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六百五話 勝者は!

 琥珀探しということでベル達には宝探しゲームを提案した。自分ではベル達が琥珀を楽しみながら探し、それをみんなで比べあって楽しむ未来を想像していたのだが……なぜか俺の目の前には琥珀一つ、化石一つ、石が四つ並んでいる。なぜだ? いや、原因は分かっているのだけども……。




 さて、どうしたものか。


 琥珀一つ、化石一つ、石が四つ。この六つの中から一番を決めなければいけない。


 この難題をどう解決するかとノモスを見ると、いつの間にか姿が消えている。探すと遠くで地形を確認するようなふりをしているノモスが見えた。


 巻き込まれないように逃げたな。無神経っぽい見た目の酒好きなのに、こういう時は勘が鋭いらしい。


 シルフィは……ムーンの背後で、私はムーンの味方よって顔をしている。巻き込もうとしても無理だな。


 ドリーは……駄目だ、俺には巻き込めない。シルフィやディーネやノモスはなんとなく巻き込めるんだけど、ドリーは巻き込んだらいけない気がする。


 ……しょうがない。自分で判断するか。


 まあ一番は文句なしで琥珀を持ってきたトゥルなのだけど、問題は他の子達だ。全員自分が一番に選ばれるという疑いのない眼で俺を見つめているのが辛い。


 全員が琥珀を持ってきてくれていたら、大きさや色や輝きを目の前で比べて分かりやすく一番を決められた。


 でも、こうもバラバラというか半分以上が石だと逆に一番を決めるのが難しい。


 この状況で琥珀を持ってきたトゥルを一番に決めたら、俺の方が空気が読めていない気がする。


 ……いっそのこと、全員が一番! という玉虫色の判決を下すか?


