六百二十話 通常か個人か
前回に引き続き下ネタ回になります。
苦手な方はご注意願います。
希望と欲望を胸に歓楽街に向かう途中、自分がサキュバスのお姉さん方に想像以上のトラウマを抱えていることを知った。でも、それ以上にサキュバスのお姉さん方に愛されている? ことも知り少し、いや、かなり元気になる。そしてそのままケモミミ達の饗宴へ……。
「どうかしたのかにゃ?」
「……い、いえ、なんでもありません!」
いかん、本物のネコミミお姉さんの『にゃ』にちょっとだけ意識が持っていかれていた。
やっぱり本物は凄いな。
「にゃはは。元気いっぱいだにゃ! それで、お兄さんはお客さんということでいいんだにゃ?」
「はい。お客さんですにy……お客さんです」
ふぅー。危ない。注意していたはずなのに、つられて語尾に『にゃ』が付くところだった。にゃははって笑い方、卑怯だよね。可愛いしかありえないもん。
それにしても、なんでお客だと確認されたんだ? もしかして、俺ってエッチなお店に突撃するようなタイプに見えないのか?
「それならそんなところで立ち止まっていないで入ってくるにゃ」
あぁ、ネコミミお姉さんに魅了されて足が止まっていたのか。出入口で立ち止まっていたら、お客かどうか判断し辛いよね。
もしかして、俺って誠実そう? なんて誤解しなくて良かった。
お姉さんの言葉に従いカウンターに近づく。ふむ、格好はラフなTシャツタイプの布の服で、露出は控えめな感じだな。
シンプルな装いは悪くないが、大きさこそ正義では受付のお姉さんも素晴らしく正義をしていたことを思うと、こちらはそれほどでも……いや待て、ホットパンツだと!
近づいて初めて分かる驚き。
ピッチリとしたホットパンツからすらりと伸びる尻尾。そうかあえてのシンプルな装い。
華美に装うことも可能なはずだが、ケモミミ達の饗宴の最大の売りである獣人、そのケモミミとシッポの前では華美な装いすら邪魔だということか。
深い。
一瞬ガッカリしてしまった俺は、まだまだ未熟ということなのだろう。
謙虚な気持ちを忘れてはいけない。学ばせていただく心持で、この店に挑もう。
「それで、どのコースを御所望だにゃ?」
「コース?」
ケモミミのお姉さん達が脱いじゃう系のお店だと聞いていたが、コースがあるのか? 色々と調べはしたが、聞き込みくらいでは情報収集が足りなかったようだ。
「んにゃ、知らないのかにゃ?」
「はい。すみません」
「構わないにゃ。初めてなら知らなくて当然だにゃ。説明してあげるにゃ」
ネコミミお姉さんが優しい。……いや、店のシステムを説明するのは普通だな。
場の雰囲気に流されている気がする。
「これを見るにゃ」
ネコミミお姉さんが板を差し出す。通常饗宴コース、個人饗宴コース。個人饗宴コースは人数ごとに値段が上がっている。
それに両方とも飲食代も書かれていて、その料理やお酒にもランクがあるようだ。
そういえば饗宴って豪華な宴会みたいな感じだったな。なら飲み食いがシステムに含まれているのも分からなくはない。
通常コースはそれほど高くない。ちょっと高めのお店で飲み食いするくらいの料金だが、踊り付きと考えるとリーズナブルと言ってもいいだろう。
「通常饗宴コースはどんな感じなんですか?」
「広い宴会場で宴会にゃ。女の子が沢山踊っているから賑やかにゃ。気に入った女の子と一緒にご飯を食べてお酒を飲むにゃ。楽しいにゃ」
大きさこそ正義とは随分システムが違うようだ。でも、楽しそうではある。
「この、個人饗宴コースというのは?」
「個室にゃ。踊っている女の子達の中から、好みの女の子を選んで連れて行くにゃ。みんなお客さんの為に踊るにゃ。お大尽にゃ。料理やお酒が豪華なほどみんな喜ぶにゃ」
饗宴って、俺が開く側なんだな。まあ、女の子の飲食代を持つのも普通だし、それは構わない。
「なるほど……」
問題は通常饗宴コースか個人饗宴コースか。
通常で店の様子を見てみたい気持ちもある。だが、ベリル王国に遊びに来られる機会が少ないことを考えると、最初から全力投球が正解な気もする。
個室、個室か……。他人の目というか、他の男達の目を気にしなくてもいいのはポイントが高い。
でも、踊っている女の子を沢山みられるのは宴会場だろう。
悩ましい、とても悩ましい。
「えーっと、若いんだからあまり無理しない方がいいのにゃ。通常饗宴コースもとっても楽しいのにゃ。あとは口説けるかどうかにゃ」
悩む俺にネコミミお姉さんが優しくアドバイスをくれる。
口説けるかどうか。そうだった、脱いじゃう系のお店は最後まで確定しているわけじゃないんだった。
無論、向こうも商売なのだからナンパとは違い成功率は高い。大きさこそ正義でも問題なく最後まで行けた。
でも、確定じゃないのならば全力を尽くすべきだ。
長い時間苦難に耐えてきたのに、沢山のケモミミ達と出会い、その素晴らしい踊りを堪能した後に一人寝……ギャン泣きする自信がある。
「個人饗宴コース、人数は五人、料理とお酒も最高ランクでお願いします」
金なら有る!
