六百二十九話 トラップ
予約投稿を忘れていました。申し訳ありません。
迷宮探索に挑戦中のジーナ達は一部を除いた迷宮の最前線に到達した。そこで四十九層に滞在している冒険者達の奇異の目を避けるための野営地を探していると、地の浮遊精霊であるウリが隠された空間を発見する。そこには金色の宝箱が鎮座していたのだが、同時に罠が仕掛けられていることも判明する。
うーん。罠二つのうち一つはフクちゃん達のおかげでなんとかなった。
問題は宝箱に仕掛けられている最後の罠。
こっちは宝箱の中身を壊さないためにも慎重な対応が求められる……が、残念なことに精霊達でも解除は難しく、そしてあたし達も解除スキルを持ち合わせていない。
詰んだ。師匠ならそう言うだろう。
諦める? でも、初めて発見した宝箱、しかも金色。サラ達も喜んでいるし諦めを選択するのは悲しい。
「……どうしよっか? 誰か宝箱の罠をどうにかする方法を思いつかない?」
最年長の身で情けないが、さっぱり良いアイデアが思い浮かばないからサラ達に頼る。
「どうしましょう? 砦の冒険者さん達に頼りますか?」
「できないことをできる人にお願いするのは間違っていないけど……今回の場合はもめ事の種にしかならない気がする」
師匠の影響で腫れ物扱いだけど、女子供しかいないパーティーがお宝を手に入れたとなると怪しくなる。
近くに師匠も居ないし迷宮内は罪を隠蔽しやすい環境だから、砂糖に群がる蟻のごとく面倒なのが集まってくる可能性が高い。
ディーネさんが一緒だから危険はないけど、余計な騒ぎは師匠の名に傷がつくから避けたい。
「……そうですね。宝箱の中身次第では命を狙われるかもしれませんね」
苦労してきたからしょうがないのだけど、すぐに命の危機を察する子供って悲し過ぎる。
でも、楽園に居る時は子供らしい行動もするようになったし、まだまだこれからよね。
「ジーナねえちゃん、師匠はどうやってわなをはずしてるんだ?」
「たしか、トゥルが解除してくれるって言ってたな」
あたしがマルコの質問に答えると、マルコの傍に浮いていたウリの気配が落ち込んだようにマルコにすり寄った。
浮遊精霊と下級精霊。一つしかランクは変わらないけど、かなりの力の差があるから落ち込む必要はないのだけど、契約精霊達はみんなあたし達が喜ぶことを一緒に喜んでくれるから、できないと落ち込んじゃうんだよな。
「ウリはむりなんだよな?」
マルコ。ウリに追い打ち掛けないで。悪気がないのは知っているけど、可愛そうになってくる。
「やっぱりむりだって」
「そうだな。でも、一緒に頑張っていればいつかウリも解除できるようになるよ」
「うん!」
元気に頷くマルコと、やる気になったのかマルコの周囲をグルグル飛び回るウリ。姿は見えないがウリの落ち込みも回復したようで一安心だ。
安心はしたが本題が全然解決してないな。
「そういえば宝箱には鍵がかかっているのか?」
罠のことが気になって鍵を確認していなかった。
「えーっと、ウリ? ……うん。かぎもかかってるって」
「罠の上に鍵も掛かっているのか。……宝箱の為に命は賭けられない。残念だけど、諦めるしかないな。みんなもそれでいいな?」
もったいないが、こんなことでサラ達を危険な目に合わせたら師匠に合わせる顔がない。
「そうですね。残念ですが、諦めた方がいいと私も思います」
「えー。たからばこのなか、きになる」
サラは賛成してくれたが、マルコは不満そうだな。あたしも宝箱の中身は気になるから気持ちは分からないでもないが、ここは説得するしかないだろう。
「ん、キッカ?」
黙ってあたし達の話し合いを見守っていたキッカが、トコトコと歩き出す。そっちは……。
「でぃーねおねえちゃん。たからばこあけて」
「え、キッカ、ちょっと」
ディーネ姉さんはあたし達の契約精霊じゃないし、あたし達の危険な時の為に護衛として師匠が付けてくれたのであって、こういう時に頼るのは駄目だろ。
「あけてくれるって!」
……ディーネ姉さんの巨大な気配が、たしかにキッカの右手側に移動している。
ディーネ姉さん、優しいし師匠だけでなくあたし達にも姉として接してくれるけど……嫌な予感しかしない。
師匠もディーネ姉さんに迂闊に頼ると予想外なことが起きるって言っていたし、張り切ると碌なことがないとボヤいていた。
子供好きなディーネ姉さんが、キッカにお願いされて張り切らないわけがないよな。
どうしよう……嫌な予感が確信に変わったぞ。止めよう。
「あの、ディーネねえさん、ちょっとま、きゃっ」
止めようと思ったが、最後まで言う前にあたし達の体が水に包まれた。あぁ、もう駄目だ。
楽しそうにはしゃぐマルコとキッカの声を聴きながら宝箱を見つめる。
宝箱が水に包まれた。
ふむ、罠の解除に失敗した時の為の保険か。ディーネ姉さん、意外と冷静かも。
希望が持て……え? ディーネ姉さん、ちょっと待って、その空中に浮かぶ巨大な水の刃はなんですか?
解除ではなく宝箱をぶった切って開けるつもり? 力技じゃん!
