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五百八十五話 チョロいん

更新が遅くなりました。申し訳ありません。

 ジーナ達による開拓村でのアンデッド退治がついに始まった。開拓村の酷い現状を目の当たりにしたジーナ達はやる気満々なので、俺としては頑張り過ぎないかが少しだけ心配だ。




「うわ、あれ本当にガキどもがやってんだよな?」


「……あぁ、たぶん」


「嘘だろ、精霊術ってガキでもあんなに戦えるのかよ」


「あのねーちゃん、かなりいい女だよな?」


 ふふふ、村人達がジーナ達の活躍を見てざわざわしている。


 まあそれも無理はない。


 村人達の目には光球の光に照らされた死の大地と無数に蠢くアンデッド、そして、そのアンデッド達を軽々と蹴散らすジーナ達の姿が映っている。


 サラとキッカがゴニョゴニョと詠唱の振りをした後に腕を振ればアンデッドが風で細切れになり、マルコが腕を振れば土に押しつぶされて大地に呑み込まれ、ジーナが腕を振ればアンデッドが燃え上がる。


 空を飛ぶゴーストさえも柵にすらたどり着けずに処理されている。


 俺から見れば、フクちゃん達がジーナ達の指示に従って一生懸命に頑張っている微笑ましい光景だが、村人達からするとジーナ達の軽いアクションと共にアンデッドが無残に散っていくのだから驚くのも当然だ。


 私語をする余裕を取り戻したのも、最初は懐疑的な目で見ていた村人達がジーナ達を信頼した証なのだろう。


 でも、最後の奴。お前は駄目だ。


 私語をする余裕どころか性欲まで取り戻してどうする。


 とりあえずシルフィ達にあいつをジーナ達に近づけないようにお願いしておこう。ブラックリスト行きだ。


「ん?」


 ジーナ達の活躍を見守っていると、村人達の指揮を執っているはずの前ギルマスが呆然としている様子が目に入る。


 現状は余裕たっぷりだけど、指揮官がボーっとしているのは不味いんじゃないか?


 ……ふむ、マウントついでに、ちょっと気合を入れてあげよう。これは善意だ。戦場で気を抜くのは危険だからね。


「前ギルマス、ジーナ達の実力はいかがですか?」 


 これがお前がバカにしていた精霊術師の実力だ! なんていう副音声は内緒だけど、俺の輝かんばかりの笑顔に、鋭い前ギルマスならすべてを理解してくれるだろう。


 一応決着がついているから大人として、いや、人としてどうかと思う行為だけど、結構苦労させられたから少しくらい煽っちゃっても良いよね?


「……」


「えーっと、前ギルマス、どうかしましたか?」


 俺の煽りに瞬間湯沸かし器のごとく憤怒に染まる前ギルマスを想像していたのに、なんだか様子がおかしい。


 最初はボーっとした顔をしていた前ギルマスが、なぜかやたらと冷静な顔で俺を見つめている。


 ヤバい、軽く煽ったつもりだったんだけど、やり過ぎちゃった? 憤怒に染まるのを通り過ぎて、冷静にキレるところまで追い込んじゃった?


「……す」


「す?」


 えっ? よく聞こえなかった。


「す……すまなかった!」


「ひぃ!」


 えっ? なにどうしていきなり謝って頭を下げるの? 驚いて変な声がでちゃったよ。


「ぷふ、裕太、あなた今、ひぃって言ったわよ。ひぃって、あはははは」


 やめてシルフィ、混乱しているから笑わないで。えっ、どういうこと? なんだかよく分からないけど、とてつもなく恥ずかしい。


「ゆーた、ひぃってなにー? どうしたのー」


 ちょっとベル、純真な眼差しで追い打ちをかけないで。ベルに悪気はないのは分かるけど、致命傷になりかねない行為だからね。


 シルフィ、責任を取って、ベル達に説明して。俺は今それどころじゃないんだから。


「え、えーっと、前ギルマス、頭を上げてください。いきなりどうしたんですか? みんな驚いていますよ」


 いきなり指揮官が変なことをしだしたら、みんな困惑するよね。俺も困惑している。


「俺は……俺は精霊術師はクソだと思っていた。いや、今でもそう思っている。正直、冒険者ギルドの処分にも納得はしていなかった」


 いきなり謝ったはずなのに、今度はなぜかいきなり罵倒されている。もしかしなくても喧嘩を売られている?


 前ギルマスに対しては煽ったけど、少なくともこの村の為になることをしているはずだよね? 若干マッチポンプだけど……。


 なのになんで喧嘩を売られるの?


「だが……だが、俺は間違っていた。たとえ大半の精霊術師がクソだろうとも、俺は、俺はギルドマスターとして、お前を、いや、お前達を見極め、認めるべきだった。少なくとも五十層を突破したことを知った時にはそうするべきだった」


 あっ、まだ話は続くんだ。えーっと、なるほど、本音を吐露したうえでの謝罪の流れってこと?


 脳内が混乱し過ぎて、深く理解できていないが、とりあえず前ギルマスの精霊術師に対する憎しみがとてつもなく深いことは理解できた。


 前ギルマスに恨みを植え付けた精霊術師、何をやったの?


「お前の弟子達を見れば分かる。少なくともお前は……お前は真っ当な精霊術師だ。俺が間違っていた。本当に申し訳なかった」


 再びがばりと頭を下げる前ギルマス。


 えーっと、落ち着け、冷静に考えろ俺。


 つまりは……前ギルマスは精霊術師をクソだと思っていて、冒険者ギルドの処罰には納得していなかった。


 でも今日のジーナ達の活躍を直接みたことで、憎しみで曇っていた目が晴れて自分が間違っていたことを本気で認めて謝罪したってことかな?


