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五百九十八話 エルフの国、到着

 エルフの国の商隊が到着し、その責任者と会うことができた。とてつもない美貌の持ち主の男で心を折られかけたが、シルフィとドリーの存在でなんとか心を立て直し、対等の立場で話し合うことができた。さて、明日にはエルフの国に出発だ。どうなるんだろう?




 朝、エルハートさんと合流するために冒険者ギルドに向かう。


「な、なあ師匠。昨日師匠から話は聞いていたけど、大袈裟じゃなかったんだな」


 ジーナが少し遠い目をしながら俺に話しかけてくる。遠い目をしている原因は、冒険者ギルドの前に待機している集団だろう。


「うん。凄いでしょ。でもあれだよ、俺が会ったのは一人だから、目の前の光景は予想以上だよ」


 昨日、エルハートさんとの打ち合わせが終わった後、宿に戻って全力でエルフの凄まじさをジーナ達に説明した。


 ジーナは年頃の女性だしサラとキッカも幼くても女の子だ。事前知識なくあれを見たらどうなるか分からないと考えたからだ。


 でも、予想していたのに予想しきれていなかった部分が一つあった。


 護衛として四人増えると事前に聞いてはいた。全部で五人のエルフとか、たぶん目に優しくない光景なんだろうと考えてもいた。


 でも教えてほしい、どこの少女漫画の世界ですか?


 もしこのメンバーがホストクラブをやっていたら、破産者続出で社会問題になると思う。


 宿まで迎えに来てくれるって言われたけど、断わって良かった。宿から出て心の準備をせずにこの集団を見ていたら、楽園に逃げ帰っていた可能性がある。


 あっ、こっちに気がついた。


 近づき辛くていつの間にか足が止まっていたが、気づかれてしまったなら先に進むしかないだろう。


「裕太様、おはようございます」


「……おはようございますエルハートさん」


 朝の挨拶の後に、簡単な自己紹介が始まった。まずは俺が弟子達を紹介し、エルハートさんが初対面のエルフ達を紹介してくれる。


「なあ師匠、みんなキラキラしてるな」


 自己紹介が終わると、マルコが不思議そうに聞いてくる。まだ子供だし、嫉妬の感情もなく純粋にエルフ達を評価できるのだろう。


 俺なんか、エルフ達の満面の笑顔の自己紹介で、精神が焼き尽くされて倒れそうだ。


 なんだよ、美形で声も綺麗で愛想も良いとか、最強かよ。


 しかも、サラやキッカまで綺麗だねと、エルフ達をみて喜んでいるし……お父さんは許しませんよ。


 だいたい、エルハートさんもエルハートさんだ。五人も居るのなら一人くらい女性が居てもいいのではないですか?