まあ、あたし達では鍵も罠も解除できなかったし、力技もその力をちゃんとコントロールできたか分からないから文句は言えないが、ディーネ姉さんのそういう勢い任せなところに師匠は困っているんだと思うぞ。
考えている間に巨大な水の刃が視界から消える。
スパンという音と共に宝箱の上部が水に浮き、その後沈んでゴトリと地面に落ちた。金属製の宝箱を切ったにしては軽い音だが、それだけ水の刃の切れ味が鋭かったのだろう。
あとは罠も一緒に切断できていれば『パーー!』……罠は切断できていなかったようで地面に転がった宝箱の蓋からラッパのような音が大音量で響き渡る。
罠の発動。
あれ? ディーネ姉さんの巨大な気配が、動揺したように右往左往している。
あっ、宝箱の蓋が水で切り裂かれて粉みじんに変わった。
宝箱の蓋から出ていた音は止まったが、代わりに空間の外から巨大な質量が駆けてくる音や鳴き声が聞こえる。
音で周囲の魔物を集める罠だったか。
普通でも厄介な罠だが、アサルトドラゴンやワイバーンが主体の四十九層では最悪といっても過言ではないだろう。
運がなかった。
物理系の罠だったらディーネ姉さんの水でなんとでもなったはずだが、おそらく音は予想外だったのだろう。音は普通に水を素通りしてしまった。
それでも幾分かは音が小さくなったはずだが……集まってきてるよな。
ある程度広いとはいえ岩山の密室。罠が発動すればアサルトドラゴンやワイバーンが突っ込んできて出入口もろとも粉砕か。極悪だな。
「ジーナねえちゃん、じっとしていていいのか?」
「キッカ、こわい」
マルコが焦り、キッカが怖がっている。
「大丈夫だ。ディーネ姉さんが居るのだから危険はない」
危険は、だけどな。
外から聞こえてくるのは、おそらくだがワイバーンとアサルトドラゴンの断末魔と、巨体が倒れた時の轟音。
たぶんディーネ姉さんが、あらあらー、お姉ちゃん失敗しちゃったわー。うーん、どうしましょう?
……全部倒してしまえば一緒よねー。裕太ちゃんにも任されているし、お姉ちゃん頑張っちゃうわー、といった感じで集まってきた魔物を倒しているのだろう。
安全は確保されている。安全は。
どうしよう、確実に大騒ぎになっているよな。砦から離れた場所で野営地を探したとはいえ、これだけ派手に音を鳴らしていれば気がつかないわけがない。
すがるような気持でサラに目を向けるが、そのサラも遠い目をして壁を見つめていた。
……ジタバタしてもしょうがないってことだな。畜生。
轟音と悲鳴が静まり、辺りに静寂が広がった。
あたし達を包んでいた水が消える。どうやら終わったらしい。
あたしは状況を確認するために空間の外に出る。
目に飛び込んできたのは首と胴が切り離されたアサルトドラゴンの死体。驚きで目を逸らすとそこにもアサルトドラゴンの死体。更に目を逸らすと今度はワイバーンの死体。
死体、死体、死体、死体、死体、視界を覆いつくすアサルトドラゴンとワイバーンの死体の山。
どうしてこうなった。
いや、原因は分かっているんだけれど、この惨状をあたし達にどうしろと?
***
「なんだこの音は! どこの馬鹿が迷宮でラッパ吹いてやがる! ここは四十九層だぞ!」
苦労してアサルトドラゴンを狩り、砦でようやく一息ついたところでこの騒ぎ。ふざけんな!
「リーダー。緊急招集、広間に集合だと!」
「おう、今行く!」
やっぱり招集が掛かりやがった。仲間と広間に向かうと、他の冒険者も集まっていた。
「みな、よく集まってくれた。言わずとも現状は理解していると思うが緊急事態だ。まず、偵察に長けた栄光の影に偵察に向かってもらう。他は戦闘態勢で砦周辺の警備だ」
やはり俺達に偵察が任されたか。うちのパーティーには三人も偵察方面に優秀なのが集まっているから仕方がないが、貧乏くじを引いちまった気がする。
「了解。ただちに偵察に向かう」
砦の長に承諾を伝え、仲間と共に砦を出る。
「リーダー。どうするんだ?」
「偵察するのは当然だが異常事態だ。身の安全を最優先に慎重に動く」
命がけなのは性に合わねえ。まず自分達、次に砦。これは変わらねえ。
「……あー、なんだ、これは夢か?」
慎重に行動するつもりだったが、ラッパの音に釣られたのかいっさい魔物に遭遇せずに騒ぎの原因に到着した。
「あぁ、夢だったのか。そうだよな、こんな馬鹿げた光景、夢でしか有り得ねえよな。さすがリーダー。あれ、でも、誰の夢なんだ? 俺のか?」
「馬鹿なお前の夢なはずないだろ。ちなみに俺の夢でもない。あんなの、夢でも想像できねえよ」
「そうだよな。じゃあこれはリーダーの夢だな」
仲間の中の馬鹿二人が本格的に夢の中だと納得し始めた。俺の言葉が切っ掛けとは言え、自分が起きているかくらいは判断できてほしい。
……まあ、この二人は火力要員。俺を含めた他の三人が技術タイプだから、俺達が頑張ればいいんだ。
「リーダー。あんなところに穴なんてありました?」
「いや、なかったはずだ。おそらく隠し扉のようなギミックがあったんだろう。で、モンスタートラップが発動して魔物が集まった」
「ですね。それで、どうします? 帰りますか?」
「普通なら撤退するべきだが、あのまま放置もできねえだろ。お前、ひとっ走り砦に行って現状を報告してくれ。モンスタートラップが発動、だが、それ以上のバケモノが存在する可能性アリ。最悪、砦を捨てる覚悟が必要。俺達も何かあればすぐに逃げるってな」
アサルトドラゴンやワイバーンがゴミのように水で惨殺されている異常事態。
隠しギミックが発見されて罠が発動している以上、あの水を操っているのは人の可能性が高い。
どうか話が通じる相手であってくれ。
読んでくださってありがとうございます。




