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六百二十四話 やるなら本気で

 エルフの秘薬でドーピングにドーピングを重ね、失われた自信を取り戻すために俺はサキュバスのお姉さん達に決戦を挑んだ。そして俺は勝利した……はずだったのだが、敵側の増援により勝利が盤面ごとひっくり返された。追加で四人は卑怯だと思う。




「お疲れ様。シルフィ、ありがとう」


 シルフィにお礼を言ってベッドに倒れ込む。


 帰ってきちゃったか。


 今回の旅も楽しかったけど、評価は……五十点、いや、四十点くらいかな?


 ベッドに寝転がったまま旅の出来事を思い返す。


 正直、お店を一軒しか回れなかったのが痛い。


 本来なら気になっていたお店を全部、最低でも三軒か四軒は回りたかった。


 特に痛かったのは、やはり淫魔の館での出来事。


 エルフの秘薬を贅沢に使用して勝てそうだったのに、最終的には負け……いや、トラウマは克服できたっぽいし、気絶せずにギリギリ歩いて帰れたから引き分けかな? そこまで押し返されてしまった。


 おかげで、衰弱回復、内臓強化、等々のエルフの秘薬をフル活用しながら旅行最終日まで宿に引きこもるハメになってしまった。


 エルフの秘薬の効き目がたしかだったことで、衰弱&ヴィータのお説教のコンボから逃れられたのは不幸中の幸いだが……それもこれもすべて、あの強面で微妙に立場が上っぽいのに三下臭がにじみ出ているあの男が悪い。


 あいつがサキュバスのお姉さん達に俺が来たことを広めなければ、もっと楽しく夜の街を堪能できたはずだった。


 ウナギを受け取る時にブラストさんと一緒に立ち会いに来ていたが、あの野郎、太郎さんってモテモテなんっすね。でも、あんまり羨ましくないっす、なんてのたまいやがった。


 俺が世間体を気にする常識人でなければ、全力で顔面にパンチをくれてやったところだ。


 お前のせいで、淫らでエッチなナイトライフが、素で命の危険もある果し合いになったんだからな。


 ……今度ベリル王国に行った時にサキュバスのお姉さんにターゲットにされたら、あいつも巻き添えにしよう。


 でも、ブラストさんには悪いことをしてしまった。どうやら俺を招待してくれるつもりだったらしく、かなり探させてしまったらしい。


 全力で隠れていたので少し申し訳なくなるが、最初に俺を淫魔の館に導いたのはジュードさんなので、文句はジュードさんと、三下の舎弟にお願いしたい。


 というか、その二人の親分がブラストさんなのだから、ブラストさんにも責任があると思う。だから俺は悪くない。


「裕太」


「ん? シルフィ、何か用?」


 心の中で言い訳をしていると、シルフィが話しかけてきた。お酒の要求かな?


 大丈夫、ウナギを受け取った後にちゃんとベリルの酒屋を回ったから、お土産の準備も万全だ。


「ベル達を召喚しないの? たぶん待っているわよ?」


「……そうだった。早く召喚しないとね」


 シルフィの言葉でベッドから起き上がる。別にベル達のことを忘れていた訳じゃないのだが……ちょっといけない遊びをしてきた後だと、純粋なベル達と会うのに躊躇してしまう。


 悪いことをした訳ではないのだけれど、やっぱり少し気まずい。 


 とはいえ、ベル達も今日呼ばれると分かっているはずだし、あんまり待たせるのも可哀想だ。召喚するか。


「ゆーたー」「キュー」「まってた」「クゥ!」「おそいぜ!」「……」


 召喚したとたんベル達が突撃してきて、俺の体に次々と装備されていく。


 ああ、癒されるというか、浄化される。


「ごめんごめん、みんな久しぶり」


 ベルが顔面に装備されているので話し辛いが、待たせてしまった様子なので謝りつつ全員の頭をナデナデしまくる。


 一人の大人な時間も楽しいけれど、やっぱりみんなと一緒の方が楽しいよね。


 まあ、現在は少し長めの賢者タイム中だからそう思うけど、復活したらまた夜遊びに行きたくなるんだろうな。


「むふー。ゆーた、べるたちすごいのつくったー」


 一通り戯れると、ベルが満面の笑みで報告を始めた。おそらく凄いのとは迷宮都市の屋台マップのことだろう。


 それを作りに楽園に戻っていたのだから、屋台マップじゃない方がビックリする。


「キュキュー。キュッ、キュキュー」


 うん。レインが興奮して何かを教えてくれようとしているのは分かるが、内容はサッパリ分からない。


「あのね。ちずかんせいした。みんなでがんばった」


 やはり屋台マップのことだったか。いつも控えめなトゥルが自信ありげな様子だし、本当に良い物ができたのだろう。


「クゥ! クー、ククックー」


 タマモも興奮しているのか、モフモフなシッポを振りながら鳴き声と同時にジェスチャーもしてくれる。


 言葉は分からないが、かなりヒントになりそうな動き……だが、一生懸命にジェスチャーする子狐が可愛すぎて動きを解読する前に脳の許容量がいっぱいになりそうだ。


「すごいぜ! めいきゅうとしをしはいした!」


 いや、フレア。マップを作っても支配はできないよ。というか、そんな野望を持ってるの?


「…………」


 うん。ムーンはプルプルしているだけだけど、なんかとても喜んでいるのは伝わってくる。喜びが理解できるのも一つの進歩だよね。


 いずれは契約精霊全員の気持ちをしっかり理解できるようになりたいな。


「みんな、凄く頑張ったんだね。楽園に戻ってみせてもらうのが楽しみだよ」


 物も一緒に召喚できれば直ぐに確認できて便利なのだが、シルフィが言うにはそれは無理らしい。


 どんなマップが完成したのか気になるし、楽園に戻るか?


