表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
588/757

五百八十六話 据え膳じゃない据え膳

 アンデッド達と弟子達の戦いを見守る俺。前ギルマスの様子がおかしかったので軽く煽りに行くと、大人な対応で今までの行為を深く謝罪された。そして発覚する俺のチョロいん属性…………知りたくなかった。




「これで最後だね。みんなお疲れさま」


 たった今トゥルが潰したアンデッドの巣が、ベル達が探してきたアンデッドの巣の最後。


 地味に苦労した。


 文句がある訳ではないが、ベル達がとても頑張って探索してくれたのでかなりの数のアンデッドの巣穴を潰すことになった。


 しかも最後の方にはジェネラルクラスのアンデッドの巣穴がチラホラと……シルフィはまだ大丈夫だと言っていたが、開拓村は風前の灯火だった気がする。


 でもまあ異世界に迷い込んだ当初と比べるとレベルも上がったし冒険にも慣れた。偶に知性が有りそうなアンデッドも居た気がするが、すべて瞬殺で片付けてやった。


 自分の成長が自覚できて少し嬉しい。


 これでアンデッドに口喧嘩で追い込まれることは二度とないだろう。


「おわりー」「キュキュー」「がんばった」「くぅ!」「らくしょうだぜ!」「……」


 俺の終了の合図に嬉しそうに集まってくるベル達。聞かなくても分かる、褒められ待ちだ。


「みんなありがとう」


 お礼を言って全員を褒めながら撫でくり回す。ベル達に対するご褒美なはずなんだけど、俺も癒されるからとてもお得だ。


「それにしてもかなり綺麗になったよね。シルフィ、これで開拓が進むよね」


 自分がチョロいんであることを否定するためにいくつか巣穴を見逃したが、それでもかなりの数のアンデッドを始末した。


 巣になりそうな場所も潰したし、開拓村に攻め寄せるアンデッドはかなり減るだろう。 


「うーん、無理じゃないかしら?」


「えっ、無理なの?」


 結構頑張ったのでシルフィから肯定されると思っていたのに、予想外の答えで少し驚いてしまった。 


「これだけ掃除すればアンデッドの襲撃は減るでしょうけど、元々の条件が悪いもの。国が十分な支援をすれば多少は進むと思うけど、期待できないわよね?」


 驚く俺にシルフィが理由を説明してくれるが、納得しかない。


 そういえば環境が最悪だったよな。死の大地だもん。


 アンデッドの襲撃が減ったくらいで開拓が進むのなら、国が既に開拓を進めているはずだ。


 そうなると今回の俺の行動は、開拓村の寿命を延ばして多少危険度を下げた程度か。


 ふむ……まあ村長さんやテロンさんは少し可哀想だが、罪人の罰も兼ねている場所だからこれくらいが妥当かな。


 俺が全力で支援すれば、楽園並みとまではいかないがそれなりの村が作れるけど、そこまでするほどの義理はないだろう。


 あとは開拓村の貧弱な柵をある程度まともな物にしてから楽園に戻ろう。


「そういえばジーナ達はどんな様子?」


 ディーネが一緒だから怪我の心配はしていないが、頑張り過ぎていないかが少し心配だ。


「あの子達ならすべてのアンデッドを討伐して休んでいるわ。実力を見せつけたからか、誰にも絡まれていないから安心していいわ」


 アンデッドの巣を潰すのに結構時間が掛かったし、ジーナ達の実力なら終わっていても不思議じゃないな。


 絡まれていないのは朗報だけど、たぶん俺が戻るまで起きて待っているだろうから、すぐに戻ることにしよう。


「シルフィ、開拓村までお願い」


 ベル達を褒めまくるのを一時中断して、シルフィにお願いをする。村からそれなりに離れてはいるが、シルフィの力なら五分も掛からないだろう。



「師匠、おかえり!」


 予想通り五分も掛からずに開拓村の近くに到着し歩いて村に近づくと、俺に気がついたマルコが満面の笑みで走ってきた。夜中の戦闘の後でもまだまだ元気いっぱいなようだ。 


「ただいまマルコ。怪我はなかった?」


 無事なのは知っているが怪我の有無は確認しておく。多少の怪我ならサラのプルちゃんが治してくれるだろうが、師匠としては知っておくべきだ。


「うん、ウリも頑張ってくれたし、おれもナイフでスケルトンをたおした!」


 ウリだけに頼らず自分でも戦闘を熟したようだ。レベルも上がっているし、リーさん達に近接戦闘の訓練を受けているからスケルトンくらい問題ないのは知っているが、やっぱり少しハラハラする。


 でもこの子達、迷宮でアサルトドラゴンとかと戦っているんだよな……心配はしてしまうが、ある程度はマルコの好きにさせよう。過保護すぎるのも駄目だもんね。


「そうか、怪我をせずにしっかり倒せたのなら偉いぞ」


 とりあえず頭をグリグリと撫でて褒めておく。俺は褒めて伸ばすスタイルだ。


「無事だったようだな」


 マルコの報告を聞きながら村に入ると、前ギルマスが話しかけてきた。もしかして俺のことを心配して……ドキドキ……なんてチョロいんムーブは絶対にしない。


「ええ、弟子達を休ませたいので、報告は後でお願いします」


「ああ、分かった。私は夜が明けるまで門で待機しているから、よろしく頼む」


「分かりました」


 夜明けまで見張りをするのか。この辺りのアンデッドは全部討伐したはずだけど、ゴーストなんかの飛べる魔物や、デスリザードなんてトカゲも出るから油断は禁物だろう。


 マルコの活躍を聞きながら自分達のテントに戻ると、カクンカクンと頭を揺らすキッカを抱っこしたジーナとサラが出迎えてくれた。


 マルコはまだまだ元気だが、さすがにキッカは限界のようだ。


「みんな、ただいま」


「師匠、お帰り。ほらキッカ、師匠が帰ってきたぞ」


「……ししょ……おか……」


 ジーナに促されたキッカが、俺にお帰りの挨拶をしようとして途中で寝てしまった。


 ……もしかして俺を出迎えるために頑張って起きていてくれたのかな? そして俺が帰ってきたのを確認して耐えきれずに寝てしまったと……なにそれ滅茶苦茶可愛くない?


