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六百八話 水の大精霊

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 精霊樹の跡地の浄化は俺が思っていた以上にエルフの国にとって重大イベントだったらしく、国が空になるほどの盛り上がりになった。普通なら胃が痛くなりそうなプレッシャーだが、俺には大精霊が居るから平気だ。たぶん。




 長老が結界を開き離れた場所に移動したので、浄化作業に取り掛かることにする。遠目とはいえ、エルフの集団に見守られているからダラダラできない。


 シルフィに風で毒を防いでもらい、全員で結界の中に入る。


 まずは大精霊の召喚だな。


 ディーネ召喚。


「お姉ちゃんがきたわ……なにここ、お姉ちゃん嫌い」


 いつもポヤポヤなディーネの真顔はドリーの真顔よりも怖い。あと、エルフの集団の方からどよめきが聞こえる。


 さすがエルフ。しっかり大精霊の気配を感じ取っているようだ。


「ねえ裕太ちゃん、どういうこと?」


 真顔は止めてほしい。


「うん、ここを浄化するつもりなんだ。他の皆も召喚するから、詳しい説明はちょっと待ってくれ」


「わかったわー」


 浄化という言葉でディーネの雰囲気が少し良くなった。ちょっとホッとした。


 さて次だな。ノモス召喚。


「なんじゃ……ム……」


 ノモスを召喚すると、いつも通り悪態を吐こうとしたあとに毒の沼を見て口を閉じてしまった。まあ、ノモスは普段から不愛想だから、そこまで違和感はないな。


 次はイフ召喚。


「おう、久しぶりのお呼びだな。……チッ、けったくそ悪ぃな」


 ちょっとテンション高く登場したイフも、毒の沼を見て不機嫌に毒づく。でもまあノモスと一緒でイフの不機嫌も割と見慣れているから普通だ。


 イフにはあとで説明すると伝え、待っていてもらう。


 最後はヴィータ。正直、一番リアクションが怖い相手だ。


 ヴィータ召喚。


「…………」


 無言は止めて。ヴィータは言葉を話せるでしょ。とりあえず無言が怖いから、ドリーに説明してもらって時間を稼ごう。


「ドリー、説明をお願い」


「分かりました」


 ドリーに説明を丸投げし、エルフの集団の方を観察するとかなり騒ぎになっている。大精霊が六人居るのはエルフでもなかなか見ないのだろう。


 ちょっと面白い。



「裕太さん、説明は終わりました」 


 ジャレついてくるベル達やジーナ達と話しながら待機していると、ドリーがこちらに話しかけてきた。


「ドリーありがとう。みんな、そういう訳なんだけど、お願いできる?」


 みんなが断わるとは思っていないが、確認するのは大切だ。


「もちろんよー。お姉ちゃん、頑張るわー」


「ふん、当然じゃ」


「ああ、任せろ。ついでにこんなバカをやらかした奴を灰にしてやろうか?」


「うん、できる限り全力を尽くすよ」


 ディーネ、ノモス、イフ、ヴィータ、全員が協力を約束してくれる。予想はしていたが笑顔で請け負ってくれると嬉しい。


 イフが物騒なことを言っているが、それにはツッコまない。


 やらかした国は滅んだらしいから、たぶんすでに灰になっているはずだ。


「うん、じゃあ後はお任せします。俺にできることは協力するから言ってね」


 自分で言うのもなんだが、清々しいほどの丸投げだな。でも、俺が口出ししても良いことはないからしょうがないよね。


 あっ、エルフ達に見られているから、頑張っている演技は必要だな。


「分かりました。シルフィ、毒の沼を風で覆ってください」


 俺の丸投げに嫌な顔もせずに受け入れ、ドリーが指示を出し始めた。そういえばドリーがリーダー役なのは地味に珍しいな。


 精霊樹関連だから、気合が入っているのかもしれない。


「結界があるのに風で覆う必要があるの?」


「はい。この森の物はこの森に返しますので、搬出の為に結界を解くので必要です」


「ん。了解。……もう大丈夫よ」


「ありがとうございます。では結界を解きますね」


「え、ちょっと待って。許可もなく結界を解いちゃっていいの? というか解けるの?」


 スムーズに話が進んでいたので違和感を覚えなかったが、勝手にして大丈夫?


「精霊樹の張った結界ですから、私にでも解くことができますし、張り直すこともできますから問題はないと思いますが……すみません。人のことはよく分からないのですが、許可を取った方がいいのでしょうか?」


