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六百三十二話 マジか……

 迷宮探索中のジーナ達はディーネの起こしたワイバーンとアサルトドラゴンの虐殺事件を師匠である裕太に丸投げすることで解決し、本来の目的であるアサルトドラゴン討伐も無事に果たすことができた。




「あら、裕太。ジーナ達が迷宮から出てきたわよ」


 ベル達と戯れながらのんびりしているとシルフィが嬉しい知らせを届けてくれた。


 トルクさんとの料理研究に集中するとマーサさんに迷惑をかけるし、頻繁にメルのところに顔を出すのも迷惑だし、マリーさんのところは喜んで出迎えてくれるけど、儲け話なんですよね? という期待が重いし、端的に言うと、ちょっと暇だったんだ。それにしても……。


「シルフィ。ジーナ達のことを気にしてくれてたんだね。ありがとう」


 シルフィの索敵範囲が広いとはいえ、意識していないとジーナ達が迷宮から出てきたことにすぐ気がつかないだろう。


 表情があまり動かないから分かり辛いけど、シルフィって甘々だよね。まあ、そうじゃなければ俺にここまで付き合ってくれないだろうけど。


「うふふ。別に気にしてなくてもそれくらい分かるわよ。だってディーネが一緒だもの」


 ……なるほど、シルフィが照れているのでなければ深読みし過ぎていたようだ。大精霊の気配が突然現れたら、シルフィならすぐに気がついて当然だろう。俺には分からないけど。


「なるほど。まあ、とりあえず暇だしジーナ達を出迎えに行こうか」


 宿で待っていれば帰ってくるだろうが、散歩がてら迎えに行くのもいいだろう。


 そうシルフィに告げると、お出掛けに気づいたベル達が集まってくる。違うよ? ジーナ達のお迎えに行くんであって、屋台巡りではないからね?


 マーサさんに声をかけて宿を出る。



「あっ、ベティさん……」


 ベル達のはしゃぐ様子を見守りながら歩いていると、こちらに向かって急ぎ足で進むベティさんの姿を視界に捉えた。


 ……とりあえず、脇道に避難しよう。


 路地に身を隠し大通りを見張っていると、汗をかきながら急ぐベティさんが通り過ぎていった。


 ふぅ。俺の姿は見られていなかったようだ。


「裕太。いくらなんでもその反応はベティに失礼なんじゃないの?」


「しつれいー?」「キュ?」「しつれいはだめ」「クゥ」「なさけないぜ」「……」


 シルフィの非難を切っ掛けにベル達からも疑惑の目を向けられる。純真無垢なベル達の視線が痛い。


「いや、ベティさんの忙しい姿を見ると、罪悪感が……ね?」


 ラフバードの皮の一件は俺の予想通りベティさんに大量の負担をもたらした。トルクさんの宿で会った時に盛大に愚痴られたので俺はそれをしっかり認識している。


 で、トリ皮のカリカリを開発したのは俺とトルクさんだからベティさんは何度も宿に打ち合わせにやってくるんだけど……その度にベティさんの元気がなくなっていくものだから罪悪感が酷い。


 ちょっとポヤっとしていて、ちょっともっちりしているベティさんのホッペがどんどん萎れていく。


 会うたびに地獄に突き落としたのはあなたですと言われている気になる……というか直接言われているから、接触を避けるのも仕方がないと納得してほしい。


 なんとかベル達に状況を説明し、ジーナ達を迎えに行くんだと気を逸らせて乗り切る。


 知らない人からの悪評はどうしようもないけど、身内からの悪評はなんとしても避けたい。



「あっ、師匠だ!」


「おししょうさま!」


 迷宮に向かう途中、マルコとキッカが先に俺に気がついて走り寄ってくる。


 出会った当初は警戒心剥き出しだったのに、今では喜んで駆け寄ってくる姿を見ると感慨深くなる。これが父性か?


「おかえり、マルコ、キッカ。元気そうで良かったよ」


 駆け寄ってきた二人の頭を撫でて体調の確認をする。うむ。ふわサラで完璧な狼お耳だ。体調は万全だな。


 ……迷宮を探索してしっかり元気って地味にすごいよね。


 ジーナ達の契約精霊は……うん、ベル達と戯れまくっているから問題はなさそうだな。


「師匠。無事戻りました」


「お師匠様。ただいま帰りました」


 マルコとキッカをナデナデしていると、ジーナとサラも追いついてくる。


「うん。お帰り。無事でよかったよ」


 ふむ。サラの頭はナデナデできるが、さすがにジーナの頭を撫でるのは違うな。それにしても、ジーナだけ少し、いや、かなり疲れているように見える。


 やっぱり年長者だと、色々とプレッシャーが掛かるんだろうな。あとでなんらかのご褒美を用意したほうがいいかもしれない。うぷ!


「裕太ちゃーん。お姉ちゃん、沢山頑張ったわー」


 ジーナの様子を見ているといきなりディーネに抱き着かれた。何がとは言わないが包まれて結構幸せ……まて、沢山頑張った? 危険がなければ手出ししないように言っておいたはずだ。


 なにかあったのか?