 ……それはそれで微妙だな。それほど大変な事ではないらしいが、それでもマップを見に行くためだけにシルフィに楽園を往復させるのは違う気がする。


 まあ、ベリル王国と迷宮都市は往復させちゃったけど、それは俺の大切な部分がピンチだったのだから仕方がないはずだ。たぶん。


 俺の言葉にベル達が大興奮で、マップについてさらに詳しく説明してくれる。


 どうやらドリーのアドバイスでマップに色をつけたりもしたようだ。みんな自分に関りがある色が大好きだし、凄くカラフルなマップが完成している気がする。


 現代アートで偶に見る素人では評価が難しいタイプの芸術な可能性もあるから、事前に誉め言葉を用意しておこう。




 ***




 一通りベル達と戯れて満足し、再びベッドに横になる。


 体力的には回復しているのだが、色々と吸い取られまくったからか、体の芯に疲れが残っている気がする。


 のんびりとワチャワチャ戯れているベル達を眺めながら今後の予定を考える。


 迷宮都市で必要なことはほとんど事前に済ませて旅行に行ったから、後はジーナ達の帰還を待つだけ……あっ、忘れてた。


「シルフィ。マリーさんとソニアさんの様子がどうなっているか分かる?」


 出発前に罰ゲーム的なものを課していたのをすっかり忘れていた。


「そういえば面白いことをしていたわね。確認してみるからちょっと待って」


 シルフィも忘れていたようだが、すぐに確認してくれるらしい。


「……………………」


 あれ? なんかシルフィの楽しげだった雰囲気が、シリアスな方向に変化していっているのだけど?


 もしかしてマリーさん達に何かあった?


「シルフィ?」


「マリー、侮れないわね」


 え? どういうこと? なんでシルフィが悔しそうなの?


「シルフィ、何があったの?」


「あの子、雑なネコミミとシッポをつけて、ついでにソニアだけじゃなく他の店員にまで同じような格好をさせているわ」


「え? それって巻き添えを増やしたってこと?」


 たしかに同じことをする人数が増えれば恥ずかしさは薄まる。でも、それってパワハラじゃん。


 しかも、その罰ゲームを課したのは俺だから、なんだかその店員さん達にとっても申し訳なくなってくる。


 というか、なんでネコミミとシッポでパワーアップさせているの? 意味が分からない。


「違うわ。見物人が集まっているし、立て看板に特別セール開催中。獣人様は更にお得なキャンペーンって書いてあるから、商売になると見込んでのことね」


 見物人?


 ……つまり罰ゲームでマリーさんとソニアさんがおかしなことをやり始めて、それが噂になって人が集まった。


 マリーさんは思考する。あれ? 見物人を客として取り込めば大儲けじゃね?


 それなら二人だけでやるよりも店全体でやった方が目立つ。ついでにミミとシッポもつけてみるか。


 あっ、獣人のマネをすることになるし、どうせなら獣人のお客を取り込むのも良いかもしれない。獣人には更にちょっとだけサービスしましょう。


 そんな感じの流れかな?


 まだ罰ゲームを課して十日も経っていないのに、マリーさんの行動力が怖い。


「というか、シルフィ。罰をイベントに変えるのはアリなのかな?」


 一応、雑なおねだりをした反省をしなさい、というのが目的な罰なのだけれど、それを利用して儲けを企んだら罰にならないよね。


「うーん。普通なら、というか、真っ当な精神を持っていれば無しなんじゃない?」


 だよね。ある意味喧嘩売ってるもんね。


「じゃあ、マリーさんはなんでそんなことをしたのかな?」


 儲けに目が眩むのはマリーさんのテンプレートだが、それでも無能な人ではないし、そこら辺の計算ができない人でもないはずだ。


「そこまでは分からないわ。調べてみるから少し時間をちょうだい」


「了解。お願いね」


 シルフィも地味に興味を持ったのか、窓から飛んで出て行ってしまった。あの様子なら、しっかり原因を探り出してくれるだろう。




「ただいま」


 夕食を食べてベル達とまったりしていると、シルフィが帰ってきた。 


「お帰り。どうだった?」


「面白いことになっていたわ」


 シルフィがとっても楽しそうだし、特に問題になりそうなことではなさそうだ。詳しく話を聞いてみるか。



 詳しく話を聞いたところ、ちょっと笑ってしまった。


 最初は二人の罰ゲームに人が集まってきただけだったらしい。二人とも美人だから分からなくもない。


 ただ、それだけでは終わらなかった。その集まっていた中に居た獣人にキレられてしまったらしい。


 獣人、バカにすんな! やるなら本気でやれ!


 俺はここで笑ってしまった。


 やめろと言われるなら分かるけど本気でやれって、そのキレた獣人も面白いな。


 そしてその言葉に他の獣人達も同調。


 騒ぎを治めるためにやけくそになったマリーさんが、本気でやってやるわよと店全体を巻き込んで本気のキャンペーンを開催。


 俺に喧嘩を売る状況なのも理解しているようで、俺が来店したら土下座して謝罪するつもりらしい。


 お詫びのお酒や廃棄予定のゴミ、銅貨なんかも急ピッチで集めているそうなので、俺としても謝罪を受け入れる方向で動こうと思う。


 というか、俺も謝った方がいいかもしれない。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 正直、お店を一軒しか回れなかったのが痛い。 →サキュバスが強烈すぎてケモミミなかったことになっているw
[良い点] やるなら本気でやれ! 粋な獣人さんに乾杯です(笑)
[一言] まぁ獣人からすればものまねの元ネタのごとく笑いものにされたわけですからね そりゃあキレますわな むしろ本気なら許すあたり寛大だわ
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