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六百話 精霊樹の種

本日の更新で、『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の六百話を迎えることができました。


読者の皆様に頂いた感想、レビュー、アドバイス、評価、ブックマーク、誤字報告、とても励みになりました。


本当にありがとうございます。


それと、事前に六百話のお祝いのお言葉も沢山頂きました。こちらも本当にありがとうございます。


更新を続けますので、今後ともよろしくお願いいたします。


 エルフの国に到着し、驚くくらい好意的に歓迎された。あまりの好感度の高さに逆に怖くなってしまったが、好感度の矛先が大精霊に向いているのが分かり落ち着くことができた。そして招かれたのは巨木に建てられた神社のような雰囲気の建物。いよいよ依頼内容が判明する……。




 と思っていたけど、普通に客室に案内されて、お疲れでしょうからと話し合いは翌日に持ち越された。


 まあ考えてみれば当たり前のことだ。宿泊場所があったにせよ、三日間森の中を旅してきた相手に休憩もさせずに仕事の話はしないよね。緊急でない限り。


 昨日の夕食と今日の朝食は長老とエルハートさんと一緒に摂った。


 食事の内容は可もなく不可もなく、迷宮都市の食事よりかは落ちるといった感じだった。


 素材は新鮮そのもので高品質だと感じたが、やはり調味料と料理方法の差が大きいのだろう。少しだけ残念に思ってしまった。


 でも、肉が出てきたのは地味に嬉しかった。エルフだから菜食主義の可能性を考えていたが、普通に肉料理が出てきて長老もエルハートさんも普通に食べていた。


 ここにいる間は食事に招かれることも多いだろうし、肉が提供されるのは素直にありがたい。


 ……さて、そろそろ時間だな。


 食後の休憩も終わり、いよいよ依頼内容が明かされるはずだ。


 ……難しくないといいなー。


 準備をしていると、タイミングよくドアがノックされた。許可を出すと部屋に入ってきたのは、エルハートさんと付き添いの五人。


「裕太様、準備は大丈夫ですか?」


「はい大丈夫です」


 さて、行くか。


「じゃあ師匠、頑張って。あたし達は観光してくるけど、何かあったら呼んでくれよな」


 ジーナ達が楽しげに手を振る。


 そう、彼女達は観光に出かける。エルフ側との話し合いに連れて行っても良かったけど、弟子達がエルフの国に興味津々な様子だったから観光させることにした。


 依頼の内容次第では、観光する時間も取れないかもしれないし、堅苦しくなりそうな話し合いに連れて行くのも可哀想だからだ。


 でも、正直俺も観光に行きたい。


「……うん、楽しんできてね。でも、エルフの皆さんに迷惑はかけないこと」


 俺も一緒に行くという言葉を師匠としての見栄で押し止め、師匠らしく注意をする俺、偉いと思う。


「お弟子様方のことはお任せください」


 エルハートさんの付き添いの五人が笑顔で申し出てくれる。ぐふっ、とても顔が良い。


「はい、よろしくお願いします」  


 彼らならこの国に来る旅の間もお世話になったから、任せても大丈夫だ。笑顔でダメージをくらうけどね。


 先に観光にいくジーナ達&ベル達を見送り、俺、シルフィ、ドリーもエルハートさんと一緒に部屋を出る。ちょっとだけ緊張してきた。




 ***




「裕太様、わざわざ足を運んでくださり、本当にありがとうございます」


「……あ、い、いえ、いい依頼を受けると決めたのは俺なので、ききき気にしないでください」


 ヤバい、噛みまくっている。畜生、こんなところで罠にかけられるとは、エルフの愛想がいいから油断していた。


 落ち着け落ち着くんだ俺、これ以上無様を晒すことは俺自身が許さん。


 ……ふー、少し落ち着いた……か?


 エルハートさんに案内されて部屋に入ると、長老の隣にもう一人居た。


 大歓迎されて落ち着いたつもりでもエルフの国の雰囲気に呑まれていたのか、迂闊なことに俺は大切なことに気がついていなかった。


 そう、エルフの美女だ。


 入国の時には意識して視線を逸らしたが、その後は晩餐の時にも朝食の時にもエルフの女性とは顔を合わせていなかった。


 まさかこのタイミングで顔を合わせるとは。


 というか、なんで昨日も今朝も食事の時にエルフの女性が居なかったんだろう? 今更気がついた俺が言うのもなんだけど、晩餐の席で紹介しても良いはずだよね?


