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五百八十四話 戦闘開始

 前ギルマス達と話し合い、基本的にジーナ達がお手伝いすることで話は決着した。前ギルマスは少し情緒不安定な様子だが怒りを呑み込み、エルティナさんにいたっては深々と頭を下げて反省を見せた。かなり驚いたが、それだけ開拓村での生活が辛いのだろう。




 サラとキッカがゴニョゴニョと呪文を唱えるふりをすると、バサバサと地面に並べられた木の枝が払われる。


 柵の外ではアンデッドが土に呑み込まれる様子や、火柱が上がりアンデッドが燃え上がる様子も見える。


 その光景に様子を見に来た村長、前ギルマス、エルティナさんを含めた村人達から驚きの声が上がる。


 村人達が驚くたびに俺の鼻が高くなる。ここで前ギルマスにどうですか精霊術は? とか言ってマウントを取りたいけど、さすがに人としてどうかと思うから我慢する。



 一時間もかからずに枝払いもアンデッド達の残骸の処理も終わる。シルフィに頼めば別だが、さすがにジーナ達だけでは日が落ちる前に柵を造りなおすのは無理そうだ。


 夜はアンデッド達との戦闘だし、ジーナ達には仮眠を取らせるか。今からなら二時間か三時間くらいは眠れるだろう。


「このスペースにテントを張ってもいいですか?」


 村長さんのところに向かい、スペースを借りるお願いをする。


「あっ、お休みになるのでしたら、我が家をお使いください。粗末ですが、休むスペースはあります」


「いえ、これも修行ですからお気遣いなく。場所をお借りするだけで十分です」


 村長さんの申し出を断る。食事もそうだが、たぶん自分達で用意した物の方が質がいいし落ち着けると思う。


「みんな、許可をもらったから、ここにテントを張って夜まで仮眠をとるように」


 俺の指示にジーナ達が魔法の鞄からテントを取り出し、素早く組み立てる。半分以上は組み立てたまま収納していたようで、あっという間にテントが完成した。


 迷宮で鍛えられているからか、設置がとてもスムーズだ。


「師匠、見張りはどうしたらいい?」


 テントの設置が終わったジーナが質問してくる。


 見張りか。契約精霊達がフォローしてくれるから本来は必要ないんだけど、迷宮じゃなくてちょっと物騒な開拓村での仮眠だから、見張りの必要性を感じたのだろう。


 状況を自分で判断して考えられるジーナって結構凄いな。


「見張りは今回は必要ないから、全員で仮眠をとっていいよ」


 俺は寝るつもりはないし、シルフィもディーネも居るから今回は見張りは必要ない。お休みの挨拶をしてテントに入っていくジーナ達を見送り、俺は再び村長さんに話しかける。


「村長さん、切り払った枝はどうしますか? 必要でしたら提供しますが、邪魔になるのでしたらこちらで処分します」


「必要、必要です! 頂いても構いませんか?」


 結構食い気味に村長さんの返事がきた。


 俺が頷くと村長さんは嬉しそうに村人達に指示を出し、落ちている枝を集め始めた。


 やはりこの村の物資不足は深刻なのだろう。枝を集める村人達の顔が、キラキラしている。


 さて後はベル達が戻ってくるまで暇だし、俺は村長さんから話を聞くか。前ギルマスから話を聞いても構わないが、なんかショックを受けている様子なのでそっとしておこう。




 ***




 村長さん、ずいぶんストレスが溜まっていたようだ。


 最初はポツリポツリと遠慮気味に話していたのだが、話している間にスイッチが入ったのか愚痴が止まらなくなってしまった。


 やはりアンデッドの増加は開拓村にかなりの負担をかけていたようで、アンデッド対策で開拓作業はほぼ停止状態。生き残るだけで精いっぱいな毎日らしい。


 開拓村の愚痴からやがて村長さんの身の上話まで話が進む。


 やはり村長さんは押し付けられた側の人間だった。しかも借金が理由などでもなく、現在も最下級の役人の身分は持っており、上司の命令で出向して村長を務めているのだそうだ。


 左遷というにも酷い場所なので、おそらく上司か貴族を怒らせてしまったのだろう。


 誰かの都合の悪い秘密を握ったとかなら即座に抹殺されていそうだし、わりとくだらない理由で左遷されていそうなのが可哀想だ。


 あと、愚痴を聞くのが嫌になったのか、シルフィが風に溶けて消えてしまった。身の安全を疑うことはないが少しズルいと思う。




「ゆーたー」「きゅー」「がんばった」「クゥ」「かえったぜ!」「……」


 村長さんの止まらない愚痴に胸焼けを起こしそうになった頃、ようやくベル達が戻ってきた。


 お帰りなさいと思いっきり撫でくり回したいが、あいにく目の前で村長さんが愚痴を吐いているのでそれはできない。


 そろそろ完全に日が落ちそうだし、村長さんには離れてもらおう。


「村長さん、そろそろ日が落ちそうです。俺はアンデッドに備えて準備をしますが、村長さんはこのままで大丈夫ですか?」


 他の村人達は枝を確保した後、なにやら忙しそうに作業をしているよ? まあ、俺の付き添いという名の愚痴り大会だったかもしれないが、アンデッドが来るのなら丸腰は不味いだろう。