 サービス精神が足りな過ぎると思います。


「では、そろそろ出発しましょう。昨日話した通り、申し訳ありませんが徒歩になります」


 そうか出発するのか。このメンバーで……。


「……はい。準備はしてきているので、大丈夫です」


 エルハートさんの言葉に返事をして歩きはじめる。


 昨日話を聞いた時は徒歩と聞いて驚いた。貿易だし国の主催なのだから馬車で送迎なんだろうと思っていたのだが、道がないらしい。


 エルフの国はいくつか魔法の鞄を所持しており、それを利用して貿易しているのだそうだ。


 道を作らないと不便じゃないのかと聞いたが、エルフには必要ありませんからと言われた。


 その時のエルハートさんの表情で俺は覚った。たぶん、道を作ったら変な輩が押しかけてくるから嫌なんだろうと。


 美貌が極まっている種族には、というか美貌が極まっている種族だからこそ、色々あるのだろうと俺も覚った。


 そんな話を思い出しながら歩くが、会話がほとんどない上に続かないから気まずい。


 俺とジーナとサラはエルフの美貌に気後れしているし、キッカは人見知りが発動してしまった。


 マルコが普通に話しかけて会話が起きることもあるが、エルフ側もシルフィとドリーが気になるのか口数が少ない。


 ……気まずい。


 まあ、ジーナがアイドルに熱狂するファンみたいにならなかったのは良かった。


 こっそりとジーナにエルフはどうだと聞いてみたところ、ちょっと美形すぎて逆に怖い。下町にはあんなの存在しなかったという返答だった。


 実家がスラムに近いし、おそらく幼いころから見てきた人と違い過ぎて恐怖を覚えたのだろう。気持ちはとてもよく分かる。


 俺もエルフの女性を見たらそうなるんだろうか?


 そんなことを考えていると、気まずい雰囲気のまま森に到着してしまった。


「では、森に入ります。歩きやすい場所を進みますが、足元にはお気を付けください。それと、魔物や獣の心配はないのでご安心ください」


「分かりました。よろしくお願いします」


 エルハートさんの言葉に返事をするが、少し疑問を覚える。これだけ立派な森なのに、魔物や獣の心配がないってどういうこと?


「うわー、空気が違う」


 森に入ると疑問も気まずい雰囲気のことも忘れ、感嘆の声を上げてしまう。


 楽園も聖域になった影響か清浄な空気を感じるんだけど、この森はそれとも違う心地良さを感じる。


 濃い森の匂いと言えばいいのだろうか?


 この世界に来ていくつも森に入ったけど、そのどれよりも違いをはっきり感じる。


 生えている木も太く生き生きとしていて、そしてそこかしこに精霊が飛び回っている。


「はは、気に入って頂けたようで嬉しいです。我々もこの空気に包まれると、我が家に帰ってきたような気持ちになるのですよ」


「この空気を感じると、エルハートさんの気持ちも分かります」


 海外旅行をしていて日本の空港に降り立った時のような安心を感じるのだろう。


「ゆーた。あそびにいっていい?」「キューー」「たんけん」「クゥ!」「ぼうけんだぜ!」「……」


 故郷の空気を思い出していると、ベル達がワクワクした様子で群がってきた。


 そういえば森で遊びたがっていたのに、俺の用事を優先して森に連れてきてなかったな。


 まあ、ベル達が迷子になることはないし、ただ森を歩くだけだから遊ばせておくか。


 コクンと頷くと、ベル達はキャッホーといった様子で飛び去って行った。たぶん、戻ってきたら色々と森で発見したことを教えてくれるだろう。


「あの、裕太様」


 ベル達の話す内容を頑張って理解するぞと気合を入れていると、エルハートさんがおそるおそるといった様子で話しかけてきた。


「どうかしましたか?」


「いえ、裕太様の傍に存在していた沢山の精霊が離れていったので、何があったのかと……」


 そういえばエルハートさんや他のエルフ達もシルフィとドリーの存在を感じ取っていたよね。そうなると、ベル達の存在を認識していて当然だろう。


 ちょっと迂闊だったな。


「えーっと……森が珍しかったんですかね?」


 遊びに行ったと説明しようとして、エルフの精霊術がどんなスタイルか知らないので言葉を濁す。


「は、はあ、そうなのですか……」


 俺の曖昧な言葉に曖昧な返事をくれるエルハートさん。契約精霊は術者の傍になんたらと呟いているので、離れていく契約精霊は珍しいのかもしれない。


 ん? そういえばエルハートさん達は精霊の存在を感じ取っているし、精霊術師なんだよな? 契約精霊は?