 やはり話し合いの主導権を握るための罠として、エルフの美女を隠していたのか?


 ち、エルフは手強い交渉相手のようだ、気を引き締めなければ……。


「裕太様、この者は精霊樹の巫女の家系の娘で、エレオノラと申します」


「エレオノラと申します。裕太様、よろしくお願いいたします」


「ひゃ……コホン、はい、よろしくお願いします」


 やべー、巫女さんが来ちゃった。まあ言語理解の翻訳だから、エルフ側での言葉では違うのだろうが、巫女のような家系のエルフだということは間違いないだろう。緋袴をはいてほしい。


 それにしても美人だ。


 シルフィ達で美人にはある程度慣れているはずなのだが、やはりエルフはジャンルが違うな。


 まあ、精霊もジャンルが違うんだけど、というか世界全てが俺とジャンルが違うんだけど……異世界って凄いね。


 美しくサラサラで輝くような金髪ストレート。


 細くシャープな顔立ちと透き通る透明感がある白い肌。 


 涼やかな目元と長いまつげ。


 スッと通った鼻筋。


 薄いのに艶めかしく思える唇。


 それらが黄金比とはこういうものだと実感させるように、完璧に配置されている。


 あれ? エルハートさんの時も同じことを思わなかったか?


 でも、今回は女性だ。それだけですべてが許される。



「それで本題なのですが、エレオノラ、お見せしなさい」


 へ? ヤバい、エルフの巫女というパワーワードに押されて、話を聞いていなかった。長老が何かを言っていたのはなんとなく理解しているが、もう本題なの?


 いや、本題はこれからなんだから、リカバリーは可能だよな。情けないところを見せないようにしないと。


「はい」


 エレオノラさんが長老の言葉に頷き、隣に置いていた箱をテーブルの上に載せる。


 エルフの趣味なのか、技巧は凝らされているが木の素地も生かされていて素朴さを感じる。


「裕太様、こちらが精霊樹の種です。この種の発芽をお願いいたします」


 エレオノラさんが精霊樹の種を見せながら言う。


 ここまでは冒険者ギルドで聞いた内容と変わらない。でも、おかしな部分がある。


 ドリーからもらった精霊樹の種は赤ちゃんの握りこぶしくらいの大きさだった。でも、布が敷かれ大切に納められていた精霊樹の種は、ソフトボールくらいの大きさがある。


 ……形は似ているが、本当に精霊樹の種なのか?


「沢山の精霊術師の力をお借りしました。皆さん優秀な精霊術師で、中には長老様と同じく偉大なる精霊様と同格の植物の精霊と契約している方も居ました。ですが、誰も精霊樹の種を育てることができませんでした」


 エレオノラさんが心底悲しそうな表情で話す。たぶん藁をも掴む心境なんだろうな。


 力になりたいとは思うけど、判断するのは俺ではなくドリーなんだよね。そこが少し情けない。


「近くで拝見しても構いませんか?」


「はい、よろしくお願いいたします」


 長老とエレオノラさんの許可を取り、ドリーが確認しやすいように箱を近くに引き寄せる。


 さて、ドリーはどんな判断を下すのだろう? 長老の精霊と同格の精霊が無理だったってことは、上級精霊でも無理だったってことになるよね。


 できればエレオノラさんを笑顔にしてあげたいが、結構不安だ。  


「これは……なかなか難しいことになっていますね。なるほど、これでは上級精霊や大精霊でも手が出せないでしょう。契約していないのであればなおさらです」


 種を見ていたドリーが、顔をしかめる。どういうこと? 難しいってことは不可能ではないということだよね?


「裕太さん、この種は精霊樹の種として完成していません。おそらく種を生み出す途中で精霊樹が力尽きてしまったのでしょう」


 ドリーが俺の言葉を待たずに続けてくれる。エルフの前で精霊と会話していいか判断がつかなかったので、事前にドリーに好きに話すように頼んでおいたからだ。


 準備の良い自分を褒めたいところだが、いきなり凄くシリアスな話をぶち込まれた気がする。


 不謹慎な例えになるかもしれないけど、出産で母子ともに……ということだよね?


