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五百九十四話 ギルドマスターの話

 迷宮都市に到着し、トルクさんとの料理談義、メルの工房の現状確認、マリーさんの雑貨屋での各種商売、迷宮のコアへの餌付け等の細々とした用事を片付けた。元々の予定ではこれからジーナ達を迷宮に派遣し、ベル達を楽園に戻して遊びに行くつもりだったのだが、冒険者ギルドに顔を出すことになった。できれば面倒事は勘弁してほしい。




 冒険者ギルドと約束した三日が経過した。


 自分で約束したのだから行かない選択肢はないのだが、職員室に呼び出された時のような気の重さを感じる。


 ……ふう、行くか。


 仮病とか迷宮都市から脱出とか色々と考えたけど、そちらの方が面倒な事になりそうだから覚悟を決めて宿を出る。


「なあ師匠。師匠の用事にあたし達が関係なかったら、あたし達はそのまま迷宮に潜るんだよな?」


 冒険者ギルドに向かって歩いていると、ジーナが予定の確認をしてきた。事前にある程度パターンを決めてあるから、単なる確認だろう。


「うん、俺一人で済むことであればジーナ達は迷宮だね」


 本来であればメルの工房に顔を出した後、ジーナ達はいつでも迷宮に潜れる準備は整っていたのだが、俺の都合で待ってもらっていた。


 俺が面倒ごとに巻き込まれている間に、ジーナ達がアサルトドラゴンを倒して帰ってきたら、計画に大幅な変更が求められてしまうからだ。


 遊びに行くのを諦めるつもりはないのでいざとなったら大幅な変更も受け入れるが、手間はできるだけ少ない方が良い。


 時間がかかりそうな案件なら、ジーナ達を無理矢理にでも巻き込んでアサルトドラゴンの討伐を先延ばしにする覚悟だ。


 ジーナ達は俺の悪辣な企みにも気づかず、真剣でありながらもワクワクした様子で迷宮の攻略について話し合っている。


 このまままっすぐに成長してほしい。


 いつもなら楽しそうに飛び回りながら遊んでいるベル達は、要人を警護しているボディーガードのように周囲を真剣な眼差しで見まわしている。


 マップ作製の為に、周囲の状況を頭の中に叩き込んでいるのだろう。この様子なら楽園に送還しても数日は時間を稼げそうだが、こちらも送還するのは冒険者ギルドでの用事次第だ。




「裕太様、お待ちしておりました」


 冒険者ギルドに入ると、すぐさまリシュリーさんから声をかけられる。訪問時間はあやふやだったはずなのだが、まさか待ち構えられていたのだろうか?


 気合が入り過ぎだろう、話を聞くのが更に憂鬱になってきた。


「えーっと……ありがとうございます?」


 なんで俺がお礼を言っているのか分からないが、なぜかお礼を言ってしまった。待っていてくれたからか?


「いえ、ではご案内いたします」


 スッと頭を下げて動き出すリシュリーさん。さすが有能秘書だな、質問の隙すら与えてもらえない。


 向かうのは当然のごとくギルドマスターの部屋がある方向。


 当初のようにギルドの広場で衆目に晒されながらというほど関係は悪くないが、今回ばかりはみんなに見守られながら話を聞きたい気分だ。


 この雰囲気は絶対に五十層の突破とか、精霊術師講習の話じゃないな。


「ギルドマスター。裕太様がいらっしゃいました」


「お通しして」


 リシュリーさんがノックをし、ギルドマスターの許可をもらって俺達を中にいざなう。


 普段から礼儀正しい人達だけど、今日はビジネスですよといった雰囲気で堅苦しく感じる。俺に何をさせるつもりなんだろう?


