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六百二十二話 次への備え

 ケモミミ達の饗宴で五人のケモミミ美女を指名し、個人コースで存分に大騒ぎした。ネコ、キツネ、クマ、ウシ、タヌキのミミとシッポを堪能。彼女達の魅惑のセクシーダンスとちょっとエッチなおもてなしにテンションが上がり、大盤振る舞いの上に五人全員をお持ち帰りすることになる。




「俺は強い。いや、強くなった」


 右の拳を握り締め、満足しながら頷く。


 視線の先には巨大なベッドの上で、はしたない寝姿を晒す五人のケモミミ美女。


 彼女達も強敵だった。


 ケモミミ達の饗宴と提携している宿で最上級の部屋を取り、最初はまったりとイチャイチャしながらも自分が五人とちゃんと戦えるのか内心では怯えていた。


 あのままだったら、俺は彼女達に敗れ、ベッドで眠る彼女達のように情けない姿を晒していただろう。


 だが、金にあかせて最上級の部屋を取ったことで流れが変わる。


 その部屋には最上級という名にふさわしい設備、大きなお風呂が備え付けられていた。


 美女達との混浴。


 そんな素敵なイベントに目が眩み、五人もお持ち帰りしてしまった後悔も内心の怯えもが取り除かれる。


 お湯の中でのすべてをさらけ出したお付き合いにより、長い間溜めこまれた欲望が噴火し、俺は恐れ知らずの獣になった。


 たまりにたまった欲望と、高レベルゆえの無尽蔵な体力。


 これを活かして戦い続け、最後には彼女達に『もう……むり……』と言わせることに成功。


 まあテクニックというよりかはスタミナで撃破した感じだけど、最後には彼女達に語尾をつけ忘れさせたのだから勝利は揺るがないだろう。


 サキュバスのお姉さん達にもてあそばれ、無様に敗れたあの時とは違う。知らない間にトラウマになり、いつの間にか失っていたプライドの復活を感じる。


 これならサキュバスのお姉さん達相手でも……いや、無理だ。


 体の奥底から湧き上がっていた高揚感が一瞬で鎮火する。


 たしかにケモミミ美女達も強敵だった。


 獣の特徴を備えているが故か、草食獣である牛の獣人であるピピさんでさえ、途中からはプルンプルンの大暴れだった。


 俺もこれ以上ないほどスッキリしている。そうスッキリだ。


 なんとなくの体感だが、あのサキュバスのお姉さん達との戦いでなら、今日の戦いは後半に突入した段階で勝利したように感じる。


 俺もまだ戦えると感じてはいるが、あの時はそこからが長かった。


 強くなっている実感は得られたが、同時にまだまだ敵わないとも悟る。


「あっ!」


 自分の実力を確認し、冷静になると同時に背筋に冷たい物が走る。


 ヤバい。昨日俺は何をした?


