六百三話 精霊樹の果実と根
エルフの長老たちとの話し合いの後、精霊樹の果実と根と琥珀の対価になる品物があるか確認したが、親子鏡というちょっと不便だが通信できる魔道具を紹介され、それに決定することにした。エルフの秘薬もたくさん貰える予定だし、しっかり頑張ろうと思う。
「いい、サクラ。ここは心配ないと思うけど、万が一土地に悪い物ができても、自分で吸い取ったら駄目だからね。最初に俺、もしくは大精霊達に相談すること。きっとなんとかしてくれるからね。分かった?」
「あい!」
俺の注意に元気いっぱいに返事をした後、ぐりぐりと頭を俺の胸に押し付けて遊ぶサクラ。
可愛らしいけど本当に分かってくれているのだろうか? 凄く心配になる。
「裕太。ここは聖域なんだから、あなたが心配しているようなことは起こらないわ。安心しなさい」
そんな俺にシルフィが呆れたように声をかけてくる。まあ大丈夫なのは俺も分かってはいるんだけどね。
聖域の中なのだから精霊も力を使うことができる。だから万が一土に何かが起こったとしても対処してくれると信じてはいる。でも……。
「分かっているんだけど、心配になるんだよね」
枯れて生み出されずに途中で力尽きてしまった種を見たからか、もしサクラがそんな目に遭ったらと思うと、普通に泣きそうな気持になる。
「無駄な心配よ。それよりも本来の目的を果たしなさい」
シルフィにスッパリ無駄だと切り捨てられてしまった。まあエルフの国にやられたことを楽園にされてもあっさり解決できるだろうから、本当に無駄な心配なのだろう。
ふぅ、わざわざエルフの国から超特急で楽園に戻ってきたんだし、言われた通り本来の目的を果たすか。
「分かったよシルフィ。えーっと、サクラ、精霊樹の果実と根を分けてほしいんだけど、お願いできるかな?」
「う? ……あい!」
サクラにお願いすると、最初に不思議そうな顔をした後、ふんすとやる気満々な様子で返事をしてくれた。
サクラがむーっと力むと同時に地面からゴゴゴっと音が聞こえてくる。おそらく先に根の方を用意しようとしてくれているのだろう。
少し経つと、予想通りボコンと太い根が地面から飛び出してきた。
「えーっと……どうすればいいのかな?」
太い根がこんにちはとばかりにピョコピョコ動いているが、これを切れと? 今更だけど目の前の根がサクラの一部だと思うと、傷つけるのを非常に躊躇ってしまう。
「ふふ、では私が。これくらいあれば十分ですね」
俺が戸惑っていることに気づいたドリーが根に手を添えると、一メートル程の根がポロリとトカゲのしっぽのように外れた。
そしてなにやらつぶやくとニョキっと元通りに根が伸びてきた。さすが森の大精霊、アフターフォローも万全なようだ。
根が再び地面の下に潜ると、今度はサクラが精霊樹に沿うように上に向かって飛んでいく。
飛び出す前にちょっと待っていてといった感じのジェスチャーをしていたから、たぶんここで待っていればいいのだろう。
とりあえず切り離した根を魔法の鞄に収納しておこう。
みんなと話しながら待っていると、サクラが大きなサクランボを抱えながらフラフラと飛んできた。
即座にフォローしに行くベル達の優しさが微笑ましいが、サクランボの大きさが凄まじい。サクラの頭と同じくらいの大きさだよね。
でもまあ精霊樹の大きさを考えると、妥当なサイズなのかもしれない。
あとサクラの花が満開なのに、なんで実が生っているの? という疑問は……無粋なんだろうな。
落とさないかとハラハラしながら見守っていると、ベル達にフォローされながら俺の前にたどり着き『あい!』と自慢げに精霊樹の実を手渡してくれるサクラ。
ありがとうとお礼を言って果実を受け取りナデナデしながら褒めまくると、ベル達も参戦してサクラをみんなで褒めまくった。
テンションが上がったベル達とサクラが、キャッキャとはしゃぎながら団子状になりプカプカと騒ぎながら流されていく。
たぶん途中から何をしていたのか忘れて、ただただ戯れるのに夢中になっているだけだな。
それにしても赤ん坊の頭クラスのサクランボか。迷宮の宝箱からでた精霊樹の果実とあまりにも姿が違うけど、長老たちはこれが精霊樹の果実と信じてくれるだろうか?
……まあ、これだけ巨大なサクランボだし、普通の果実じゃないことくらいは理解してくれるよね。
それにしてもこの巨大サクランボ、とっても美味しそうだ。マルコとキッカも凝視しているし、目に毒だからさっさと魔法の鞄にしまってしまおう。
精霊樹の果実……サクラに頼めば食べ放題も可能な気がするが、価値を考えるとさすがに駄目だよね?
