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五百八十九話 パワーアップイベント

 開拓村から帰還し、穏やかでほのぼのとした日常が戻ってくる、俺はそう信じていた。だが、開拓村での出来事が、結果的に俺の欲望に火をつけてしまっていた。だから俺は動き出す、この欲望を満たすために……。




「アサルトドラゴン? 迷宮の最前線……ではなくなったけど、ファイアードラゴンの次に危険だと言われている魔物だぞ。それをあたし達に倒せって言うのか?」


 開拓村から帰還して数日、俺は目標に向かって着々と準備を進めている。


「うん、ジーナ達もレベルが上がったし、シバ達との連携もしっかり取れるようになった。そろそろアサルトドラゴンに挑戦してもいいと思うんだ」


 これは俺の欲望の為だけの身勝手ではなく、事実としてジーナ達はそのレベルに達している。そうでなければさすがに別の方法を考える。


「うーん、大丈夫なのか? 師匠はアッサリ先に進んじゃったから分からないかもしれないけど、師匠が来るまで、アサルトドラゴンを倒せれば一流の仲間入りって扱いの魔物だったんだぞ?」


 うーむ、気が強いタイプのジーナでも、さすがにドラゴン討伐は不安なようだ。まあ、迷宮都市でも一流の冒険者が挑戦する領域なら、不安になるのも無理はない。当然の反応だ。


 むしろ……。


「師匠、おれたち、ドラゴンにちょうせんするのか!」


 むしろ、朝食そっちのけでアサルトドラゴン討伐に大興奮なマルコの方が問題だろう。


「マルコ、ちゃんと座って食べなさい。あと、口に物が入っている時にはしゃべらない。いいね?」


「おにいちゃん、きたない」


 あっ、キッカに汚いって言われてマルコが撃沈した。口の中の物を飛ばしていたから仕方がないが、可愛い妹から汚いって言われたらヘコムよね。あとでフォローしておこう。


「今のジーナ達の実力を考えると、これから頑張ればアサルトドラゴンを倒せるところまで力は付いているから大丈夫だよ。それにディーネとドリーに付き添ってもらうから、万が一の危険もないよ」


 俺だって自分の欲望の為に弟子の命を危険に晒すつもりはない。帰ってきてからしっかりリサーチした。


 シルフィだけではなく他の大精霊達にも質問し、入念に可否を検討した結果だからほぼ間違いなく安全だ。


 そこにディーネとドリーまで護衛に付けるのだから、過保護と言ってもいいレベルに安全だろう。


「でもシバ達の力だとアサルトドラゴンには通用しないんじゃないのか? 師匠が前にそんなことを言っていただろ?」


 ジーナが隣でご飯に夢中なシバを優しく撫でながら質問してくる。しょうがないことだけど、自分の契約精霊の力を疑う発言をするのが辛いのだろう。


 そして、その質問も間違ってはいない。


 ベル達の力がファイアードラゴンに通用しないように、格や力の限界は存在する。浮遊精霊のシバ達ならなおさらだ。


「そうだね、今のままなら通用しない」


 でもシルフィ達が言うには、浮遊精霊クラスでもアサルトドラゴン程度ならなんとかなるのだそうだ。精霊って存在自体がチートだと思う。


「ではお師匠様、何か方法があるんですね?」


 フクちゃんとプルちゃんの面倒で忙しくしていたサラも会話に加わってきた。マルコもキッカの視線も俺に集まったし、みんな興味津々なようだ。


 まあ、会話の流れで丸分かりだよね。そう、ゲームで言うところのパワーアップイベントと言うやつだ。


「当然あるよ。朝食後、訓練を開始するから食べ終わったら公園に集合するように」


「なんかすごそうだ! おれ、絶対負けない! がんばる!」


「キッカも!」


 おおう、みんなかっ込むように朝食を食べ始めた。マルコとキッカは分かるけど、ジーナとサラもパワーアップイベントに興味津々なんだね。


 ……みんなやる気に満ち溢れている様子だけど、それほどたいしたことをする訳じゃないんだよね。


 やる気が空回りしないかが、少しだけ心配だ。




 ***




「じゃあまず何をするのかを説明するね。といってもやることは単純だから安心してくれ」


 だからそんなに期待した目で見ないで。

  

「えーっと、みんな契約した時に自分と契約した精霊と魔力の繋がりができたのを知っているよね。それでそこからみんなの魔力が契約した精霊に流れていく。契約精霊はその魔力を普段から貯蓄し、精霊術等に利用する。ここまでは分かるね?」


「「はい!」」


 うん、みんな良い返事だ。


 よく考えたら、久しぶりに師匠っぽいことをしている気がする。みんなの期待の視線に困惑していたけど、師匠の威厳を示すいい機会かもしれない。


 ここはいっちょ気合を入れて師匠面することにしよう。


「精霊は個人で一度に使える魔力の上限があるんだ」


 いわゆるリミッターというやつなのだが、この上限がなければ長い時間を掛けて魔力を貯蓄し、一撃にすべてを込めれば浮遊精霊でもファイアードラゴンですら倒せる可能性もある。


 でもまあ、世の中そんなに都合よくはいかない。下級精霊でも無理な出力を浮遊精霊が行使しようとすれば、扱いきれずに自滅、下手をしたら消滅まであり得るのだそうだ。


 とはいえ、その上限にはかなり安全マージンが取られている。今回のパワーアップイベントは、その安全マージンを削って出力を上げるという試みだ。


 普通に考えたら危険な行為なのだが、ここで精霊術師の出番となる。


「今回やることは、精霊が術を行使する時に、術者が繋がったラインから魔力を送り込み、その上限を突破させることだね」 


 車で言えばターボといったところだろうか?