 全員が一等賞な運動会をテレビで見て、これで良いの? と思ったことがあったが、優劣をつける立場になると非常に楽なことに気がついた。平和って素晴らしい。 


 ……駄目だな。


 宝探しゲームは何回か繰り返すって伝えてあるから、ここで軌道修正しておかないと後が辛いし、全員が一番を何度も繰り返すのは冷める。


 よし、ちょっと空気が読めていなくとも、ここは真っ当にトゥルを一番にして軌道修正しよう。


「それでは結果を発表します!」


 ベル達の期待のこもった視線が俺に集中する。とても心が痛い。


「一番は琥珀を持ってきたトゥル!」


 勢いで発表したが、一番に選ばれたトゥルが一番驚いている。周りがほとんど石で、自分だけ琥珀だったから不安になっていたからだろう。なんかごめんね。


「とぅるすごいー」「キュキュー」「クゥ!」「なかなかやるな!」「……」


「あ、ありがと」


 ショックを受けるかと思っていたベル達が、トゥルに集まって祝福する。


 ヤバい、うちの子達が良い子すぎてちょっと泣きそう。ちょっと照れた様子でお礼を言うトゥルも可愛い。



「はい、言っておくことがあるからちょっと注目してね」


 ベル達のワチャワチャをしっかり愛でた後に、手を叩いて注目を集める。


「えー。トゥルが一番になった理由ですが、今日は琥珀を探しにきたからです」


 トゥル以外のメンバーが、そういえばそうだった、という驚愕の顔をする。ムーンは顔は分からないけど、過去一で振動しているから驚いているのだと思う。


「そういう訳で、今日の目的は琥珀だということを踏まえて宝探しをお願いします。では、宝探し開始!」


「こはくさがすー」「キュキュー」「がんばる」「クゥクー」「つぎはかつぜ」「……」


 俺の合図とともにベル達が飛び出していく。軌道修正にも成功したし、次からは問題なく琥珀を探してきてくれるだろう。 




 ***




「えー、精霊樹の種を完成させるための琥珀を発見したのは、キッカです。拍手ー」


 俺の言葉にジーナ達も精霊達もキッカに向かって拍手や祝福の言葉を送るが、キッカに聞こえているのはジーナ達の言葉と拍手だけだろう。


 でも、精霊達が祝福しているのは気配で察しているだろうし、キッカも嬉しそうだ。


 で、今回の琥珀探しのキッカの勝因は、素直さと周囲の優しさだろう。


 ベル達の琥珀探しは質よりも面白さを求めた物だったから、精霊樹の種には使用できない物が多かった。


 ベルとムーンは形が面白い物、レインは琥珀の中に水分が閉じ込められている物。トゥルは最初に勝利したからか他の子達のフォローに自主的に回り、タマモは植物関連が内包されている物。


 みんな分かりやすいくらいに自分好みの琥珀を探すことに熱中していたので、順位付けは珍しい物で選べば問題なかった。


 ジーナ達の琥珀探しは、これも微妙な結果に終わる。


 サラはキッカが琥珀を見つけて喜んでいるのを見て、キッカの為に分かりやすいのを避けていた。


 マルコは、走り回ってお宝探しに夢中だったけど、ちょっとテンションが上がり過ぎていてウリの能力を十全に生かしきれていなかった。


 その結果、素直にノモスの心遣いを受け取ったキッカの勝利。


 ノモスがツンデレで精霊樹の種に使える琥珀を分かりやすく表面に放置していたので、キッカの勝利は最初から決まっていたように思える。


「師匠ー。なあシバが骨ばっかり発見するのは犬だからか? シバは火の精霊じゃないのか?」


 キッカの勝利について分析していると、ションボリした顔のジーナが質問してきた。


 ジーナは今回の探索でゴブリンを手始めに、ウルフ系の魔物の化石やオークの化石、魔物以外にも兎や鹿やイノシシ等の化石。形が丸々残っている物だけではなく、頭蓋骨だけ等バリエーション様々に発見した。


 ションボリしてしまうのも分からなくはない。


「う、うん、どうだろう? シバが火の浮遊精霊であることは間違いないのだけれど……シルフィ、どうなの?」


「元になった生物の習性に引っ張られることもあるけど、それほど強制力はないわ。たぶんだけど、ゴブリンの化石を見つけたのが嬉しくて、似たような物を探すのに夢中になったのね」


 シルフィの言葉をそのまま伝えると、ジーナが少し遠い目をして頷いた。シバも浮遊精霊だしベル達以上に子供だから、こういうこともあるのだろう。


「ジーナ。楽園に戻ったら、シバと一緒に物探しの訓練をしようか」


 警察犬の訓練のような高度な訓練方法は分からないが、訓練すればある程度はなんとかなるだろう……たぶん。


「……そうだな。せめて骨ばかり探さないように頑張るよ」


 ジーナが力なく頷いたが、これも精霊術師として必要な訓練になるのだろうか? 精霊術師って奥が深いな。


「うん、頑張ろうね。さて、じゃあそろそろ楽園に戻ろうか。シルフィ、お願い」


 楽園で一泊して、明日にはまたエルフの国か。なかなか忙しいな。




 ***




「ただいま、戻りました」


 琥珀探しが終わって二日後、俺達はエルフの国に戻ってきた。


 帰還が一日遅れたのは、ベル達が探し出したお宝を楽園に遊びに来た精霊達に自慢したり、ベル達の部屋に飾るのに時間がかかったからだ。


 ちなみにベル達が発見したお宝の中で、遊びに来た精霊達に人気だったのは石だった。


 精霊達の嗜好が俺にはよく分からない。


 ん? 長老とエレオノラさんが暗い顔をしている。俺がいない間に、何かあったのだろうか?