 同じものを簡単に張りなおせるから気にしなかったのか。


 ドリーは精霊樹と同じような力が使える……精霊樹の種を生み出せるのだから不思議な事ではないか。さすが森の大精霊といったところだな。


「あー、同じ結界を張れるのであれば問題はないと思うけど、いきなり結界が消えたらビックリするかもしれないし、許可をもらっておくよ。少し待ってね」


 ドリーに待ってもらい、ジーナに目を向ける。 


「ジーナ。悪いけど沼の結界を解く許可を長老からもらってきて。風で覆っているから毒が外に出ることがないのと、同じ結界を張りなおせることも伝えてね」


 俺が許可をもらいに行こうと思ったが、俺が行くとかなりの騒ぎになりそうなのでジーナにお願いする。


「分かった」


 ドリーの声は聞こえていないはずだが、ある程度状況を理解していたのか、素早く走って許可を取りに向かってくれるジーナ。


 あ、ジーナが長老達に囲まれた。


「ふふっ」


 隣に居たシルフィがいきなり笑いを漏らす。


「シルフィ、どうしたの?」


「んふ。おもしろいから裕太も聞いてみなさい」


 シルフィの言葉の後に、長老達の声が聞こえ始める。どうやら声を運んできてくれているようだ。


「あはは……」


 他人事なら笑えるけど、自分のことだと笑えないな。


 エルフ達が俺のことを精霊の申し子だとか天才精霊術師だとか意味の分からないことを言いながら褒めたたえていて、ジーナが凄まじく戸惑っている。


 シルフィ達の存在を感じているのだからそう思うのも分からなくもないが、精霊の申し子と言われるほど綺麗な生き方をしていない。


 ジーナも本来の俺の姿を知っているから、エルフ達の称賛に戸惑いしかないようだ。


 それにしても精霊の申し子か……欲望に正直に生きてきた自覚があるから、もち上げられるにしても凄腕精霊術師とか、大精霊術師とかの方が嬉しい。


 でも、大精霊術師ってなんか語呂が悪いな。大魔術師とか大魔導師とか、精霊術師でカッコいい呼び名はないのだろうか? 


 お、ジーナがしびれを切らして、長老から強引に許可をもぎとった。



「師匠。許可はもらったけど、酷い目に遭ったぞ」


 うん、知ってる。


「ありがとうジーナ。ドリー、OKだって」


 ジーナの酷い目に遭ったという部分には触れずにお礼だけ言う。でも、師匠が褒められまくったんだから、少しくらいは喜んでもいいと思うよ?


「裕太さん、ありがとうございます。では結界を解きます。……解けましたので、ディーネ、毒の水を分離して抜けるだけ抜いてください」


 どんなふうに結界が解かれるのかワクワクしていたのだが、いつの間にか結界が解かれていた。


「分かったわー。でも完璧に水分を抜いちゃうと、カラカラになっちゃうわよ?」


「はい。それで構いません」


 構わないんだ。かなり巨大な沼なんだけどな。


「了解。いくわよー」


 ディーネが天に掲げるように両手を上げると、毒の沼がざわりと波うった。


 ポヨンポヨンポヨン。


 毒の沼からポヨンとしか言いようがない雰囲気で、ムーンくらいの大きさの数えきれないほどの水の球が浮かび上がっていく。


 水の球の大きさを除けば、雨の光景が逆再生されているような不思議な光景。


 それにしても黒という色を侮辱するようなどす黒い沼から生まれた水の球なのに、驚くほど透明度が高い水の玉が浮かんでいる。


 すべての不純物が取り除かれたただの水だと分かってはいるが、日の光を反射し煌めく無数の水の球にはどこか神々しさすら感じる。


 


「終わったわよー」


 ディーネののほほんとした声でハッと正気に戻る。完璧に見とれていた。


 煌めく水の球がゆっくりと上昇し一ヶ所に集まって巨大な水の玉になる光景は、新たなる星の誕生を想像させ、ディーネはまさしく水の女神と……駄目だ、なんか思考が厨二になっている気がする。


 ……スーハー。冷静になれ、思考を落ち着けろ。


 たしかに今のディーネは神々しさすら感じるがディーネだ。水の大精霊であるディーネが凄いのは認めるが、女神と表現する現在の思考は危険水域だ。


 あれはディーネ、あれはディーネ、あれはディーネ……よし、たぶん落ち着いた。


「ドリーちゃん、これからどうすればいいのー?」


「上の水は森に撒いても問題がない水ですか?」


「もちろんよー。飲んでも大丈夫な水よー」


 マジか。飲めるってことは空気中に漂う毒素も完璧に排除しているってことだよな。飲みたくはないけど、普通にすごいなディーネ。


「では、その水で森を潤してあげてください。沼の西側が若干水分が不足していますのでちょうどいいです」


「はーい」


 のんびりしたディーネの返事と共に、惑星の誕生なんてバカな想像をするほど巨大な水の玉が弾ける。


「ふわー」


「ふおぉぉぉ」「キュー」「すごい」「クゥ!」「やるな!」「……」


「精霊術って凄いんだな」


「はい、本当にすごいです」


「キッカ。みた、すごいな!」


「うん!」


 水の惑星が弾けるさまを見て、ふわーって言ってしまった。


 ベル達のリアクションとほとんど同じって……ジーナ達の方がまだまともなリアクションをしているぞ。


 少し反省しながら弾けた水の行方を追うと、ドリーの要望通り沼の西側のかなりの広範囲に水が雨のように降り注いでいく。


「あっ、虹だ!」


 マルコが叫んだとおり、水が落ちた森の向こうにクッキリと虹の橋が架かった。


 雨の後の虹、少しベタな気もするが悪くない。


 精霊樹の跡地の復活を森が祝福してくれているかのような……いかんな、まだ思考がロマンチック気味な気がする。ディーネの力を見て、中学二年生くらいの心が暴れて困る。


「次はノモスですね。結界内の土壌と汚染物質を分離してください」


 俺が虹を見つめ余韻に浸っている間に、サクッと次の指示を出すドリー。


 今回のドリーは本気だ。


 普段なら周囲の空気を完璧に把握して俺達に配慮してくれるのに、見向きもせずに浄化にまっしぐらだ。本気で森を汚す毒に怒っている。


 この調子なら、毒の沼は完璧に浄化されるだろう。ノモスはどんなパフォーマンスを見せてくれるのかな? ワクワクが止まらない。 


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の内心でディーネが卑称に成ってて(´^ω^`)ブフォwww
[気になる点] 恥ずかしがり屋のノモスならきっと地味〜にやると思う。 けど一面の毒の土?を分離するならやはり大掛かりになるかな?
[一言] あけおめです ドリーの指示の中の『毒の水を分離して〜』が、毒水を抜き出すような意味に見えたので『毒から〜』のほうが分かりやすいと思いました
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