「お師匠様、それは危険なことのように思えるのですが、大丈夫なのですか?」


 サラが不安な顔で質問してくる。


 まだ子供なのに、どうしてその点に気がつけるのだろう? 俺が同じ歳の頃なら、たぶん、パワーアップやったぜー、くらいにしか考えられなかったはずだ。


 育った環境の違いといえばそうなのだろうが、自分の子供時代を考えると、少し悲しくなってくる。


「危険がゼロとは言えないけど、上限突破を術者が行うから、精霊はコントロールに集中できる。だから無理な魔力を注ぎ込まない限り、比較的安全なパワーアップということになるらしい。そうだよね、シルフィ」


 なんだか不安になってきたから、念のためにシルフィに確認しておく。


 こういう時に自分だけで断言できれば師匠としての威厳が増すのだけど……まだまだ師匠としての未熟さを痛感する。


「ええ、精霊にとって術のコントロールはかなり余裕があるから、威力が倍になる程度ならコントロールできるわ。まあ、それであなた達の魔力が持つかは話が別だけどね」


 なんでだろう、シルフィが説明すると説得力が違う。


「……シルフィが言ったように精霊がコントロールを失うことは考えなくていいよ。大切なのは術者側がどれほど魔力を込めるかと、どのタイミングでそれを使うか。魔力切れになったら戦えないし、込める魔力が少なすぎれば威力が足りなくなる。状況判断が肝になるということだね」


 意識すれば精霊との繋がりは感じられるし、生活魔法で魔力の扱いにも慣れているから、魔力を送り込むのはそれほど難しくない。


 難しいのは魔力の管理。今までは精霊側が貯蓄していた魔力を上手にやりくりしてくれていたが、この場合は自分で自分の魔力を管理することになる。


 言葉にすれば簡単だけど、適切に自分の魔力を運用するのは結構難しいと思う。


「という訳で説明は終わり。あとは自分の契約精霊と相談して、魔力を込めるタイミングと量を調整すること。最初は少しずつね。いきなり魔力を大量に送り込むのは駄目。分かった?」


「「わかった!」」


 マルコとキッカは元気に返事をしてくれたが、ジーナとサラは戸惑った様子だ。


「二人とも、どうしたの? 何か分からないことがあった?」


「……その、師匠。お手本を見せてくれないのか?」 


「うっ」


 ジーナの要求は当然と言えば当然なのだけど、俺としては少し困った要求だ。


「えーっとね、実は俺、その技、使えないんだ」


 そりゃあ俺だって使いたかったよ。だってパワーアップイベントなんだもん。


 シルフィ達大精霊のパワーアップはどう考えても危険だから置いておくにしても、ベル達がパワーアップしてキャッキャと喜ぶ姿は見たかった。


「えっ、なんでだ? そこまで難しいことじゃないんだよな?」


 聞いたジーナだけではなく、サラ、マルコ、キッカもビックリしている。


 ……隠してもしょうがないし、別に恥ずかしいことではないから正直に話すか。


「俺はね、大精霊六と下級精霊の六、合わせて十二の精霊と契約しているんだ。ぶっちゃけると魔力がギリギリな上に管理がとても面倒なことになっている。追加で魔力を込めている余裕がない」


 シルフィ達は大精霊で、大精霊側の好意で最低限の魔力で契約してくれている。というか、普通なら大精霊複数との契約なんて有り得ない。


 それが可能になっているのは、シルフィ達が調整してくれているからだ。


 そしてベル達下級精霊。成長期(?)のチビッ子達には、たっぷり魔力を貯蓄してもらって元気に過ごしてもらいたい。


 というわけで俺の魔力のリソースは、生活魔法や最低限の魔力以外は全部精霊達に渡している。


 ベル達に渡す魔力を絞って調整すれば使えないこともないが、ベル達に負担をかけてまでする技かというと否としか言えない。


 だってベル達のパワーで敵わないのなら、シルフィ達にお願いすればいいんだもん。使う意味がない。


 使ってみたいけど使う意味がない。という訳で俺自身は泣く泣くパワーアップイベントをスルーすることにした。


 幸いまだ魔力は伸びているので、もしかしたらいつかは使えるかもしれないという希望を胸に抱いて……。


「まあそういう訳だから、この技は魔力に余裕がある人向けの技ってことだね。ジーナ達は問題ないから、しっかり練習するように。実技はシルフィ、ディーネ、ドリーが見てくれるから、質問は三人にすること。分かった?」


「「「「分かった(りました)」」」」


 今度こそ全員が頷いてくれたので、ようやく実技が始まる。


「シルフィ、ディーネ、ドリー。ジーナ達をお願いね」


 広いスペースを求めてバラける弟子達を見送り、三人の大精霊にお願いしておく。彼女達が一緒に居れば、怪我をすることなく訓練がはかどるだろう。


 ふふ、順調だ。


 これでジーナ達が迷宮に籠る是非を誰も疑わない。そう、シルフィ達でさえも。あとは、ベル達と無理なく別行動できれば……俺のフィーバータイムは目前だ。


 みなぎってきた! 


8/24日、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第7巻が発売されます。

迷宮都市での裕太と精霊達のワチャワチャを楽しんでいただけましたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 漲ってキタァぁ! あれ?前は確か心にひびを入れるくらいに吸い取られたのに。。。 肉食系元受け付け嬢のせいか!
[一言] 魔力がギリギリだからお色気枠になりそうな闇の精霊と契約できないんですね
[一言] >キッカに汚いって言われてマルコが撃沈した おししょうさま、ふけつ! とキッカに言われる日が。。。
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