「お帰りなさいませ。……やはり精霊樹の実の入手は難しかったのでしょうか?」


 エレオノラさんが泣きそうな顔をしているので気が気じゃないが、なんでそんな判断になるのかが分からない。


「精霊樹の実も根も琥珀もちゃんと手に入れてきましたよ?」


 長老とエレオノラさんの前に持ってきた物を並べると、二人とも目を見開いて固まってしまった。



「なるほど、そういうことですか」


 固まった後に急激にテンションが上がった二人を落ち着かせて話を聞くと、先程の状況はお互いの認識の違いと俺の言葉不足によるものだった。


 俺は根と実と琥珀を手に入れてきますと長老達に伝えて国を出た。


 その際にエルハートさん達に同行を願われたが、楽園に連れて行くのは嫌なので同行も護衛もお断りした。


 大精霊と契約している俺の言葉は重いようで、長老もエレオノラさんも素直に従う。


 結果的に俺達が飛んでいったことも知らない。


 森を出たか出ていないかの時間経過での俺達の帰還に、何か問題が起きて素材が手に入らなかったと判断したらしい。


 もしかしなくても、俺、なにかやっちゃいました? を素で実行してしまったようだ。


 俺が思うに、俺、なにかやっちゃいました? は、素で自分が何をしたのか気がつかない天然系か、コッソリなにをやったのか自覚しつつもしらばっくれて他人の驚きを楽しめる人向けのイベントだと思う。


 俺は……分かっていて驚かせるのは好きだが、うっかり、俺、なにかやっちゃいました? を発動してしまうと恥ずかしくなるタイプのようだ。


 普通に恥ずかしい。


「あの……」


 内心で悶絶している俺に、長老が不安そうに話しかけてきた。


「どうかしましたか?」


 何? 俺、またなにかやっちゃいました? を発動したの? これ以上は俺の精神が持たないから、できれば止めてほしい。


「今更なのですが、これは精霊樹の実なのでしょうか? 私が知っている精霊樹の実とは違うのですが……」


 ……あれだけ大喜びした後に言われると、たしかに今更感があるが気持ちは分からなくもない。巨大なサクランボだもんね。


「これは精霊樹の実であることは間違いありませんが、不安になるのも理解できます。誰か鑑定のできる方を呼んで、鑑定してください」


 言葉で証明するのも難しいし面倒臭い。それに向こうから鑑定を要求するのも気まずいだろうから、こっちから申し出てサクッと不安を取り払ってしまおう。


 エレオノラさんが素早く立ち上がり部屋を出て行った。鑑定士を呼びに行ったのだろう。


「あっ、それとですね、種の完成のために枯れてしまった精霊樹があった場所に行きたいのですが、案内をお願いできますか?」


 ドリーに話を聞いたところ、普通に精霊樹の種を生み出したりただ未完成の種を完成させたりするだけなら、別に精霊樹が存在した場所に行く必要はないらしい。


 ただ今回の場合は精霊樹の思念体が未完成の種に眠っている。


 ドリー曰く、かなりレアなケースらしいので、枯れた精霊樹が存在した場所で環境の補助を受けながら種を完成させたいらしい。


 詳しい説明を受けてもよく分からなかったが、おそらく種も生まれた場所の方が落ち着いていい結果が出るということだと思う。


「……場所は分かるのですが、その、精霊樹があった場所は汚染されています」


 俺の言葉に長老が暗い表情で教えてくれる。


 ……あとは種を完成させて、精霊樹が生まれ変わってハッピーエンドだと思っていたが、まだ簡単には終わらないようだ。


 俺はいつになったらエルフの国の観光と、ベリル王国の夜を満喫できるんだ?


本日12/13日。コミックブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の49話が公開されました。

裕太の迷宮での冒険とタマモの活躍、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 毒の浄化となると、誰が担当だろう? やはり人間の毒を浄化できたヴィータかな?
[一言] お? やっちゃった系ですね! というか、やらかした毒がポインズンドラゴンの毒液な気がするんだよなぁ。 大精霊クラスで協力して毒の浄化か封じ込めをするという意味ではその場所に行っておかない…
[一言] ああ、なるほど。汚染を除去して共倒れじゃなくて除去しきれなくて種も未完のまま力尽きたのか。
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