして、味も想像しないと駄目なの? いや、想像で作るのならそれも当然なのか?


 見た目が完璧だっただけにショックが大きい。


 ……落ち着け。料理の錬金は難しいと知っていたんだ。失敗くらい覚悟するべきだろう。


 ある程度構造が決まっている鉱物等とは違い、無限とも言える組み合わせがあるのが料理なんだ。一回で成功しようとする方が贅沢だ。


 ステータスを確認すると魔力が三分の一ほど減っている。


 高レベルの俺の魔力の三分の一と、味がしないテリヤキバーガーが同等? 効率の悪さに恐怖を覚えるが、諦める訳にはいかない。


 だが、ベル達やシルフィ達への魔力供給もあるから、無造作に魔力を消費することもできない。


 ……そうだ、たしか魔法の鞄の中に……あった、俺が魔力草や神力草を卸しているお礼でもらった魔力回復薬。


 使わないからすっかり忘れていたが、輝く時がようやく訪れたな。 


 グイっと回復薬を一飲みし、なんとも言えない味に眉をしかめる。


 ジュース並みに美味しいとは期待していなかったが、もう少しなんとかしてほしいな。今度迷宮都市に行ったらマリーさんに要望を出しておこう。


 頭の中でテリヤキバーガーの味をイメージしながら休憩すると、しっかり魔力が回復したので再挑戦する。


 ……不味い。バンズからテリヤキソースの味がしたり、レタスからパテの味がしたりする上に、甘すぎて味のバランスが最悪だ。


 これは無理だな。使い慣れればどうにかなるのかもしれないが、成功するまでどれだけ時間がかかるか想像できない。


 でも、テリヤキバーガーは食べたい。どうすれば……そうだ、錬金箱に素材を入れれば補助できるんだったな。


 急がば回れという大切な言葉を忘れていた。


 用意するべき素材は、マヨネーズ用の卵と酢と油、テリヤキソース用の醤油と味醂……はないから、お酒と砂糖で代用、レタスはそのままレタスで代用して、パテは……あのチェーン店のテリヤキ用のパテは豚肉だったはずだから、オーク肉で代用しよう。


 牛肉が入ってないんだと驚いた覚えがあるから間違いない。


 あっ、バンズ用の小麦粉と卵とゴマも必要だな。


 細かい食材は足りていないのだろうが、後は錬金と魔力で補えばいい。


 さて、若干遠回りをしてしまったが、まずは調味料の錬金だな。


 調味料の錬金箱にテリヤキソース用の素材を入れて、イメージを固めながら魔力を込める。錬金開始。


 素材の補助があるのと、作りだすのが一種類のソースだからか、思いのほか軽い負担で錬金が完了する。


 問題の味は……うん、想像通りのテリヤキソース。イメージが単純だと錬金も簡単なようだ。


 完成したテリヤキソースを魔法の鞄に保存し、錬金箱を浄化で綺麗にしてからマヨネーズに挑戦する。


 初めてテリヤキバーガーを食べた時、この白いソース、めちゃくちゃ美味しいってなったけど、マヨネーズだとは気がつかなかったんだよな。あとで調べて、豚肉の時以上にビックリした思い出がある。


 マヨネーズの材料を投入し、テリヤキバーガー用のマヨネーズを明確に想像しながら錬金開始。




 …………あっ、味見のつもりだったのに、全部舐めきってしまった。マヨネーズを直吸いするレベルのマヨラーではないのだが、恐ろしいマヨネーズを完成させてしまった。


 とりあえずもう一度錬金しよう。



 さて、調味料はこれでOK。


 次はバンズとパテだな。これは料理用の錬金箱を使用する。まずはバンズから。


 小麦粉と卵とゴマを料理の錬金箱に投入。ゴマが混ざり合わずに焼きあがったパンの表面にまぶせるかが少し不安だが、イメージが固まっていればなんとでもなるのが錬金箱の素晴らしいところなはず。魔力消費が凄いけど……。


 イメージを固めて錬金開始。


 一応成功……かな?