 ……ジーナが疲れて見えるだけで、それ以外は問題なさそうだな。でも、ちょっと気になるから宿に戻ったら聞いてみるか。




 ***




「――――ということなんだけど、どうしよう?」


 どうしようって言われても、俺がどうしようって言いたい。


 えーっと、いったん落ち着いて整理しよう。


 ある程度順調だったんだけど、四十九層で罠の解除に失敗、ディーネ大暴れ、それを他の冒険者達に見られる、俺に丸投げ。


 シンプルに酷いな。どこが酷いかって言うと、俺の教育が実ってブーメランなところだな。


 たしかに言った。丸投げは悪いことじゃないと俺も思う。


 でも、弟子に躊躇いなく丸投げされると、それはそれで辛い。自業自得だけれど辛い。


 あっ、でも、丸投げされた内容は深く考えれば簡単だな。


 ジーナ達が精霊術師として優秀で秘術も知っていると認識されることは、身を守ることにも繋がるが、身の危険を呼び込むことにもなりかねない。


 でも、そこはアレだ。俺がどこぞのDQNばりに冒険者ギルドにプレッシャーを掛ければ手出しはされないだろう。


 ジーナが言うには、俺は今も冒険者達に恐れられているらしいし……。


 いや、それでも少しは好感度が上がっているはずだからDQNロールは駄目だな。凄腕精霊術師ロールで、身の程知らずに秘術に興味があると? 的な感じでプレッシャーをかける方向でいこう。


「冒険者ギルドには俺の方から話を通しておくから、心配しなくていいよ」


「良かった。ありがとう師匠。あと、あたし達の鞄の中にワイバーンとアサルトドラゴンが腐るほど入っているんだけど、どうしたらいい?」


 俺の言葉にホッとしたジーナが、続けて面倒そうな内容を投げてくる。大量の素材か。


 普段なら俺の魔法の鞄に入れて順次放出すれば済むんだけど、大量の素材を入手したところまで冒険者達に見られているんだよな。


 ジーナ達は俺と違って冒険者ギルドとの関係も良好だし、少しは冒険者ギルドにもメリットを与えるべきだろう。


「ある程度冒険者ギルドに卸して、後はマリーさんのところにも卸すって冒険者ギルドに言っておけばいいよ。それにジーナの実家の食堂に……いや、あの食堂でワイバーンやアサルトドラゴンは出せないよね」


 さすがにスラムに近い低所得者御用達の食堂に出すには、サービスとしても豪華すぎる。


「うちの食堂じゃ無理だよ。うちには冒険の途中で狩ったラフバードやオークを卸すつもり。じゃあ明日にでもサラ達と冒険者ギルドに顔を出すよ」


「あ、それは俺も一緒に行くね」


 え? 師匠が冒険者ギルドに行くの? みたいな顔をされたが、俺だって講習や何かしらの用事がある時は顔を出している。ただ、行かなくていい時は極力行かないようにしているだけだ。


 慣れたら面倒事が寄ってきそうだもん。


「あと、褒めるのが遅れたけど、みんなよく頑張った。アサルトドラゴンの討伐は君達の立派な功績だよ」


 本当なら帰ってきてすぐに褒めるつもりだったのだけど、予想外の報告で後回しになってしまった。


 ストレートな褒め言葉に、照れる様子の弟子達が可愛い。


 でも、実際に凄いことだと思う。ディーネのフォローがあったとしても、ジーナ達の年齢で迷宮のトップ層に並んだんだ。天才扱いされても不思議じゃない功績だ。


「裕太ちゃん。お姉ちゃんも頑張ったんだから褒めてほしいわー」


 ちょっといい感じのところにディーネが乱入してくる。


 たしかにディーネが居なければジーナ達は死んでいたかもしれない。だから褒めて当然なのだけど、できればもう少し目立たないようにお願いしたかった。


 まあ、そういう指示を出していなかった俺の責任なのだけれど……全力で褒められない実績を残すのがディーネのディーネたる所以なのだろう。


「うん。ディーネもありがとう。感謝しているよ。今晩はたっぷりお酒を出すから楽しんでくれ」


「うふふー。どういたしましてー。お姉ちゃん、今晩が楽しみだわー」


 俺のこの微妙な気持ち、ディーネには一ミリも伝わっていないんだろうな。でも、そんな能天気なところもディーネの良いところ、ということにしておこう。


「それで師匠、次からはどうするんだ? ファイアードラゴンを倒すのを目標にすればいいのか?」


 落ち着いたところでジーナがとんでもないことを言いだした。


「いや、ファイアードラゴンは無理だよ。俺もシルフィ達の存在がないと目にしただけで震える」


 シルフィが下級精霊のベル達でも無理だと言っていたから、浮遊精霊であるシバ達では更に無理だろう。


 あれはある意味バグ。対抗するには勇者や英雄のようなバグ的存在か、冒険者ギルドが企画していたレイドボス討伐スタイルじゃないと討伐できないだろう。


 ちなみに、大精霊もバグと一緒だと俺的には思う。


「じゃあ、どうするんだ? なにか目標があった方が訓練に身が入るんだけど……」


 首を傾げるジーナの言うとおり、次の目標があった方がやる気になるよね。とはいえ、ファイアードラゴンはない。


 勉強面はサラが見てくれているし、他には……あっ、これなら、でも、先にシルフィに確認を取っておいた方が良いな。結果的にファイアードラゴン討伐並みに無理だったら目標の意味がない。


「ちょっと考えていることがあるから、もう少し煮詰まったら課題にするね」


「了解。あっ、それで、ちょっと面倒かもしれない物を宝箱で手に入れたんだけど……」


 え? ……マジか……まだ面倒な事があるの?


明後日6/22日、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第八巻が発売されます。

迷宮都市の日常と、自然の鎧にベル達の奮闘な迷宮探索、書き下ろしのSSも巻末にありますので、お手に取って頂けましたら幸いです。


宣伝で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] コミック買ったぜ
[一言] 精霊の進化か真化か、術師と融合か合体か 精霊の鎧ver.ユウタでもファイアーは無理なのか?
[一言] こりゃ卒業も間近かねぇ……?
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