五人は多すぎるかもしれないが、サキュバスのお姉さん六人にも耐えたんだ、万が一全員を口説けたとしても乗り越えられる。
まあ、サキュバスのお姉さん達と違って、複数でゴニョゴニョなんてハードルが高いだろうし、初日だから一人口説けるだけで十分だ。
「うにゃ! 大丈夫なのかにゃ? それだとかなり高いし、女の子達のチップとかも必要だにゃ?」
滅茶苦茶心配されている。まあ、心配しているのは本当に払えるかどうかだろうけど、無理な散財を心配してくれている様子もある。
日本人は若く見られるらしいし、二十代の頼りなさげな男が見栄を張っているように思われているのかもしれない。
見栄を張っているのは間違いないが無理はしていないんだけどね。金持ちオーラが欲しい。アクセサリーを減らし過ぎたか?
「問題ありません。先払いですよね?」
心配ないと分かってもらうために、さっくりと料金分の金貨を並べる。少し嫌らしいが、お財布の中にもまだまだお金が残っているのをアピールするのがポイントだ。
……料理とお酒が最高級で自分を含めて六人前だと思った以上に高いな。日本でだったら絶対に無理な金額だ。
というか、今でも普通にビビる。いつまで経っても性根は変わらないということだろう。
「うにゃ、お大尽だにゃ! じゃあ、案内するにゃ」
ちょっと驚いているネコミミお姉さんが可愛らしい。フリフリと揺れるシッポに導かれて店の奥に通される。
「ここから気に入った女の子を選ぶにゃ」
ネコミミお姉さんが案内してくれた場所は、饗宴が開かれている広間が一望できる二階席。
……思っていたイメージとは違ったし、思っていた以上に煌びやかだ。
いつのまにか俺の中で宴会というイメージが強くなり、温泉宿の畳敷きの大広間を想像していたが、実際は西洋のちょっとしたダンスホール的な雰囲気だ。
なるほど、饗宴というならこっちが正解だな。
そこにテーブルとご馳走が並び、中央でケモミミのお姉さん達が踊っている。
でも少し、いや、かなりの違和感が……踊りがダンスホールにマッチしていないし、大きさこそ正義のようにセクシー全開という訳でもない。
無論セクシーがない訳ではない、それと同時にミミとシッポを堪能しやすそうな単調な振り付け……ってこれパラパラ?
たしかディスコ全盛期に流行った踊りの……そういえばこの街の一流の仕立屋でもスーツが売っていたし、ところどころに地球の息吹を感じたことがある。
もしかしてこの国に関係があった異世界人って、昭和後期か平成前期あたりの人?
なぜにパラパラとツッコミたくもあるが、これはこれで悪くないという結論に落ち着いてしまう。
視線の向かう先が、現在、一番際どい格好をしているところに集中していしまうのはしょうがないよね。男の子だもん。
もっと近くで観たい。
でも、個室でパラパラを観るのか? それはそれで違和感が凄まじいな。この世界と地球の文化が変な風に混ざり合っているような気がする。
……難しいことを考えるのは止めて、まずは女の子を選ぼう。それが本来の目的だ。
えーと、何人かいる男達の隣で接待している女の子は選んじゃ駄目なんだよね?
むぅ、個室で踊ってくれるのだから露出が多い女の子ではなく、好みの女の子を探すべきなのだが、肌色に視線が集中して冷静に判断できない。
ここは探し方を変えて、まずはケモミミの種類から選択していこう。なんたってここはケモミミ達の饗宴なのだから。
ウサミミ、ネコミミ、イヌミミ、キツネミミ、クマミミ、ウシ、ウマ、トラ、ライオン、それ以外にも俺では判断が付かないケモミミも確認できた。
さすがケモミミを売りにしているお店だ、種類がとても豊富でドキドキする。この中から五人を選ぶのか? 国家試験並みの難問のような気がする。
メジャーなウサミミ、ネコミミ、イヌミミ、キツネミミは外せない。クマミミも意外とかわいい。
ウシミミとウマミミはちょっと特徴的だけど、これはこれで有りだ。トラミミ、ライオンミミはなんとなく迫力がある気もするが可愛さもある。
……というかケモミミだけで判断するのは無理だ。ケモミミ女性ということでドキドキするのであって、ケモミミだけでドキドキできるほど上級者ではない。
誘惑に負けず、しっかり幸せのために目を凝らそう。
やりきった。
なかなか大変だったが、一緒に遊んでもらうケモミミお姉さん達をリクエストできた。
選んだのはネコミミ、キツネミミ、クマミミ、ウシミミ、そしてタヌキミミのお姉さん。
タヌキミミは狸の獣人だと教えてもらうまで分からなかった。教えてもらってから見なおせばなんとなく分かったし、シッポを見れば教えてもらう前に気が付けた気もする。
結局俺の興味はミミやシッポよりも、女体にあるんだなと理解できた瞬間でもあった。
案内してくれたお姉さんに『大きなお胸が好きなんだにゃ』と言われた時はグウの音も出なかった。
ウシミミのお姉さんとか、それはそれは母性豊かで……。
「じゃあ部屋に移動するにゃ」
妄想の世界に突入する寸前に、ネコミミお姉さんの声で正気に戻る。
なんかやりきった気になっていたが、今からが本番、気を引き締めて全力で幸せを満喫しよう。
高いコースをお願いしただけあってか、案内された部屋はそれなりに広く、目利きに自信がない俺でもちょっとリッチだと感じられる部屋だった。
奥の特等席に座ると、次々と料理が運ばれてくる。
美味しそうではあるが目新しさは感じない。まあ、この国一番と言われるベリルの宝石でさえも料理に目新しさを感じなかったのだから、そう思うのもしょうがないだろう。
料理とお酒が運ばれ終わると、先程リクエストしたケモミミお姉さん達が部屋に入ってきた。
いよいよ、いよいよだ。
読んでくださってありがとうございます。