 対面のソファーに案内され、俺だけが座らされる。ジーナ達は少し離れた場所にあるソファーに案内され、リシュリーさんからお仕事のお話だから少しだけ待っていてねと隔離された。


 弟子と引き離されてとても心細いが、俺にはシルフィが一緒だから大丈夫だ。絶対に負けない。


 すぐに別のギルド職員が入ってきて、お茶とお茶菓子を並べてくれる。短時間で俺だけじゃなくてジーナ達の分もきっちりそろっているところを見るに、事前に準備していたのだろう。


「……それで、俺に何か用事ですか?」


 お茶に手を付ける気分ではなかったので、ギルドマスターに話を促す。


「……では単刀直入に、裕太殿に依頼がきています」


 お茶に手を付けようとしていたギルドマスターが、俺の催促に手を止めて話し始めた。


「依頼ですか? 俺が冒険者ギルドで依頼を受けていないことは理解していますよね? それを踏まえて、冒険者ギルドのギルドマスターが俺を呼び出すほどの依頼なのですか?」


 普通の依頼なら俺との関係を慎重に築こうとしている冒険者ギルドが勝手に断わるだろう。


 それなのに俺にまで話を通そうとしてきた。嫌な予感しかしない。


「はい。というのも精霊術師である裕太殿にまったく関係ない話ではないからです」


「どういうことですか?」


 精霊術師についての話なら、ちょっと事情が変わってくる。逃げるのではなく真剣に話を聞こう。


「依頼元はエルフの国。まあ国と言っても人を寄せ付けず隠れ里のような場所なのですが、そこから裕太殿に依頼が入りました」


 エルフの国。ファンタジーの王道が向こうからやってきた。そういえば迷宮都市で歩いている時にエルフっぽい冒険者は見かけたことがあるけど、エルフと直接絡んだことはなかったな。


 エルフが存在する世界で生活して、エルフに注意を払わないとか迂闊にもほどがあるぞ俺。


「依頼の内容は、精霊樹の発芽だそうです」


 ふむ、精霊樹が関係しているのは分かった。


 ラノベとかでエルフ達が大切にしている世界樹とか精霊樹がピンチになって、それを救ってエルフの美女達から感謝されまくるのは、ある意味王道と言っていいイベントだ。


 でも発芽? 


 ピンチを救うのではないのですか?


「すみません、話が見えません。種を植えて水をあげればいいのでは?」


 植物の基本だと思うんだけど、精霊樹は発芽に特殊な条件でもあるのだろうか?


「詳しくは機密ということで教えてもらえませんでしたが、どうやら植物を操る優秀な精霊術師が必要なようです」


「エルフになら優秀な精霊術師が居ますよね?」


 エルフと言ったら弓と精霊のイメージだけど、この世界では違うのか?


「はい。エルフには優秀な精霊術師が多いと聞きます。ですが、それでも発芽が無理だったのでしょう」


 まあ自分達で解決できるなら自分達で解決するか。さっきギルドマスターも人を寄せ付けないって言っていたし、深い事情がありそうだ。


「でも……そもそもなんで俺なんです?」


 そこが分からない。迷宮都市やこの国なら割と有名だけど、人を寄せ付けないエルフの国にまで名が轟いているのか?


 もしベリル王国にも俺の名が轟いていたら、夜遊びがし辛くなるからものすごく嫌だぞ。


 あっ、でもあの国からこの国の王様に問い合わせが来ていた気が……あの国は今更だしノーカンということにしておこう。


 スラムの顔役から接待されるくらいだから手遅れだよね。


「裕太殿が私の前のギルドマスターともめた時に、ギルドを植物で埋め尽くしましたよね? どうやらその情報がエルフの冒険者に繋がり、国にまで話が届いたようです」


 ああ、あの時か。ドリーに頼んで棘がある植物で埋め尽くしてもらったな。あの噂が届いたのなら優秀だと認められてもおかしくはないよな。大精霊の仕業なんだし。


「それで、依頼ということはエルフの国に行くということでしょうか?」


 エルフの国、興味がないことはない。というか興味津々だ。でも、エルフの国に行ったらベリル王国に遊びに行くのが遅くなる。


 エルフの国か夜の歓楽街か、とても悩ましい問題だ。


「はい。報酬についても、財宝やエルフの秘薬を提示されています」


「エルフの秘薬ですか? どんな効果が?」


 なんだかとても興味がそそられるアイテム名だ。


「様々な薬草に精通するエルフの秘薬にはいくつか種類がありますが、その中でも一番貴重な精霊樹の素材を使用した秘薬が成功報酬で提示されています。どんな傷も死んでいなければ治るという、冒険者にとって垂涎の秘薬です。これは貴重な物なので成功報酬になりますが、失敗したとしても財宝と他の秘薬は支払うとのことです」