さて、これで楽園に戻ってきた目的の半分は済んだ。あとは……。
「シルフィ、悪いけどノモスを呼んでくれる?」
召喚すれば簡単なんだけど、同じ楽園内だと呼ぶのが正しいのか召喚するのが正しいのか迷ってしまう。
まあ、迎えに行くのはなしだけどね。醸造所に行くと不安になるもん。
「了解。今呼んだわ」
「ありがとう」
こう言ったら失礼かもしれないけど、シルフィって凄く便利だよね。近場なら親子鏡どころかスマホよりも便利な気がする。
「儂は忙しいんじゃが、何か用か?」
ノモスが現れ忙しいアピールをしてくるが、基本的に四六時中お酒を造っているので忙しくない時間がないだろとはツッコまない。無駄だから。
「自然と共に長い年月を過ごした、大きくて質が高い琥珀が必要なんだけど、どこにあるか知らない? あっ、人の手が入っていない場所でお願い」
琥珀の産出地で勝手に採掘したら犯罪だよね。
「琥珀か。あれは儂と若干領分が違うぞ?」
ギロっとノモスが俺を見るが、そんな分かりやすい脅しにはのらない。醸造所から離れたくないだけだろう。
「琥珀は植物の樹脂の化石ってことくらいは知っているよ。でも、埋まっているのは土の中だよね?」
琥珀を作りたいんじゃなくて、琥珀を採掘したいんだからノモスの領分だ。
「むぅ、しょうがないのう。古代の琥珀となると……あそこが良いじゃろう。シルフィ、死の大地の西で、かなり昔に山崩れに飲み込まれた谷に森があったのを覚えておるか?」
「え? どうだったかしら?」
「私が覚えています。ですがノモス、あそこも死の大地の一部です。汚されているのではないですか?」
シルフィが首をひねっている横で、ドリーが知っていると答えた。森の大精霊だから森については詳しいよね。
でも精霊樹の思念体に関係しているんだから、汚されているのはヤバいだろう。というか、何に汚されているの? 死の大地を拠点にしている自分としては、聞くのが地味に怖いんですけど?
「心配いらん。元々谷だった場所を山が崩れ蓋をし、そこから更に長い年月をかけて地層が積み重なっておる。裕太が掘った井戸よりも深い場所だ。汚されてはおらん。そして長い年月を大地に包まれておるんじゃから、裕太の条件にはピッタリじゃろう」
……俺が掘った、今は楽園の水源となっている井戸は、自分でも驚くくらい深くまで掘ったのだけど……それよりも深いのか。
あと、死の大地が生まれたのもかなり昔のはずなんだけど、それよりも更に昔の話なの?
それってどれくらい昔の話なんだろうね。万、いや億……想像もできないな。
まあ、ノモスがピッタリだというのなら大丈夫だろう。
「じゃあそこに行こうか。ノモス、案内をお願いね」
「……しょうがないのう」
醸造所から離れるのが嫌なのか少し躊躇ったが、最終的には納得してくれるノモス。
ぶっちゃけ、忙しいとか面倒臭そうな雰囲気を出すのって、テレ隠しだよね。そういう性格だから仕方がないとは思うけど、ノモスのツンデレって需要がないと思う。
まあ良いけどね。
「じゃあ出発しようか。シルフィ、お願い」
さて、望み通りの琥珀、見つかるかな?
***
ノモスに案内されて目的の場所に到着したが、見事になんにもない。まあ死の大地だからしょうがないけど、楽園周辺と同じく乾いた土と岩山しか視界に入らないからあまり移動した気がしないな。
「ここじゃな。それで、条件に合う琥珀を掘り出せばいいのか?」
ノモスがサクッと用事を終わらせようと、効率的な提案をしてくる。でも、それならわざわざジーナ達を一緒に連れてこない。
「いや、面倒で悪いけど、琥珀が眠っている地層まで広い範囲で掘り返してくれ。ノモスならできるよね?」
「ん? 可能じゃがなんでそんなことをするんじゃ?」
「どうせならみんなで琥珀探しをしようと思うんだ」
どのみち今日中にエルフの国に戻れないし、翡翠拾いとか砂金の採取体験とか化石掘りとか、子供の頃はとても楽しかった覚えがある。
いい機会だし、ジーナ達やベル達にもそんな体験を積ませてあげたい。
「ふん、物好きじゃな、まあ良いじゃろう」
チビッ子達の遊びと気づいたのか、ノモスが割と素直に俺の提案に頷いてくれる。ツンデレだな。
そしてノモスは間違いなく琥珀が発見しやすいように地面を掘り返してくれるだろう。
楽しい琥珀採掘になりそうだ。
「離れておれ」
ノモスの指示に従いジーナ達を連れてノモスの後ろに移動すると、精霊樹の根が地中からせり出してきた時とは比べ物にならないほどの大きな音が地面から響き始めた。
目の前で地面が抉れ土が盛り上がり大量の土が移動しているのに、こちらには振動すら感じない。
ベル達は大はしゃぎで、ジーナ達はあまりの光景にポカンとしている。これはこれで面白い。
「ふむ、これでよかろう」
「あ、ありがとうノモス」
仕事を終えたノモスになんとかお礼を言うが、ちょっと張り切り過ぎじゃないだろうか?
深い場所にあると聞いていたから大掛かりになると思っていたが、ドーム何個分ですかと聞きたくなるくらい広い面積を掘り返されるとは思わなかった。
しかも足がすくむくらい深く掘られているので、移動した土砂で山ができている。
普通なら自然破壊だと怒られそうなレベルだけど、死の大地は元々死んでいるから問題はないよね。
むしろ健康な地層が表に出てきたことになるから、割と自然に良いのかも?
読んでくださってありがとうございます。