 じゃあ無理じゃないかな?


 エルフの国にやってきて大歓迎されて依頼失敗って……申し訳ない上になんだかとっても恥ずかしいのだけど……。


 あっ、ドリーに新しく精霊樹の種を生み出してもらえばいいんじゃ? 


「ですが、良いこともあります。種が完成できなかったことで、前の精霊樹の思念体がこの種に宿り眠っています。上手くすれば前の記憶を引き継いだ精霊樹が生まれるかもしれません」


 話の風向きが変わった。精霊樹の思念体ってサクラのような存在のことだよね。


 そうなると諦めて新しい種をってことは心情的に難しい。


 でも記憶の引継ぎか。種を生み出すと精霊樹は枯れると聞いた。だから精霊樹と種は別人というか別の存在になるはずなんだけど、というか記憶の引継ぎは良いことなの?


 ……あれ? 前世の記憶を持っているって、日本に居た頃にラノベでよく見たパターンなような……いや、あれは異世界転生で、世界のギャップを利用する感じだし、同世界での転生なら違うか。


 ふぅ、少しホッとした。俺の場合は転移っぽいのだけど、一瞬ライバルを自分の手で生み出すのかと焦ってしまった。


「裕太様、ダメなのでしょうか」


 俺の焦りを悪い風にとらえてしまったのか、エレオノラさんが暗い表情で質問してくる。ちょっと悪いことをしてしまったな。


「いえ、まだ分かりません。申し訳ありませんが、もう少しお待ちください」


「……はい、よろしくお願いいたします」


 そんなに懇願するような顔でお願いされたら、プレッシャーが凄いです。ドリー、なんとかできるよね、お願い!


「裕太さん。この子を蘇らせるには、必要な物がいくつかあります」


 俺の願いが届いたのか、ドリーが続きを説明してくれる。必要な物か、俺で揃えられるものなら助かるんだけど、あっ、迷宮のコアにお願いすれば大抵のものが揃えられる気がする。


 これならなんとかなるかな?


「まずヴィータさんの協力が必要です」


 ヴィータか。命の大精霊だし、力になってくれそうだよね。


「続いて精霊樹の素材、果実、葉、枝、根、この精霊樹の物があれば一番良いのですが、サクラの物でも代用は可能です」


 果実、葉、枝はサクラからもらって魔法の鞄の中に入っているけど、根っこはもらってないな。


 エルフの国に根っこが残っていなかったら、楽園に取りに行かないといけない。でもまあ、揃えられない物でなかっただけマシだな。


「最後にこの子を宿す宝石。……魔石でもなんとかなるかもしれませんが、できれば琥珀の方が良いでしょう。それも大きく質が高い物で、長い時を自然と共に過ごした天然の物が最適です」


 最後の最後で難しそうな素材が要求されてしまった。


 琥珀なら財宝の中にもあるし、コアにも生み出してもらえそうだけど、条件が厳しい。


 コアに生み出してもらうのは天然じゃなさそうだし、長く自然と共に過ごしていないからたぶんダメだろう。


 財宝の中の琥珀は、どうなんだ? 加工してあるし、自然と共にという部分が微妙だ。あとでドリーに確認してもらう必要がある。


 それで駄目だったら……天然で大きくて質が高い琥珀を一から探さないといけないってことになる。


 ……琥珀の探し方は知らないけれど、とっても大変な気がする。ノモスの力を借りれば、なんとかなるだろうか?


本日11/08日、コミックブースト様にて、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第48話が更新されました。優秀な添乗員さんと、可愛らしいベル達の活躍をお楽しみいただけましたら幸いです。


よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 600話おめでとうございます。 観光といえば地図! ベル達の観光マップどんなものができるか楽しみです(笑)
[一言] まさかの展開かな? 大精霊でも手が出せないとは。 精霊樹が死んだ原因が気になる所。種ができてから枯れたのではなく種を作ってる途中で枯れたってのはかなり意味深な気がする。 まずはその原因を…
[一言] 600話おめでとうございます! 応援してますので引き続き更新お願いします!
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