 あれ? ギルドマスターは凄いでしょと言った様子で説明しているが、一気に魅力が薄れたな。


 精霊樹は楽園に生えているから、秘薬よりも効果が高そうな精霊樹の実も手に入るし、なによりヴィータが居るからその秘薬は必要ない。


「……他の秘薬はどのような効果なんですか?」


「他ですか? エルフの秘薬は様々な種類がありますからすべては分かりませんが、有名どころで、様々な病気の特効薬や老化防止、各種身体能力を強化する物があります。エルフの薬草に関する知識は素晴らしいので効果は保証できます」


 病気もヴィータが居るからあまり魅力的ではないな。身体能力を強化するのも、精霊と開拓ツールがチートなのでぶっちゃけたいした意味はない。


 興味があるとすれば老化防止くらいか。


 ……ん? 各種身体能力を強化?


 もしかして精力剤なんかもあったりするんではなかろうか?


 俺のファンタジー知識、基本的にラノベや漫画だけど、エルフは性欲が薄いみたいな表現が多くて、それで子孫を残すために精力剤にも力を入れている……そんな文献を読んだことがある。


 俺もまだまだ若いから精力剤が必要かと言えば否と答えるが、サキュバスのこともあるから歓楽街を遊びつくすと考えれば是非とも手に入れておきたい秘薬だ。


 あとは実際に精力剤が存在するのかが重要だな。


 ラノベの知識を鵜呑みにして恥をかくのは勘弁してほしいから、ギルドマスターに質問したいのだけど……無理だよね。


 シルフィやベル達、そしてジーナ達の前で、エルフの秘薬に精力剤はあるんですか? なんて堂々と質問できるほど恥は捨てていない。


 エルフに直接質問……無理だ。エルフの女性には聞けないし、男相手でもものすごい美男子っぽいエルフの男に、精力剤はありますか? なんて質問は俺が惨めすぎる。


 ……これは賭けになるな。


 エルフの秘薬のリストを作ってもらって、その中に精力剤があればシレっと選択する。そういう姑息な希望に縋ることになりそうだ。


 ……だがそれも一興。


 ベリル王国に行く前に凄いと噂のエルフの秘薬(精力剤)が手に入るというなら、賭ける価値は十分にある。


 むしろ、漢ならば全力で挑む賭けだろう。


 よし、さっそく承諾の返事を…………いや、報酬に釣られて迂闊に承諾するのはダメだな。


 返事をする前にドリーを召喚して、色々と話を聞いておきたい。発芽と精霊の関係が分からないもん。


 成功して一番いい秘薬を貰うんじゃなくて、色々な種類の秘薬を要求するためには情報が必要だ。


 成功したらコッソリ精力剤を多めにもらえないかな?


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
むっつり加減が生々しくて身近な感じなんだよなw 自分がオープンスケベだから親近感は湧かないけど、なんか「いるよなこういう人ー」って感じになるw
[一言] 赤い髭の薬師なら気兼ねなく聞けるのにな ユータが最初に飛ばされた地点から東に進めばソッチ方面の良い薬局がありそうな気がするw
[一言] >むしろ、漢ならば全力で挑む賭けだろう。 ユウタ、のんびり主人公だが、やはり過酷な異世界で 鍛えられて居るのだな、 そう漢は時にそれなりの賭けに挑む瞬間が来るのだ、 ( ゜∀゜)←
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