 そう思ってエルハートさんの周囲を確認すると、エルハートさんの傍に小さくて可愛らしい鹿が……たぶんエルハートさんの契約精霊だな。


 幼さから少しだけ脱却した姿なので、中級精霊クラスかもしれない。


 中級精霊って結構凄いはずなのに、エルフの顔面にやられてまったく気がついていなかった。他のエルフ達も確認すると、それぞれ近くに可愛らしい精霊が寄り添っていた。


 ふむ、他のエルフ達の契約精霊は、見た感じ下級精霊くらいの子達だな。


 冒険者ギルドの講習では浮遊精霊との契約がほとんどだったし、やはりエルフは人間よりも精霊術師に向いているのだろう。


 それにしても、ベル達ならすぐにエルフ達の契約精霊と遊びそうなものなのに……もしかして、俺達がエルフの美貌に押されているのを感じ取って、遠慮していたのかな?


 ふむ、まあ、エルフの精霊に対する印象を覆しそうだけど、ベル達に我慢させるのは可哀想だし、帰ってきたら自由に遊んでいいと伝えておこう。


 それにフクちゃん達も遊びにいきたそうだな。今は伝えられないけど、後で遊びに行く許可を出すようにジーナ達に教えておこう。


 それにしても、シルフィ達のおかげで少しは冷静に立ち回れていると思っていたが、実際にはあまり余裕がなかったようだ。


 せっかく珍しい森に足を踏み入れているんだから、エルフの美貌(男)に惑わされずに楽しむようにしよう。




 ***




 森に入って三日。俺達はエルフの国に到着した。


 豪華ではなかったが森の中には点々と休憩地点が設けられており、野宿することもなく魔物に襲われることもなく旅ができた。


 というか、なんの波乱もなく豊かな自然の中を歩き、綺麗な泉や森の植物を愛でるといったハイキングをしている気分になるのんびりした旅。


 流石に疑問に思ってシルフィに聞くと、俺達を囲むようにエルフが配置されていて、こちらに危害が加わらないように、安全に旅ができるように警備のエルフが守ってくれていたらしい。


 ここまでVIP待遇だと、どんな仕事を任されるのか分からずに怖くなる。


 そしてエルフの美貌に関しては、ジーナが対策を編み出してくれたので、なんとか普通に接することができるようになった。


 対策はシンプルで、顔を見ない。見るのはアゴ。


 アゴに集中していれば少し視線に違和感を持たれるかもしれないが、全体を見ないので惑わされることもない。


 そのおかげで、アゴ細すぎだよね、あれで固い物を噛めるのかと疑問に思うくらいで済むようになった。


 まあ、それはそれとして……エルフの国、凄い。


 この森は奥に進むにつれて木がドンドン大きくなっていった。


 ドリーが言うには精霊樹を中心に生まれた森なので、中心に近づくほど古い時代に生まれた木で、しかも精霊樹のおかげで健やかに生長できるから大きな木になるのだそうだ。


 二日目あたりから屋久杉のような大きさの木が普通になり、三日目になるとテレビで見た世界最大クラスの木々が普通に生えている状態になった。


 そんな中心部に近い場所に居を構えるエルフ達の国。


 森に道すら作らないエルフなので、国だからと木を切ることもしないらしい。結果、みんな大好きツリーハウスということになったのだろう。


 俺がサクラの枝の上に建てたなんちゃってツリーハウスとは違い、巨大な木に一体化するように建てられた沢山のツリーハウス。


 木々の間に渡された吊り橋、これぞ異世界と言わんばかりのロマンあふれる光景だ。


 遠目なので詳しくは分からないが地面にもいくつか建物があり、どうやら地面の建物は店が中心になっているらしい。なんとなくだけど商品が並んでいるように見える。


 ヤバい、早く観光したい。


 このロマンあふれる光景を前に、俺だけではなくベル達もジーナ達もソワソワしている。


 なのになんで待機なんですかエルハートさん。そして、エルフが集まっているように見えるのがとっても気になるんですけど?


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >木を切ることもしないらしい。 間伐みたいなこともしないのかな? 食事とかどうしてるんだろ
[気になる点] ドリーに頼めばもっと短時間で森を進めるんじゃないかな。 進行方向の木にどいてもらうとか。
[一言] エルフの美女で溜まりにたまるんじゃなかろうか
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