「はっ、もうこんな時間ですか。申し訳ありません、私は村人に指示を出さないと。代わりに人を寄こしますので、少々お待ちください」


「アンデッドが来るまで俺も少し休みますから、ゆっくりで大丈夫ですよ」


 というか人を寄こさなくても構わないのだが、そういう訳にはいかないんだろうな。


「ゆーた、あのね、べるたちたくさんみつけたー。にんむかんりょー」


 村長さんが去るとベル達が突撃してきて、とても楽しそうに任務の報告をしてくれた。


 予想通り張り切ってかなり広範囲まで探索していたようで、ベル達の拙い言葉とボディランゲージだけではかなり沢山あるとしか理解できなかった。


 巣を潰す時に直接案内してもらうことにして、今は精いっぱいベル達を褒めまくって撫でくり回そう。


 愚痴を聞き疲れた俺には、特大の癒しが必要だ。



 ベル達を撫でくり回していると、前ギルマスが武装した村人達を引き連れてこちらに向かってきた。


 前ギルマスが代わりの人員のようだ。前ギルマスが戦闘の責任者なのかもしれないが、どう考えても俺と前ギルマスの仲は悪そうだったよね。


 こういうところで気が利かないから、こんなところまで飛ばされちゃったんじゃないのかな?


 ……色々と言いたいことはあるが、とりあえずジーナ達を起こすか。



 テントの外から声をかけると、ゴソゴソと物音がした後にすぐにジーナ達が外に出てきた。装備も整っていて、準備万端なようだ。


 楽園でもアンデッド狩りをしているし迷宮でも活躍しているからか、すっかり冒険者らしくなったな。


 師匠としては鼻が高いが、保護者としてはこれでいいのかという思いもある。


「そろそろアンデッドが襲ってくる時間帯なのだが……準備は良いようだな」


「はい、こちらは問題ありませんよ」


 前ギルマスが俺達のところに来て問うが、ジーナ達の装備を見て一瞬悲しそうな顔をする。


 疑問に思って前ギルマス達を見ると、理由はすぐに分かった。全員装備がかなりショボいから、子供達よりも装備の質が悪いのを目の当たりにして悲しくなったのだろう。


 それでも前ギルマスや戦いが得意そうな面々は鉄製の武器と皮の鎧を身に着けている。


 それ以外の面々は棍棒やお手製の槍っぽい物を持っているので、あの人達はアンデッドの増加で急遽駆り出された人達だと思われる。


 そしてエルティナさんはムチを持っていた。似合い過ぎるほどに似合っているので、逆に違和感を覚えるというか……武器にムチを選択した時の心境が気になる。


「それで、どう協力してくれるんだ?」


 ああ、そうだった。今はエルティナさんのムチの是非を考える時間じゃなくて、前ギルマスが言ったように、アンデッドにどう対応するかを協議する時間だった。


 といっても、やることは変わらないけどね。


「弟子達が柵の外に出てアンデッドを排除します。皆さんは柵の内側で待機して、漏れたアンデッドの対処をお願いします」


「……ふむ、あれだけ精霊術を使いこなす子供達だ、危険を説くのも余計なお世話なのだろう。分かった、我々は柵の内側で待機する」


 思ったよりも素直に納得する前ギルマス。ジーナ達の実力を目の当たりにしたからこその納得だろう。


 俺の時もハンマーで脅さずに精霊術で対応していたら何かが変わったのかな?


 ……いや、今の前ギルマスはどん底の苦しみを知っているから素直なのだろう。最初に会った時に実力を見せていたら、精霊術師嫌いを隠してとことん利用しようとした気がする。ある意味、結果オーライだな。


「お願いします。ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、聞いていたよね。柵の外でアンデッドの対処をお願い」 


 分かったと気軽に頷くジーナ達。アンデッドの対処はお手の物なので、緊張もしないのだろう。


 でも念のためにディーネを護衛につけるけどね 


「来たぞ、アンデッドだー!」


 無茶をしないようにというよりも、やり過ぎないようにジーナ達に注意していると、村人から大きな声が上がる。


「じゃあみんな、頑張ってね」


「おう、しっかり退治してこの村を少しはマシにしてやらないとな!」


「がんばってきます」


「ぜんぶたおす!」


「キッカも!」


 開拓村の現状を憂いているのか、かなり張り切った様子で駆けて行くジーナ達。みんな俺と違ってとっても良い子達だ。


 ジーナ達の頑張りを見ようと柵に近づくと、多数の光球が浮かべられておりかなり明るい。夜目が利かない人が多いのなら仕方がないが、アンデッドが細部まで丸見えなのが若干気持ち悪い。


 それにしてもゾンビにスケルトンにゴースト、襲撃が始まったばかりなのに種類も豊富で数も多い。


 これだけの襲撃を毎晩繰り返されていたのなら、村人達やテロンさんが疲れ切った様子なのも当然だろう。


 あれ? そういえばテロンさんの姿が見えないな。昼間働いているから夜は休みなのだろうか?


 テロンさんのことを考えていると、遠くでボカンと火の手が上がった。いよいよ攻撃が始まったようだ。


 張り切って精霊術師の凄さをみんなに見せつけてほしい。


読んでくださってありがとうございます。

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