 五人のケモミミ美女を引き連れ、ゾロゾロと大通りを練り歩き、彼女達の案内と共にこの宿に突入した。


 迂闊としか言いようがない。


 閉じられている窓を少しだけ開け、隙間から表通りを確認する。


 うん。居るね、サキュバスのお姉さん。


 俺を探している節はあったし、あれだけ目立つ行動をしていたら俺の滞在場所がバレるのも当然だろう。


 自意識過剰の勘違いでなければ、目的は俺だ。


 つまり、下手に捕まると、ここから第二ラウンドが始まってしまう可能性がある。


 体調が万全でも酷い目に遭ったのに、日が登るまで大暴れした後の第二ラウンドは冗談抜きで命に関わる。


 真正面から説得すれば納得してくれる可能性はあるが、なんか完全復活するまで監禁されそうな気がしないでもない。


 ここは……逃げよう。


 魔法の鞄から紙とペンを取り出し、ベッドで寝ているケモミミ美女達に伝言を書き、重し代わりに金貨を人数分置く。


 金貨をチップにするのはやりすぎだけど、彼女達には全力で相手をしてもらったし、後悔をさせないと断言もした。なら金貨くらい許容範囲内だろう。


 あっ、宿代……は先に払ったな。でも、昼までにチェックアウトは無理っぽいし、延長のお金も置いておくか。よし、準備完了、逃げよう。


 部屋を出て廊下の窓から下を見ると、路地にもサキュバスのお姉さんが立っている。裏口からの逃亡は無理か。


 宿の従業員に頼んで脱出に協力してもらうのは……事情説明が難し過ぎるし、勘違いだった場合は恥ずかしくて死ぬ。


 窓から屋根伝いに……俺の身体能力なら行けそうだな。なんだか不倫現場から逃げ出す間男みたいで気分は良くないが、命の方が大切だしこの際しょうがない。


 石造りの建物なのが幸いして意外と手がかりになる部分も豊富にあるし、部屋も宿の最上階だから屋上までの距離も近い。これなら行けそうだ。


 少し怖いが窓枠に登り、慎重に手がかりを確認しながら体を持ち上げていく。


 意外と楽勝で屋上に到達できた。


 ロッククライミングは未経験だけど、迷宮で木登りや悪路を踏破していたからか、思うように体を動かすことができた。


 精霊におんぶにだっこだと思っていたけど、地味に経験も積み重ねていたらしい。嬉しい発見だが、こんな場面で再確認はしたくなかった。


 屋上に登り、人気がないことを確認して屋上から屋上へ飛び移る。


 見つかったら不法侵入で捕まりそうだが、サキュバスに発見されるのはもっと怖いしこのまま歓楽街から出てしまおう。


 出たら今日明日と身を潜めて、エルフの秘薬を使ってパワーアップを試みよう。戦うための備えは大切だ。成功したらサキュバスのお姉さん達を迎撃だな。




 ***




「うにゃ? あれ? 次郎が居ないにゃ?」


 ベッドの上に昨晩私達を買った男の姿がない。部屋の中を探すが、それでも姿が見つからない。


「……もしかしてやり逃げされた? みんな起きるにゃ! だらしない姿で股を開いている場合じゃないにゃ!」


 みんなはしたない。こんな商売をしているのだからしょうがない部分はあるが、乙女としての矜持は捨ててはいけないと思う。


「んもー。なによアーニャ、まだ体がだるいのだから静かにしてちょうだい」


「ソフィア、それどころじゃないにゃ。やり逃げにゃ。ただで体をむさぼられたにゃ」


 獣のように私達をもてあそんでおいてやり逃げなんて、絶対に許さない。まずは店に連絡して指名手配ね。


「え? 逃げた?」


 私の言葉にソフィアが飛び起き、その衝撃で他の子達も目を覚ます。


「そうにゃ。さっさと服を着て店に戻るにゃ。狩りの時間だにゃ!」


「あのー」


 みんなが焦って服を着ている中、ピピがのんびりした声をかけてくる。


 この子は悪い子ではないが、ウシの獣人だからかのんびりしている。普段は癒されるが、緊急事態では困る。


「どうしたのかにゃ? 急がないと逃げられるにゃ?」


「ここに書置きとお金が置いてあるよ? 先に帰らなければならなくなった。宿の延長料金とみんなへの代金を置いておくって、金貨が沢山」


 全員の視線が私に集中する。


「……ねえアーニャ。テーブルの上に目立つように置いてあるのに、なんで気がつかなかったの?」


 マロンの冷え冷えとした視線と口調が怖い。


「えーっと、人しか探していなかったからかにゃ?」


 仕方がないじゃない。逃げたと思ったんだもの。


「まったくもう。しっかりしてよね。あと語尾」


「ごめんだにゃ。あと語尾は無理。癖になっているにゃ」

 