 パン単体で食べた記憶がないから若干不安だが、たぶん大丈夫だと思う。


 続いてのパテもたぶん成功。


 ここら辺はあやふやだが、今は素材を準備する段階。


 このまま完成した素材を自力で組み合わせれば、ある程度のテリヤキバーガーが完成するだろうが、ここで再び料理の錬金箱の出番だ。


 ソースとマヨネーズは完璧、バンズとパテはそれなりのクオリティだが、それを素材に再錬金することで、イメージ通りのテリヤキバーガーが完成すると思う。


 失敗したら凄まじく悲しいが、俺が食べたいのはなんちゃってテリヤキバーガーではなく、某有名チェーン店のテリヤキバーガーなんだ。妥協はできない。


 ここまできて失敗をしたくないので、本番前に入念にシミュレーションをする。パンやパテに別の素材の味が混入するのが一番怖いから、全体のバランスを保ちつつもそれぞれが独立しているイメージが大切だ。味の一体感は口内で完成するとイメージ。


 入念なシミュレーションと魔力量のチェックの後に、いよいよ本番。


 個別に作り上げた素材を料理の錬金箱に投入し、イメージを固めながら深く深呼吸をして魔力を込める。


 某チェーン店のテリヤキバーガー。某チェーン店のテリヤキバーガー。某チェーン店のテリヤキバーガー。某チェーン店のテリヤキバーガー。某チェーン店のテリヤキバーガー。


 一心不乱に錬金箱にイメージを伝えていると、錬金箱の中心にテリヤキバーガーが完成する。


 見た目は完璧だがこれまでも味がなかったり、味がバラバラだったりしたのでまだ油断はできない。


 慎重にテリヤキバーガーを手に取り、祈りを込めつつかぶりつく。


 ……ああ、これだ。これこそが某チェーン店のテリヤキバーガー。


 滅茶苦茶美味しいという訳ではないチェーン店特有のチープな味。でも脳裏に浮かぶのは幸せ。


 初めて食べたハンバーガーはテリヤキバーガーだった。悪友達と学校帰りに食べるテリヤキバーガーの美味しさ。学生デートでの甘酸っぱいテリヤキバーガーの思いで。仕事に追われて食べるテリヤキバーガーのせつなさ。


 久しぶりに食べたからか、色々な思い出が浮かんでくる。


 テリヤキバーガー、俺の人生で意外と大活躍していた。


 他のチェーン店の料理にも色々と思い出があるが、それも再現すれば別の思いでもハッキリと思いだせるのだろうか?


 それはそれで楽しみだな。


 チェーン店だけでも沢山思い出があるし、特別な思い出があるお店もいくつかある。それらを再現してこの世界に広めるのも楽しそうだ。


 まあ、なんにせよ、俺は異世界で某チェーン店のテリヤキバーガーを完全再現した。


 次はポテトとチキンナゲットとコーラだな。


 明日までにセットとチキンナゲットを完全再現して、楽園のメンバー全員にご馳走しよう。


 みんな喜んでくれるかな? サクラは赤ちゃんだし、炭酸を嫌がるかも……サクラ?


 あれ? 俺、帰ってきてサクラと挨拶した覚えがないんだけど?


 普段は俺達が楽園に戻ってくると真っ先に出迎えてくれていたのに……もしかしてサクラに何かあった?


 押し寄せる不安に背筋が凍りつく。


 とりあえず精霊樹に向かおう。ディーネ達が何も言わないのだから、危機的状況ではないはず。


 そうなると、しばらく放っておく形になったから、サクラから嫌われてしまったのかもしれない。


 ……嫌だぞ、あの可愛らしいサクラに、裕太嫌いとか言われたら、立ち直れる気がしない。


 知らず知らず早足になり、精霊樹の根元にたどり着いたが、やはりサクラの姿が見えない。


「サクラー! サクラー!」


 大声で呼びかけるも、いっこうに姿を現さないサクラ。本格的に嫌われてしまったのかもしれない。どうしよう。


 あっ、そうだドリーだ。こういう時は森の大精霊であるドリーに話を聞くのが手っ取り早い。ドリー、緊急召喚!


「……あら、裕太さん、急にどうしたんですか?」


 相変わらず大和撫子な雰囲気のドリーだが、表情がちょっとふわふわしている。予想通り蒸留酒に手を出しているな。でも、今はそんなことどうでもいい。


「ドリー。サクラが出てきてくれないんだ。嫌われちゃったかも、どうしたらいい?」


「あら、サクラちゃんなら、ラエティティアさんでしたか? エルフの国の精霊樹のところに遊びに行っています。明日には帰ってきますし、嫌われてなんかいませんよ?」


 へ?


 …………あー、もしかして俺、いらない恥を掻いた?


気がつけば一話のほとんどをテリヤキバーガーに費やしていました。なんかすみません。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 材料と完成品を持ってお料理担当精霊に食べさせれば 楽園独自の照り焼きバーガーとか作ってくれるかもよ? それはそれとしてバーガー食べたくなってきた!
[良い点] 面白かった [気になる点] 食後なのにお腹すいた
[一言] 思った通り部品を個別に作って完成させて笑った
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