 …………正直、その、なんだ、困る。


 喧嘩して罵りあっていた同級生が急に大人になって謝ってきたというかなんというか、どちらかというと相手の方が悪いはずなのに、なぜか自分がとても悪いことをしたかのような微妙な感覚。


 いや、俺も大概な復讐をしているから、そう素直に謝られるとやり過ぎだったような気までしてくる。


 どうしよう、こんな気持ちになるのなら、認められずに憎しみあっていた方がマシだったのではとまで思える。


 とはいえ本気で謝罪されているのに、ここから更に煽りを入れて喧嘩を売る根性は俺にはない。そうなると受け入れるしかないんだよな?


 ぶっちゃけ、聞かなかったことにして逃げ出したい気分だが、それはベル達の教育に悪い。


「あー、謝罪は受け入れました、頭を上げてください…………」


 言葉が続かない。冷静になったつもりだけど、予想外過ぎてまだ思考が麻痺しているようだ。


「申し訳ありませんでした」


 一度頭を上げた前ギルマスが再び謝罪し、その後、罪を認め裁きを待つ罪人のような達観した顔で俺を見つめる。


 俺にどうしろと? 


「……許したのですから謝罪はもう必要ありません。あとは……その、厳しい環境でしょうが頑張ってください……今は戦闘中です、指揮を執ってください!」


 支離滅裂なことを言ってしまった気がする。


 ここはあれか? 俺もやり過ぎましたって謝るところだったか?


「ジーナ達も大丈夫そうですし、こ、ここは、お任せします。俺はちょっと周囲の見回りに行ってきます!」


 なんだか居たたまれなくなって、計画を前倒しにして巣を潰しに村を出ることにした。


 ちょっと逃げ出したっぽくなってしまったが、一応最後まで謝罪を受け入れたんだし、ベル達の教育に悪影響はない……と信じたい。


 ……ふぅ、ちょっと前ギルマスに注意がてら煽りを入れて、軽くマウントを取って楽しむつもりだっただけなのに……返り討ちにされた気分だ。




 ***




「綺麗になった?」


「なったー」「キュー」「だいじょうぶ」「くくぅ」「ぜんめつだぜ!」「……」


「よーし。じゃあトゥル、最後の仕上げをお願い」


「うん」


 俺のお願いにトゥルがアンデッドの巣穴を土でしっかりと埋めてくれる。もともと慣れた作業だけど、フクちゃん達の活躍を見た後だからか、ベル達もかなりやる気満々で頑張ってくれている。


「ゆーたー。つぎはあっちー」


 トゥルがアンデッドの巣穴を埋めると、ベルが次の巣穴へと案内してくれる。


「分かった。シルフィ、お願いね」


「……ねえ、裕太。あなた人から単純だって言われない?」 


「シルフィ、いきなりどうしたの?」


 ベル達に協力してもらってアンデッドの巣を潰しまくっていると、突然シルフィにディスられた。意味が分からない。


「あの男の謝罪を受け取ったから、なんだか申し訳なくなってせっせと巣を潰しまくっているんでしょ?」


「……いや、別にそんなつもりは……ベル達が一生懸命探してきてくれたんだから、俺も頑張っているだけだよ」


 いきなり変なことを言わないでほしい。


「移動の途中で見かけた単独のアンデッドも残らず刈り取って、小さなたいした巣にもなりそうもない隙間まで念入りに埋めているのに?」


 …………恥ずかしい。


 自分ではそんなつもりはなかったのだが、言われてみると心のどこかにそんな気持ちがなかったと断言できない自分が居る。


 えっ? マジで? ちょっと激烈に仲が悪かったおっさんに真剣に謝られたくらいで、無意識にやる気になっていたってこと?


 どこのちょろインですか?


「ふふ、もしかして自分でも気づいてなかったの?」


 シルフィのからかい交じりの眼差しが俺に突き刺さる。はい、自分でも気がついていませんでした。


 日本に居た頃ならともかく、この世界に来てからは人の悪意にも沢山触れたし、酸いも甘いもかみ分けたハードボイルドな男……とまでは言えないが、それなりに場数は踏んだと思っていたのに……。


「あはは、うん、裕太ってやっぱり面白いわね。私、単純な裕太が結構好きよ?」


 質問に答えられずに戸惑っている俺に、シルフィが笑いながら言葉を続ける。


 ニュアンスが違うのは分かっているのに、シルフィから好きと言われて心が躍る俺が居る。


 俺が異世界に来て得たのは、ハードボイルド属性じゃなくチョロいん属性だったらしい。


 でもチョロいん属性は仕方がないにしても、おっさん相手のチョロいん属性は違うよな。


 俺がチョロくなるのは、契約している精霊達と弟子達……それと知り合いの女性陣にだけだと肝に銘じておこう。


「ゆーたー。はやくー」


「あっ、ごめんねベル。……シルフィお願い」


 とりあえずアンデッドの巣を潰しまくろう。


 今まではきっちり潰してきたけど、適度にアンデッドを見逃しておいたほうが……いいよね?


 おっさん相手のチョロいんは断固拒否だ。 


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゆーたはチョロインの称号を得ました。 チョロインのままならギルマスに骨までしゃぶられてたな。おっさんにしゃぶられるなんて。。。
[一言] 前ギルマスは自分が巻き込んだ冒険者たちにこそ謝るべきだと思う。
[一言] >ちょっと前ギルマスに注意がてら煽りを入れて、軽くマウントを取って楽しむつもりだっただけなのに……返り討ちにされた気分だ 主人公にあるまじきクズっぷり(笑)
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