 許された。あと、語尾は本気で無理。なぜだか分からないけど、凄くシックリきていつの間にか反射で付くようになってしまった。ある種の職業病だ。


「すごかった……」


 エメがポフンとベッドに倒れながら呟く。その言葉に気が抜けた私達もベッドに倒れるように崩れ落ちる。


「あはははは、たしかに凄かったわね」


 マロンが同意するように笑う。


「笑いごとじゃないにゃ。あれはバケモノにゃ。私達五人を相手にして、私達が負けるとか意味が分からないにゃ」


 本当に意味が分からない。お風呂に入るまではちょっと、いや、かなりエッチなボンボンなはずだったのに、途中から身体能力が高い獣人を軽々と翻弄するケダモノに変わった。


 次から次に私達をとっかえひっかえし、次郎は休むことなく動き続けた。休んだのはあまりにもグチャグチャになり過ぎてもう一度お風呂に入った時くらいだと思う。


「そうね。でも、金貨が置いてあるわよ。本当に何者なのかしら?」


 ソフィアの言うとおりだ。金貨一枚で私達を数日貸しきれる代金なのに、無造作にテーブルの上に放置して消える余裕。ただの金持ちとは思えない。


「もしかしたら貴族のお坊ちゃま?」


「貴族のお坊ちゃまはあんなにバケモノじゃない……わよね?」


 エメの疑問にマロンが答えるが自信なさげだ。


「んー。だれかお貴族様の相手をしたことがある?」


 ピピが核心に迫る質問をするが、全員が首を横に振る。


 私達が勤めるケモミミ達の饗宴は歴史ある店だが、貴族が通う店とはランクが違い、ある程度裕福な庶民がターゲットだ。


 お貴族様の相手をしたことがないのも当然だろう。その瞬間、私の脳裏に閃くものがあった。


「次郎が貴族様の可能性は高いにゃ! 貴族が無理矢理村娘を攫って行く話が多々あるのは、貴族が次郎みたいに性欲が強いからにゃ!」


 私の推測に皆が頷く。


 貴族は酷い人間が多いと聞いているが、それはたぶん強い性欲に精神を病んでしまったからだ。


 だからといって許される訳ではないが、下種な貴族が多いことには納得がいった。やはり貴族には注意を払わなければいけない。


「次からどうする?」


 ソフィアが悩ましげな表情で聞いてくる。次から次郎にどう対応するかということだろう。たしかに難しい問題だ。


「……次郎は金払いも良いし発散の方法も分かっているから、悪い貴族のように壊れることはないにゃ。指名されたら全力でスッキリさせてやればいいにゃ」


 指名されなくても見かけたら誘ってみてもいいかもしれない。一日で金貨が貰えるのは最高だ。


「それもそうね。激しかったけど乱暴ではなかったしアーニャの考えで良いと思うわ。さて、もう延長料金は発生しているのだから、出勤の時間までのんびりさせてもらいましょう。私はお風呂に入ってくるわ」


 お風呂。ソフィアは抜け目がないな。でも、せっかく最上級の部屋を自由に使えるのだから楽しまないのはもったいないわね。


 私も後でお風呂をもらいましょう。それまでもうひと眠り。


「なんでいつまで経っても出てこないのー!」


 表通りから変な叫びが聞こえてきたけど……まあいいにゃ。


4/11日、コミックブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第五十三話が更新されました。

チビッ子達の活躍と主人公の腹黒さが楽しい回になっておりますので、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] お互い満足行く結果になったようでよかったねw トラウマ植え付けられたサキュバスにもリベンジするみたいだし楽しみだわ
[良い点] 溜まりにたまった(600話分)への回答、なぜマリーと寝ないのかとか性欲ないんかとか精霊襲えないのか等 [一言] 逃げるとあった時、逃げるんか?裕太と思っただが逃げずに迎え撃つみたいで安心し…
[一言] 貴族の男性全員、 熱い風評被害wwwww
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