 俺、キッカ相手ならチョロいんと呼ばれても否定できないかもしれない。まあ犯罪臭が漂いまくるから、気合で落ちはしないけど。


「ジーナ。キッカを寝かせてきてくれ」


「分かった」


「お師匠様、お帰りなさい」


「サラ、ただいま」


 テントに入るジーナとキッカを見送り、今度はサラから報告を聞く。マルコはベル達ほどではないが擬音が多いから、サラとジーナの報告が一番安心できる。


 お姉ちゃんも頑張ったのよーっとアピールしているディーネは……信頼はしているが報告は当てにならないタイプなので後回しだ。




 ***




「ゴースト等の警戒は必要ですが、しばらくアンデッドの襲撃は落ち着くと思いますよ」


 サラ達から報告を聞いた後、寝かしつけて前ギルマスに報告にきた。


「そうか、限界が近かったから、部下達を休ませられそうなのは助かる」


 俺の報告に前ギルマスがホッと息をつく。やはりアンデッドの襲撃の増加は開拓村にかなりの負担を掛けていたのだろう。俺のせいだけどね。


 でもまあ巣になる場所も大半は潰したし、開拓村まで辿り着けるアンデッドの数は減る。シルフィ曰くゼロにはならないらしいが、今までと比べるとずいぶん楽になるはずだ。


「では俺もそろそろ休みます」


「あぁ、助かった」


 前ギルマスと別れてテントに戻る。少しは関係改善したとはいえ、朝まで一緒に見張りは無理だ。


「裕太ちゃんお帰りー」


 テントに戻って俺も少し休むかと考えていたら、ディーネに捕まった。さっき報告を聞かなかったから待ち構えていたらしい。


「うん、ただいま。ディーネ、今日はありがとうね」


「うふふ、お姉ちゃんに任せなさいー」


 お礼を言うと豊かな母性を強調して胸を張るディーネ。単純に眼福だ。背後からチッと舌打ちが聞こえたが、俺は気がつかないふりをする。



「裕太、静かに」


 ディーネの話を聞いていると、突然シルフィから制止がかかった。誰か来たのかな? 



 しばらく静かにしていると、誰かが近づいてきた。やっぱりお客さんだったようだ。


 ……エルティナさん?


「裕太様」


「は、はい、エルティナさん、こんばんは?」


 前ギルマスとも関係改善したんだしエルティナさんが来てもおかしくはないのだけど、なんだか少し怖い。


 具体的に言うと腰に下げられている鞭が怖い。


 村の中とはいえ最前線だから真夜中の一人歩きに武器が必要なのは理解できるけど、剣じゃ駄目なんですか?


 あと、なんで様付け?


「裕太様、このような時間に申し訳ありません」


「いえ、まだ起きていましたし構いません。どうかされましたか?」


「はい、裕太様に改めて謝罪をと……数々の失礼、誠に申し訳ありませんでした」


 あぁ、謝りにきてくれたのか。こんな時間帯に来たのは、俺がいつまで村に居るか分からなかったからかな?


「えーっと、謝罪は受け取りました。エルティナさんも罰を受けていますし、もう気にしないでください。許します」


 なんでだろう? エルティナさんの謝罪は素直に受け入れられるな。


 ……なるほど、罪の重さというよりも、おっさんと美女の違いか。


「いえ、謝罪だけで許されることではありません。私にできることでしたらなんでもします」


 今、なんでもっていった? というテンプレを実行しようとしたのだが……エルティナさんが覚悟を完了した顔をしている。


 なんでもって言ったら、なんでもですって返事が確実に返ってきそうだ。


 つまり、据え膳ということですか?


 相手の弱みに付け込む下種なおこない。分かってはいる、分かってはいるのだが、心が惹かれないと言うのもウソになる。


 でもまあ、ヘタレな俺は妄想はしても実行する度胸はないのだけどね。


 それに……俺をジーっと見るシルフィ。ちゃんと謝れて偉いわねーと、のほほんとしているディーネ。そしてなにより、俺に引っ付いてキョトンとしているベル達が居る。


 たとえ俺に下種な根性があったとしても、この状況で据え膳に飛びつくのは無理だ。


 ……無理なんだけど、あの覚悟完了な顔からすると、言葉だけでは納得しないだろうなー。


 謝罪の気持ちも確かにあるのだろうが、あわよくば俺を口説いて利用する算段も心に秘めているだろうし対応が難しい。


 俺、この状況でどんな答えを返せばいいのだろう?


 ふー。いまなんだかとってもベリル王国の綺麗なお姉さん達に会いたい。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] あからさまに利益求めての身体提供だから、据え膳でもなんでもなく、交渉(売春)でしょこれは。 使い所を間違ってるのか、それとも主人公の至らなさを表現したいのか。
[一言] 貯まってきたなら王国でハッスルするしかない あの回好き
[一言] がんばれゆーた! その据え膳はかなり危険だからやめておけ! 絶対後でグランドマスターにバレて色々送り込まれてなし崩し的になってサラ達に軽蔑されてシルフィ達からボコボコにされる可能性が高いか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